ランキングお礼SS 〜小説家になろう限定〜
ランキング、最高9位をいただきました!
本当に嬉しかったです。
ありがとうございました♪
誤字報告へのお返事は、活動報告にあります。
「ああ、そういえばね。ミュリエル」
「はい。何でしょうか。お義母様」
ああ。
ミュリエルが母上のこと『お義母さま』っていうの、凄くいいな。
シリルとミュリエルが婚礼式を挙げ、日常となった夕餉の席。
母王妃とミュリエルが楽しそうに会話するのを聞きながら、シリルはしみじみとミュリエルが自分の妻となったのだと実感して、思わずにやけそうになってしまう。
「絶対、貴女には隠そうとしているのでしょうけれど。シリルってばね、つい最近まで葉物野菜が苦手だったのよ。あれを食べると虫になった気持ちがする、とか言って」
なっ!?
ちょっと母上!
そんな話題いらなくないですか!?
思うシリルが手を止めても、会話は止まらない。
「え?そうなのですか?ですが」
そんな現場を見たことの無いミュリエルの、その不思議そうな顔。
ミュリエル、そういう顔も可愛い!
内心で叫びつつ、シリルは自身を落ち着かせるべくこほんと咳払いをした後、真面目な顔でミュリエルに現状を説明する。
「ああ、ミュリエル。それは既にして過去の話なんだ。僕はもう克服したからね。今はもう、何の問題も無いよ」
母王妃に物申したい気持ちを押さえ、シリルは頬を引き攣らせながら隣で驚いているミュリエルに微笑んだ。
そりゃ驚くよね。
苦手だった時だって、ミュリエルと食事をするときは、そんな格好悪いこと微塵も感じさせないように努力していたんだから。
その努力。
絶対知っていた筈なのに。
それなのに、母上!
ばらすなんてあんまりです!
泣きたい気持ちで睨むも、母王妃はそんなシリルの反応さえも楽しそうで。
「偉そうに言っているけれどね。シリルが葉物野菜を克服したのはつい最近、なのよ。ほら、ミュリエルと農地の視察に行ったでしょう?あの時、農業の大変さを思い知ったらしくて・・・そう、その時から、なのよ・・・ねえ。今更?遅くない?って感じでしょう?でもまあ、判っただけいいと思ってあげて」
鷹揚を装った、なかなか酷い母王妃の言い様に、流石にそれは言い過ぎ、と言いたくて言えないシリルは眉をぴくぴくと動かした。
「そんな、お義母さま。ご心配には及びませんわ。視察は、わたくしにとってもこれ以上ない勉強の場になっております。これまで学んだ事が、どれほど机上の空論だったのか。実際に見ることの大切さを強く感じています」
からからと笑う王妃に、真面目な顔で答えるミュリエル。
そんなふたりとシリルを微笑ましく見ていた国王が、ゴブレットを手にシリルへと話を振った。
「時にシリル。この度、お前とミュリエルとで外交へ行ってもらうことになった。候補は三国。親善で訪れるのだから、特に難しい問題は無い。お前達が選ばなかった二国には私と王妃とで赴くから、その辺りの心配も要らない」
容易いことだろう?
と、気難しい顔のひとつも無く言う国王に、シリルはけれど笑顔の無い顔を向けた。
「父上が選んだ候補、ですか」
笑顔が無いどころか、酷く苦く言ったシリルに、国王が、おや、というように眉をあげる。
「何か、含みのある言い方だな、シリル」
「含みたくもなりますよ。過去、父上が僕に示した候補は、他に主軸があったじゃないですか」
忘れもしない、自身の妃候補。
真に候補だったのはミュリエルだけで、他のふたりは別件を対処するための隠れ蓑だった。
それ故、国王が言う、候補、という言葉には慎重になります、というシリルの言葉に王妃が何故かしみじみと頷いた。
「それが判るようになったのねえ、シリルも。少し・・・いえ、かなり遅いけれど」
漸くね、とため息さえ吐きそうな母王妃に、シリルは眉を顰める。
「母上。それ褒めていないですよね」
口を濁すようなその言葉に、シリルが苦言を呈せば。
「当たり前でしょう。駄目王子が普通になっただけなんだから」
何を当たり前のことを、と、はっきり言い切られてしまった。
「う・・ぐっ」
「あの、お義母さま。ですが、最近のシリル様は、以前と違って本当に誠実で努力家で。それに、これがあの独善王子殿下と同一人物かと疑いたくなるほど、周りにも気を配られています」
「まあ、ミュリエル・・・ふふ。そうね。以前は酷かったものね」
ど、独善王子。
うう。
ミュリエル。
嬉しい部分もあるけれど、何か、ぐさぐさ来る、よ?
