表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

72/390

72話 森林迷宮

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。

 荒くれさんが所長室のドアを開けると、内側から、似たような格好の男たちが溢れ出した。

 モンスターハウス(ダンジョン内でモンスターが大量ポップする特定領域)かよ?


「テメェら何やってんだ!?」


 荒くれさんも予想外だったみたい。


「オメェこそ何やってんだよ!!」

「こんなところで自分だけ娘っ子とイチャイチャしやがって!!」

「さっさと紹介しやがれ!!」

「こんな所で立ち話も何だ!!」

「さぁ入った入った!!」

「まんずまんず」


 所長室の奥へ通される。

 因みに所長は隅っこの方に居た。

 荒くれ風が9名。いずれも中級以上と見た。

 ギルドの人材不足から見て、名士の子飼い(私兵)ってところか。


「おーし、テメェらよく聞きやがれ!! 例の聖女捜索に加わった女だ!!」

「あ、えぇと……サツキです。新参者ですが宜しくご鞭撻のほど、あの、お願いします。あと女じゃありません」

「「「ヒューヒュー!!」」」


「えぇと……。」

「「「ヒューヒュー!!」」」


「あの……。」

「「「ヒューヒュー!!」」」


「……脚にはちょっと自信があります」(チラリ)

「「「ぬおぉぉぉ!! スゲー!!」」」


「え? こう?」(捲り)

「「「さーつーき!! さーつーき!!」」」


「……。」

「「「さーつーき!! さーつーき!!」」」


「ダァー!!」


 所長のデスクに乗り片手を上げる馬鹿が居た。俺である。


『これだったら木工芸商(うち)に居着いた冒険者達(ゴロツキども)もメロメロですよ』


 メロメロなのかもしれないけれど……求めていたのと何か違う。

 短いヒロインタイムだったなぁ。佳人薄命ってさ、こういう意味なのかも。

 所長がオロオロしてた。




 森林迷宮。

 要は森がダンジョンの規則性を得た姿である。

 同種の迷宮は各国で確認されたが、アザレアに現存するのはジキタリスのみだ。

 街から離れるほど階層が深くなり、生成魔物も強力になる解釈だ。その分、レアドロップの恩恵も期待できる。

 そして、蒸し暑い。

 鬱蒼とした夏木立(なつこだち)が作る日陰は有難いが。

 むせ返る深緑の枝葉が頭上を遮る中、一番の難敵が他ならぬ湿度だ。

 熱気が首筋へ腕へと嘗め回し、シャツがべっとり張り付く感触。そういやタイツの蒸れ対策、マンリョウさんに聞いておくんだった。

 迂闊に脱げないんだよな。高度なディフェンスバフ付与されてるもん。


「いや、もういっそ脱いじゃおっか」


 うっかり漏らしたら、周囲が騒ついた。

 ゴロツキ共との森林迷宮探索だ。俺の提案がそのまま受け入れられた。

 まんまと偽情報に踊らされやがって。さぁてと、どうレベリング(料理)してやろうか。ふふ、楽しみ。


「ふふ、ふふふ」


 思わず口に出た。


「へへ、へへへ」


 荒くれ共も声にして笑う。

 そうか。

 お前らもレベリングに意欲を見せるか。やる気か。

 何故か、粘っこい視線を受ける。つま先から頭まで。舐めるように。或いはお尻に。或いはミニスカートの裾に。

 そうか。

 そこまで俺に指導を仰ぎたいか。やる気があるか。


「ふふ、ふふふ」

「へへ、へへへ」


 はたから見ると、楽しい集団になった。




 一階層(入り口)で雑魚を狩って連中の立ち回りを見た。

 そこそこ動けるな。徐々に上げていこう。

 少し進むと、俺を囲むようになってきた。

 なるほど。

 これが三番目の召喚勇者が伝えたという姫プレイか。


「なぁ姉ちゃん、そろそろいいんじゃねぇのか?」


 ゴロツキに似合った下卑た笑いを張り付かせて、一人が絡んでくる。

 ん? そろそろ?

 ……。

 ……。

 あ!!

 そうか。期待させちゃったか。いや悪いことしちゃったかな。


「そうですね。でも、こちらも久々だから、じっくり楽しみたいです」

「ヘっ、()らしやがる」

「ふふ、(あせ)らないで。まだまだ先は長いのですから」


 ボス討伐までじっくり練度上げたいもんな!!

