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6話 黒騎士の顔

注意

この作品は暴力とパンツ的な表現を含みますが、暴力とパンツを助長する目的ではありません。

 街だ。

 城壁がある。警備兵が居る。

 あぁ、カサブランカ。心の故郷よ。

 三人は身震いした。俺たちは帰ってきた、生還したと。


 息も絶え絶えに、冒険者ギルドに駆け込んだ。

 

「て、てえ、てえへんだ!! てえへんだ!!」


 辛うじて、声を絞り出す。

 焼けるように、喉が渇く。

 何か、飲まなくては。

 もし余裕がわずかにもあったなら。フロアの異様な静寂を不気味に感じたかもしれない。


「いや、ほんと、ヤバいから!! あいつらヤバいから!!」


 少しでも余裕あれば、静謐の正体は無人の為と気付いたであろうか。表通りの喧騒とは、越えてはいけない一線のように余りにも隔絶ざれていた。


「どうなさったのですか? 皆さん、そんなに慌てて」


 受付カウンターの向こうで、艶やかな黒髪の背がのんびりと聞いた。こちらに向けた細い背を丸め、足元で何やらガチャガチャやっている。先に来た冒険者の持ち込み品でも整理してるのだろう。


「少し、落ち着かれた方がよろしいでしょう。深呼吸、深呼吸」

「お、お、お、おお――!!」

「横隔膜痙攣でしょうか?」

「落ち着いていられるか!!」


 やっとの思いで言葉を絞りだすと、一気に(せき)が切れた。


「出たんだよ!! アレが、出やがったんだよ!! く、く、くろ――。」

「クロマチン間顆粒群?」

「誰だよそれ!? 違う!! アイツが迷宮に!! アイツが!!」


 本当に誰だろうか。


「そう言えば、皆さまはサツキさんとパーティを組んでおられたようですが、サツキさんはどちらに?」


 一瞬、空気が冷気を帯びた。

 黒髪の背が反射する鈍い光を、どこかで見た気がして三人は膠着した。

 最初に震え声を上げたのはリーダーだった。


「あ、あの人は……俺たちのために……そう!! 俺たちを逃すためにヤツに立ち向かったんだ!!」

「あ、ああ!! こんな……私達を逃すために犠牲になってくれるとは!!」

「まじ儚い……。」


 儚い。そう儚いのである。


 ――サツキの命と掛けましてクランと解きます。


 その心は? 


 どちらも儚い(履かない)でしょう。


「そうですか。サツキさんほどの高ランクの冒険者が。それはさぞお強い敵だったのでしょうね」

「そりゃ強いってもんじゃねぇ!! SSランクよりもありゃあ格上だ!!」

「なるほどなるほど、あ、ローズヒップティ、どうぞ」

「俺たちなんかじゃ足手まといだって、あの人は……あんな災厄級なヤツを一人で抑えて!!」

「そうですかそうですか、あ、ケーキもありますよ?」

「あの力はまさに!! まさにゴリラ並み!!」

「その情報はいりませんでした……。」


「「「ゴーリーラ!! ゴーリーラ!!」」」


「……よく考えてみて下さい。実はそんなにゴリラっぽく無いのでは、ないのですか? あと、ゴリラを悪口みたいに言うのはやめて下さい」

「た、確かに、あんたの言う通りだ。俺たちがどうかしていたぜ」

「分かっていただけて何よりです」

「アレは、もはやゴリラなどでは無い!!」

「ん? んん?」


「言うなれば!!」「そう!!」「雌ゴリラだっ!!」


「何でそうなるんですか!?」

「ひ、ひぃぃぃぃ!?」

「あ」


 うっかり振り向いてしまった。三人が恐れ慄き尻餅をつく。

 艶やか黒金(くろがね)のフルヘルムが受付カウンターの向こうから覗いているのだ。首から下が受付嬢の制服のままなのが不気味だった。


「うぅ……こんなはずでは」


 本当は、「その黒騎士というのは、ひょっとしてこういう顔をしてませんでしたか?」というのがやりたかった。

 凄くビビる筈だ。ちょっとしたお仕置きと、茶目っ気であった。

 確かに凄くビビってる。だが、求めていたものと、何かが違った。


「仕方がありませんね――よっと」


 スカート姿でカウンターを軽く飛び越える。頭だけが黒騎士で。

 そんな得体の知れないものが目の前に居るのだ。見上げる三人の冒険者は、くわばらくわばら、と祈りさえ捧げて居た。


「流石に、傷つきます」

「で、出来心だったんだ、どうか、どうか俺の首一つで許してくれ!!」

「リーダー!?」「何言ってやがる!!」

「あの……そういうのはいいので」

「クソっ!! このまま皆殺しか!!」

「いいから落ち着きなさい。まずは聞きなさい。ええがな、ええがな、おっとったらええがな」


 取り敢えず三人を正座させる。


「貴方たちが行った行為は非常に許し難いものです。ダンジョンは常に危険と隣り合わせです。分かりますね?」


 一番隣り合わせたく無い危険が何か言っている。


「いかに冒険者同士で支援し合うかで生存率が変わります。探索する皆さんが多ければ、それだけ不足の事態に備えられるのです。ギルドがパーティを推奨するのもその為なんですよ。信頼関係があってこそ、ギルドは冒険者を支援し冒険者もまた多くの成果を上げられるのです。なのに、仲間を裏切り置き去りにするなど言語道断です」


