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97話 誤解は連鎖する

 ワイルドと老紳士。

 対峙する絵面が、片やメイド長、片や執事長。

 ギスギスした職場にしか見えないのだが……。


 確かに、潜入の話は聞いたが、誰を調査したとは言ってない。

 って事は何? まただ続くの? まだエビ来るの?


「王命でもなければ俺も領軍も動かなかったさ。コイツらの事は知らんので、事情徴収なりお好きにどうぞ」

「ちょっと、あたし達を売るって気!?」

「待てそこに俺を含めるな。一応は新人メイドして雇用関係を結んだ身だお帰りなさいませご主人様」

「あによ!! 裏切るっていうの!?」


 ガルルゥと噛み付いてきそうになる。

 老紳士はどこか呆れた風に、


「騒々しいな。いつもこうなのかね?」

「さて」


 弥生は鞘に収まったままだ。

 敵じゃないってことは……。


「例の男、捕縛しました!!」


 さっきの伝令くんが、簀巻(すま)きにした偽監査官をズルズル引きずって来た。

 そうか。既に市中引き回しか。やるな伝令くん。


「ご苦労、ガジュマル二等情報士官。他の者は?」

「彼の仲間は全て縲絏(るいせつ)に及んでおります!!」


 執事長にビシッと敬礼をする。

 一見すると少女のような伝令くんが、二等士官(中尉)だと?

 あぁ、技術系は戦歴関係ないから情報部門とかか。


「結構。ではまとめて王都に移送する。手配は統合本部に任せて君は新たな任務につき給え」

「ハッ!! ……え、新たな任務、でしょうか?」


 老紳士はわざとらしく俺たちを振り返り、


「彼らを歓迎するホスト役を任せたい」

「接待なんて無理です!! ご指名ありがとう御座いますだなんて!!」

「うむ。プロモーター程度に励んでくれればよろしい」

「あ」


 そりゃ、こんな子供に酒の相手をされても困る。


「私館の設備は……支出は気にせず君も含めて自由に使ってくれて構わない。使用人にも手配しよう」

「あの、後片付けとかは……?」

「経済の立て直しが優先だ。役場の入れ物などどうでも良い。商業施設の連中は、どうせ最初から織り込み済みであろう。勤務については、時間外の申請だけ忘れずにあげたまえ」

「って、ちょっと待ってくれ!! あんた執事長じゃなかったのかよ!?」


 思わず叫んだ。

 彼はワイルドの方を見ると、


「言っていなかったのかね?」

「勝手に混ざってきた連中だからな」

「何とも……。」


 とマジマジと俺とサザンカを見る。


「奇特な人も居たものだ」

「ボランティアでこんな騒動に参加してると思われてる!?」


 どうやらこの老紳士。正体は王都に缶詰中のオダマキ領主のようだ。


「君らの功績は近い将来必ずや標榜(ひょうぼう)されるだろう。今はひとまず彼、ガジュマル二等情報士官に着いていくといい」

「あ、もう一人騒動に巻き込まれてる子がいるんですけど、いいですか?」

「うむ、まとめて面倒を見よう」

「わぁ、おじさま太っ腹」


 思わずシナを作ってしまった。


「サツキ……。」「……サツキくん」


 僧侶と魔法使いが、三歩距離をとっていた。




 領事館隣接の塔に戻ると、コデマリくんが泣きながら抱きついてきた。

 お? 今夜もハードコアか?


「無事で良かったです!! 建物投げつけられた時はもうダメかと――うん、僕の最上級回復術(エクストラヒール)で何とかなると思ったよ?」


 気の利く子だよ。


「あ、あの……。」


 ひょこっと俺の後ろから伝令くんが顔を出す。


「!?」

「えぇと……。」

「うん」

「……お風呂、とか、ご飯」

「うん」

「……一緒に来ませんか?」

「うん!!」


 歳の近い子同士、仲良くやっていけそうで何よりだ。




「で、ことの顛末の論説か釈明ぐらいは期待してもいいんだよな?」


 領主の私邸へ向かう道すがら、一通りは把握したい。

 私邸へは俺とコデマリくんとグリーンガーデンの三人が招かれた。

 教会騎士とベリー領軍は臨時の領事館が用意されそこで宿泊する。明日朝にはそれぞれ移動を掛けるらしい。今回、一番頑張った人達だよな。

 それと、ジキタリス宛に都市間郵送便を手配した。

 明日朝の便だがコデマリくんの無事は伝えたい。


「説明なんざねぇよ。見たままを信じろ」


 あ、面倒なんですね。

 確かに様々な思惑の末に端緒も嚆矢(こうし)も曖昧になったな。


「あたし気になったのだけれど、どうしてエビなのかしら?」


 君はもっと違うところを気にした方がいいぞ。


「食いたかったんじゃねーの?」


 ほんとお前は投げやりだな。


「……結局……何の実績を残せたのか分からない」


 どんまい。


「オダマキの領主さんとお前のところの親父さんを動かしたの、アンスリウムの御大って事か。随分と官僚が入れ替えられて、いや成り代わってた? この後も検挙は続くんだよな?」

