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66話 森林都市

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。

 ――数刻前。

 当初は影にユリを隠し馬を二頭立てにする案を提示したが、マンリョウさんに却下された。灰色オオカミが連れ込めないと。


「一つお借りしても?」

「すぐ出せるものなら構わないさ」

「では、ネームバリューを」

「御随意に」


 で、ジキタリスの門だ。

 各商社の卸が拠点を持つだけに間取りが広かった。左右で出入り口が分かれており、それぞれ二人体制で衛兵が詰めている。

 俺たちの番になり、彼らがギョッとするのを同情しながら見ていた。

 交渉はマンリョウさんに一任する事になっているので、頑張ってどうぞ。




「クレマチス商会よ。出荷目的だから積荷は空よ?」

「あぁ、お疲れさん。って、待て、待て待て!!」

「? ああそうね、説明が足りなかったかしら。紹介するわ。こちらはわたしの夫になる人よ」

「ご婚約おめでとう――じゃねーよ!! 何だよこれ!?」


 衛兵がユリを指す。

 ……ユリが、俺また何かしちゃいました? みたいにキョトンとしてる。

 そして詰め所から別の衛兵が飛び出してきた。


「そんな事より今聞き捨てならない言葉が聞きえたぞ!! マンリョウ嬢、あんた結婚したのか!?」

「お前は黙ってろ、まずこっちの馬車を引いてる生物だ!! 馬か!? 馬じゃねーのか!?」

「これが黙ってられるか!! おらぁマンリョウ嬢のファンだったってのによぉ!!」

「いいから仕事をしろ!! でクレマチスさん、こいつは一体何なんでやすか?」


 ユリがくりくりした目で首を傾げてる。


「この子は……確かに馬では無いわ。でもいい子なのよ!!」


 やべぇ。マンリョウさん、力押しで行ったな。


「そう言われても……だな……。」


 おいこら衛士。押されるなよ。


「すまない、俺の従魔だ。車両の運搬に特化している」


 このままじゃ、らちが開かないもんな。

 誰だよ、交渉なら商人、とか言った奴は。


「あんたの使い魔かい? 商人ギルドの登録証は?」

「冒険者なんでね。そら、韜晦(とうかい)も何もないライセンスカードだ。種別の明記は不要だが、ランク的に任意の従魔契約が認められている」

「これは……SSランクだと!? 最高位じゃねーか」

「荷役用だ。平和的利用だろ?」

「しかし、魔物にしても見ない種だな」

「そりゃ幻獣だからな。鵺だ」

「雷獣かよ!? かぁー、流石SSだ。こんなとんでも無いのを馬車馬代わりにしちまうなんて」


 ……。

 ……。


 よく考えたら、一代目がフロアボスのエボニーミノタウルスで、二代目がグレートホースだもんな。愛くるしい見た目だけセーフか。

 このまま行けるかと思いきや、


「そうか!! お前か!! お前がマンリョウ嬢をたぶらかしたのか!!」


 もう一人の衛兵が鬼の形相で突き掛かってきた。


「べ、別にわたしは、その、たぶらかされたりなんか……ねぇ?」


 マンリョウさん。それ、俺に投げてる時点でフォローになってないっスよ?


「ぐぬぬ、我らの憧れの象徴を!! こんなどこの骨とも分からぬ美少女に!! ……美少女に?」


 何で疑問系なんだよ?


「マンリョウ嬢!! 貴女は先程この者を夫と申されたな!?」

「ええ言ったわ!!」


 御者台に立ち上がり、舞台女優みたいに宣言しだした。

 道ゆく人や入門持ちの行商人や露店主らが、何だ何だと集まってきた。

 彼女にスポットライトが降りるのは、ノリのいい魔法使いがライトのスペルを唱えたらしい。


「この人はわたしにとってかけがえの無い人!! 艱難汝を玉にするはこの方が共に居てこそ!! 共に歩んでこそ!! そう、たとえ枯れてしまっていても薔薇は薔薇。二人の想いは永遠に彩るような気がするわ!!」


 おい。誰かそろそろ突っ込め。


「くそ、既にそこまで仲が進展していようとは!! おのれ!!」


 納得するなや。

 あと周囲のお前ら。無責任に拍手送るなや。


「……あの、取り敢えず通ってもいいっすか?」

「いいんじゃ無いのか? SSランクの冒険者にクレマチス商会のジキタリス支部長だもんな」


 最初に対応した衛兵が、持て余し気味に肩をすくめた。

 よし、通った!!


「なら遠慮なく」


 ユリがゆっくりと進み、

 三頭の馬が牽引ロープを弛ませ続き、

 八頭の灰色オオカミが続いた。


「って、待て、待て待て!!」


 ちっ、無理か。


「まだ何かあるのかしら?」

「いやおかしいだろ? おかしいよな? 何でそのまま行こうとしちゃってるわけ? 灰色オオカミを、それも群れで連れ込む人とか初めてなんだけど? 何これ? これも使い魔なの?」


 衛兵、めっちゃ途方に暮れてる。哀れだな。

 彼の狼狽も気にせずマンリョウさんは愧赧(きたん)に染まり、


「産んじゃった……?」

「マジかよ……。」


 後から来た衛兵が絶望に膝を折る。


「くそっ、子沢山かよ!!」


 地面を激しく叩いていた。

 周囲の人々から貰い泣きする者まで現れた。

 こいつらどこまで本気なんだ。


「この魔物どもも平和利用か? クレマチスほどの商社なら愛玩用に取り扱っても、まぁギリ納得はできるか……?」


 衛兵。いい人だな。彼本人だって無理筋と分かるのに、好意的に解釈してくれる。

 ここは、ありがたく乗っからせて頂くぜ。


「ああ、貴族向けに――。」

「そんな!! わたしの子供達を愛玩用だなんて!!」


 いやもうあんた黙れよ。


「せっかく護衛用に訓練したのに!!」

「虐待してんじゃねーか!!」


 うん。だよね。

 よし。この人は衛兵ニキと呼ぼう。


「虐待とは心外ね。愛よ。そこで目をかっぽじって見ていなさい」


 マンリョウさんがひとさし指を構える。

 ていうか、衛兵相手だと口が悪いな。


「ばぁん!!」


 魔弾を撃つ仕草と同時に、こてん、と一斉に転がった。八頭全員がだ。あと関係ない所でユリも転がっていた。

 衛兵ニキ、めっちゃビビってる。そりゃビビる。俺もビビる。いつ仕込んだ?