 見た目のギャップが酷すぎて、話が入ってこなかった。


「あの、それで、私達は皆殺しには処されないのでしょうか……?」

「えぇ、サツキさんに探索の助力を頂く条件で、貴方がたの命の保証を約束しました。サツキさんに感謝ですね」

「サツキの兄さん!!」

「ですので、半殺しくらいで勘弁してあげます」

「サツキの兄さん!?」


 話は三人がカサブランカに着く前に戻る。



 ◆



 第1階層を駆け抜けた時、先頭集団(魔物の群れ)の姿は無かった。

 目の端に見知った二人組が(よぎ)る。

 クランは共に探索へ入ったと言ったな。彼らの仕事なら納得だ。集団に膨れたからって、SSランク二人が遅れをとることはない。ダンジョンから溢れずに済んだわけだ。

 気づかないふりをし、勢いに任せて走り抜ける。


 ……俺、どんどんコミュ力失っていくよな。


 ダンジョンのゲートに到達した時には、背後のクランも消えていた。無事合流できたらしい。

 今回は切り抜けたか。

 今回は……。

 それより、

 魔物こそ溢れずに済んだが、ゲートをしゅたたたと黒騎士が通り抜けるので門番役の冒険者がビビるビビる。すまんのう。

 ヤツを追う俺の背に、彼らから声援まで掛かった。すまんのう。




 走る先。カサブランカとは逆だ。せめて弟子三人とは引き剥がせたか。

 森を奥へと分け入る。

 道なき道だ。いいや。

 道とは、俺たちの後に出来る物なのかもしれない。

 背の高い針葉樹が生い茂っていた。

 あの甲冑、どうなってんだ? 関節回りは柔軟だし重さを感じさせない。だからといって四騎士が紙装甲なはずが無い。

 山の(ふもと)に差し掛かった。


「ところで、いつまで付き合わせる気だ?」


 事を成すなら体力の温存が問題だ。全力で逃げるにしても。奴の底が見えないなら尚更。

 黒影が止まった。


「すみません、人が居なければ良かったのですが楽しくなって、つい」


 呼吸を髪の一筋程も乱さず。鎧の中、汗すらかいていないんじゃねぇのか?


「……何、考えてるんですか?」


 自分の体を庇うように身じろがれた。

 え? 俺、セクハラしてた?


「鎧の中、汗すらかいていないんじゃないかと思ってな」

「う、うぅ、何を想像してるんですか!!」


 怒られた。

 セクハラに該当したようだ。


「わ、私なんかの、その、体を想像して、あ、汗? 甲冑の中で、その、汗まみれな体を想像してただなんて――。」

「ば、そ、そんなんじゃねーよ!!」

「さ、流石、私が見込んだだけはありますね!!」


 お前はお前で何言い出してんの?


「うぅ……こうなったら、えーい!!」


 抜剣。距離が一瞬で詰まった。11層ボス部屋と同じ、とっさに剣で受けた。バランスと体重は上々。まともに対峙してれば腕への負担も無い。


「決着を付けるために誘いだしたのか?」

「あ」


 ヤツの動きが止まった。

 ……どうしよう? 間合いを取るか。このまま斬り込むか。


「違うんです!! 人けの無い所に連れ込んで、いかがわしい妄想に誘導したいだなんて、これっぽちも思ってないんです!!」


 コイツはコイツでテンパっていたようだ。

 今の――まさか照れ隠しで斬りつけてきたのか? ははは。こやつめ。

 剣を切り結びながら、


「つかぬ事を伺いますが、サツキさんは猫、お好きでしたよね?」


 つかぬ事にもほどがある。剣を交えながら放たれた言葉に、一瞬、脳の処理が置いてけぼりを喰らった。


「どういう答えを期待しているのか判断がつかないが、相当に好きだぞ」

「私も好きです!! いいですよね猫!! なんだか気が合いますね!!」


 中央都市アンスリウムの冒険者ギルドには看板猫が居た。ギルドマスター代理殿だ。猫好き冒険者の癒し担当でもあった。

 俺もよくモフらせて頂いていた。転属前はそこの受付嬢だったから見られていたんだろうな。


「ギルマス代理、元気でやってるかな」

「まだ若い子ですし、皆さん優しいから。ふふ、でもたまには会いに行きたいですね」

「本題の前に聞かせてくれ」

「え? 本題?」

「……。」


 って、これが本題だったのかよ!? え? 何? 猫の話ししたくて誘いだされたの?

