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74話 青騎士の中身

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


今後のジキタリス編、オダマキ編のあとの予定

王都編

学園百合編

悪役令嬢(から婚約者を奪う)編

荒地開拓(タイトル回収)編

来年の三月までには完結したいです(希望)

 鏡面となって蒼を耿耿(こうこう)と弾く甲冑に、忌々しく目を細める。


「青騎士。俺の股間への潜航を望む者よ」


 唇が渇くのを感じた。

 恐らくはクロユリさんと同格。アオちゃん、と呼ばれし四騎士の一角。SSランクに立ち打つ(すべ)はない。


「そうアオイは、青騎士……鎧の中、凄く群れる」

「知らねーよ!!」


 男達が軽口のように返す。警戒はしてるが、脅威と認識できていない。レベル差があり過ぎるんだ。


「汗だく。死にそう」

「出てきて早々儚ぇなおい!!」


 荒くれさんも、平然とツッコミを入れる。

 執事服。お前ぐらいだよ。難しい顔で青い甲冑を瞳に写していた。青白い顔。血の気が引いている。俺もそうだろうか。

 小声を掛けてきた。


「俺が隙を作ります。サツキの姉さ兄さんは聖女様を連れて、連れて……えぇと……しちゃって下さい」

「え!? 僕何されるの!?」


 大雑把だな。そう言う所だと思うぞ。


「護衛して欲しいって事だろ。あとコイツらに筒抜けだからな?」


 顎でクイっと指す。背後から荒くれ者に抑えられたままだ。


「サツキの姉さ兄さんなら支障ありません。かつて、伝説の勇者が伝えた『かんふー映画』なるものでは、達人は椅子に縛られてもそのまま動き回ったと聞きます。であるならば!!」

「おかしいだろ!! 俺、コレ後ろに付けたまま動き回っちゃおかしいだろ!!」

「え、あっしっすか? すんません、今離します」


 解放されちゃったよ。

 よもや話せば分かるとは。

 執事服へ目をやった。

 ああ、なるほど。

 鎌、構えてるわ。荒くれ者の腕ごと俺を解放する気だったのか。

 なるほど。離せば分かるのか。


「待ってそこの二人。美人さんと美少女さん。アオイの中、気にならないの?」


 男たちを挟んで、蒼穹の澄んだ声が深緑を渡る。

 言葉の内容だけが爽やかさを欠いていた。

 むしろ意味深だな。


「甲冑の中身の意図かと察するが、すまんが俺は美人さんでは無い」

「あの、僕、美少女なんかじゃ……。」


 それに、どうせ全裸とかそう言うオチだろ?


「何も着てない。何も足さない。それが生まれたままのアオイ。どう?」


 うん知ってた。


「テメェ、変質者か!!」


 荒くれ者達が剣を構える。お前らの基準て何?


「いい女は、時折り開放感に浸りたい。そしてアオイはいい女」

「クソッタレが!!」


 え? 荒くれさんたち、相手女の子だよ? しかもあの中、全裸で汗だくだよ? 手籠にしようとかならないの?


「そうか。うぬらは否定するか――今サツキくんの隣に居る美少女だって。一皮剥けば似たようなもの。絶対やばい。この子きっとやばい」


 荒くれ者の視線が女僧侶に集まる。


「え? あの、僕、そういうのじゃなくて、そもそも女の子でもなくて、えぇと……。」


 もじもじしてる。


「あ、可愛い……。」


 思わず呟いてしまった。

 今まで会ったことが無いタイプだ。

 奥ゆかしいというか、清楚というか。この子なら、脱ぎたてを一方的に嗅がす事も無いだろう。人類が獲得した最後の良心かもしれない。


「え!? えーっ、主神様!?」

「だから主神じゃねーよ!! 僧侶姿で言ったらそういう宗教かってなるわ!!」


 頼むよ最後の良心。 


「うぅ……だってあんな事言うから……。」


 顔を赤らめる僧侶に、周囲から「おぉっ!!」と歓声が上がる。

 涙目でこちらを見てくるのは反則だな。


「ど、どうしよう。アオイの見せ場が奪われていく」


 青騎士がオロオロしだした。

 執事服が静かに鎌の先を向ける。


「こと乙女の尊厳を基調とした思想態度において、にわか聖女様に敵うものか。(おの)が肉体の蒸れ具合を公言する貴様に、一辺の勝機も無いと知れ」


 お前は何でそんな偉そうに言ってるの?

 ていうか、みんな七花八裂にも程があるだろ?


「でも、こういうのがいいって人も、居る。わかる人に分かるのが、イケナイ事ではないわ。人の行為における反復で獲得する持続的な習性を、決して侮ることなかれ」

「我々をその辺にころがっている変態と同格に扱ってもらっては困る!!」


 変態のレベルで競ってんじゃねーよ!!


