変な死神
いつも昼休みは屋上で弁当を食べる&昼寝&本を読んでいる俺。
誰も来ないからいつも居る。
俺は静かな場所を好んでいた。
でも今日はいつもは静かな屋上は違った。
本を読んでいると、いつの間にか俺を見つめている少女が居た。
小柄で背が低く、黒く長く綺麗な髪を持っていて、風に煽られるたびに靡いて甘い香りが漂ってきた。
これがいわゆる美少女というものだ。
こんな子学校に居ただろうか?
制服を着ているから明らかにこの学校の子だ。
しかしなぜ大きい鎌を持っている?
なぜ俺を見ている?
「…………」
俺がいろいろ考えていると…
「…あなたに決めました」
ふらりと柔らかく笑ったその子が、吐息のような小さな声で俺に向かって言った。
「…は?」
「死んでくれますか?」
「は!?」
冗談だろ!?
つか最悪だろ!!
いきなり死んでくれって!!!
「お願いです。死んでください」
その子はそう言いながら俺に向かって自分より大きな鎌を振り下ろしてきた。
「なんでだよ!!!」
俺はそう言いながら避けた。
「死んでください。お願いします」
その子は鎌ぶんぶん振り回して俺に切りつけようとしてきた。
「なんでだよおおお!?」
「…私がそう決めたからです」
理由になっちゃいねぇっ。
「待て待て待てぇえ!!」
「はい。なんですか?」
…待ってくれた…
「なんで俺を殺す?なんでいきなり初対面の俺を殺そうとするんだよ!?」
「…駄目…ですか…?」
その子はうるうると目を潤ませて言った。
「駄目に決まってるだろ!!」
「…使命なのですよ…」
「は?」
「人を殺すことが使命なのです」
「そんな使命なんである!?」
「…今の私は死神ですから。普通私が見えないはずなのです。でもあなたは私が見えた。だから殺すのです」
「はぁ!?」
「見てはいけなかったのですよ」
最悪だ!!!!
「つかお前はここの生徒か?」
「はい。普通に生徒です。1年B組です」
「…そうか」
「それじゃあ、かなり待ったので死んでくださいっ」
「待て待て待て!なんでそうなるんだよ!?」
「………?」
「殺そうとするな。俺はまだ死にたくない」
「…死にたくない…ですか…みんなそう言ってました」
「今まで何人殺してんだよお前っ!!」
「…そうですね…まだ新米なので…50人くらいでしょうか?」
……………。
「………そんなに死ぬことが嫌ですか?大丈夫ですよ。痛くないはずですから」
可愛いだけで頭やべぇよ…こいつ…
「痛い、痛くないの問題じゃねぇだろ!!!!」
「…そうでしょうか…?」
そうでしょうかって…やべぇよこいつっ…怖ぇっ
「…そんなに死にたくないのですか…?」
「当たり前だろ!!!」
「…困りました…私はどうしてもあなたを殺さないといけないのです…」
「なんで俺なんだ?頼むから俺を殺さないでくれ」
俺は即答えた。
「無理です」
その子も即答した。
「…どうしてもか?」
「はい。どうしてもです」
「ぬ…」
「…死んでください」
最悪だ…
「つかさっきなんで俺を見てた?」
「屋上で本を読んでいたのに目が行ってしまって…」
「…なんだその理由…つか普通目が行って、あそこまで近くまで来るか普通?」
「…む…仕方が無いじゃないですかっ目が行ってしまったのはしょうがないことです」
しょうがないことなのか…?
「し、死んでくださいっ」
「だから止めろって!!!」
「なんでですか」
「殺すな殺すな!!」
「そんなにそんなに死にたくないのですか…仕方がありませんね…力づくでも死んでいただきますっ」
声が響き、その子は本気の顔になって俺に鎌を振り下ろしてきた。
「なんでだよおおお!!????」
俺は叫びながら避けた。
「逃げないでくださいっ避けないでくださいっ」
「お前が鎌を振り下ろしてくるからだろ!?普通避けるに決まってるだろ!!」
「うぅ~っ」
ぶんぶん!!ざくざく!!
その子は鎌で俺じゃなく関係ないフェンスを裂いていた。
「なんで私を見たのですかぁああ」
「それさっきの俺の台詞っ!!」
「うぅ〜っ!お願いしますから死んでくださいっ」
「嫌だっつったら嫌だ!!」
「死んでくださいっただ鎌に切られるだけでいいのですからっ」
「切られたら死ぬ!!」
「死ぬに決まってるじゃないですかっ」
ぶんぶんぶん!!
「振り回すな!!」
昼休みよ早く終われっ!!!
「死ねっ。死ね死ね死ね!死んでくださいぃいぃいいいぃ!!!」
ぶんぶんぶんぶんぶん!!