 驚愕していると、彼女も気づいたらしく、


「そ、そうですね!! 本題!! これから本題ですよ? 凄いんですよ? 覚悟しててくださいね?」


 普段、物腰が柔らかくおっとりしている女性だった。たまに焦ると言動が怪しくなるが、そこが可愛いと冒険者たちには評判だ。


「剣、退いてくれないか?」

「あ、はい。すみません、私、焦ると斬りかかるクセがあって」

「……うん、そのクセ、早く治るといいね」


 この子、よく社会人やってこれたな。


「まず、私のことからお話ししなくてはなりせんね。サツキさんにとっては相当ショックな事実になります。どうかお覚悟を」


 自分の胸のプレートに手をあて深呼吸する。


「実は私の正体は――。」

「クロユリさん」

「もう!! 貴方って人は!! 貴方って人は!!」


 あ、なんか悪い事しちゃったかも。俺、また何かやっちゃいました?


「すまない、やり直そう」


 俺ができる最大限の譲歩だ。


「え?」

「俺たちはまだやり直せる。君さえよかったら、また最初から」

「なんだか別れたカップルが仲直りするみたいですね」

「そうなのか?」


 その辺の経験が乏しい。何せ、2週間前、パーティメンバの幼馴染に告白してフラれたぐらいだからな。


「はい、仲直りすることを前提で反発し口論するみたいです。それから仲直りエッチして……こほん、聞かなかったことにして下さい」

「お、おう」


 それから、何度かコホンと可愛いらしい咳払いをし、あーあー、と小さく発生練習をし、


「まず、私のことからお話ししなくてはなりせんね。サツキさんにとっては相当ショックな事実になります。どうかお覚悟を」


 あ、そこから始めるんだ。


「今まで隠しておりすみません、私の正体は――。」


 黒いフルヘルムが一瞬で消える。魔法? いや魔道具か。伝説にあるアイテムボックスかもしれない。


「その、私、でした、すみません」


 素顔を晒したものの、何か照れてモジモジしている。

 いやもう、罰ゲームみたいになってるぞ、これ。

 現れたのカサブランカの受付カウンターに居た、濡烏のような艶やかな髪と抜けるように白い肌の美貌だった。

 もとが白いだけに、頬が紅潮すると壮絶な色気を感じる。長い睫毛を震わせ、うつむき加減で髪をモジモジ弄りながらこちらの反応を待っていた。


「綺麗だ……。」


 うっかり漏らした。

 クロユリさんの顔をした黒騎士が、びくりと跳ね上がった。


「え? え!? わ、わ、わた、私なんて、そんな!! それにサツキさんにはミス・ベリーがいらっしゃるじゃないですか!!」


 わたわたしながら抜剣して斬りかかってきた。こちらも剣で受ける。剣、もう買い替え時だろうな。


「すまない、思わず本音を口にしてしまった」

「ほ、ほ、ほ、本音!?」


 いかん、これもセクハラか。

 あんまり目に余るとギルド長や王国騎士団に連行されるんだよな。


「口説いているように聞こえてしまったのなら謝罪する」

「く、く、く、口説いて!?」


 なんかもう、目がぐるぐるしてるな。


「本題に入ってもらってもいいだろうか?」

「ほ、ほ、ほ、本題!?」


 ちなみに、彼女が反応するたびに剣を振ってくるので、いちいち受けねばならない。何度死にかけたことか。


「普段は落ち着いてて穏やかな喋りなのに、はは、クロユリさんにもこんな可愛らしいところがあったんだな」

「カムチャトケンシス流奥義――フリチラリア!!」


 いかん、ついに奥義まで出させてしまった。

 全神経を剣に集中させよとして……あきらめた。無理。絶対受けられない。

 四騎士相手にこんな所で奥の手を見せるのは不本意だが「絶対斬られる」んだから出し惜しみできない。

 ステップを踏む。体の筋肉が一瞬で脱力する。

 彼女の黒い刃が迫り、俺を素通りする。手ごたえの無さに困惑しただろう。本来ならここでカウンターに移る。この一瞬こそが、俺に残されたただ一つの勝機……だったのだが。ちきしょう。


「今のは……回避盾でしょうか?」


 剣を振り切った姿勢のまま、安堵のため息を吐いていた。自分でもまずいと思ったのだろう。危ねぇ女だ、とも思ったが、そもそも魔王直属だ。そして今ので完全にこちらの動きを見切られた。


「踊り子のスキルだよ」


 嘘は言っていない。回避盾(踊り)だからな。クロユリさんには俺の職業がばれているが、複合スキルについては仲間内でもお互い秘匿していた。

 どのみち、


「今ので見切られたか」

「すみません、こんな事で使わせてしまって。あ、でもアオちゃんたちにはまだ有効だと思いますよ。黙ってますから」

「こらこら、仲間を売るな」


 魔王側でもこんな感じなんだろうな。この人は。


「それで、何だ? 猫の話がしたかったのか?」

「そう!! それです!!」


 剣を仕舞いながらキリっとして言う。それなのかよ……。


「サツキさんには、探索と交渉を手伝って欲しいのです」

「見返りは?」

「え?」


 きょんとされた。

 俺、また何かやっちゃいましたか?


