87話 オダマキ
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次回、女装百合回(前編)
次々回、女装百合回(後編)&元パーティメンバへのザマァ回
何度書き直してもこの流れに……。
到着するまでも無く、凄惨たる光景と知れた。
何処と言わず、彼方此方で火炎術式の煙が立ち込め、横倒しの馬車は遠目でも内部からの破裂痕が痛々しい。
もう一台あるはずの車両は見当たらない。
……車輪が転がってるな。アレか?
え? 木組みの破片が散乱してるけど、これ馬車だったものなの?
ユリに跨った俺が着くと、騎士たちが疲れ切った顔を上げた。
いやほんと何があった?
「支援要請の受注で来た!! ここの責任者はどうした!?」
聞かれる前に聞く。自分らが確認される立場と認識させるのが強引に入り込むコツだ。
「襲撃した連中に、連れていかれた……。」
「聖騎士がか? 要保護対象者が居ると聞いたが?」
不手際過ぎる。シチダンカを一蹴したとは思えない。
考えられるとしたら――トロイの木馬って、確か三人目の勇者が伝えた言葉だっけ?
「あんたテイマーか……? 依頼はジキタリスの組合だな?」
「SSランクだ」
「どうりでな……見たことも無い魔獣をよく乗りこなす……。」
混乱しているのか、要領が得ない。
「時間が惜しい。指揮官殿はその要保護対象の護衛に付いたな。簡単に拘束されるタマじゃない筈だ」
「知っているのか?」
「トレーダーでの騒ぎはジキタリス中に広まっている。早まってしまったな、騎士派が」
騎士たちの表情に、焦燥の皺が深く濃く刻まれた。
冒険者による行商人襲撃でひと騒ぎあったばかりだ。その上、教会騎士までも。彼らに思う所もあろうが、全体で見れば商人ギルドに口実を与えた事になる。
センリョウさん、いやパイナスのシナリオか。
だったらコデマリくんをいいように扱ってくれる。結果次第じゃ落とし前をつけなくちゃ。
「……すまない。街道を外れれば蹄鉄の跡を見つけられるはずだ。そっちへ折れて行った」
「相手は?」
「偽装していたが、正規の兵だと推測する」
「領都軍が? 領主は不在と聞いたが」
「事情はわからん。それに……あいつら、本物の化け物を連れてきやがった……。隊長がそいつに付きっ切りにさえなってなきゃ」
ふうん。化け物ね。魔物じゃなく?
「承知した。後のことは任された」
肩で羽を休めた式が、再び羽ばたく。
嫌な予感しかしなかった。
式のお陰で正鵠との距離は把捉した。いや、別に撃たないよ?
もう一羽が追っている。
案内役との位置的相違から逆算したのだ。ユリが。
近すぎれば速度を緩めるし、その逆もしっかりコントロール。
お前何なの? 雷獣だからか?
……あれか? お前の本来のご主人か。
ハリエンジュ。赤騎士が語った友人。サクラさんが指す小娘とやらに等しいなら。
あの子が同じ術の使い手だっていうなら、意思疎通は無理でも式と何かしら通じるパスがあるのかも。
「マリー……。」
領都の前でユリを影に潜ませた。
結局、領都かよ。
いずれにせよ、大勢に追随して言動を変える連中を相手にせにゃならんが。
あー、監察官派か。
要は話の通じない、頭のイカレた連中だ。
そもそもがこの国の人間じゃない。行商人組合ならびに商工業統合組織に嫌悪され、近隣の領主が秘密裏に調査を進める。
この時点で詰んでるのだが、本人らは気づかない。
そこまで回る知恵が無いからだ。
剥き出しの感情論者は理知的な大衆から嫌悪される。今の時代の礎となった先達からしたら、尚のこと唾棄すべき振る舞いに映るだろう。
そんな事も分からない厚顔無恥が何故監察官に収まったのか。
恐らくだが、
勝手に上がり込んで勝手に名乗ってるんだと推測する。
……アザレア王国。思った以上に懐が広いんだな。
いやダメだろコレ。勝手させちゃダメだろ。
ましてやここは領都だ。
オダマキ領の中心。
とはいえ、人口も規模も森林都市の倍を誇りながら特出した産業がなく、またオオグルマのように交易が集中することも無い。
今や大きいだけの都市だ。
なるほど。確かに、付け入る隙は大きいのかな?
ゲートを抜けると案内役の式が頭にとまる。
え? そこ?
