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48話 小麦色の娘

異世界に行ったらプロジェクトの期限を本来あるべき正しい期日まで伸ばす能力でチートしたいです。


私「ユーザさん!! 今なにしたの???」


ユーザ「え? 仕様変更だけど?」(きょとん)


私「仕様変更!?」

 ニュアンスだけ聞くと、相当な収容量に思えてきた。

 二階建てロッジは入ったけど、下手したら城塞ぐらいはイケるんじゃなかろうか?


「私から見たって非凡な才と存じるからねぇ。そのアイテムボックスの事は秘匿されるとよろしいでしょう」


 意外だな。


「食いついてくるかと思った……。」


 試すような事言って、なんかすまん。

 ひねもす金勘定とか思ってすまん。

 センリョウさんは、精悍な顔の眉を困ったように歪めて、


「商人が扱うには規模が大き過ぎでさぁ。手に余るんですよ。控え目に申しまして、国で管理する水準かと」

「国家規模かぁ」


 宙を仰いだ。

 まさかそこまで酷いとは。


「なら執行役の前で広げるのは避けた方がいいかな」

「荷台、いえ幌車をお出しします。こちらで出してしまいましょう。積み込みも私ら二人だけで」

「助かる」

「ははは、何だか完全犯罪の共犯者になった気分です」


 おいおい、笑っとるで。


「二人の初めての共同作業ですね」


 死体積み込みがか?

 この男、大丈夫だろうか。

 不安になってきた頃、荷物の林の向こう側――天幕の外から女性の声が掛かった。


「失礼します。寄合所からの回答が戻りました」


 凛とした声だが、どこか不機嫌そうな響きを含む。

 さっきの丁稚奉公の坊主君じゃない。


「流石は頭目ですね、話が早くて助かります。構いませんから、入っておいで。せっかくですのでご挨拶をなさい――おや? 何か怒っている?」


 あ、この声色がデフォルトじゃないんだ。


「べ、別に怒ってなんかいません。それよりも、いいの? 丁稚君の話じゃお布団まで敷いたって聞いたけど、その、私が混ざっても……?」


 会話に混ざるって事だよね?

 お布団、関係ないよね?


「おかしな事を気にする子だねぇ。いいからお入りなさい」


 口調から向こうに居る人物の素性が伺い知れた。

 俺のような第三者でも無ければ、従業員への態度とも違う。


「それじゃ失礼するけど、本当に大丈夫なんですよね? お二人とも服は着ていますよね? 合体とかしてないですよね?」

「おやおや、何を心配してるんだか」


 貴方の素行の事だと思う。


「そこに居られたんじゃ話になりやしないよ。声を掛けてくる前に、返答は確認してるんだろう? なら、こっちへ来て説明しておくれよ」

「……そうね、最悪、わたしも混ざって二人掛かりで兄さんを……よし、これでいこう」


 何か、不穏な言葉がぼそぼそと聞こえた。

 暖簾(のれん)(くぐ)る布ずれの音を後に引き現れたのは、夕月夜(ゆうづくよ)を思わす娘だった。

 センリョウさんと同じ褐色の肌だ。

 長い黒髪と細身の体が印象的な少女だが、黒豹を想わす美貌はセンリョウさんによく似ていた。

 違うとすれば、目だろうか。

 終始にこやかに細める彼に対し、猫を思わす鈴を張ったような目が、敵を()め付ける光を湛え俺を睨んでいた。

 値踏みの視線じゃないぞこれ。


「お客様の前だというのに、この子はなんて格好をしてるんだい」


 センリョウさんが、少しだけ咎めるように眉を寄せた。

 南方の衣装だろうか。健康的な肌が目に鮮やかだった。すらりとした引き締まった体形がちあらこちらで露出している。

 普段の格好じゃないらしい。


「いつも通りだと思うけど」


 本人証言で普段の格好らしい。

 ぶっきら棒に返す言葉に反し、センリョウさんに向く視線は、氷が溶解する様に鋭利な気配が緩んでいた。


「差し出がましいだろうが、女性が着飾るのは八割が己の為だが、残りは傾慕する対象に依存した行為だと、昔馴染みの地方貴族から聞いた。その残りの想いこそ、先の八割に勝ると思うがね。彼女の窈窕(ようちょう)たる愛嬌が何よりの(あかし)かと」