「あの、理由とか、気になりませんか?」

「正直、色々あり過ぎてどうでもよくなってきた……。」

「あの、あの、でも凄い理由が隠されているかもしれないんですよ?」

「いいから先に進んで」

「もっと自分の可能性を信じましょうよ!!」


 そういやボス部屋で痴女の可能性を訴えてたな。


「俺は痴女にはなれないぞ?」

「あ、あの時のは、言葉の綾です!! あんなにもどかしいのに、この人たちは……。いえ、失礼しました。それで、見返りですが、私にできることなら何でも、」

「なら、さっきの三人の行動を見逃してやってくれ。いや、ギルドの規律もあるから見逃せないまでも、命だけは助けてやってくれないか」

「私にできることなら何でも、」

「彼らの行いは裁かれるべきだが、まだ多くを知らない若手を死なせるには忍びない」

「私にできることなら何でmっ――わかりました。その条件でいいでしょう。でも、でも私、何でも!! 何でも!! ぐす……。」


 え、何で泣いてるの!? 俺か? 俺が泣かせちゃったのか!?


「わ、わかった。えぇと……アレだ、じゃあ四騎士の情報でも教えてくれ」

「!? サツキさんが……私の赤裸々なアレやコレを知りたがってる!?」


 意外と面倒な女だなおい!! 

 落ち着くところに落ち着いたのか、これ?


「それで、何を探索して誰と交渉させる気だ?」

「装飾品の奪取ないしはその交渉。相手は部下の猫です」


 そうか。それで俺か。


「貴女も大変だな」

「そんな目で見ないで下さい!!」

「大丈夫だ、猫語は得意だ。割とバイリンガルだ」

「本当ですか?」

「バイニャンガルだ」

「すごい……。」


 いや駄目だろ。不安しか無いだろ。

 まぁ、部下の猫ね。猫……コードネームか通り名か。

 連中の事情に興味は無いが、魔王の四騎士(フォーカード)の直属だ。SSランクの冒険者に助力を求める時点で、交渉の後も見据えているんだろうよ。

 ただの戦力か、後片付けの口実か。

 いずれにせよ、

 この女は、最初から部下の抹殺に俺を利用しようとしてるんだ。


「手付け代わりに聞いてもいいか?」

「はい!! 何なりと!!」

「魔王直属がどうしてギルドの受付嬢なんだ?」

「……そんなことですか」(スン……)


 え? 何で落ち込んでるの? 質問、間違えた?


「この国の冒険者が何故か魔王様の玉座を穢そうとするので、内部から探っておりましたの。お給料も良かったですし」


 給料、良かったんだ。


「サツキさん達も魔王様の打倒を目指していましたよね? そのようにお城にまで来て魔王様の首を寄越せと喚き散らすやからが、ここ70年程で急に増えたので御座いますよ。おかしいですよね? 人の領地や国に勝手に来て勝手に住み着いて、住民らを殺害して国家の代表をやれ殺させだの、やれ辞めさせろと暴言吐く集団。どこかの国が手引きした施策としか思えません。それで冒険者ギルドに潜入して探っていた次第です」


 ……。

 ……。

 ……こう聞くと冒険者ろくでもないな。


「魔王による人間の国への侵略や魔物を使役した略奪はアザレア王国の広報庁を通じて全国に発信していたが。浸透具合で言えば冒険者ギルドの全支部でも同じ認識だったろ?」

「はい。ですが実際は侵略も略奪も一切行われてはいません。ですのに、冒険者はうわ言のように魔王様討伐を口にする。私は、恐ろしくてなりません。何故、そのようなでまかせを信じる事ができるのでしょう。それによって、何故他人に危害を加えることを良しとするのでしょう。受付のお仕事を通して、冒険者の皆さんが思慮のある方だということは存じておりますのに」


 何も言えない。ここから先の話は、俺の勝手な想いで発言してはならない。

 アザレサ王国では、魔族を敵視するよう民衆に徹底している。貴族は普段の教養教育でも教え込まれていた。外側から見れば程のいいプロパガンダに見えただろう。彼女の言葉が真実かは、俺には断定できないが、事実魔王と対立しているのはアザレア王国だけだ。なるほど。それを人間の国と魔王との対立の構造にするのは無理があるな。


「まぁいい。今回に限っては協力しよう。受付業務が潜入活動の一環である時点で、本来ならその必然性は無いが、四騎士を放っておく訳にもいくまい」


 通報する義理も義務も無い。本来、冒険者は冒険者の摂理を守る上で自由なのだ。

 これが補償されているのは大きい。そうでなくては、一国の冒険者ギルドが他国から私兵として断じられる。冒険者は概念も含めたあらゆる意味で死ぬのだ。こんなのでは可愛いが伝わらないのです。


