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42話 惆悵の響なす

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


本話より新規投稿を再開します。

投稿期間はそれぞれ間が空きます。

 動きが起きたのは、アセビの方だった。

 違和感の正体も明確になる。


「馬はグレートホースだ!! 円で絡めとれ!!」


 怒声のような号令が飛ぶ。合わせて連中がアセビから距離を取る。さらに後方。5人のフード姿が胸の前で指を組んだ。

 地表を薄い光芒が染める。煌く。光は瞬時に姿を得て、鎖となりアセビにまとわりつ――って、魔法使い混成のパーティ!! コイツら冒険者か!?


 冒険者を装って近づいてきた野盗を装った冒険者。ややこしいわ!!


 ちぐはぐな集団なわけだ。複数のパーティの混合部隊。大規模レイド構成かよ!!

 まずい。アセビを先行させ過ぎた。支援、間に合わないか。


「マリー!! アセビを下がらせろ!!」


 俺の言葉じゃアセビの制御に一歩及ばない。馴染むまで、せめてあと1日。

 単独の魔物にとって、一番の天敵は徒党を組んだ冒険者(俺たち)だ。こと魔物討伐の技術にかけては匹儔(ひっちゅう)無き存在だ。

 アセビへ駆け寄ろうとして足を止めた。

 ぬかった。今の指示は悪手だ。

 車両のドアが内側から開く。

 見越して、馬車を警戒していた敵が3人押し寄せる。


「出るな!! そっちへ行ったぞ!!」


 焦燥感に(かな)切り声を上げた。敵を後押しするだけだってのに。

 視線の端でアセビが動きを封じられ、声高く嘶く。

 開き切った車両のドアに到達した男達が雪崩れ込んだのは同時だったろうか。

 アセビ、相すまん。

 マリーの下へ疾走した瞬間、開け放たれたドアから肉塊が吐き出された。地面を汚した汚物は、ちょうど3人分だったろう。


「何だよ!? 何が起きた!?」

「中に居るのは子供じゃなかったのか!? 囚われてんだろうがよ!!」


 待機中の連中が青ざめる。

 外に放り出された姿があまりにも無残だからか、それが美しく魅入られたものか。

 動けなかった。

 実は俺も。

 馬車の姿をした怪物が、餌が来るのを口を開けて待ち構えているようだ。


「畜生!! 仲間やられてんだぞ!!」


 一人が剣を抜きざま突進した。

 同じパーティだったのかもしれない。

 あ、飲まれた。

 間髪入れずに、今度は挽肉になって吐き出された。


 ……ヤバイ方向にレベルが上がっていくんだな。


 即座にアセビへと反転する。

 マリーはいいや。もういいや。諦めた。

 それよりも疾走。あの子が持ち鍛えてるうちに。

 魔法使いの前に、ヘビーアーマーの巨体が立ちはだかる。

 頭上から空を斬る音。

 ステップを踏んで回避――できない!? アーマーの割に俊敏だ。コイツもAランク相当か。その背後で、アセビの黒毛を焼こうと火炎系の魔法が飛び交う。ちきしょう!!

 槍を振るう。

 奴の剣をいなす代償に、火花と共に刃が欠け、柄が折れる。その瞬間、長剣を右手に持ち替える。狙うは関節。いかん盾で塞がれた。

 タイムアタック中に当たるタンクほど厄介な物はない。

 跳躍した。

 転生の女神(リンノウレン)から授かった体捌きⅠは、東方に影暗と伝わるニンジャに迫る技を与えてくれた。

 奴の頭を抱き込む。

 盾が振り上がる。仕込み剣か!?