「ね?」

「よ、よし、まぁいいか? いいか?」


 疑問形だった。凄くわかる。

 今度こそゲートを通過させてもらった。


「どうか気を落とさないで欲しい」


 衛兵ニキを慰めずには居られなかった。

 しかし、灰色オオカミだって魔物の上位種だろうに、アレでよく通ったな。

 馬車をメインストリートへ向けつつ、


「先にユリを見せたのはそのためか?」

「厳しい条件を飲ませるには、最初にそれ以上の条件を提示するって交渉の基礎よ?」


 それ以上の条件も飲ませてるんだが……。

 ていうか、交渉する気あったのか。

 この子達と同行できるのは有難いが。灰色オオカミは、優秀だった。

 様々なフォーメーション、遠隔での哨戒と各個撃破、夜間の見張り、密偵。何でもこなした。お前ら本当にオオカミか?

 ただ一つだけ大きな問題があった。

 何故か、俺の股間をしきりに嗅いでくる。全員がだ。正確には、ユリと三頭の馬を除く全員(・・)がだ。

 ……おまえらな。


「本当に何頭かこちらで引き取れないかしら」


 ……いや、灰色オオカミが俺の股間を嗅ぐのって、単にこの女の真似をしてるだけじゃ?




 森林都市ジキタリスはアザレア王国では中規模の都市構成となっていた。人口は22,000人強と福島県会津美里町に匹敵する。

 別称の由来は、外部の森林が一部ダンジョン化しているからだ。

 森を奥に進むほど深度が深くなり、ボスエリアも存在する。これを回遊型ダンジョンと呼んだ。

 カサブランカの様な階層型ダンジョンの場合、ボスエリアは閉鎖された一室がフロアボスエリアになるが、森林迷宮は特定の密閉空間を構成しボスエリアとなった。

 機能は前者と同様、ボスの撃破によって踏破とみなし、ドロップ品もしくは宝箱の報酬が得られる。

 即ち、冒険者が滞在する理由はあった。




 卸業の密集区画へ馬車を進めると、俺の腕にしがみ付く華奢な手に力が籠った。

 道行く誰もが鵺と灰色オオカミに振り向く中、前方にクレマチス支部の看板が見えてきた。

 マンリョウさんが、ただひたむきにその看板を見つめる。

 俺たちの旅の終わりだ。


「楽しい旅だった」


 小さく呟くと、「はい」と誇らしげな声が返ってきた。

 ユリが何かを察したか、しょぼーんとした顔でふりかえる。そんな目で見るなよ。

 いつの間にか、左側の熱が遠ざかっていた。




 傘下の商会に先触れを出すと言ってたな。卸市場区、早くも殺気立ってる訳だ。

 慌しく職員が行き来するクレマチス支部で馬を引き継ぎ、預かった馬車をストレージから出す。

 それと従業員向けや他商会向けの食料品と生活用品も。オオグルマで裏手に回った時に献花と共に物資を預けられていたのだ。

 倉庫の商品を全て搬出しても、人は最後まで残るもんな。


「これなら、倉庫の中身こっちで引き受ければ効率的じゃないのか?」

「今回のプロモーション、荷役の実績が必要だから……。」

「アピールが目的ってやつね。偽装でもいいように思えるが、そこは商人の誠意ってとこ――ジキタリスに入ってから元気が無いように見受けられるが、流石に疲れたか?」

「え?」


 一瞬、猫のような目をパチクリさせた。


「……よく見てくれてるわね。その割には鈍感なんだから」


 後半、よく聞こえなかった。


「心配には及ばないわ。これからの計画を考えていただけ」

「全てでは無いだろうが、こちらもプランを知らされている。同期を取って立ち回る事もあるだろう。マンリョウさんはずっとこちらに?」

「どうかしら……。」


 あれ? 怒ってる?


「滞在中は馬車を預かってくれると助かる。中身は勝手に出歩くだろうから、放っておいて貰えれば」

「ふぅん」


 反応が薄いが、センリョウさんとは合意している。

 急に不機嫌そうになったの、その辺が腑に落ちないのかな?

 ……いや、まさか。


「聞いていないのか?」

「配慮はするわ。わたしの采配だけど」

「クレマチスの設備や運用は業務に支障がない限り最優先で利用可能と申し入れがあった」

「え? それって……。」

「全てとは人材も含まれる。だったら今後も連携する事もあろう」


 どういう訳か、話してるうちにマンリョウさんの表情が輝いた。


「センリョウさんからは滞在中の宿泊施設も勧められたけど、そこまで甘える訳には――。」

「是非!! 是非、ご利用になって!!」


 うお!? 急接近してきた!?


「奥にいい部屋があると聞くわ。こうも早くリベンジが叶うなんて!!」

「……普通の部屋で頼む」

「今度はこちらの番ね。従ってもらうから」


 向日葵のような、いたずらっ子の笑顔が咲いていた。


お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


評価★など頂けましたら嬉しいです。

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