「それで、いつから始める?」

「明日からで如何でしょう? 時間はサツキさんの都合で結構です。今日はその、この後、やらねばならない事がありますので」

「できればお手柔らかに。死なない程度で頼む」

「はい。頼まれちゃいました」


 幼い女の子のような笑みだった。思っていたよりも茶目っ気があるらしい。

 首から下は黒騎士のままだがな。


「ああ、ただその姿だと目立つな。あまり酷いと君の討伐依頼が出かねない。いや冒険者を追いかけまわしてたんだ、既に討伐指定されてる可能性だって」

「心配には及びません。握りつぶしますので」

「受付嬢だからか?」

「はい!! ここに来る前にも申し上げました通り、敏腕受付嬢ですから!!」


 ふふ、と楽しそうに笑った。

 背の高い針葉樹の間から差し込む木漏れ日が、黒い甲冑に反射していた。


「ですが、流石に目立ち過ぎました」

「そういや一瞬で兜が消えたな。やはりアイテムボックスか?」

「まぁ!! ご存知なんですか、アイテムボックス!!」

「俺の村に伝承があったが、実在してるなんて誰も思わないよな」


 これはフェイクだ。

 伝承どころかブラック婆さんの特注品をワイルドニキが持ち歩っていた。大容量と区画整理機能のおかげで、俺の予備の剣や、サザンカたちの着替えを押し付けられていたっけ。


「ふふ、凄く便利なんです。こんな風に――。」


 指を空中に振る。


「鎧だって仕舞えちゃうんだですから!」


 シュン、甲冑が消えた。

 全裸の女がそこに居た。



 その後、泣き止むまで慰めるのが大変だった。

 今はギルドの事務服を着ている。

 あと、不可抗力なのに腹に一発入れられた。

 おかげで記憶が曖昧だ。何かこう、凄く凄かったというのは爆然として分かるのだが。ダイナマイト――謎の単語だけが浮かんだ。


「大体、何で素っ裸だったんだよ……。」

「む、蒸れるから……鎧脱いだとき、むわ、てなって……サツキさんと会うのに、匂い気になるから」

「肌着くらい着ろ」

「下着、汗でぐっちょりになるもん……。」


 もん、じゃねーよ。

 お前、さっき俺の幼馴染のパンツ、俺に嗅がさせようとしてたんだぞ?


「そうか。ならば俺はお前にこの言葉を贈ろう」

「?」

「自分の可能性を否定するな!!」

「ッ!?」


 びくん、と肩が跳ねる。


「私の、私の可能性……? そう、つまり、サツキさんは汗っかきの女の子が好き!?」


 何で俺の方に盛りに来たの?


 ◆


 彼女と時間をずらして冒険者ギルドに戻ると、若手三人が土下座で迎えてきた。


「「「申し訳ありやせんでした!! サツキのアニキ!!」」」


 クロユリさん、確かに命は取らなかったようだ。


「「「これからは生涯をかけ、サツキのアニキに隷属する所存で!!」」」


 クロユリさん、何仕込んだの?


「先ほど、クロユリの姉さんからも教えて頂いたんすよ。サツキのアニキがずっと俺らの心配をしてくれてたって!!」

「こんな薄汚い裏切り者をの身を案じてくれてただなんて!!」

「あっしらのせいで、あっしらのせいでサツキのアニキはクランの姉さんの脱ぎたてのパンツに顔を埋めることができなくなったって!! 本当にすいやせんでした!!」


 冒険者ギルドのフロアがざわついていた。

 やっぱ、口がきけない程度に痛めつけるべきだったか……?


「わかった、お前らの謝罪を受けよう。もし義理を感じるのなら、これからはお前らが後進らの手本となってやってくれ」

「「「アニキ―ッッッ!!」」」


 もう適当。

 ぐるりと見渡したが、クロユリさんは居ない。

 カウンターには別のウェーブの掛かった柔らかそうな髪の受付嬢が居た。念のため黒騎士の情報を聞いたが、目撃談は複数あるが討伐依頼までは出ていないようだ。

 相互利益の契約とは言え世話になった礼だ。こちらも少し仕込んでおくか。


「実は俺の方でも黒騎士と接触した報告があるんだ」

「接触ですか!? あの黒騎士と!?」


 ゆるふわ受付嬢のかん高い声に、フロアに居た冒険者やスタッフが一斉にこちらを見た。


「ああ、まずヤツの正体だが、アレは黒騎士などでは無い」

「と仰いますと……?」

「あれは黒騎士を模倣した痴女だ」

「ち、痴女!?」


 途端に、ゆるふわ受付嬢の顔が赤くなる。

 ザワっ、とこちらに注意を向けていた冒険者たちがざわめいた。


「その、ち、痴女というのは、どういう風に痴女なのでしょう?」

「痴女、というのは言い方が悪かったな。変質者だ」

「言い方、酷くなってませんか?」


 変態としては、どっちのレベルが上なんだろうな?


