ぱりぱり! ふわふわふわ~~
お読みくださいまして、ありがとうございます。
発語には、口の周りの筋肉の発達が、必要だそうです。
ゆうちゃんは幼稚園の年長さん。
ママと一緒に通います。
一週間に一日だけは、別の教室に通います。
ゆうちゃんは女の子です。
ぱあっとした、笑顔が似合う女の子。
でも、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、お友だちとは違います。
ゆうちゃんは、生まれた時に、息がうまく出来なかったのです。
そこでノドに穴を開けました。
小さな小さな穴を開けました。
穴には細い管を通し、空気の出入り口にしたのです。
ゆうちゃんは、今は元気な女の子。
お友だちと一緒に遊べます。
パパと一緒にお風呂も入れます。
ただ一つだけ一つだけ、困ったことがあるのです。
それは「ことば」が喋れないこと。
声は出せても、「ことば」になりません。
そこで『ことばの教室』に通うことになりました。
小学校に入るまでに、言葉を出せるようになりたいからです。
声を言葉にしていくために、トレーニングをするのです。
「ことばの教室」の白石先生は、女の先生です。
幼稚園の先生よりも、白い髪が多いです。
先生はやさしいです。
でも先生は、時々きびしいです。
ゆうちゃんは、トレーニングが楽しいです。
トレーニングをしてくれる、白石先生が大好きです。
ある日の白石先生は、赤や緑のキャンドルを、ゆうちゃんの前に並べます。
先生は、並べたキャンドルに火をつけます。
「さあ、ゆうちゃん。このキャンドルの火を消してみよう。お口をすぼめて、前に突き出して、ふーーって息を吐くの」
ゆうちゃんは、お口から息を吐いてみます。
ふう
ふう
ふう
キャンドルの火は消えません。
すると先生は、自分の口をすぼめます。くちびるを前に突き出して、ゆうちゃんに言いました。
「この形。タコさんのお口にするのです」
ゆうちゃんは、きゃっきゃっと笑います。笑う声は出るのです。
そして自分のお口を、タコさんのお口にしてみます。
ふう
ふうう
ふーーっ!!
「まあまあ、消えたわ。火が消えた!」
先生が、パチパチパチ
ゆうちゃんのママも、パチパチパチ
ゆうちゃんはニッコリ!
またある日。
白石先生の教室には、ゆうちゃんよりも年上の、女の子や男の子も通っています。
その子たちは、それぞれの手に、ストローを持ってます。
大きくほほをふくらませ、口にくわえたストローから、シャボン玉を飛ばすのです。
太陽の光を受けて、虹色に光るシャボン玉。
ゆうちゃんはシャボン玉を指さして、「たーー、たーー」と言いました。
「シャ」という音を言葉にするのは、ゆうちゃんにはまだ難しい!
白石先生は少し考えて、ゆうちゃんに告げました。
「ゆうちゃん、これが出来るようになったら、シャボン玉を飛ばそうね」
ゆうちゃんは、大きくコックリ頷きます。
先生の言うことを、ゆうちゃんは素直に聞くのです。
白石先生が取り出したのは、白く薄いおせんべい。
先生はおせんべいを一枚取り出して、小さく小さく割りました。
パリパリパリ
パリパリパリ
先生は、おせんべいの小さなカケラを一つ、つまみます。
「ゆうちゃん、あーーん」
あーーんと大きくお口を開けたゆうちゃん。先生は、その口の中の上アゴに、そっとカケラを貼り付けます。
「ゆうちゃん、今おせんべいが貼りついたところに、ベロを動かしてみてね。ベロでうまく取れたら、食べていいのよ」
ゆうちゃんは、ベロを一生けん命動かしますが、なかなかカケラが取れません。
やっとカケラを取った時には、パリパリのおせんべいのカケラは、シナシナになっていました。
シナシナのおせんべいは、あまりおいしくないのです。
白石先生はゆうちゃんに、優しい声で言いました。
「ゆうちゃんのベロが、お口の中で、パリパリのおせんべいを取れるようになったら、シャボン玉を飛ばそうね」
それから、ゆうちゃんは今までよりも、もっともっと練習しました。
何回も、ベロでおせんべいのカケラを、取ろうとしました。
キャンドルの火を吹き消せるように、何回も息を吐きました。
そして、春から夏へ。夏から秋へ。
ついにその日が来たのです。
白石先生が貼り付けた、おせんべいのカケラに、するっとゆうちゃんのベロが届いたのです。
食べたおせんべいは、パリパリでした。
パリパリのおせんべいは、とっても美味しい!
その日、先生はゆうちゃんを、お庭に連れていきました。
ストローの先に、シャボン液をつけます。
たっぷりとシャボン液をつけます。
「ゆうちゃん、さあ思いっきり、大きく息を吐くのよ」
ゆうちゃんはストローをくわえ、ほほをふくらませました。
そして思いきり、息を吐いたのです!
ふわりふわり
ふわりふわり
ふわふわふわ ふわふわふわ
ストローの先からは、たくさんのシャボン玉が生まれていきます。
太陽の光を受けたシャボン玉は、七色に光って空に飛んでいきます。
ゆうちゃんは笑顔でシャボン玉を追っていきました。
ゆうちゃんの口からは、「ことば」が出るようになっていました。
ゆうちゃんの言葉も、きらきら光っていました。
「たぼんたま、たぼんたまーー!」
まだ少しだけ、修正が必要みたいですね。
それが済んだら。
ゆうちゃんは、小学校に入学するのです。
気管切開を受けた方の言語習得に関しては、切開を受けることになった基の疾患や年齢などによって、習得方法が若干異なります。