53話 諜報市場最大手とアンケート結果
ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。
しかし改めて見ると、ろくな話し書いてませんね……。
一番重要な点。
「何故、です……?」
「さて」
「先程も申し上げましたが異国の貴族か王族に連なるお方とお見受けします。それが何故、俺なのです?」
むしろ少しは韜晦しろよ。
「手紙の内容から近況が消え、別の物が綴られると言った事を覚えているか? ここ一年、継続している」
「えぇ……男の影がちらほら、でしたか?」
背中を嫌な汗が伝った。
「娘たちからの手紙だった物が何時しか、君の身上報告でびっしりと敷き詰められるようになったのだ」
「ひぇ……。」
やばい怖い。泣きそう。
「何時何処で、何をしたか誰と話したか何を食べたか……想像したまえ。何処の誰ともつかぬ少年の一食あたりの摂取カロリーを事細かに報告される父親の気持ちを!!」
「うわぁ……。」
「余す所なく君の魅力を書き綴る娘たちを思うと、最早、オレ自身が責任を取らねばと感じる次第だ。かくなる上は、君を5人目の妻として迎えることもやぶさかではない!!」
「方向おかしいじゃねーか!!」
「それを妻たちに話したら――。」
「話すなよ!! そんなこと言われる奥さんの気持ち、少しは考えてやってよ!!」
「老獪な事に、寧ろオバショタにしてやると脅された」
「貴方の細君もどうかしてるよ!?」
「このままでは、今度こそ追放されそう……。アカごと消されそう……。」
何の話だ?
「オレが娘たちに会いに来たのも、半分が家族会議のようなものだ」
「それについては謝罪します。知らなかったとはいえ、ご家族との数年ぶりの再会を邪魔してしまった」
「先月も会ってるんだがね」
「だったら止めろよ!! ストーカー行為、止めろよ!!」
「一年もの星霜を経て何時しか、君の報告を楽しみにしている自分に気づいた」
親子揃って迷惑な。
「報告書の中でオレは端緒となる転換期を見た。君のパーティ追放劇。実に嘱目に値する」
嫌な下りだな。あの姿を覗き見されたか。
彼が何者であれ、出歯亀な女に好意を寄せるのは無理だ。
「君は嗅いたのだろう? 魔法使いの少女のパンツを。それも、脱ぎたてのパンツを!!」
「俺が変質者みたいに言うなよ!! 嗅がされたんだよ!! 無理矢理口に押さえ込まれたんだよ!! 信じた仲間に裏切られ、追放され……初めてだったのに!!」
「それは……パンツかね? 追放かね?」
「どっちもだよ!!」
霞ががった銀幕に白露と写る幼少時の風景。紗幕に映えた紅の魔法使いは、俺には姉さんのような人だった。
明るく利発な彼女に、確かに特別な想いを抱いていたと思う。だが、パンツまで嗅ぎたいかと言われれば、分からない――待て、どういう事だ?
確固たる拒絶の意思が無い?
彼女が何かの事件のせいで変わってしまった頃だ。社会不適合者みたいになった契機。
まさか涼しい顔をして、俺に一日中履いたパンツを嗅がせたいなど恐ろしいことを企てていたなんて。
「ていうか、そんな報告までされてたのか」
「当然だ。それで、どうだったのかね?」
「どう、とは?」
いや、当然と言い切っちゃうのもどうかと思うが。
「幼馴染とも言える少女のパンツを嗅いだ――心身に異変は起きたのかね?」
酷い言われ様だな。アイツのパンツ。
「妙な、闇の幕ような物を頭上から被るような……不快だったな、あの感覚。あと女の子のパンツに関して著しいトラウマを負った」
むしろ後者が酷い。
「確認だが、頭上から被ったのは脱ぎたてパンツでは無いのだね?」
「な!? 恐ろしい事を!!」
俺は、戦慄した。
あの匂い。あの生温かさ。
「幼馴染の、時には姉のように接してくれたクランの、脱ぎたてを、頭から被るだなんて……。」(ガクガクブルブル)
見よ、この懊悩する様を。
「相当に女性物の下着に精神的疾患を受けたようだな。いやこれは解呪と倫理観との相克か」
待て疾患か、これ?
普通に嫌だろ?
「だが、娘たちの報告によると、宿屋の女将さんの使用済みパンツは問題なく履いていたのだろう?」
「どこまで聞いてんの!?」
「寧ろ快哉の叫びすら上げたと聞く」
「捏造してんなよ!!」
かなり最近の話まで伝わってるのか。
……貴方は若奥様の下着を履いてた男を娘と引き合わせようというのか。
「つまり年上ならセーフという訳か」
「セーフかアウトで言ったら、アウト以外の何者でもないと思うけど」
「……まさか?」
今の間は何だ?