「まず、あの鎧だが、黒騎士を模した一般的な甲冑だった。特に属性付与も施されていない。問題なのはその中身だ」

「中身……。」


 ゆるふわ受付嬢がモジっとする。


「全裸なんだ」

「ぜ、全裸!? そんなまさか!!」


 ザワっ、とこちらに注意を向けていた冒険者たちがざわめいた。


「言い方からして女性なのですよね? それが、全裸だなんて……そんな、私……やだ、どうしましょう」

「いつ人に見られるかわからない。その緊張感を求めてダンジョンを徘徊していたらしい」


 ザワっ、と冒険者やスタッフたちがざわめく。

 だが、辻褄は合ったな。

 これで黒騎士騒動は治まるはずだ。

 甘かった。

 翌日、痴女討伐依頼が受付に張り出されていた。



 宿屋に戻る。

 常連や店員と挨拶を交わし食堂を抜け、二階の自室へ向かった。黒いフルヘルムに白いワンピースを着た女がベッドに腰かけていた。

 ……。

 ……。

 なんでだよ?


「お帰りなさいアナタ。明日の行動予定の詳細を詰めようと思いますが、お時間、よろしいでしょうか?」

「よろしいよ。でも、どうやって入った?」

「滞在施設の調べはついていましたので。下でオーナー殿に事情を話し、ここで待たせて頂きました」

「ああ、パーティメンバって言ったのか。疑われもせず、よく上げてくれたな」


 事前に宿泊客から予告されても居なければ、普通は疑問に思うし断るはずだ。

 ましてや頭が黒騎士の女など。


「えぇと、いえ、その、私の素顔はギルドのお仕事で知られていますし、その、あれです、こう……。」

「あ、兜はとっていたんだ――いや、何で今それ付けてるの?」


 騎士ユリさんにしては歯切れが悪いな。

 ちなみに、頭が黒騎士で体がクロユリさんなので騎士ユリさんだ。


「すみません!! 変に詮索されない為、婚約者と偽りもう一人分の代金を支払っておきました」

「ぶっ」


 思わず吹き出してしまった。

 いや、何してくれてんだ? カサブランカに配属されたばかりの受付嬢のマドンナだぞ? 俺の婚約者って広まったら、他の冒険者から睨まれるし、この街にはグリーンガーデンの連中だって滞在してるんだ。クランだって。

 ……あれ? 何で俺、あいつのこと気にしてるんだ?


「とっさの嘘とはいえ、それで、その……合わせる顔がないというか、その」


 それでフルヘルムか。


「待て、支払ったって、まさか」

「婚約者と言った手前、もう一部屋とるのも不自然ですし。後で面倒になると思い今まで滞在していた部屋は引き払いました。つまり……」

「つまり?」

「厚かましい事とは重々承知しておりますが、その、よろしければ、ここに泊めて頂ければ、と……。」


 いきなり顔面フルヘルムの女と新婚生活が始まってしまった。トニカクコワイ。

 まいったな。この話し、どこまで広がってるんだろ?