そして壁まで追いつけられたかと思ったら、いきなりなぜか何も無いところで躓いた。
「きゃっ」
ぽてっという音が聞こえそうな転び方をした。
それと同時にあの大きな鎌を、俺の左の顔面ぎりぎりのところに吹っ飛ばしてきた。
あっぶねぇっ…そして怖ぇ…
「うぅ…」
その子は立てないでいた。
「どうして今日に限ってドジをしてしまうのでしょうか…」
「運勢悪いんじゃね?」
「ぃぃぇ…今日TVで占いを見ましたがよかったです…」
見てきたんだ…こいつ…
「うぅ…」
「今日は止めたらどうだ?」
「それは…駄目……なのでしょうか…?」
「聞くなよ」
「そうですね」
「つか、いつまで寝そべっているんだよ」
「うぅ…」
俺は手を差し出した。
「ぁ…ありがとうございます…」
触った感触は普通だった。
当たり前か。
「…ぐすん…」
その子はさっきの本気の顔は何処へやら。すごい弱った顔をしていた。
「…お願いですから…死んでください…」
まだそれを言うか…
「死にたくねぇ」
「うぅ…私死神失格ですね…」
失格のほうが嬉しい…
「うぅ…明日…出直してきます…」
そう言ってその子はゆらりと立ったかと思うと、普通にドアを開けて去って行った。
そして、次の朝。
「ふわ〜…ねむ…」
「おはようございます」
げ!朝から来た!!
「いまさらですが、3年生だったのですね。私後輩ですね」
本当にいまさらだ…
「おいおい。後輩か?お前いつから後輩が話しかけてくるようになった?部活やってないのに後輩とは…」
「どうでもいいだろ。つか…見えるんだ?」
「は?見えるに決まってるだろw」
「今の私は普通ですからね」
どんな奴だよ…
「え〜っと…まだ名前を名乗っていませんでしたね。私は1年B組の黒崎雪奈です。確か…3年C組の…田内圭吾先輩ですよね?」
なんで名前を知ってるんだこいつは…
「調べたからですよ」
「お前今人の心読んだだろ?」
「いいえ。今明らかに『なんでこいつ名前知ってるんだろ』って言う顔をしていたので」
「………」
「俺…邪魔か田内?先に行ってるな俺」
なぜそうなる。
「ぁ…行かなくてもいいのですが…」
「や、邪魔みたいだから」
そう言って佐藤は去って行った。
「今日こそ死んでください」
「嫌だと言ってるだろ!?」
「うぅ…今日は運勢が悪かったのですよ…」
また見たのか…
「今日は殺せない日かもしれないですね…」
いやいや…運が良かった昨日は殺せてないだろ…
「今日は止めておいた方がいいのでしょうか…」
今日も、だろ…
つか先から俺心の中でつっこみっぱなし…
「あ〜でも…あまり待っても…と、言うわけで死んじゃってくれませんか?」
「軽っ!!軽すぎる!!」
「ぇ…えと…それじゃあ…先輩死んでくださいにゃ」
語尾に『にゃ』っ!!!
「にゃ、とか止めろお!!これから殺すって奴になんてことを言うんだお前!!!」
「ぇ…じゃあどうゆう風に言ったら先輩は死んでくれるのですか…?」
「どう言われても死なん!!」
「う〜…死んでくれないのですか…?先輩は…冷たいですね…」
「死ねに冷たいも糞もあるか!!」
「お願いですから死んでください先輩。それじゃないと私…私っ本当に死神失格になって追放されてしまいますぅう」
「泣かれても死なない!!!」
「うぇえん…うぇえん…ぐすん…ぐすん…」
泣き方が…
「先輩死んでくださいぃいぃいいい…私のために…死んでくださいぃいぃ…」
「それじゃあ、私の願いは先輩に死んでもらうことですって聞こえる…」
「ひっ…!?」
「『ひっ』て言われても…」
なんで『ひ』?
「ぐず…ぐすん…じゃ…じゃあ…一緒に死んでくれますか…?」
「もうすぐ死ぬ自分と一緒に死んでくれって聞こえる」
「なななっ…私どうすればいいのですか…?」
「知らねぇし」
なんかどうでもよくなってきた…俺結局殺されないんじゃないのか…?
「また…出直してきます…」
「そうかい」
「はい…」
そう言って黒崎雪奈と言う子は、ふらりふらりと転びそうな歩き方をして去って行った。
「ったく何をしたいんだ…」
そして、休み時間。
「田内先輩〜」
来た〜!!