 咄嗟にフルヘルムの後頭部へ体を回り込ませ躱す。ここぞとばかりに矢が飛来する。6本。ちっ、流石に狙ってくるか。

 これは確実に受けるな。

 覚悟した瞬間、アセビが吠えた。重い獣の声は、馬のものとは思えなかった。

 振動は、全ての軌道を逸らせるのに十分だ。あの馬鹿。いや、あのイケメン。体を拘束され一方的に攻撃を受ける中で、俺の事を優先させやがった。


 あぁ、そうか。

 グレートホースの生態。

 コイツら、群れを大事にするんだったな。


 あの子が作ってくれた好機。ストレージから手早くランプの燃料を出し、フルヘルムの隙間へと流し込む。火を放つ。

 苦悶にのたうち回るヘビーアーマーから飛び退き、魔法使いの群れへ突進する。

 長剣は血と油と刃こぼれでお釈迦だ。なので、ストレージに死蔵していた武器だけが頼りだ。

 魔法使い共が障壁を展開する。

 お(あつら)えむきに、相性がいい。それはとても、こっちの武器向けだ。

 俺の手元から銀光が数珠のようにのたうちながら放たれる。

 薄い輝きが滑るように奴らの防壁をなぞると、局地結界とも言うべき障壁を薄布のように裂いていった。


「ひぃ……。」


 尻餅を付く者、後ずさる者、失禁する者。誰もが跼蹐(きょくせき)に震えた。収縮し俺の手に戻った今は一振りの剣に。

 スキルに頼らずネタで地道に手に馴染ませた武器。蛇腹剣(ガリアンソード)と言えばわかるだろうか。


「うちの子をいたぶってくれたな」


 あと炒めてもくれたな。


「ぼ、冒険者が、魔物を討伐して悪いってのかよ!!」

「いや、あんたら野盗だよ? 市井の行商人を集団で襲ってるよね?」

「ふざけんな!! 子供を攫っておいて、てめぇが堅気の商人だって!? ふざけんな!!」

「いや攫ってないし。すまん、俺の方こそ商人でもなく冒険者だったわ」


 魔法使い共に背を向け、アセビの所へ向かう。

 周囲の男たちが、武器を構えたまま距離を取る。

 見回した。

 魔法使いも、剣士、槍術士、格闘家も。コイツら全員が(かたき)だ。


 アセビ。

 最期は己を顧みず俺の補翼(ほよく)に徹したか。


 地面に頭を横たえる彼は、俺が到着した時に、わずかに瞳をこちらへ向け絶命した。

 多分、最後の力を残していたのだろう。

 ごめんな。

 本当はマリーを待っていたんだろう?

 俺で、ごめんな。


「冒険者だと……知っているぞ、その美貌!! まさか、あんた、グリーンガーデンのファナティックプリンセスじゃねぇか!?」

「レベリング狂か!? あのワイルドの嫁っていう!?」


 ……おい。誰だそんなふざけた通り名を付けた奴は? 初めて聞いたぞ?


「待て待て、何で最後がプリンセスになってんの? おかしいよね? お姫様じゃ違うよね?」

「テメェの姿を見て言え!! どこぞの吟遊詩人(バード)が歌った美玉か紅裙(こうくん)かって事態になってんぞ!?」


 ちょ、お前、誉め過ぎだって!!

 ……ていうか誰の嫁だって?


「まんず、オラァおかしいって思ってたんだ」

「あんだけ可愛くて男のファンも多がったんのになぁ」

「んだんだ」

「まんずまんず」


 そこ!! 何同意してんだよ!?


「いや待て、お前ら。いいからちょっと待て。何で俺が『実は男装女子でその事を隠してるが周りにはバレてました ~今更隠してももう遅いです~』みたいになってるの?」


 何かのタイトルか?