「それに、最初に俺に嫌悪感を植え付けたクランは年上です」
「なるほど。この仮説は矛盾をはらむか。振り出しに戻ったな。ところでセーフかアウトで言ったら――。」
「アウトです」
既にどの時点が振り出しなのか分からない。
「まぁいい。年上の件は要検証と言う事で保留だ。機会があったらうちの娘たちのも試してみよう」
「いい加減、家族に見捨てられますよ?」
しかし、何だろうな。
ここまでパンツの最頻値が高いのも無いよな。
「ならば次の検証だ」
「あ、まだ続くんですね」
「女将さんと言うからには、既婚者であるのだろう?」
「まぁ断定はできませんが」
「つまり人妻か?」
「……はい?」
「人妻の下着なら拒絶反応は示さないのかァ!!」
うるせーよ!!
「確か何着か譲り受けたと報告にあった。持っているなら試してみたまえ」
「できるか!!」
「何故だ!?」
「人が見てる前で恩義のある方のパンツを嗅ぐなど、沽券に関わるでしょ!?」
「そこを何とか!!」
いや、何でそんな食い下がってるの?
「とにかく、この検証も保留ということでお願いします」
「ならば後で試してみたまえ。いや既に試してるのか? 何にせよ結果は後日レポートにまとめてくれればよろしい」
「いや、やらないよ? やらないからね」
「次に代替案として我が妻たちという手もあるが――産経婦でも大丈夫かね?」
「こらこら、旦那さん。奥さんのパンツを売るような真似しちゃ駄目でしょ?」
「下手をしたら国家存亡の一大事だ。王家の妻となった時から彼女らも覚悟の上だろう」
「絶対してないと思うよ? 知らない男の子にパンツ嗅がれる覚悟とか」
ていうか国家存亡? 俺に何を背負わせる気だ?
「方向性を変えてみよう」
まだ続くの?
「報告によると、カサブランカの迷宮最下層で君は幼馴染の少女のパンツを掴んで高々と掲げた。違うかね?」
「貴方の娘は国家規模の工作員か何かか!? 何でそんな事まで知ってるんです!?」
「その際、君はグローブか手袋、籠手等を装着していただろうか?」
「いえ……手首から下の防御具はしない主義ですが」
「つまり、君は素手で幼馴染の少女の脱ぎたてを掴み、高々と掲げていたことになる」
「ほんと変質者の同類みたいに言うのやめて!!」
「以上の事から、掴む分には耐えられる事が窺い知れる。ここで君の拒絶反応が、脱ぎ立てを嗅いだ事に起因すると仮説付けられる訳だ」
何か一周して戻ってきた。
「だが果たしてそうであろうか?」
どんだけパンツの話がしたいんだ?
「これまで重ねた検証では、その前提を脱ぎたてもしくは使用済みとしていた。それ以外なら?」
「なっ!?」
今度こそ絶句した。
思い当たる節が一つだけあった。転生の女神。彼女は何をしようとした?
「馬鹿な……いや、しかしそれでは……。」
徐々に、目の前のハードルが積み上がっていく。
「ちなみに先程、君が席を外した際にアンケートを取ったのだが」
「お、おう」
「仮に可愛らしい幼馴染がいたとして、彼女にそのパンツを嗅ぐ事を求められた場合、どういった反応を示すか。結果は明瞭だった。実に8割が喜んでパンツを嗅ぐという統計を得た」
俺が役人呼びに行ってる間にそんな事してたのか……。
「この数字が何を意味するか分るかね?」
まるで分からない。
「即ち健全な男子なら美少女のパンツを嗅ぐのに何の抵抗を示さないのだよ!!」
「な、なんだってー!?」
いや待て、全員じゃないんだ。まだ望みはある。
「8割という事は、残り一名くらいは流石に嫌悪感を示したんですよね? こっち側の人間も居たんですよね?」
「直接中身を嗅ぎたいという意見が一名」
くそっ、裏切られた!!
「まったく、わかっていないな」
「えぇ、わかっていませんね」
同意してるようで居て、何かが違う気がする。
「アンケートについては今後要検討だな。いずれは国民の意見も取り入れていきたいと思う」
「やめて上げて!! こんな事に民を巻き込むの、やめて上げて!!」
後にとある国では、女性が意中の男性にアプローチをする際、パンツを嗅がせるという悪夢の風習が流行ったという。
地獄か。
「それにしても、総集編のような回だったな」
「パンツの話ししかしてねーよ!!」
お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。