「そ、それで父上。候補の三国、というのは?」
よろめき、瀕死になりながらシリルが問い、国王が答えた三国を聞いて、シリルは、ほっと肩の力を抜いた。
どれも大切な外交ではあるが、三国共ラングゥエ王国と親交の厚い国で、シリル自身訪ねたこともあるのでよく知っている、という安心感がある。
それならば何処の国でも、と思い、シリルがミュリエルを見れば、何故かその瞳をきらきらと輝かせてシリルを見つめていた。
え?
なに?
ミュリエル、今の僕、そんなに格好よかった?
自信が表情にも出ていたのだろうか、とシリルは嬉しくミュリエルを見返す。
「・・・そうか。そういうところは、ぽんこつのままなのか」
すると、父国王がシリルに向かい、残念な奴だ、と首を横に振った。
え?
ぽんこつ、のまま?
僕が?
父国王が残念がる、その意味が判らず、戸惑うシリルにヒントを与えるかのように母王妃が話題を引き継ぐ。
「その三国のうちひとつの国には、とっても可愛い固有種の動物がいるのよ。ね、ミュリエル」
それは、現状が判らないシリルにとっては癇に障るほど、心底楽し気な母王妃の声。
しかし、その問にミュリエルが嬉しそうな顔になった、とあれば何を優先してもその内容を理解しよう、とシリルは耳を傾ける。
「はい。お義母さまは、実際にご覧になったことがありますか?」
「あるわよ。それにね。なんと、近くで触れ合うことも出来たの」
「近くで!?それは凄いです!」
「でしょう?陛下が、わたくしの為に計らってくださったのよ」
ふふ、と嬉しそうに笑う王妃に、国王も微笑み返す。
「あの時の君は、本当に可愛かった」
呼び名さえ親し気なものに変わり昔を懐かしむふたりに、ミュリエルが羨望の眼差しを向ける。
「おふたりは、本当に理想のご夫婦でいらっしゃいます。共に年月を重ねて、手を携えて」
うっとり、とさえいえそうなミュリエルの瞳に、シリルは焦燥を覚え狼狽えた。
え、ちょっと待って。
父上が計らった?
可愛い固有の動物?
なんだ?
どこだ?
それ、本当にこの三国のなかにあるのか?
ミュリエルが瞳を輝かせたのは、自分の格好良さに見惚れたわけではなかった、というのも残念だが、何よりも、ミュリエルが見たい、触れたい、という動物が判らず混乱するというのが情けない。
またもへたれ、と思いつつ、それでも、シリルは悲観することなくミュリエルへと向き直った。
「共に年月を重ねて、か。ミュリエル。僕らも、そうなろうね」
「はい。シリル様」
そう言って、はにかみながらシリルに微笑むミュリエルが可愛い。
可愛い、と思いつつ、動物の正解は判らない。
でも、ミュリエルの喜ぶ顔は見たい。
そして、揶揄う気満々でシリルをにやにやと見つめる両親。
父上も母上も、絶対楽しんでいますよね!
でもいいんです。
ぽんこつはぽんこつなりに、じたばたしないことにしたんですから。
それは、王子として圧倒的に色々足りなかったシリルが、覚醒してから得た道理。
どうあがいても知らないことは知らないのだから、無理に知っていると見栄をはらず、くわしく知っている人間に教えを請う、ということ。
今だってそう。
親交厚い国で、自身訪ねたこともあるのに固有種の存在さえシリルは知らない、という残念なこの事実。
けれど、シリルは躊躇うことなく、その言葉を口にした。
「ミュリエル。その可愛い固有種が居るというのは、どこの国?」
ブクマ、評価、いいね。
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