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402話 全裸徘徊者 vs ふたなりの花嫁

「視線誘導だけ任せられて? 3秒もあれば十分だ」

「どっちのよ?」


 サザンカが彼女にしては珍しく質朴(しつぼく)ま仕草で小首を傾げる。そんな気分の夜もあるのだろう。


「言ってくれれば見ないふりぐらいできるわ、大司祭様」


 語尾の様を強めに、アナベルが呆れた風に肩を竦める。俺も苦笑いしかできないよ。


「あんたには後で見せつけてやるんだから」


 拗ねたように唇を尖らせると、そのまま口笛を頭上へ響かせた。


「ちょ、私、どんな目に合わされちゃうの!?」


 横で挑発的な態度から焦燥に変化するのを構わず、サザンカは月夜を遮る白い影の名を呼んだ。

 アンゼリカが急降下すると森の上で大きく羽ばたいた。枝葉が大きく傾ぐ。

 気配が上へ向く。

 冒険者相手だったらこうも簡単にはいかない。こんな見え透いた囮に引っ掛かる奴なんていないし、そもそも気配は消す。


 ……あの辺かな?


 アンダースローで腕を振る。

 小さな煌めきを放つ。紅い輝きに気づく者は居なかっただろう。


「待ちなさいよ!! 今の何!? 神聖宝具の気配がしたわよ!? 何投げてんのよ!!」


 訂正。居た。女神教の司祭なら見ずとも感じる事は出来たか。

 投擲した紅玉を埋めた指輪は、空中で槍の本体を晒し森へと吸い込まれ、一瞬だけオレンジの火花を散らしたと思うと大輪な爆炎の花を咲かせた。

 祝うように。


「ほんと何なのよ!! 神装武具でしょ今の!!」


 拘るなぁ。


「『マイヨの掘削機』だ」

「マイヨウレン様の神器!? え? 掘削……え?」

「アルストロメリア開拓で地ならしに使えるって――出てきた。行ってくる」

「どうして神装武具が土木工具になってんのよ!!」


 サザンカの悲鳴を背に、爆心地へスタートする。煙の向こう側で、弾かれたように全身を晒したすっぴんウォーカーが蠢いた。

 首が不自然にこちらを向く。いやほんと間接!!

 両腕がグニュんとうねり俺へとホーミングする。何サーカスだよ。


「よかったな。向こうから捕まりに来てくれたぜ」

『ハッピーで御座いますね。マイ・ダーリン』


 くぐもった女性の声が俺の前で響いた。

 ヌメヌメした白い腕を、陶磁器のような繊細な白い手が捕え……って何その呼び方!?

 純白のウエディングドレスが蜃気楼のように裾をはためかせる。誰もが眩い姿に見惚れただろう。ストレージの肥やしのままじゃ可哀想だからな。

 ヘリアンサス女王陛下から譲り受けたガーディアン――麗しの花嫁(ヴィーナス)だぜ。


『いよいよワタシとの挙式で御座いますか』

「挙げないよ?」

『参列者もこんなに』

「全部俺を殺そうとした刺客だよ?」

『女神教の司祭様も手配されたのですね』

「妻の一人だ」

『……クラン様ともバーベナ様とも生体反応が異なるようですが』

「彼女は2番目だよ」

『どうしましょう。マイ・ダーリンが最低な事を仰せだわ』

「その呼び方はやめて」

『それではご指示を――我がダーリン』

「どうしてそっちを変えちゃったの?」


 こんな無駄話の間も、両腕を逃れようとすっぴんウォーカーはもがいていた。ドレスの曲線を内側から描く豊満ボディは石の様に微動だにしない。

 スキンげふんすっぴんウォーカーが黒々とした口腔を曝け、声にならない威嚇を放った。

 純白のドレスは難なく両腕を引き、敵を宙に浮かせる。ふと、グルンと首をこちらに回した。


「怖いからやめい!!」

『失礼いたしました我がダーリン。それで? アレはどのように始末するのがお望みでしょう?』


 器用にバランスをとり、両腕だけで軽くすっぴんウォーカー――いや、悪魔を振り回す。


『何でしたらこのまま引き裂いて血の海地獄に変えてしまっても良いのでしょうね』


 良いわけあるか!!


「片付ける身にもなってみろよ」

『ストレージに収納すればよろしいのでは?』

「……散らからないように頼む」

『仰せの通りに』


 ガーディアンの花嫁が、敵を見据えたまま無機質に応える。白亜のような表面素材は、決して表情に歪むことはない。永劫の美を刻むヴィーナスだ。その鼻先3センチの空間に、小さな点が灯る。これも紅玉のように赤い。

 肌が急な気温の低下を感じた。

 熱が奪われてる?


『シュート』


 紅点が飛んだ。視線で追うより早く、光の線となってすっぴんウォーカーの頭部を貫き、その尾は夜天に吸い込まれ消えた。


『お粗末様でした』


 吊り上げたすっぴんウォーカーを離すと、ボロ雑巾の様に揺れながら、焼け跡となった森に落ちた。手足に意思を持つ動きが無い。一撃かよ。

 恭しくドレスのスカートを摘み一同に礼をして見せるヴィーナス像に、誰もが言葉を失った。

 俺もだ。

 だから気づかなかった。

 この時のアナベルの異変に。無言だが、俺の頭からつま先まで、ニチャっとした視線が舐め回す。

 うん、気づかない振りをしても無駄だわ。気になって仕方がないわ、コレ。俺また何かやっちゃいました?


