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47話 クレマチスレポート

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


仕事が忙しくて女騎士の胸部装甲のカップの部分に転生したい気分です。

 その笑みが引き締められた。

 長い睫毛の瞼を一旦下し、次に上げた時は黒瞳に今までに無い光を湛えていた。


(くだん)の手工業は材木を扱った職人工芸を主業務に据えておりますが、その出資は3つの組織で成っておいででして。一つはジキタリスを本部とした卸業です。無論、他商会でも同業に携わっており、恥ずかしながら私らも支部を出させて頂いてますが、あちらは代表取締役を務めるのがジキタリスの名士という強みもあって、いやぁ、やりにくいやりにくい。外部からの資本を良しとしないのは分かる話ですよ、そりゃあ。ですが、卸に関する税率があちらとこちらでまるで違う。今の名士の代になって撤退した同業者も少なくないのが現状です。おっと失礼。つい愚痴を挟んでしまいました」


 滔々(とうとう)と発する声は道化のようだった。社交的な笑顔なのに。

 目の前の野生動物のような美しい男が、同じ人間に見えなくなった。自分が酷く警戒している? 商人を?


「さて、今の業者での出資が50%というのですから、件の手工業の製品が多く出回るのは致し方が無いとしましても、反発は少なからず生まれるでしょう。それを頭から押さえるのが――。」

「ジキタリスの名士の名前か。小売りに幅を利かせるのは容易な上、もし土地の運用が単なる資産でなければ賃貸による優位性もある」

「仰せの通りです。場所が無ければ商いはできません。いえ、ここだけの話、()の魔大陸では、商品を大規模な倉庫群で管理し、必要な物資だけを都度必要とする人へ配送する商法案が模索されてるとか」

「サクラサク国で?」

「!? その名をご存知とは。いやはや御見それしました」


 そうか、俺も最近クロユリさんから教えてもらったばかりだもんな。

 逆にこの人ら凄いってこと? 俺、マウント取られてる?

 今思うと国の一部の連中がおかしい。アレは魔大陸だ魔王が居る魔王は極悪非道だ、て声の大きい奴が叫ぶせいで、一般人には正しい情報が降りて来ない。

 聞けば文化レベルがキクノハナヒラク帝国やウメカオル国と同等だった。

 この三国と交易が無いのは商人にとって深刻な痛手だろう。


「二番目は共同出資者による投資になります」


 話しが戻った。


「とはいえ、最出資者が例のジキタリス名士ですが。そちらからの声がけ、さらに投資者からの声がけが相まって、出資の30%に至っています。資金を払って得られるのが儲けになるか不確定な権利だなんて、私のように浅学非才な身には理解に苦しみますがねぇ」


 確かウメカオル国の女王が Network Marketing と言って禁止にした商法だと聞いた。

 別名、ねずみ……なんだっけ? 小僧?


「残り20%の出資元ですが、これは流石に分かりやすい。運輸業者なんですよ。私ら行商人と違って商品の運搬専門を担ってるんですが、工芸品の卸にそこが荷役の契約を結んでいました。いやぁその代表取締役がですねぇ――。」

「ステークホルダーが直列化したな。またその名士とやらか」


 湯飲みを手に取る。

 鮮やかな色彩と大胆な紋様は、この国も含めて見る事がない。ウメカオルかサクラサクか、或いはキクノハナヒラクか。

 いずれにしろいい焼き加減だ。


「流石にそこまでではありませんがね」


 一口含む。

 先程とは違ったまろやかな風味が広がった。


「名士の奥様でした」

「ぶっ!?」


 思わず鼻から吹き出した。

 ちょ、待って。


「ふむ。鼻からお茶を吹く姿もお美しい。まるで虹が掛かったようだ」

「け、けほ、そ、それは、どうかとおもうぞ……。」


 もういっそ笑ってくれ。


「ていうか、ずぶずぶだな。領主や代官は口出ししないのか? そこまで手広くやって認識されないって訳でもないよね? 現にこうして外部調査に上がるくらいだし」

「ですから、仰る通りなのでしょう」

「?」

「ずぶずぶなのですよ。あちらとて便宜を図るのに渋る金銭は持たないでしょう。おっと、否定はなさらないで。それに関しては私どもだって同じ事が言えます。おかげで、こうしてサツキさんと良縁を結ぶ事ができましたから」