 しかし、コイツら、それほどエリアボス攻略に飢えてたのか。涎垂らしてるヤツまで居る。

 でも、まだだ。

 急激なレベリングは彼らのストレスになる。カサブランカの初日での反省点だ。

 ……そういや、あの時は一日でパーティ崩壊したな。

 特に、俺に脱ぎたてを嗅がせようとする女と鉢合わせになってまた裏切られたんじゃ、多分次こそは泣く。


「じっくり、じっくり行きましょう」

「お、おう、確かにここじゃ他の冒険者どもも来るしな」


 何!?

 コイツ、まさかボス戦を独り占めにしようってのか!?

 くそ。油断も隙も無いぜ。

 男らが嫌な笑みを浮かべる。

 くそ。


「おいおい下手な事すんじゃねーよ」


 荒くれさんが間に入ってくれた。

 ねっとりとした視線を絡めてくる。

 そうか。彼もボス狙いか。


「ふふ、皆さん頼もしいんですね」


 俺の鍛錬に耐えられるか。


「任せな姉ちゃん」

「へへへ、失望はさせねーぜ」

「じっくり楽しませてやらぁ」


 よし。その意気だ。

 こうして暫く森林迷宮を進んだ。

 第一階層を半分ほど踏破した頃。

 ポップする魔獣系モンスターがそこそこ数を増す。


「なぁ姉ちゃん、そろそろいいんじゃねぇのか?」


 別のゴロツキが絡んでくる。

 うん? そろそろ?

 ……。

 ……。

 あ!!

 そうか。入り口より歯応えあると言っても雑魚モンスターだもんな。そろそろ第二階層に行ってみたいよな。


「意外とせっかちなんですね? でもまだ駄目ですよ?」


 それから暫く進む。

 ボスエリア、近いかな? 第一階層の割には魔物の質も量もなかなか喰いごたえがある。

 きっとゴロツキ達も満足だろう。と思いきや、


「なぁ姉ちゃん、そろそろいいんじゃねぇのか?」


 別のゴロツキが絡んでくる。


「もうちょっと、もうちょっとだけ奥に。ね?」

「ちょっと待てや!!」


 荒くれ者どもが蒼白になる。

 ようやく。

 自分らがどこまで進んだか。今、どこに足を踏み入れたか。

 ようやく、思い出したか。


「もうちょっとでボスエリアなんです!! もう待ちきれません!!」

「待て、待て待て――だから一旦止まれって言ってんだろオメーはよ!! 何でガンガン進んでくんだよ!!」


 そっか。皆んなもはやる気持ちを抑えてたんだもんな。


「分かりました深呼吸します――よし!! 行きましょう!!」

「むしろ無呼吸じゃねーか!!」

「が、我慢……これ以上は、もう、我慢できません……ハーッ、ハーッ」

「今度は過呼吸になってんぞ? 本当に大丈夫か、この姉ちゃん?」

「大丈夫な訳ないじゃ無いですか!! もうさっきから体が火照って仕方がないんですよ!!」


 俺の訴えに、他のゴロツキ共が舌なめずりをする。


「へへへ、だったら俺らが鎮めてやろうか」

「ここまで()りゃ、他の連中も邪魔には入らねぇぜ」


 よし来た!!


「そうですね!! じゃあ帰りの時間を気にしなくてもいいよう、タイムアタックという事で。行ってくりゅ!!」

「難易度上がってんじゃねーか!! ダンジョン攻略とか以前に、オメーの扱いの難易度がよ!!」


 失礼な!!

 と、横合いから大き手が出てきて俺の腕を掴んだ。


「いい加減にしやがれ!! ここに来てビビったか? お前もそのつもりだったんだろ!!」

「えぇ、その気(魔物狩りでレベリング)のつもりですよ? (エリアボスを)滅茶苦茶にしたいくらいその気です!!」

「な、ならいいんだが、何だコイツ? 頭イカレてんのか……?」


 お前らほんと失礼だな。


「まぁこんな所に例の聖女が居るわきゃ無いから、最初からそれ目当てなんだろうがよ」

「へへっヘ、そりゃそうだ。聖女なんざはなっから居やしないってのは分かってんだぜ」

「おう、聖女なんざ居るわけない居るわけない」


 ……あ、捜索対象。忘れてた。

 でも良かった。理解があって。皆んな気を聞かせてくれてるのか。

 だから――。


「聖女様!! ひとまずこの先のボスエリアに逃げ込みましょう!!」

「逃げる先、絶対間違ってるよね!?」


 茂みの中から忽焉(こつえん)として出て来た日にはどうしようかと思ったよ……。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。

評価★など頂けましたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