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52話 縁談、再び

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


頑張れサツキ、今日も可愛いぞ。

 幾分かは怪しいが紳士的な振る舞いで促され、先に車内へ入る。

 向かい合う形で彼が乗り込んだ。

 豪奢なソファにもたれながら、居心地の悪さを感じていた。

 あれ? 今、密室で二人っきり?


「妻たちだがな……なかなかにこう、こうな?」

「まだ言ってんのか!?」


 ていうか、その手の動きはやめい!!

 ……え? そんなにスタイルいいの? ちょ、凄い。


「君が人妻に興味があるような素振りだったからつい、な。不快にさせたなら謝罪しよう」

「謝るくらいなら奥様のことを大事になさって下さい!!」

「必ずや」


 胸に手を当て一礼をする。

 どこぞの王族か貴族なのだろう。動きがスマート過ぎるんだよな。だから心を許せない。


「では、始めようか」


 落ち着いた男の声が耳朶を打つ。

 一瞬聞き入りそうになったが、頭を軽く振り正気を戻す。

 迷惑をかけた側であるが故に、毅然とした態度を一貫せねば。


「は、始めるって、な、な、何を!?」


 あ、駄目だこれ。


「何を、と言われてもな。これなのだが」


 黒衣の懐からワインのボトルを出す。


「声が上ずっているようだが、緊張しているのかね? そう気構えたもうな。オレとお前の仲でいこう」

「どんな仲だよ!? ボクたち初対面だよね!?」


 やべぇ、ボクたちとか言っちゃったよ。


「そうそう、その調子」


 笑いを堪えてやがる。

 黒い手袋をした手が窓の脇の取手をスライドさせると、サイドテーブル現れた。

 ……そっか。テーブル備え付けてあるんだ。

 誰だよ、棺桶の蓋を台座がわりにしてたのは?


「その調子と言われても、貴方にとっての俺って一体……?」


 俺の疑問が聞こえ無かったのか、流れる動作で戸棚からワイングラスを取り出しボトルを傾ける。


「まずは乾杯だ」


 諦めろって事ですね。

 目の前に置かれたグラスを取る。


「何を祝って?」

「オレ達の良き出会いに」


 彼がグラスを掲げて見せる。

 黒い瞳が真っ直ぐに俺を写す。


「うん、無いよね」

「あちゃー、無いか」


 戯けて見せる姿もスマートときた。

 こいつは敵だ。

 身のこなしに逐一色気がある。


「では、これからの両家の発展に」

「なんか披露宴臭が酷いけど、とりあえず――いや、待って。俺、子供の頃に記憶障害があって家のこと何も知らない」

「そうなのかね?」

「ベリー領で暮らしてたのが、何かの呪詛を受けたらしい。らしい、というのは俺自身がその辺り不確かで。周囲からの態度から察するというか、最近よく言われる。あれ? なんだこれ?」


 子供の頃の記憶。よく考えたら断片的だ。『断片的にある』のならセオリーだが『断片的に無い』。


「少々、失礼」


 不意に身体が硬直した。

 彼の瞳が金色に透き通った。

 雀色時(すずめいろどき)天つ日(あまつひ)を映した水面(みなも)のように煌びやかで、透明に揺らぐようでいて、見惚れてしまう。

 どれだけ時間が経過したか。

 或いは、泡沫(うたかた)の夢であったか。

 やがて黄金色(こがねいろ)は濃さを増し、徐々に焼き込まれたように変色し、元の黒ダイヤのような瞳に変わった。

 ふむ、と思案するようにワイングラスを見つめ、何かに思い当たった様に顔上げた。


「サツキくん、君は――少女のパンツは好きかね?」

「オメーもかよ!!」


 どうして、どいつもこいつも……。

 ていうか、今の思わせ振りな演出は何?


「どうなのかね? 好きなのか嫌いなのか――青い果実が穿くその布地を、君は嗅ぎたいとは思わないのかね?」

「好きになる要素が無いし、できればご勘弁願いたいがね」

「ほう、吠えおるわ。年頃の少年が小娘のパンツを忌避するとは、よほど目が肥えてるのか、或いは――。」


 何でこの人パンツに真剣になってるの?


「精神的な負荷によりセーブされたか」


 そして、リミッターかけてる風に言うの?


「だがそれこそ少女のパンツを高踏(こうとう)的に崇拝する現れだとは思わないかね」

「いや、むしろパンツ好きだわー、とか言い出す方が怖いから」

「叙情詩的な趣きは己の内面と対面を促す。君はそれを恐れているのか」

「待っておかしい。女の子のパンツ嗅ぐのがリリシズムとかって、絶対おかしい」

「……そうか、怖いか」


 何で納得したの?


「まぁ、このタイミングでパンツの話になる時点で、俺の解呪に関するものと推測するが」

「気付いていたのかね?」

「パーティを追放されてこっち、どこ行っても女の子のパンツでした。転生の女神(リンノウレン)なんてのもいたなぁ」


 特に、中央都市で追放を宣告されたあの夜。

 最初にクランに脱ぎたてを嗅がされた瞬間、俺の中で歯車が噛み合った。抑制された記憶の断片が自然的必然に対して、成すべきことを訴える。

 恐れるな。

 嗅げ、と。


「君は、お会いしたのかね?」


 何!?