 背後から熱気が襲った。

 ステップを踏む。踊り子(反射盾)。以前より容易に展開できるのは、体捌きⅠのおかげか。

 あ、いつの間にかⅡになってる。


「お前ら、何馴れ合ってんだ!!」


 右手を翳したのは魔法使いの一人だ。

 反射した火炎は、左手の別の魔法使いをこんがり焼いた。


「テメェ、うちの魔法使いに何しやがる!!」


 戦士が吠える。

 混合パーティでの同士討ちは、ワンマンパーティでのそれとは違う。


「お前らが誘拐犯と喋ってるからだろうが!!」

「待てや!! この人はSSランクだぞ!? 俺達が敵にしていい相手じゃ無ぇよ!!」

「日和みやがったか!!」


 勝手に抗辯(こうべん)し合ってたと思ったら、魔法使いが掌をこちらへ向けた。同時に俺も右手を振った。

 一本の剣に節が生まれ一瞬で蛇腹剣になり、魔法使いの右手を切断し、じゃららと金属の音を立て奴の首を跳ねた。


(いずれ)にしろ、お前ら全員、意趣返しの対象でしかないんだが」

「……。」


 さらに一振り。腰を抜かした魔法使いの体に巻き付き、その姿が鮮血に煙った。


「待ってくれ、ワイルドの細君!! あんたが相手だって知らなかったんだ!!」

「んだんだ!!」

「お前らはいちいち妙な枕詞付けないと気が済まんのか!?」


 第一、ワイルドのヤローだって俺なんかと引き合わされちゃキモがるだろうし。

 そもそもアイツときたらちょっと顔が良くて仕草がスマートなだけの地方貴族の嫡男ってだけだし。俺の事なんてパーティメンバーどころか邪魔者で真っ先に追放しやがったし。瞳は抜けるような蒼穹で長い睫毛ってだけで小顔だし。

 ぜ、全然嬉しくなんてなんだからね!!

 ……。

 ……。

 いや本当、世間一般の評価はどうなってんだ?


「飴を舐めさせられたのはお前らの勝手だ。仁恕(じんじょ)など期待するだけ無駄と知れ」


 しゃがみ込み、黒い毛並みを撫でる。至る所が焼け焦げ、刺し傷だらけだったが、俺を守ってくれた立派な毛並みだ立髪だ。


「な、何を勝手な事を!! テメェが中央で何て言われてるか知らねぇが、こっちだって仲間がやられてんだ!! ただで済ますわけにはいかねぇだろ!!」

「馬鹿、分かんねーのか!! 俺たちは担がれたんだよ!!」


 総勢40名あまりのレイド構成。唆した方もさぞ担ぎ甲斐のあった神輿だろうよ。

 あと……ほんと、何て呼ばれてるんだ俺?


「ま、それにな」


 立ち上がり、本物の蒼穹を見ようと振り仰いだ。

 空は見えなかった。

 黒々とした巨大な影が覆っていた。

 窪んだ眼窩から、赤い光が俺たちを見下ろしている。


「アイツが許しちゃくれないだろうよ」


 その場に居た全員が、口をポカンと開けた間抜け面で見上げていた。

 全員には、俺も含まれる。

 アレが何なのか、正直、理解の外だ。

 いや。いやいや。本当マジ何なの?

 逆光でシルエットが浮き出るようにしか見えないが、どう考えても骸骨だよな? それも巨大な。何メートルあるんだろう? 100メートル近くはいってんぞ?


 そして、

 頭蓋骨に手を添え佇む少女。

 遠目でもわかる。

 白い小袖に金と銀の輝きを玉のように弾くのは、千早って羽織り物だ。腰から下を覆う鮮やかな朱色は緋袴と呼んだ。その頂きには色とりどりの花をあしらったティアラ――花簪(はなかんざし)ってやつだな。

 綾羅(りょうら)に見惚れそうになるが、彼女の声がそれを邪魔した。


 狂った様な笑い声が降りそそぐ。

 頬が淫蕩に紅潮しているのを、俺だけが見逃さなかった。

 何の(てら)いも見せず。

 何の婉曲(えんきょく)も無く。

 己の嗜虐心をここまで剥き出しにした女は初めてであった。


 マリーゴールド。

 東方の帝国、キクノハナヒラクの巫覡(ふげき)にして姫巫女らしい。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。

評価★など頂けましたら嬉しいです。

あと、サブタイトルは、別に私の信条とは関係ありませんので念のため。

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