「本当に差し出がましいですわね。私のこれを愛嬌とお呼びになりますか?」


 視線に殺意のような濁った感情が混じった。


「俺の事はお気になさらず。いつも(・・・)の席に座り給え」


 促すと、言われるまでもないという風に椅子を引き寄せ腰かけた。センリョウさんの隣りにべったりくっ付くように。

 当のセンリョウさんは、


「見て欲しいですか……サツキさんに、ですか?」

「違げーよ!! あんたにだよ!! ――は!?」


 うっかり突っ込んでしまった。

 隣りの少女が、余計な事をっ、て言わんばかりに睨んできた。もっとも、褐色の頬が緩み徐々に紅潮する様は、言った通り可愛らしさが先立っている。


「おやおや。確かに来客中に不向きではありますが、よく似合っているよ」


 センリョウさんに悪気は無いんだろうけど。

 少女がさらに含羞に染まり俯いてしまった。

 はにかんだように唇を歪める仕草は可愛らしいが、こうしてる訳にもいかない。


「失礼、俺は冒険者のサツキという。道中に仲間を、冒険者を装った盗賊に扮した冒険者とレイド戦の末に失った。こちらには手工業の経営分析について相談に伺っていた」


 話しを進めるよう促す。


「何を言ってるのか、わからないわ」


 小首を傾げられた。うん、俺もわからない。


「失礼しました。私はクレマチス商会のマンリョウと申します。兄のセンリョウと共にこの地方の采配のお役目を頂いております。初めては兄でと考えていますので、くれぐれも誤解なきよう」


 牽制してきやがった。


「すまん、何を言ってるのかわからない」


 俺が小首を傾げると、むむ、と小さな唇が呻き声のようなものを出した。


「それで、頭目は何て言っておいでで?」


 見かねたセンリョウさんが先を進めてくれた。

 すまんのう。

 マンリョウさんは姿勢を正し、


「近隣のタウン支部からは、大規模の派遣はありませんでした。Aランクを複数名擁するともなると、尚更目立つんです。ですが、一つだけ」


 テーブルに折りたたまれた紙片が置かれる。

 俺とセンリョウさんで覗き込むと、無数のパーティ名が記されていた。


「一度に大量のクエストです。発注および受注が繰り返されていますが、特徴的なのは特定の一定期間だけ重複するんです。結果、当該タウンに所属する中級以上のパーティで半数がクエスト受注状態になりました」


 また何て裏技を……。


「クエスト内容と依頼者の相対的な情報が欲しいところでしょうが、そこまでは現場のギルドに出向かなきゃならないかねぇ」

「はい。オオグルマの寄り合い所は支部ではありませんから、子細は追えませんでした。この件もギルド職員同士の世間話しを統合して浮き彫りになった数字です。総動員数は62名。これらが一度のタイミングでタウンを出ています。当該タウンは――。」


 紙片の上に殴り書きで書かれた街の名前。限定的な情報からここに繋げるとは目端が利く。


「ジキタリスか」

「仰せの通りです」


 肯定するマンリョウさんに隣の美貌が複雑そうに目尻を歪めた。

 笑顔は消えていた。


「どうされましたか、兄さん?」


 彼女も異変に気付き、センリョウさんを見上げる。


「因縁ですね。元は何やら不可思議なクエストの発注と聞きましたが、恐らくはサツキさんのお仲間の――。」


 言い淀むセンリョウさんに、マンリョウさんが小首を傾げ次の言葉を待つ。

 彼がそこまでこちらに気を使ってくれるのが意外だった。

 だから、


「野盗に扮した連中の数が一致するんだよ。遠因であろうな」


 言葉は俺が引き継いだ。


「そいつらがマリーとアセビを殺した。当時こちらは個人経営のトレーダーを偽装していたが、初手で20名程塹壕で待ち伏せさせてたんだ。挟撃される形になったが、さらに弓兵隊を二部隊に分け波状の間接攻撃だ。面が割れてたか確証があったんだろう」

「そんな!? 冒険者が徒党を組んで行商人を襲うだなんて」


 マンリョウさんの勝ちきそうな瞳が、動揺に揺れる。

 そうか、狂悖(きょうはい)に嫌悪する子なんだ。

 クレマチス商会なら専属の護衛も居るが、常に魔物や野盗のリスクと直面する行商人にとって一般的な同道護衛は冒険者頼みなのだ。


「いやはや。あれこれ検討するのに必要以上に多くの仮定はご法度と勇者が伝えた言葉にも御座いましたが、いよいよ改定が全て一か所に集中してきましたねぇ」

「ああ、何だっけ? おっさんのカミソリだっけ?」

「それ、思考や理論を単純にするって話しの事よね? 微妙に違うような……。」


 マンリョウさんが、何か申し訳なさそうにしていた。

 うん、俺も違う気がしてきた。


「ですがねぇ、単に敵対するだけにしてはパーティ数が多過ぎるんです。陥穽(かんせい)に陥ったといった所でしょうね」

「マリーを守れなかった言い訳にはならないし、これは義担や侠骨によるものじゃない。俺は見合い相手でもあった彼女をみすみす死なせた。俺が連れ出さなければ、カサブランカのプリムラで看板娘をやってたんだよ」