「ちょっと待っててくれ」


 一階に降りて、食堂を横切り事務室へ向かった。

 途中、特に変な視線は無かった。まだ噂が独り歩きする段階ではないか。時間の問題だろう。


「店主、失礼する」


 ノックすると、巨体のおっさんが居た。宿のオーナーだ。便宜を図ってもらうこともあるので、最初に代金を多目に払っていた。


「おう、あんたか。えらいべっぴんさんだったな。もう会ったんだろ」

「許嫁が大変お世話になった」

「俺しか居なかったから騒ぎにならなかったが、来て数日とはいえギルドの看板娘がねぇ。おまえさんを追ってこんな所まで来たってくちか」


 応接テーブルに小袋を置き、


「その事なのだが、できるだけトラブルは避けたいと思っている。なるべく他言は無用でお願いしたいのだが」

「おう、いいぜ。あー、だが、あれだ。それなら尚更だな」

「何がだ?」

「あんま声、上げさせてやらん方がいいぞ? 他の客に聞かせたくないだろ?」

「ぶっ」


 思わず吹き出してしまった。


「ぼ、ぼ、僕たち、まだ健全な関係だから!!」

「そうかい、そうかい。部屋、どうする? あそこじゃ手狭だろう。嫁さんからも追加で貰っちまったからな、二人部屋に移るか?」

「ご配慮に感謝する。空きがあればお願いしたい」

「ほいよ。従業員を向かわせるから、顔、隠しておいた方がいいぞ」

「承知した」


 フード付きマントがあるから、それでも被ってもらうか。

 部屋に黒騎士の仮面を付けたワンピースの女が居たら、なんのプレイだって疑われかねない。もっともオーナーはクロユリさんが仕事上有名だから言ってくれてるのだが。

 丁重に礼を言い、部屋に戻る。


「お帰りなさいアナタ。お食事になさいます? ご入浴になさいます? それとも、う・ち・あ・わ・せ?」

「部屋を二人部屋に移動する。その鉄仮面は外してこれを被ってくれ」

「え? えぇと、外すのですね?」

「アイテムボックスに仕舞っておけ」

「あの、こちらを、見ないでくださいましね」

「いいや見るね」


 一応、本当にクロユリさんか確かめたい。

 こんな真似できるのは知る限り黒騎士だけだ。話の整合性もある。だからだ。

 魔王直属の四騎士。敵だ。敵対関係については、森での話で疑う所はあるが、今は鵜呑みにできない。

 警戒は解けない。ましてや同じ部屋など。ましてや、婚約者と偽るなど。

 意識したら、こっちまで熱を帯びてきた。


「それでは、失礼しまして」


 フルヘルムが消える。艶やかな黒髪に、顔を真っ赤にしたクロユリさんが現れた。

 ずっとこの調子だったらしい。

 まさか有り得ないだろうが、俺が宿屋に戻る前から、こうして顔を赤くしもじもじしてたのなら――とそう考えると、気恥ずかしくなるな。


「そんなに、見ないでくださいまし。恥ずかしいです」

「お、おう。ほら、マント」


 正体を偽る為とは言え、俺、この人と婚約者の振りをしてるんだな……ってちょっと待て!!


「なぁ、伝言を頼んで外で落ち合うなりできただろ?」

「盲点でした」

「宿屋が無理なら冒険者ギルド経由で連絡することもできたはずだが?」

「盲点でした」

「……。」

「……その、盲点でした」


 確信犯だったらしい。

 間もなく女性の店員が来て部屋を移った。フードを被った女が居ても気にした風は無い。まだ若い娘だが、この仕事をしていると色々な客と接するんだろうな。


「やられた、あのオヤジめ」


 二人部屋と言ったはずだ。

 二人用の大きいベッドが一つだった。クロユリさんもそれを呆然と見ていた。何故か「ョッシャ」と見えないように拳を握っていた。


「この部屋は壁が厚くなっており、音が反響しない処置も施されていますが……その、ほどほどで、お願いします」


 この小娘もセクハラか。


「では、ごゆっくり。ぐぅえっへっへへへ」


 ……いや、セクハラだろ?

 嫌な空気を残して、店員が出て行った。


「あの、それではさっそく」

「さっそく!?」


 ぱさり、とマントを脱いだクロユリさんに、妙にきょどってしまった。


「? えぇ、明日の打ち合わせをしましょう」


 とベッドの端に座る。隣のスペースをぽんぽんした。そこに座れと言っているらしい。

 俺は壁側の椅子を引き寄せ、


「探索の場所、まだ聞いてなかったな」

「ふふ、なのに、それでよく了承してくださいましたね」

「人生、何事も付き合いだ」


 もっとも、命を懸ける付き合いなんて無いんだが。


「目的地はカサブランカの迷宮の最深部になります。未踏エリアの23層です」

「観測部隊の予測だと20までは想定されてたが、そこまでわかるのか?」

「実際に行って参りました。今日会ったのも、実はその帰りで」


 その後、クランと恋バナになり、地獄のデッドヒートになり、全裸に至ったのか。

 考えると、濃厚な一日だったな、おい。

 受付カウンターに居た女がそこまで潜っていたとは。どこで追い抜かれたのか。何か悔しいな。

 あ、潜る前に武器屋行ってたな。うん、その時に先行されたのだろう。悔しくないよ?


「大切な装飾品――ある意味、武器になりますが、それを部下に奪われてしまいました。その回収が今回の探索になります」

「裏切りかよ」

「いえ、ただの茶目っ気。いたずら程度だと」

「めっちゃのんびりした理由だった」

「何せ、相手は猫ですので」


 コードネームかあだ名、通り名のようなものかと思ったが、案外本当に猫だったりしてな。

 まぁ、よくて獣人族あたりか。


「一応言っておくが、黒騎士の甲冑は駄目だぞ? あれは目立つし、騒ぎになられても面倒だ」

「駄目ですか?」

「いや駄目だろ?」

「わかりました。道中は通常の冒険者の装備で臨みます。部下と会敵する際は鎧をまといますので、それだけはご容赦ください」


 そこは向こうの事情もあるだろう。

 ていうか会敵って言った。


「了解した。時間は明日朝からでいいか?」


 早い方が探索に使える時間も増える。


「では、せっかくですので、下で食事を頂いてからにしましょう。お弁当も注文したいですね」

「そういや、今日は夕食は? 良かったら――。」

「これから頂こうかと」

「なら、そこで弁当も手配しよう。すまないが食事はフードを被ったままで頼む。貴女はどうしても目立ってしまう」

「別に黒騎士の姿で食べるつもりはありませんが?」

「素顔が綺麗過ぎて人目につくんだよ。ただでさえ人気の受付嬢として顔が知れてるんだから」

「なっ……!?」


 今日一番の赤面だった。

 口をぱくぱくさせ、次の言葉を選んでいるようだが、やがて何も言わず(うつむ)いてしまった。

 あれ? 俺また何かやっちゃいました?



