79話 ホテルで火照る
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成る程、宿屋と比べるまでもない。不動を象った門構に、洗練れたデザインの木組みの外壁だった。
正面玄関まで石畳が続く。
庭、広いね。
母屋も平家で、めい一杯に敷地を使ってる。森林都市だけあって、本邸にしろ建材には不自由しないんだろうな。
さっきの会話の感触からして、ここを手配したのは消去法で貴族だろう。今朝も会った。アイツか。
「それでは、後は若い者同士という事で」
フロントで受付を済ませると、執事服は腰を低くし距離を取った。
……俺の方が年上なんだけど。
「散ッ!!」
残像を残し姿を消す。どこの草だよ。
「……よくアレに保護されてたな」
「主神様の御使いだと思ってました。まさかここまでとは……。」
コデマリさんも呆然としてた。
あれが御使いって、君の中の主神様はどうなってんだ?
「それではお客様がた、お部屋にご案内させて頂きます」
初老の黒服が長い廊下を案内してくれる。
壁の絵画。異文化を思わすタッチ。通路脇の壺。美術品。うん、自分ら場違いだよ。
あー、よく考えたら冒険者の装備と普段着しか持ってなかった。女性もの。これからはドレスと靴も調達すべきか。
「こちらのヘベレケの間をご使用ください」
なんだその部屋名は?
「お食事はお部屋にお持ちいたします。ご入浴は内風呂となっております。何か御座いましたらお気軽に通信管でフロントをお呼びつけください」
「ご丁寧にありがとう」
穏やかな笑顔共にチップを渡す。
老紳士が一瞬頬を染めたが、軽く咳払いし元の営業スマイルになった。
「御ゆっくりお寛ぎください」
黒服を見送ってから、部屋を開ける。
入り口からは入らず、内部を確認する。構造。気配。匂い。色。湿度。
「入って、そこに居て」
コデマリさんを先に入らせ、廊下を再び確認してからドアを閉め施錠する。
「ちょっと見てくるから」
10畳ほどの大部屋に、巨大なベッドがあった。巨大過ぎて一つしか置けなかったんだろうな。何故二人部屋にしなかった?
それから別室がトイレだった。洗い場のあるお風呂場。あ、お湯が張ってる。片手を入れるといい湯加減だ。
これ、追い焚きされてるな。常に適温って、どういう仕組みだろ?
一通り安全を確認して、
「入っていいよ」
「お邪魔、します」
緊張してる。そりゃこのベッドだもん。パーティでも無い男と二人きりともなれば。
「先に湯を使い給え。ベッドも君で占有して欲しい。冒険者は床でも慣れてるから気に病まないで」
「そんな!!」
自分でも意外だったんだろう。かん高い声が否定した。
「僕だって冒険者ギルドに登録してます!! 討伐遠征だって経験して――えぇと、夜は呑んで呑まれての大宴会だったし、その後はシャクヤクさんに乗せられて移動だったけど……アレ?」
小首を傾げる。
何かアイデンティティに触れるものがあったらしい。
「そうか。だが、俺も女の子に不義理を強いるつもりはない。護衛対象でもある君の優先は譲れないな」
「なら僕だってお姉さんを床に寝せるなんてできないよ!! それに、女の子なんかじゃ……。」
待てっ、本当に俺を女だと思ってるのか?
「誤解を招いてすまない、こう見えて俺は、なんていうか、その女じゃないんだ」
「!? 冒険者になるのに女を捨てたっていう、アレですか?」
「どれだよ!?」
「でもそれを言ったら僕も、聖女様なんかじゃ、ましてや女の子なんk」
そして、ここからが不幸の始まりだった。
「待ってくれ、君は前提を掛け違えてる」
「サツキさんこそ!! だ、ダメなんですからね!! 女の人が譲っちゃうだなんて!!」
「らちが開かないな。強硬手段に出ざる得ないか」
「分かってもらうには、もうこの手しかないみたいですね……。」
「つまりはこう言う事だ!!」
「ごめんなさい!! 本当はこう言う事なんです!!」
俺がコデマリさんの手を引くのと、コデマリさんが俺の手引くのは同時だったろう。
そして、互いの手をそれぞれ己のスカートの奥へと導くのも、また同時。
同時。
そう、同時に柔らかな感触を得た。
即ち、
ふにふに――と。
「「!?」」
言葉を失った。ふにふに。
互いに見つめ合う。
そうか。
思い違いをしていたのはお互い様と言うわけか。ふにふに。
「あ、え? ええ?」
コデマリさんが不思議そうな顔で俺の股間を揉んでいる。
その逆もまた。
『では、こうしては如何でしょう? お互い揉んで揉まれて手打ちにする、と』
奴の言葉を思い出した。
なるほど、伏線か。
確かに揉みあってるな。
「にしても、不思議な感触だな」
「え? ええ?」
指先を絡める。
「っ!?」
小さな肩がピクンと跳ねた。
顔を真っ赤にして俯いちゃった。
あ、可愛い反応。
もう少しだけ。
ふにふに。
ふにふに。
おや?