「ちょ、ちょいとお待ちになってぇ下さい!! カサブランカというのは宿屋のプリムラ亭でしょうか!? あのオブコニカ様の!?」


 思わぬ名前と共にセンリョウさんが立ち上がった。

 今までに無い剣幕だ。どうしよう? 言ってもいいのかな。


「オブコニカ氏は俺にも良くしてくれたよ」

「その、お連れの冒険者さんが、プリムラ亭とどういったお関係で? いえ、今、看板娘と聞こえましたが」


 言葉に詰まった。

 俺の口から彼女にまつわる情報を出していいものか。


「住み込みの従業員だな。彼女と俺の見合いを取り持ってくれたのもオーナーだったが、ありゃ仲人までやる気だったのかもな。俺以上にマリーは可愛がられてたから。彼女を頼むと釘を刺されていたが、結果誓いを反故にした」


 あたりさわりの無い程度で、言葉を選んだはずだが、


「貴方は!!」


 ばん、とテーブルに手を付き身を乗り出してきやがった。

 何だ? マリーの事になったら態度がおかしくなったぞ。いや違う。宿屋の話になってからだ。


「貴方は……あの方が、何者かご存知ですか?」

「宿屋のオーナーって顔しか知らないな。たまに宿泊客と従業員の見合いを薦める宿屋だが」


 よく考えると、そんな所に寝泊まりしてたんだよな。

 いや、翌日には自称婚約者が上がり込んでたか……。


「先ほど申し上げた商業ギルド総会の常任理事については覚えていますでしょう?」

「パイナスの代表格と懇意にしてるって話しだったな――まさか!?」

「我々のような商業系の組合は業種や労働条件の都合上、冒険者ギルドのような単一性での組織構成が不可能です。何処にでも居るなんてシンジケートじみた事を申しますがその実、各業種のギルドを包括した上位団体が求められたのです」

「分かる話だが……宿屋だぞ?」


 縷縷(るる)として語る言葉に、やはり違和感があった。

 いや宿泊施設の代表ってなら理に叶ってるか?

 国の端から端まで網羅するトレーダーが安全な逗留を求めるのも自然だ。


「現業は関係ありません。あの方の実績と後ろ盾、なにより人となりへの信頼が重要なのです。カサブランカにこの事は?」

「オオグルマへの到着を優先した」

「では、こちらから早馬をお出しします。お伝えすべき事を書状にして頂くと助かるのですが」

「便箋とペンを買うよ」

「初回ご利用の特典でサービスさせて頂きます」


 冗談かと思ったが、マジメな顔で言って来た。

 いや、真剣というより、表情から余裕が消えていた。


「サツキさんのお仲間が命を落とした事も既に深刻ですが、あれらに壟断(ろうだん)を許す道理もなし。これから先、大荒れに荒れるかも知れませんね。うちだけが先手を打っていい話じゃぁありませんよ。マンリョウ。話が終わった後でいいので、今夜中に会合を開きたい旨、滞在中の顔役に声を掛けておくれ」

「会場の予約、抑えておきますね」

「いえ、そこは特権を行使させて頂きましょう。打診もこの後でいいですよ。恐らくは当該市場をどう焙焼(ばいしょう)してやろうかって話に進展するからね」


 すぐに出て行こうとするマンリョウさんを止める。


「マンリョウ。それでもう一つ。例の方からの連絡係からは、何て言ってたのかねぇ?」


 事も無げに言うセンリョウさんに、少女は大きな瞳を見開いた。


「兄さん!!」

「構いませんよ。情報との取引でサツキさんには同道を申し込む予定でしたので。どのみちジキタリスではご一緒して頂くことでしょう。判断材料は多い方がよろしい」


 何を要求されるかと身構えていたが、そんな事を企んでたのか。

 わざわざ口にしたのは、俺に塾考の時間を与えるためだろう。図々しいようで義理堅い。これが商人か。


「ちなみに、聞いた後で抜けることは?」

「私らの支援が無くなるだけです。吹聴されるのは流石に困りますが、その時はそれ相応の対応をさせて頂きますので」

「マンリョウさん、一緒に聞かせてください」


 腑に落ちないという表情の彼女に、頭を下げた。

 いや俺も腑に落ちないよ?

 マンリョウさんは、可愛らしい咳払いをし再び姿勢を正した。


「ジキタリスを含むオダマキ領ですが、領都の行政内部は既に、ラァビシュの浸食を受けていました」


 あ、やっぱ帰っていいっすか。

 絶対関わりあいたくない、嫌な名前だった。

前書きの続き


ユーザ「あれ? 俺また何かやっちゃいました?」(きょとん)

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