 食堂に降りると、変わらず常連や宿泊客で賑わっていた。料理と酒の匂いと人々の声。遠くからこれを眺めるのが好きだった。

 俺たちの姿を見つけ、すかさずフロアスタッフが開き席に案内する。テーブルの上のリザーブを示す立て札が回収された。

 クロユリさんがきょとんとする。


「どうぞ」

「え、えぇ、ありがとう御座います」


 椅子を退いて促す。戸惑いながらもマント姿が着席し、俺も向かい側に座った。


「ご予約、されてたのですか?」

「さっき降りた時に、空きができたらキープしてくれるよう頼んでたんだ。料理も注文済みだが、好きなものがあったら遠慮なく言ってくれ」

「あ、はい、ありがとう御座います」


 妙に気後れしてるな。

 ああ、周りが王国民で冒険者が多いから。食事中はどうしても隙ができる。落ち着かないのかもな。


「すまない。部屋に手配したほうがよかったかもな」

「え? いえいえ、いえ!! そんなことありません!! ……あの、サツキさんが手慣れていたから、つい」


 旅慣れた冒険者なんて、こんなもんだが。

 ちなみにフロアスタッフにもチップを弾んでいる。美味しい料理と気持ちのいい酒にありつくコツだ。


「なんだか、自然体でスマートな感じがして、驚いてしまいました」

「はは、そういうのはワイルドの分野だな。あいつ、知ってるだろうけど貴族の出なんだ。口とやってる事は粗暴だが、そこにさえ目を瞑れば俺たちの中じゃ一番紳士だったよ」

「それって、ただの乱暴者じゃ……?」

「ちなみに二番目はサザンカだ」

「ミス・カメリアが?」

「ああ!! すげー男前だから!! 俺が女だったら惚れてたね」

「まぁ!!」


 くすくすと笑う。緊張が解けたようだ。魔界大陸の王の直属とは思えない、柔らかな笑顔だった。もし、彼女の言葉の通りなら、これがあの大陸の住人の真なる姿なのか。

 さて何が本当なのやら。

 実際、黒騎士は綺麗なお姉さんだったし、サザンカは女の子だし、俺は男でサザンカに告白してフラれた。


「おう!! 随分と可愛い新婚さんじゃねえか!!」


 ジョッキを持った、筋肉が山の様に育った巨躯の冒険者が絡んできた。随分と赤ら顔だ。相当飲んでるな。


「馬鹿野郎、可愛いのは嫁さんだけだ」

「ひゃははは、俺にとっちゃおまえも可愛い後輩だよ!!」

「うわ、カタバミ、酒臭ぇ!! あ、こら、嫁さんの方に寄るな!!」

「か、か、可愛いだなんて……そんな……。」

「お前はお前で何ふるふるしてんだよ!! 耐性無さすぎかよ!!」


 SSランクの先輩だ。俺たちが駆け出しの頃の師匠の様な人だ。冒険者としての生き方をこの人から学んだ。外見に反せず豪快な人だ。

 恐らく他の店でも飲んできたんだろうな。こうして小まめに情報を集めてる。今は会いたくない人だ。


「それにしてもやけに大切にしてんだな、マントなんぞすっぽり被せてよ!!」

「いいからあっち行け!!」

「た、た、大切にされてるだなんて……。」(ふるふる)


 クロユリさん。いいから君はちょっと待て。

 一応、婚約者という設定で通してる手前、下手に否定はできない。

 否定して詮索されるのも色々終わる気がした。カタバミとクロユリさん――冒険者と受付嬢。コイツらだって互いに面識ぐらいあるはずだ。

 クロユリさんにはすまないが、ダンジョンに潜るまでは新妻役を我慢してもらわねば。


「んん?」


 カタバミが太い眉を寄せる。ちっ、何か感付かれたか。

 急に小声で、


「クラン嬢やサザンカじゃねーのかよ」

「阿呆、何でその二人が出てくるんだよ」

「いやだっておめぇ、二人とも――。」


 言いかけて、一瞬固まる。あぁ、と切なげに呻いて、持っていたジョッキをぐっと煽った。


「ぷはっ、いやぁ悪かった悪かった!! 急に絡んだりして!! 嬢ちゃん、騒がしい所だがゆっくりしていってくれや!!」


 がははと笑うカタバミに、遠くから「騒がしくて悪かったね!!」と女将さんの声が響いた。

 周りの常連から笑いが噴き出す。肩をすくめて去り際に、


「おう、そうだお前ら、迷宮に行くなら気を付けろよ。相当噂になってるんだがな」


 まさか、黒騎士の話か?


「出るんだとよ」

「何が……出るって?」


 カタバミは赤ら顔を真剣に歪めて。


「痴女が徘徊してるって話だ」

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


1話当たりの分量が少しづつ長くなっていき、投稿スピードも落ちるのは私の悪い癖ですね。

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