「っっっっ~~~~!!」
小刻みに震え、
やがて、くてん、てなって俺の胸に倒れてきた。力が入らないらしい。
あ、
まずい。やり過ぎた。
「はぁ……はぁ、はぁ……ぐす」
「す、すまない、調子にのってしまった」
「……サツキさん、酷いです」
涙目で、というか半分泣き顔で見上げてくる。
そうか。違和感の正体が分かった。
こんなに可愛い子が、女の子なわけがない。
「お風呂、先に入って洗うといい」
「……たは、足が……かくかくって、なって……。」
俺にしがみ付きながら、小刻みに震える。
だが、このままという訳にも行くまい。
「落ち着いて。下着は洗っておくから、ゆっくりと身を清めたまえ」
「身を清める……!?」
「いや、だから大意は無いからな?」
「……え、と」
「うん?」
コデマリくんの顔を覗くと、彼は目を伏せて顔を背けた。
「どうした? 何か望むものがあるなら遠慮はいらない。言ってみたまえ」
「……あの、変な意味じゃ無くて」
「ふむ」
「まだ、うまく、動けないから……一緒に」
「ぬかったわ」
羞恥に染まり唇を噛みしめる表情にどきりとする。
これはよくないな。
「それは、どうしても、なのか?」
「どうしても……て言ったら?」
言葉は挑発的なのに、声と表情が不安そうで、
なんていうか、その、
とても庇護欲を感じる訳で。
「しょ……しょうがないな!!」
あぁ、多分、
今の俺は蜘蛛の巣に掛かった状態なんじゃ?
バスルーム。
そこで何が起きたのかは割愛しよう。
「っっっっ~~~~!!」
先刻よりも大きく仰け反ったコデマリさんは、
息も絶え絶えに背中から俺の胸に倒れ込んできた。
……。
……。
俺か? 俺が悪いのか、ん?
翌朝、嫌な予感で目が覚める。
完全防音だけあって、外部の音は感じない。気配もだ。
ただ、感が働く。
ダンジョンや魔物が棲む森でキャンプを張る冒険者を舐めるな。
ベッドから起き上がり、着替えをストレージから取り出そうとして左隣りを見下ろす。
毛布をはだけた幼い寝顔があった。
首筋や鎖骨にやたら鬱血のような跡があるが、
すまん。
強く吸い過ぎた。
「……ん」
俺の気配に瞼が気怠げに開く。
「疲れたろ? まだ寝ててくれて構わない」
髪を撫でようとして、思い留まる。朝から何やってんだ。
俺の声に安堵したのか鼻を鳴らし目を閉じようとし――何かに気づき跳ね起きた。
「襲撃!?」
無防備な上半身が露わになる。自分のあられもない姿に遅れて気づき、毛布を引き寄せていた。
「違うようだが。フロントに確認する。ゆっくりしていたまえ」
「起きます」
「いい子だ」
コデマリくんから目を背け、壁際の通信管へ向かう。通信管は、船舶で使用された物と同じだが、二重蓋の防音構造になっている。
手を掛けようとして、備え付けのチャイムが鳴った。
どうにもこの部屋は、外の音も気配も読みにくい。
ドア脇の応答管を開き相手を探る。
「何か?」
「朝食をお持ちしました」
本来なら頼んでないと追い返す所だ。
知った声に少しだけ安堵の息を吐く。む、溜息? 柄にもなく緊張していたのか。
解錠し招き入れた。
「失礼します。おや? ――昨夜はお楽しみでしたね」
「うるせーよ」
カートに朝食を乗せたシチダンカは、昨日と変わらず執事服だった。
一見すると従業員のようだが、全くの部外者だ。
「あまり見てやるな」
「いえ。俺の目はサツキの姉さ兄さんの輝かしい肉体に釘付けです。あ、ビーナスの誕生かと思った、びっくりした」
「美の女神への侮辱だよね」
「そんな、まさか」
「その自信はどこから来るの?」
「深き闇のさらに深淵より」
「ダメじゃん」
無駄話しをしながらも、朝食が丁寧に並べられていく。
その間に外着に着替えた。
「で、外の騒ぎはお前か?」
目を覚ました原因だ。
何か起きた感じがした。
「教会騎士の連中が嗅ぎまわってるようです」
「聖騎士派が?」
「向こうも諜報網を張っていたのでしょう」
「聖女を抱え込もうってのは、既得権益から見て筋が通っているか。ホテルの対応は?」
「そりゃフロントで追い返していましたよ。宿泊客の情報開示は貴族との敵対関係を意味する、と脅せばだんまりでさぁ」
「何で悪人顔なんだよ」
とは言っても、早めに撤退すべきか。
「朝食を頂いたらチェックアウトにする。よろしいか、コデマリくん?」
「あ、はいっ」
女僧侶の格好をした彼が振り向く。
「……ていうか、何で女僧侶なんだ?」
そもそも、そこからおかしい。
お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。
評価★など頂けましたら嬉しいですが、ご無理はなさらぬよう。




