表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/390

85話 強襲

文章ボロボロ…

 ていうか意外な組み合わせだな。その二人、接点あったのか?


「やはりそういう事か!!」


 キバナジキタリス氏が激しく激怒した。狂気の沙汰だ。


「やはりというのは?」

「君は、えぇとサツキくんと言ったか。ワタシの元妻は共和国出身だったのだよ」

「え? どこの?」

「共ぅ和ぁ、国だ」


 何で巻き舌にした?


「問題なのは木工芸商会の所長が雇ったゴロツキぃどもだが、連中はこの国の冒険者ではなぁい。真っ先にギルドを洗ったが所属にも無ければ不審にだって思うはずだ。従って不法入国者の線で調査を進めたが、背後関係を追うに連れ連中の遺体ばかり発見され終いには皆殺しにあったと報告が来た。何だぁこれ!?」

「そうか……。」


 何か所々巻き舌が入ってムカつく。

 青騎士と灰色オオカミを見ると一斉に視線を逸らした。


「そうか……。」


 この場にいないうちの舎弟にも責任があるので何も言えなかった。


「あの、名士様。落ち着いて下さい。どう、どう」


 ナツメさん、甲斐甲斐しいな。


「すまないマイハぁニー」

「マイハニー!?」(ズキューン)


 何か刺さってる。


「そしてそれらの雇用元が、あの女と絶賛駆け落ち中のあの男だ。ここがあの女のカオスね」


 もはや誰の事か分からなくなりつつある上、混沌はあんたの方だ。


「カサブランカからの商人襲撃、ジキタリスの冒険者にクエストの改竄を仕掛けた理由だ。〈聖女ぉ様〉だよ目的は。だから正式なギルドの受注が目障りになぁる。ジキタリスの商工会はとばっちりを受けたのだ!!」


 また聖女様か。


「狙いは最上級回復術(エクストラヒール)の独占だと思うか?」


 保護を目的とした公式クエストが邪魔だっていうなら。


「独占ならワタシも考えた。愚行は承知の上だが、オダマキの高官には省みる事も出来ぬ真の愚か者が居たな」

「そういや、さっきも言ってた」

「とはいえ、共ぅ和ぁ国もラァビシュぅも、アザレアに潜む病巣である点でしか一致しない。何れもそれぞれが個別の敵勢だ」

「それで匿う気でいたのか。聖女を拉致しようってのが国外勢力だからって」

「アレは今やジキタリスとオダマキ領を取り巻く騒動の、いわば野分の中心だ。如何に陣営に加えるかだが、ワタシとしてはどこにも属さないでいてくれればそれでいい」


 求めたのは抑止力か。それは分かる。だったら――。


「カサブランカの発注を補足できた。なら自分らで受注すればいい。アオイならそうする」


 青騎士に視線が集まると、ふんすとのけぞった。

 俺のセリフ……。


「そういう事か!!」


 いや気づけよ。

 誰もが内心思っただろう。

 よしよし、とナツメさんとユリがキバナジキタリス氏を慰める。

 その時、

 玄関から1人の若者が現れた。


「あの……ここ名士様のお屋敷っスよね? 何で穴だらけになってるんすか……?」


 クレマチス商会の番頭さんだ。


「君は!! そこから来るのかね!?」


 キバナジキタリス氏が一気に詰め寄る。

 足捌きと体重の遷移。武術か何か嗜んでやがるな。


「え? あ、失礼しやした。声は掛けたのですが何やら取り込んでおられる様子で。いえ、手前共の代表とお客人であるサツキさんがこちら様でお世話になってると聞きましてね。早急な取り次をお願いしたk――。」

「君は見込みがあるな!! 今日、これだけ来客を迎えてついぞ誰一人玄関から入らなんだ!! ワタシは今、光明を見たぞ!!」


 お前はもっと違うものを見た方がいい。


「へ、へい、そりゃあどうも恐れ入ります。えぇ、あっしの手に掛かれば玄関から入るなんざ造作もない事で、へい」

「やはり見込んだ事はある。気に入った、うちで働いてみないかね?」

「光栄なお話ですがご勘弁を。この業界、ヘッドハンティングなんざやらかしたら先方様の信用に関わりますので」


 躊躇い無しだな。


「それより用は俺にかね?」

「へい、そうでやした。サツキの旦那とお嬢に早急に――って、お嬢!? 一体なんて艶姿になっちまってんですかい!!」

「やはり気づきおったか!!」


 あの、何で名士のおっさんが答えてんだ?