「ご存知、なのですか?」

「リンノウレン、シンニョウレン、マイヒレンの三柱はオレの国でもお祀りしている。もう久しくお姿を拝見していないが」


 つまり、この(かた)も死んで戻ってきた口か。

 だったらさっきの感触。アイテムボックスの亜種なんかじゃ無い。俺と同じストレージ。


「会わないって事は無事な証拠では? ご自分が」


 次に戻ってこれる保証はないもんな。


「お会いしてこそいないが、ほぼ毎日声を掛けてこられる。しかも大体が就寝の時だ」

「うわぁ……。」

「お陰で睡眠が浅い。何故彼女らはオレに下世話な話ばかり振るのか」

「うわぁ……。」

「バイノーラルと称して三人がかりで耳を舐めまくられた事もあった。あれは酷かった……。」


 何やってんだよ女神ども!?


「しかも、その時々で様子がおかしい」

「あの人らがオカシイのは規定値だと思うのですが……。」


 嫌。もう聞きたくない。許して。


「甘々なお姉さん、近所の世話焼きな幼なじみ、少し小生意気な妹」

「なん……だと?」


 喉の奥が酷く乾いた。乾いて渇いて、どうしようも無い。

 手元のグラスを見る。

 いつの間にか半分程飲んでいた。口当たりがいい。よし。もっと飲もう。

 共に吞む惻隠(そくいん)の情くらいは持ち合わせてるつもりだ。


「奴ら、毎度毎度シチュエーションを変えてくるのだよ!!」

「ほんと何やってんだよあの女神どもは!!」


 そういや、やたら胸の開いたドレスで接待の様なものを受けたが、アレもその一環だろうか?

 ていうか、既に奴ら呼ばわりか。


「俺のような丹赤(にあか)な者には耐えがたい仕打ちよ。お陰で慢性的な睡眠不足だ。今ではすっかり夜型体質だよ」


 グラスの中を空にした。ペース早いな。

 しかし今まで同行して気づかなかったわけだ。ずっと寝てたのね。


「そいうや早朝に見回った時、魔物の死骸が散乱してた事があった」

「さて。どこぞの勇者でも通りかかったのでは無いのかね」


 ボトルの中身を注いでくれる。

 浸される濃紅色を見届け、漂う香りを楽しんだ。

 どこぞの勇者か。


「娘たちだがな」


 まだ続くのか?


「一度会うだけでも会ってみてはもらえないか」

「会ったばかりの男に推して良い道理ではありますまい。御身は何処(いずこか)かの貴族の(おさ)とお見受しますが?」

「遠からずと言った所か」

「であるならば、お家に関わる一大事。旅先で同道した冒険者に預けていい話では無いでしょう」


 ていうか、絶対面倒事だこれ。


「では、聞くが――年上は嫌いかね?」

「大好きです」


 ……。

 ……。


 くそっ、ぬかったわ!!


「4人のうち末子でも君より一つ上だろう。その上も二つ三つの差だ」

「待って下さい、ちょっとお待ちを!!」


 雲行きが怪しくなった。


「4人とお見合いさせるおつもりですか!? 娘さん全員と!?」

「ん? そのような訳はなかろう」

「で、ですよねぇ……ははは」

「ハハハ、良い。意外とそそっかしいのだな」

「恐れ入ります」

「人の話は最後まで聞くものだ――全員と婚約に決まってるだろう」

「余計ダメだわ!!」


 思わず立ち上がってしまった。

 サクラさんからボトルを奪って彼のグラスに注いだ。

 呑め。

 もっと呑め、と。


「ていうか何を仰せになっておいでです!? 娘さんのお気持ちだってあるでしょうに!!」

「貴族王族の婚姻に当人の気持ちもへったくれもあるかね!!」


 一気に飲み干したグラスをダンっとテーブルに置く。

 こんな風に飲んでいい銘柄じゃない。

 こんな当為(とうい)も不確かな男に薦めていいお話しじゃない。


「だからって一度に4人纏めて寄越す事はないでしょ!! 何のセールですか!!」

「本人が行きたがってるとなれば送り出すしかあるまい!! 娘といえど自立した女を、果たして誰に止められようか!?」

「あんた止めろよ!! どう見ても暴走してるぞ!?」


 ええい、ワインだけでは足りぬわ。

 ストレージからサトウキビ酒とカットグラスとアイスペールを出す。

 水で割って撹拌(こうはん)し、彼の前にコースターと共に置いてやった。


「こんな小さい頃はよく、お父さんと結婚するなんて言ってくれたものだよ」


 グラスを手に、しみじみとなった。

 面倒な人だな。


「そうか、お父さんモテモテでよかったな」

「それを見た妻たちが嫉妬に燃え上がってね。翌朝まで激しかったりもしたもんさ」

「少しはいい話に持ってこうって気はないのかよ!!」

「4人掛りだぞ!? 君だっていずれはそうなるのだ!!」

「だから何であんた基準なんだよ!! どんだけ鬼畜になってんの、あんたの脳内の俺!?」


 グラスをグッと煽ったのは同時だった。

 濃厚なバニラの様な風味が口いっぱいに広がった。


「そもそも君はうちの娘達の何が気に食わないというのかね!?」

「まだ会ってもいない所かな?」

「ぬかったわ!!」


 最初にそこ気にしろよ。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


ぐだぐだな流れ、まだ続きます。

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