「出た。もう止めといたらどうだ?」
「駄目ですっ。使命は絶対ですっ」
立ち直るのが早い…
「おいおい田内。朝の後輩じゃねぇかよ」
「ぇと…ここで言いにくいのですが…」
「嫌…ここで言わんくてもいいんだが…」
「ぇと…言っちゃいますが…先輩。」
「告白だ告白」
「絶対告白だってっ」
「死んでください」
………。
し〜ん…クラスの奴は、期待していた言葉とまったく違う言葉を聴いて静かになった。
「ぇ〜とですね…これ本当に冗談じゃないのですよ?先輩」
「あのさ…本当に…止めてくれないか?」
「駄目ですよ、どうしても先輩を殺さないといけないのですから」
「はぁ…昨日からどのくらい経ってると思ってるんだよ?」
「そ、それはっ…それです。これは偉い人の命令なのです。だから本当に本当に死んでください」
「…はぁ…わかったからさぁ…教室帰れ」
「うぅ…最初会ったときより全然怯えてないです…また…出直します…」
「そうかい」
「はぃ…」
そう言ってまたふらりふらりと転びそうな歩き方で去って行った。
そして、夜部屋で音楽雑誌を読んでいた時だった。
「圭吾。女の子来たよ黒崎さんって子」
「はぁ!?」
俺は急いで部屋から出て階段を下り、玄関に向かった。
「こんばんわ先輩。死神の夜の殺し便です」
「おいおい…家まで来るなんてどうかしてるぞお前…」
「そうでしょうか…?」
「まぁ晩ご飯食ってないんだが…」
「そうでしたか…それはすみませんでした…」
「帰れ!明日ならいい」
「う…出直してきます…お邪魔しました…」
またまたふらりふらりと丁寧に挨拶をして去って行った。
何しに来たんだよ…
しかし、事件は起きた。
それはその日の放課後。
寄り道をして夜家に向かっているところだった。
たったったった。
「死ねぇえええ!!!!」
「な!?」
俺は知らない中年のおっさんに殺されそうになった。
「あなたになんか先輩を殺させないです!!!」
カキンッ!!ザクッ!
目の前で中年のおっさんが、自分の体より大きな鎌を持った少女が殺した。
「先輩を殺す使命は私にあるのですっ!」
「…やっぱり来てよかったです…私の使命をただの通り魔に盗られてしまわなくてよかったです…」
「…死ぬかと思った…」
「死ぬのですよ。今日、この時間に先輩は私に殺されて死ぬのです」
………。
オワッタ…オレノジンセイココデオワッタ…
コンヤココデオレハ…シヌガミノクロサキニコロサレテ…シヌンダ…
「…ここでお別れです…先輩…」
「…そうか…まぁ…知らない奴にいきなり殺されるよりはマシか…前のお前みたいに…さ…」
「そうですね…いきなり殺されるのは嫌ですよね…あなたを殺すと言う使命でわかりました…今度からはそうします…」
「そりゃあよかった」
「ここで話を止めますか。もう逝く時間ですよ…先輩」
「あぁ…」
「…さようなら先輩…また運があったら…アイマショウ…」
そう言って黒崎は自分より大きな鎌を振り上げた。
………。
俺はもう、ただただ殺されることを待った。
でも俺は殺されはしなかった。
あの大きな大きな鎌が振り下ろされなかったのだ。
「殺さないのか?」
「…駄目ですね…さっき…誰かを殺す時は時間を置いて殺すと決めましたが…それじゃあ…私は…駄目みたいです…」
「は?」
「…私…やっぱり…いきなり殺したほうが…いいみたいです…」
「………」
「殺せません…私…先輩を殺せません…」
黒崎は涙を流してそう言っていた。
「…もう…私…先輩を…殺せません…私…どうしたらいいのでしょうか…?」
「知らねぇよ。聞くな。自分で考えろ」
「ぅ…そうですね…」
そして次の日。
「死んでください。おはようございます先輩」
「まだそれを言うか!!そして朝会ってあいさつより先に死ねだと?非常識だろそれ」
「…そうでしょうか…?」
「可笑しい。非常識の中の非常識だ」
「そうですか…?」
とことん変な死神だ。
「お前変な死神だな」
「うぅ…もう…私先輩の護り神になっちゃいましょうか?」
「は?何言ってんだお前」
「だって…もう先輩のこと殺せなくなっちゃったんですもん…もう護るしかないじゃないですか」
「アホか。俺は護られるほど軟じゃない」
「嘘ですよ。昨日通り魔に殺されそうになっていたじゃないですか。私が居なかったら死んでいたじゃないですかぁ」
あの時殺してたな…あのおっさんを…
「うるさいな」
「やっぱり死んでください」
「もうお前に殺されることなんか一生来ない」
「死んでください田内先輩」
「黙れ変な死神!!」
「へ、変な死神だなんて言わないで死んでください先輩」
「か、鎌しまえ鎌!!」
「嫌ですっ。先輩は馬鹿にしましたっ。死んでください田内先輩っ!」
「わ、悪かったってっ」
「嫌ですっ」
「止めろ止めろ止めろw」
「絶対嫌です。もう決めました。殺しますっ!田内先輩を殺しますっ」
この死神は本当に変な死神だ。
俺を殺さなければならないのに、殺せなくなってしまった間抜けな死神だ。
いつか本当に殺されるかもしれないと、わかっていてもずっと普通に接すると思う。
そんな気がした。
この小説をここに投稿する前に友達に見せたのですが、こんなことを言われました。
富士見書房出版の富士見ファンタジア文庫の花凰神也と言う人が書いた『死神とチョコレートパフェ』と言うラノベに似てると言われました。
当然本好きでラノベも読んでいる私は『死神とチョコレートパフェ』と言う本があるのは知っていました。
でも読んだことはないので吃驚しました。
今度見つけたら立ち読みしてみようと思います。