「変態じゃない。嗜好。性的思考。貴方にとっての偶有性は妥当な推論に用いられない」

「性質の有無が本質に乗っ取られない程度。月並みな邪推、気に食わなんな」


 鎌を再び構える。鎌だけに。


「堅忍不抜の精神で臨むがいい。貴公を屠った後で、ゆるりとサツキくんに、汗だくお姉さんの良さを堪能させてくれるわ」


 ちっ、ご厚情、痛み入るぜ。

 周囲の茂みがガサガサと、円を描くように鳴ったのは、そんなグダグダな時だった。

 男達の間に緊張が走る。

 青騎士が出た時に緊張しとけって思うが、その辺もまた練度(レベル)の差だろう。

 いきなり斬りかかる執事服の方がおかしい。


「囲まれたかっ」

「魔物か。群れで来たな」

「ちきしょう、こんな所でぐずぐずしてるからだ」

「アオイは既に蒸れてきている」


 全員が静かに剣を構える。

 ……。

 ……。

 だから何で全員剣で来ちゃうんだよ!?

 10人もぞろぞろ付いて来て、何で槍も弓も魔法使いも居ないんだよ!?

 ていうか青騎士!! 何ちゃっかり荒くれ者に混ざってんだよ!?


「くそっ、脳筋パーティだったか!!」


 今更、俺も何に気づいてんだか。


「サツキの姉さ兄さんにピッタリですね!!」

「口が過ぎるぞ――青騎士だけ注意しろ」

「仰せの通りに」


 一思いに襲って来ない。

 姿を消し、茂みを巡り、徐々に取り囲む。音と気配を見せるのは獲物に恐怖心を与える為か。

 知恵が回る奴らだ。なら狙いは何だ?


「サツキの姉さ兄さん」

「どうした?」

「青いやつ……妙な動きを始めました」

「何!?」


 姿なき魔物が一気に飛び掛からない理由に、青騎士の存在が大きい。

 野生の魔獣なら本能で危険性を知っただろう。膠着状態が最大の攻撃であることも。

 見ると、青騎士が内股で小さく震えていた。

 特殊スキルのモーションか?


「……尿意を感じる」


 膠着状態めっちゃ効果出てるよ!!


「おい、どれだけ頑張れる!?」

「まだ1時間は余裕」

「その辺の茂みで済ますわけには!?」

「アオイ、いい女だから」

「くそっ!!」


 こっちはこっちで絶体絶命か!!


「サツキくん?」

「どうした?」

「アオイのことしーしーってしたい?」

「くそっ!!」


 やっぱ絶体絶命か!!

 守らねば。


「君は俺の所においで」

「はぅ!?」


 不慮の事故に備えて、僧侶の子を抱き寄せる。


「むむ。羨ましい。アオイもアオイも」


 尿意に抗う女が寄って来ようとする。


「ごつい甲冑抱き寄せたら絵面が怖いわ!! お前は自分の膀胱と向き合ってろ!!」

「待って。今脱ぐから。えぇと、アイテムボックス、アイテムボックス」

「待てるか!! ていうかお前が待てや!!」

「何故。アオイを拒む?」

「お前、その中身……全裸だろ?」

「言わずもがな」


 僧侶の肩に添えた手に力が籠る。

 この子だけは守らねば。

 無垢なまま帰してやらねば。


「駄目だ!! コイツら速いぞ!!」

「円陣だっ!! 防御優先で行くぞ!!」


 男たちが叫んだ。

 茂み音。梢の反響。徐々に、徐々にと。

 周囲を巡る魔物達が徐々にその輪を詰めてくる。全部で八頭。

 群れでに狩りを常套手段にした魔獣系か。

 背が低く四つ足。

 木漏れ日を反射する灰色の毛並み。うん?


「ちょっ、お前らついて来ちゃったのかよ!!」


 声を掛けると、灰色オオカミ達が一斉に俺に飛びかかり――スカートの中をくんかくんかし出した。


「ふわわ」


 と僧侶が情けない声を上げる。

 その声に何頭か反応した。

 怯んだ獲物を逃す道理がない。

 奴らの瞳がキラリんと光る。

 一斉に僧侶服の裾に頭を突っ込みくんかくんかが始まった!! 何故そっちに行く!?


「ふぅわぁぁぁ」


 僧侶の子が悲鳴をあげる。


「「「アォーーーーン」」」


 灰色オオカミが遠吠えをする。


「「「う、うわぁっ!!」」」


 緊張の切れた男たちが一斉に剣を振り回す。


「ふひゃひゃ!! 豊作じゃーーー!!」


 執事服が狂ったように笑い、鎌を振り回す。


「あはは。あははは」


 青騎士も釣られて笑いながら突撃してきた。


「……。」


 その中心で、影から勝手に出たユリがちょこんと立ち上がって万歳をする。


 思えば不幸な事故だった。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。

お疲れ様です。


何かこれはと感じましたら★評価のほどお願いします。

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