「捕物帳としては大規模になると思います」


 答えたのは先頭を行くガジュマルくんだ。

 コデマリくんともうち解け、美少女が二人並んで前を行く。


「提供した情報の精度に準じて釈放又は無罪を提案すれば、簡単に仲間を売ります。むしろ売った仲間の不幸を指差して笑うくらいな連中ですから」

「集団としての連携がマイナスに進むとは……。よくそんな連中に好きにさせてたな」

「名ばかりの技術提携の時代に交換エンジニアの名目で相当入られてますからね。そのほとんどに国内で逃走され、今居るのは本人より子孫だって統計もあります」

「情報部門が曖昧だな」

「潜伏されてますからね。大抵の犯罪ギルドには関わりあるって、兼ねてから列国でも問題視されてたんです」

「入れ替わられた要人は保護されたのかな?」


 全員が俺を見た。

 何言ってんだコイツ、て顔だ。


「本気で言ってんのかテメェ? 成り代わりで侵略を目的の奴らが、アザレアの人間を生かすと思ってんのか?」


 そっか……。


「酷いものだと、家族ごとっていうのがありましたね。子供まで見境なく……。」

「危機意識の欠如ね」

「……そこまでいいようにされる側にも……問題があると思う」


 この子も領軍指揮の立場上、事情に精通してたのか。


「中央の貴族は……自分らだけで国政を回してるって思ってるから……オダマキ卿のような身を切る対策を行えないと」

「教会だってそうよ。こちらはまだ内部には入られてないけど、何かと教会の権威を下げるのに必死な連中がいるわ」

「いや君らパイナスの理事まで勤めるとこ強襲してたろ。メイド長らは事前に結託した立場だけど、君らは違うよね? めっちゃトレーダーに恨み買ったよね?」


 よりにもよって市場最大手だもんな。


「サツキを謀ったヤツにお礼参りに行っただけだから」

「器物損壊してんじゃねーか!?」


 攻城戦まで想定してたって聞いたぞ? だから騎士派や敵対派閥、教会の威信ごと葬る気かと思った。


「問題なのは既存の権威や培った価値体系を否定させようって思想だ。テメェらが文化も歴史も持たないってのを認識したくないだけでよぉ」


 ワイルドニキ、すごく忌々しげだな。

 やめろよ。コデマリくんが怯えるだろ。


「憤りは理解できるけどさ。相克(そうこく)して高め合う概念が無いのは文明の進化に致命的だよな」

「どのみち聖女様……侵略者達に目を付けられてた。……非人道的な手段に出られるよりはマシ」

「待て、ジキタリスで俺の舎弟が半殺しにされたのは非人道的じゃないのか?」

「さ、三秒ルールよっ」


 え、何それ? サザンカに三秒間殴られて生き残れたら無罪とか?

 ……いや、魔女裁判かよ。


「あの僕、聖女様じゃないんだけれど……。」

「女ですら無かったもんな」

「え!? コデマリちゃん女の子じゃなかったの!?」


 ガジュマルくんが声を上げた。

 ここにも誤解があったようだ。


「うん、よく間違われて知らないおじさんにお尻とか触られる事もあるんだ」


 そのおじさんは果たして間違っての事だろうか?


「そっかぁ、ボクもよく間違われるから」

「え!? ガジュマルちゃん女の子じゃなかったの!?」


 コデマリくんが声を上げた。

 ここにも誤解があったようだ。


「だったら、サツキさんも男性だよ?」

「メイドさんなのに!?」


 ガジュマルくんがギョッとする。やっぱ女と思われてたか。


「ほれ」


 スカートを捲って見せる。

 おぉ、と感嘆の声が沸いた。


「……そういう事、なら……兄さんも男の人です」

「メイドさんなのに!?」


 コデマリくんがギョッとする。こっちも誤解されてたか。


「ほれ」


 ワイルドのスカートを捲って見せ、うぅ、こいつ腹に一発入れてきやがった……。


「くそ……ぬかったわ」

「人のスカートを勝手に捲ろうとするからですよ」


 コデマリくんの正論が痛い。

 いや、ワイルドのじゃなきゃ捲らないよ?


 しかし何だな。

 誤解は連鎖するんだな。

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