「後半、結婚式の挨拶みたいになってんぞ」

「おや? おやおや」


 実権が集中するのは唾棄すべき陋習(ろうしゅう)と思うが黙っておこう。

 しかし、確かに答え合わせにもなんないな。

 依頼元の背景が一番怪しいってんだから。

 ここからクエストに繋がるかどうか。カサブランカのギルドに依頼を出さざる得ない状況。

 ……。

 ……。

 無いな。

 都合が悪けりゃ根回しぐらいするだろ。

 これでマリーの推測が濃厚になった。


「にしても、なんだって工芸品なんだろ? 推すにしても力の入れ方が極端すぎる」

「工芸と言っても木工芸に限られてますがね。ほら、あそこは地域柄多いでしょ?」

「多い? あぁ、そうか」


 ジキタリス。別名、森林都市。資材はそれこそ売るほどあるだろう。


「もとは民芸の都市を大々的にうたっていたのですがねぇ。後から、例の北方の存在が(おおやけ)になり誰にも知れるようになったじゃ御座いませんか。そりゃあ面子もあったもんじゃないでしょう。なにせ、相手は職人国家です。様式が多岐にわたる上、品質についちゃ誰も追随できやしない。幸いにも国交が無いので取引できる商人も商業ギルドも無いとくれば、目の上のたんこぶを承知で内需に期待を置くのは自然でしょうな」


 所詮はまがい物の工芸の街か。


「ところで、執行役への受け渡しはこの後すぐでも?」

「早い方がいいな。明日には発ちたい」

「でしたら、人を送ります。表には無かったようですが、馬車はどちらに停めてらっしゃるのでしょう?」


 あ、そういう事か。

 行商人相手には隠しておきたいが、今が一番面倒に巻き込まれている時期だろうし。

 なら下手に誤魔化して矛盾を生むのは下策だ。


「アイテムボックスに類似するものがあるんだ」

「なるほど、既に首だけになってるのですね。手間は省けるでしょうが、よくお一人で処理できましたね。SSランクとはいえ、酷な事かとお慰めいたします」

「いや、手は付けちゃいない。まだそのまま」


 にこやかな顔が固まった。

 目を細めたままだが、眼光が鋭くなったのがわかる。そりゃそうだろうよ。


「少しばかり容量が大きいから。なんだっけ? ほわいとべーすとかってのを十機分は隠せるとか言ってたかな。意味はわからないけど」

「……ざっと470ヘクタール相当といった所でしょうか」

「意味分かるのかよ!?」


 思わず声を上げると、センリョウさんは少し自慢げに口元を緩めた。

 表情が豊かなのは、逆に心情を読ませない為のブラフか。


「今までお出しした品物。人方ならぬ眼識をお持ちでしたら、その素性はお分かり頂いているかと存じます」

「クレマチスが商業系ギルドで有利にあるのは想像がつくかな。あの三国と縁を結んでいるんだ。同業他社を抑えて市場に大きく出れると思うよ」

「それらの中で、大きな物や土地を表現するのに、特殊な言い回しをする地域が存在します。主に魔大陸と呼ばれる国でした」


 否定はしないのか。そこまで交流を深めてるとは。

 これ、一つの時代の転換期と見てもいいんじゃないかな?


「彼の国では、こう言い表していました。即ち――東京ドーム何個分、と」


 謎の単語が出たよ。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


やっとセンリョウが出せました。

48話でマンリョウ登場。

50話でサクラ登場。

マリーゴールドの抜けた穴を埋めてもらいましょう。

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