 湾曲した階段の途中で、サクラさんに抱き抱えられるマンリョウさんは未だに眠り姫のままだ。美麗な影法師の腕に収まる純白のラメ入りドレスは、一服の絵画のように絢爛とフロアを彩っている。

 ……いや、頭上から降りた檻が破壊され、あちらこちらの壁が破壊され、灰色オオカミの群と幻獣鵺と赤騎士と青騎士が階下で迎える、この世の地獄のような絵画だが。


「何、少しばかりの心づくしだ。礼には及ばん」

「へ、ヘい……さいでやすか」


 何故か偉そうなサクラさんに、生返事を返せるだけ凄いと思う。

 なんか番頭さん、健気だな。


「この状況で構わないならこのまま聞くけど。場所を移そうか?」

「いえ、このままで!! 移した所で今より好転するとも思えませんので!!」

「言うわね」


 赤騎士が妙に感心していた。

 そりゃ大手トレーダー商会の番頭だもんな。


「いや実は大変な事態でして!! 当商会の支部に教会騎士が押し寄せて聖女様を出せの一点張りで!! 話にならず口論の末に家宅捜査を強行されまして!!」


 ……。

 ……。


 めっちゃ重要な報告やん!!


「手前共も統合組合、パイナスの常任理事としての面子がありやす。なすがままで見てるわけにもいかず、専従の冒険者で応戦しましたが、対人部隊戦での練度に差があり、えぇ、健闘はして頂いたのですが」

「俺の連れは?」

「真っ先に斬り込んでいきやした!!」

「教会騎士相手に駄目だろそれ!!」


 はみ出し野郎なゴロツキ共と違うんだ。相手、一応教会の保守派だよ?


「そりゃあもう鬼神の様な奮戦ぶりで!!」

「何で奮戦しちゃうんだよ!?」

「終始、哄笑を放ってましたね!!」

「それ鬼神ちゃう奇人や!!」


 アイツ何やってんだ? クレマチスが時間稼いでるってのに。


「まさか刈っちゃいないよね? 刈ってないよね聖騎士の首?」

「向こうもフル装備でしたので」

「だから何んでアイツはすぐ首級を上げたがるんだよ!!」

「……サツキの旦那の為と叫んでおられましたが」

「俺、主犯格になっちゃうじゃん」

「サツキさん、今更よ。アタシの調べでも相当名前が出回ってるわね」


 赤騎士。そういや情報屋って触れ込みで俺に近づいたんだよな。

 ……そうか。手遅れか。


「シチダンカに遅れをとらせるか。彼は?」

深傷(ふかで)を負いましたが、応急で手前共のヒーラーが手を尽くして」

「そこまで重傷とは俄かに――。」

「いえ、意識が戻られた途端にサツキの旦那に顔向けができないと飛び出して行くんで、皆で必死で押さえてるんです!! 早く来て止めて欲しくて!!」

「あんた来た理由そこか!?」


 どうして手間掛かる方に向かっちゃうんだよ。


「ならばワタシも向かおうぞ!! 対立したとはいえ我がジキタリスで教会の勝手には見過ごせん!!」


 この男の中心はあくまで都市運営なんだな。


「よろしいのかな」


 未だ階段半ばのサクラさんの、よく通る声が降り注ぐ。


「共和国の工作員が一組とは限るまい」


 ナツメさんを見ると、彼女は一礼する様に頷き、


「さぞや想定外だったのか、慌てていたのでしょう。所長室の帳簿なら隠し場所も分かりやすかったので何冊かは」

「確保したと言うのかね?」

「こちらに」


 照れる様に目を伏せる。彼女を見る目が変わった。俺と名士で。

 何だこの優秀な事務員は。


「なるほど。片っ端からふん縛るには好機か。やるな!!」

「あ、は、はい」

「結婚しよう!!」

「あ、は、はい――あれ?」


寿退職が決まった瞬間だった。

どのみち木工芸商会は解体だろうけど。


「クレマチスなら俺の管轄だ。サクラさん、マンリョウさんをお願いします」

「責任を持って――君の良き花嫁に仕立てよう」

「何言ってんだ?」


 俺が眉をしかめるのと同時に、黒影の半身を鬼気が叩いた。


「父。ここにも良き花嫁候補がいる」

「アタシ達を差し置いて何を仰られるのかしら?」


 青騎士と赤騎士が魔王の前に立ちはだかった。

 その周囲を灰色オオカミが囲む。


「……あまり人様のお宅に迷惑をかけないように」


 としか言いようが無かった。


「大体察した。ワタシ達は潜伏する敵勢力の摘発に出る。ナツメくん、館の事は任せた」

「いってらっしゃいませ」


 順応早いな。

 ていうか任せちゃうのかよ。


「者ども!! 捕物帳だ!!」


 号令と共に名兵士たちが一斉に動いた。練度もいい。こちらが本職か。

 そして後には、一触即発の化け物共が残った。

 え? 丸投げ?


「かくも美姫達の傾慕を集めようとは、君という男はつくづく」


 はっとして、自分の状態が見れる朧月夜のような薄膜――サクラさん曰くステータスウインドウを出力した。本人にしか見えないらしいが、都合がいい。


「あ……。」


 魅了Ⅲ


 ……まさか森林迷宮でのアレで上がったのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