頭に鳥乗せてふらふらしてちゃ通報されかねない。めっちゃ堂々と歩った。
俺に恥じるところなど無い。
「これ、指を指しちゃ駄目よ」と子供をたしなめる母親の声が聞こえた気がする。
心が折れそうになった。
中央通りを進む。
中央通り? でいいんだよな?
左右の店先。活気もなく寂れてる。一時的に物資不足になったジキタリスより酷いぞ。
領都内の税率引き上げの影響が大きいってマンリョウさんに愚痴られたけど。使途不明な上にキャッシュバックが無いんじゃ、領民も商業も干上がるさ。
行商人離れのトリガーがこれか。くわばらくわばら。
キバナジキタリスがジキタリスの工業運輸小売を掌握してまで守りを硬めるのは分かる話だ。
都市の中央。領事館に辿り着いた。
館の屋根のてっぺんに白い鳥が一羽。風の無い風見鶏のように動かない。
頭上で羽ばたきが起き、屋根の上で二人は邂逅した。
ここまで世話になったな。
「なんだお前は?」
左右に立つ衛兵が訝しげに俺を睨む。
何だと言われても、何の変哲の無い町娘を装ったのだが。
昨日から女の子の服だ。折角だし利用させて頂く。
門の向こう。気配を追うと慌ただしさが目立つ。殺気立ってるのか、町娘にすら刃を向けかねない。
だが俺には奇策があった。
「メイドの募集に応募しに来ました!! 来ました!!」
面接はハキハキと元気よくだ。
「募集なんか掛けてたかなぁ。なぁ?」
「監察官どもが勝手をするなんざ、もうザラだから。お嬢ちゃん、この街じゃ無いだろ?」
「はい!! 近隣の小さな村です」
「都会に憧れたって口かい。悪い事は言わねぇ、故郷で畑仕事でもして村でいい人でも見つけな」
「……戻れません」
「あんだぁ?」
「口減らしで実家から捨てられたんです!! 私が戻れば家族が途方に暮れるんです!!」
「「何だと!!」」
ちっ、まずったか。
流石に近辺の村は無いか。領都の煽りを受け身売りされた娘設定だったが、公職が近隣村町の事情を知らないわけ無いか。
馬脚が出る前に修正する。
「あの、実は父が博打にのめり込んで借金をこさえて……。」
「「博打だと!!」」
しまった。この辺って賭場の一つも無いのか?
「え、えぇ、と、それでそれで、借金のカタに性奴隷として身売りされる所、ここでのメイド募集を見て、一も二もなくこれだと思いましたね!! ええ!!」
ヤケクソだった。
できれば「何だお前は?」の所からやり直したい。
「「苦労してんだなぁぁあ!!」」
通っただと!?
「嬢ちゃんみたいな若い子が」
「こんな変態の巣窟に足を運ばにゃならんとは」
「まんず、今の監察官になってからこっち、領内の経済はぼろぼろだでよぉ」
「んだ、せめて領主様がおわして下さればこんな事にはよぉ」
領主は王都に長期滞在中だったか。
オダマキ配下の官僚の不祥事件で、王家から直々に召令が下ったって。センリョウさん情報だから確かなんだろうけど。タイミングが良すぎてどうも。
で、今領内を取り仕切っているのが、例のアレだ。
「あの、それで面接を受けたいのですが――って、え? 変態?」
俺の聞いた話と何か違う。
ん? 来る所間違ったか?
「うんだうんだ、気をつけろや。ここの監察官なぁ、領民から集めた税に言わせて国じゅうからエビというエビを仕入れてるんだ」
「何でもエビに欲情してる姿も目撃されたっつー話だべ」
「……ま、まさかぁ?」
何だよそれ怖いよ。
コデマリくんの事がなかったら、絶対関わりたく無いよ?
「それに面接って事は、やっぱあのメイド長の姉ちゃんか」
「だなぁ、ほんに可哀想なこったぁ」
まだ何か居るの!?
「一週間前に彗星の如く現れて、あっという間にメイド長の座に収まったよな」
「俺ぁ、あの性格は駄目だな」
「うんだ、あんなキツイ姉さまはそう居ねえだ」
「え? 自分そんなのと面接しなくちゃならないの? やばくない?」
「まんずまんず」
「うんだうんだ」
不安が胸いっぱいに広がった。
「まずは受付で申込書に記入してもらうから、こっちさ来てけさぇ」
「お手数お掛けします……。」
侵入する為とはいえ、ゴリラと相対する前にエビとかメイド長とかでバイタルを削られるのは避けたい。
よし最悪、エビは諦めよう。
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