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 この国唯一の王子であるシリルの王子妃となる令嬢が発表となる、その日。


 王城内の一室に集められた候補者を有する三家は、それぞれの表情でその場に立っていた。


 うち、最も晴れ晴れとした笑みを浮かべているのは、アリスとその父であるハッカー伯爵。


 既に母を亡くしているアリスの付き添いは父伯爵のみだが、片親であるがゆえに、どんな我儘も許され溺愛されてきた、と言っても過言ではないことは、貴族の間では有名なこと。


 


 親に叱られもしなけりゃ、躾もされなかった、っていうのも悲劇なんだな。




 当たり前のように使用人を傷つけ悦に入っていたアリスを思い出し、シリルはいっそ痛ましい気持ちになった。


 そして、あの茶会以来、王妃を敵認定したかのように憎しみを隠さなくなったドロシア。


 今浮かべる表情には、表層とはいえ、完璧と言われた令嬢の面影は無い。


 


 何か、問題を起こさなければいいけど。




 ここまでもドロシアは、王家に対し不敬と言われても言い逃れ出来ない行動を繰り返し取っている。


 もしこの場でそのような発言、態度が見られれば、例え侯爵令嬢という立場があったとしても、情状酌量の余地無く断罪される可能性もある。




 判って、いないんだろうなあ。




 アップルトン侯爵夫妻に挟まれて立つドロシアは、その立ち位置さえ不服と言わぬばかりにアップルトン侯爵夫妻をも忌々しい瞳で見つめている。


 彼等が、自分を擁護してくれる、最後の砦と気づきもせずに。




 大事にしてもらって、何が不満だったんだか。




 実の両親からの刷り込み。


 恐らくはそれが、ドロシアの正確な判断を阻んだのだろう、しかしそれでも自力で気づくことが出来れば、となるとやはり自業自得なのか、と異性との交流にのみ全力を注ぐ彼女を思い出し、それも彼女の選択か、とシリルは頷かざるを得ない。




 そして僕は、ミュリエルに救われたんだ。




 間違い無くアリスやドロシアと同じ側に居たシリルに気づかせてくれたのはミュリエル。


 そしてそう言ったシリルに、気づいたのはシリル本人なのだから、それはシリルの気づきの力だ、と言ってくれたミュリエル。


 しかし、とシリルは振り返る。


 確かに、アリスやドロシアの真の姿を見、妃として以前に人として有り得ない、と思ったのは事実だが、それでも、あの時点ではミュリエルは無いと思っていたのだから、自分も彼女等と大して変わりは無かった、とシリルはその時の自分に乾いた笑みを浮かべてしまった。


 


 でも、ミュリエルと話をして、僕は目の前が開けた。


 進むべき、そして進みたい道が見えたんだ。


 


 思い、見つめるミュリエルは、今日も妖精天使仕様で、とても可愛い。


 見ているだけで心が和む、とシリルは緩みかける表情を何とか保つ努力を強いられ、少し目が合ったミュリエルと微笑み合えば、それさえも幸せだと思えた。




 はあ、癒される・・・けど、両隣が怖い




 既に、王子妃となる内示を受けているミュリエルは、緊張も孕んだ様子ながら、清楚で可憐な装いで凛と佇み、そこだけ空気も清浄化されているようだけれど、その両隣の迫力も半端ではない。




 ああ、傍に行きたい。


 


 両陛下と共に、一段高い所に座るシリルは、心底思いミュリエルを見つめ。




 判っております、義父上!


 大丈夫です、義母上!


 行動に移すことは致しません!




 ミュリエルの両隣に威風堂々と立つドリューウェット公爵夫妻の迫力に、内心全力で訴えた。


 「それでは。王子妃となられます方を発表いたします」


 シリルが室内を見回し、色々なことを考えている間に準備が整ったらしい。


 議会で議長を務めているラフォレ公爵が、国王の宣旨を手に、三家の前に立った。


 一同、それに合わせて頭を軽く下げ、国王代理のその言葉を聞く。


 「第一王子シリル殿下の妃に、ドリューウェット公爵令嬢ミュリエルを叙す。ドリューウェット公爵令嬢、ミュリエル前へ」


 言葉を受け、頭を下げたままミュリエルが一歩前に出る。


 


 ミュリエル。




 王子の席に着いたまま、シリルは緊張の面持ちで、同じく緊張した様子のミュリエルを見つめた。


 今この時、シリルの心は完全にミュリエルに寄り添い、その心の傍に在る。


 「この栄誉に奢ることなく、国のため、王家の為に邁進することを望む。しっかり励むように」


 固く告げた議長の目が、ふっ、と緩み、シリルへとその目を向けた。


 それに頷き、シリルは席を立ってミュリエルの傍へと歩く。


 「ミュリエル。私と共に、この国と国民のため、尽力して欲しい」


 「はい。微力ながら、殿下にご協力申しあげます」


 「頼りにしているよ」


 ミュリエルの手を取り、定例の言葉を述べた後、そっと耳打ちするように付け加えれば、ミュリエルが驚いたようにシリルを見た。


 けれど、その瞬間にはシリルはもう完璧な王子仕様に戻っていて、何を言うことも出来ない。


 それでもミュリエルは、これまでになく頼もしさの籠った瞳でシリルを見つめていた。




 ミュリエル。


 ああ、そんな目で見られたら、嬉しくて舞い上がってしまうよ!


 力が無限に湧き上がって、今なら何でも出来そうだよ。


 僕に力をありがとう!




 一方シリルは、そんなミュリエルの気配を嬉しく感じ、喜びの舞を舞いそうな気持ちながら、これから行われるアップルトン侯爵家、ハッカー伯爵家に対する処断のことを考え、気合を入れ直し呼吸を整える。


 そして、改めてアリスとドロシアを見たとき、シリルはその気合が本当に必要なものであったと実感した。


 アリスとドロシア。


 ふたりがミュリエルを見る目は射殺さぬばかりにぎらつき、この決定が不満であることを明確に示していた。




 まずは、アリス。




 そしてシリルは、妃として選ばなかったふたりと真正面から対峙した。





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