「馬鹿な……爵位持ちを赤子の手を捻るように容易くだと……私は一体、何を敵にしていたのというのか……。」


 小隊長も、畏怖の念で俺とヴィーナスを見上げる。


「今の攻撃のいずれかでも先に出ていれば……私も村の衆も、とっくに全滅していたでしょう。()けつ(まろ)びつ姿は嘘だったと……泥縄に見せ掛けて、最初から泳がされていたとは……。」


 都合がいい。そう思って頂こう。


「ちょっとぉ、マイヨウレン様の神器について、ちゃんと説明してよね!!」

「ハイビスカスの神殿で本人から貰ったんだよ。クランから聞いてない?」

「夜の営みの話しか聞いてないわよ!!」

「何でそっち話しちゃうの!?」

「むしろ、それまでちゃんと結ばれていなかった方が不思議だったわ。二人きりになる機会だってあったでしょ?」


 同じ事で、正座で反省させられたなぁ……。


「そりゃ、あったけどさ」


 ただイチャイチャしてるだけでクランが限界だったんだもん。


「そっちの協議は終わってるよ。結論だって。議事が知りたければ、それこそ彼女にあたってくれ」

「聞くわよ。あたしの時は最初から全力全開だったくせに。それより槍よ、槍。粗末にしないで!!」

「土木機器の扱いなんてあんなもんだろ」


 手を焼け野原に翳すと、吸い込まれるように赤い輝きが飛んできた。パシリとキャッチし、サザンカに指輪をパスする。


「だから丁寧に扱えってのよ!!」


「もう!!」と言いつつ、受け取った紅玉をまじまじと観察する姿は、まさしく恭しく神器を掲げる聖者の絵画を思わせた。


「託されたのよね、貴方が。簡単に人に触らせちゃ駄目よ」


 手放すのを名残惜しそうに渡してくる。


「教会の大司祭にはその資格があると思うよ」

「王国の騎士としては、こちらのかたについてお伺いしたいのですが?」


 サザンカとの会話を見計らうあたり、空気が読める。騎士くん、さっきからウズウズしてたもんな。召喚とはいえ悪魔を一撃で屠る戦力は看過できないよな。


「ヘリアンサス陛下から下賜されたゴーレムで元は王家の遺産を守護していたガーディアンだ。減価償却済みでプラットホーム更新に伴い受領した。まぁ、北方共和の件での個人的な謝礼だろう」


 俺の紹介に、ヴィーナス像がドレスを摘んで膝を折る。ゴーレムには思えない滑らかな動きだ。


「ケイトウ殿下かビオラ様には?」


 流石に眉を顰める。

 そりゃ言ったら没収されるもん。


「公王家や政府とは関わらない範囲での授与だから、そこは」


 ガーディアンどころか公国の王家が秘匿するダンジョンコアまである。黙っておこう。


「行政府が無関係とはいえ、国家間の関係に大いに抵触するものでしょう? せめて性能の把握と所有の明確化はやって頂かなくては」

「拘束する口実でも付けるかね?」


 俺の返しに、爽やかな笑顔が消えた。

 彼の立場も分かる。

 だが、コイツを解析させない事がバーベナさんの自由を保証する根拠にもなるなら、情報開示は避けたい。


「小官には報告の義務があります」

「職務上の立場は理解しているつもりだ。ご随意に」


 騎士くんが小さく頷く。

 面倒が起きたら返り討ちにすればいい。その程度の事だ。


「それで、あの悪魔の素材は誰の取り分になるかしら? 研究用に教会の騎士派が抑えたいのだけれど、その王政も黙ってはいないのでしょう?」

「ああもう、畑荒らしの魔物退治のはずが高度な政治的判断を要求されだなんて!!」


 騎士くんが泣き言を言い出した。気持ちは分かる。


「一応、見ての通りですが」


 小隊長が落下地点を指す。


「廃になってますな」


 言葉の通り、黒い塵を夜空に巻き上げる残骸は、既に元の形を留めてなかった。


「ぎゃー貴重な標本がー!!」


 サザンカの絶叫がこだまする。


「ハイになってますな」


 冷静な小隊長の言葉に、誰が上手いことを言えと突っ込む者は居なかった。




 襲撃者に一応の手枷を嵌め、ぞろぞろと村へ戻る。変な集団だな。


「結託者はここに居る皆さんですべてなのでしょう? あれだけ爆炎やワイバーンが舞って誰も駆けつけないなんて」


 騎士くんが訝しむ。

 クエスト用に編成した即席の小隊だったもんな。同列の階級ってぐらいしか知らされてなけりゃ、誰にでも嫌疑は掛かる。それを言ったら君にだって。

 だが、実際見れば分かるだろうけど、その線は無い。


「だからだよ。夜の森を分かっちゃいない」

「どういう――。」


 答えは、村に近づくにつれ現れた。

 農村道に出ると、村の柵の前で横たわる異物が嫌でも目に入る。出発前には無かったものだ。


「魔獣の死骸?」

「そりゃ全裸で徘徊するなんぞ分からんのが棲みついたら、コイツらだって怖がって逃げ出すだろ。大抵は他の畑か――。」


 村道の開けた先だ。


「戻ったか。何があった? いや待て、本当に何があったのそれー!?」(ガビーん)


 森から溢れ出した魔獣を討伐し終えた、留守番組の騎士だ。ぞろぞろ農民が手枷を嵌め現れたんだ。動揺もするだろう。


「小隊長はどうした!? 急に下級ランクの魔獣が押し寄せたんだぞ!?」


 もう一人が村の奥から代表を伴って現れる。


「諸君、よくぞ村を守ってくれた。私は既にこの通りだ」

「って、小隊長まで何やってんだよ!?」


 何かが起きてると感じても、村の防衛に専念したのはいい判断だ。だが、隊長の姿は予想外だったろう。説明が面倒だな、コレ。

 ところで……片腕に手枷を嵌める意味ってあるのか?

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