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388話 取り残された王女

この物語は、浮気や不貞を肯定するものではありません。

むしろ浮気は人間のクズとすら思っています。なので本来はハーレム物になる予定ではなかったのですが……。

 ノックに応えた執事が戻ると、スマートに一礼した。


「ご準備が整ったようです。部屋を移して頂きます。こちらのサロンは、全面消毒を致しますのでご安心ください」


 何を安心させようってんだ?

 ていうか王女のラーメンはバイオハーザードかよ。


「それだと調理場が最初の犠牲になってると思うが」

「既に立ち入り禁止に致しております」

「ラーメン作るだけで惨事になってんじゃねーか!!」


 普通に出前だけしてればいいものを。


「ワタクシのお気に入りを誘引するから、少しはHPを削って差し上げたまでよ」

「いや確かに、助かったけどさ」

「フハハハ、余の毒耐性を侮ってもらっては困る」

「妹のラーメンを食べた感想とは思えねーよ」


 この兄妹は。御身(おんみ)の立場を分かっているはずなのに。

 権力者が近親同士で毒を盛り合う例は枚挙にいとまがない。だが本人同士が直接ってのは、いっそ派閥の重臣だって派閥間内紛に発展させていいのか戸惑うレベルだ。「え? は?」てなる。

 そのリスクが俺のためってのがな。あのタイミングは救われたけど。


「……。」


 礼を言うべきか当惑すると、王女はじっと俺の顔を見てきた。

 典礼(てんれい)なルビーのような瞳の中に、哀愁に似た輝きを感じた。


「如何なさいましたか、王女様?」

「随分と、男の子の顔になったのね」


 格好を付けて聞く俺に、意外な言葉が返ってきた。


「元から男の子だけど?」

「雄っぽさが出てきたって言ってるのよ。クランとはどうなの? 仲睦まじくやっているのかしら」


 彼女の名前が出て、背中にブルー叔父さんの視線が刺さった。だが、こちらが振り向く間も無く、小さなドレス姿は執事たちの後に続いて行った。


「儂もこれで失礼しますぞ!!」


 サロンに残った俺と王女に、大将が軽く頭を下げる。

 そりゃ、騎士団を放っておくわけにもいかないか。


「夕食会の仕込みをせねばなりませんでな!! 第一調理場が壊滅していますから第二を使用させて頂く所存!!」


 あんた作るのかよ!! あと調理場の思ってた以上の惨状!!


「楽しみにしていますわ、シャガ将軍」


 楽しみにされちゃってるよ。


「ですが」と、皺深い漢の顔が俺たちを交互に見る。


「あまり年下の男子を虐めないでくだされ」

「あら」

「少年には少年なりのプライドがあり申す。見目麗しい女性には特に」


 余計な事を残して去る大将の背を見送らず、割烹着の女がニマニマした目でこちらを見てきた。

 何笑っってんだよ。


「冒険者サツキは罪な男の子ね」

「何のことやら」


 そっぽを向く。

 本当、何なの?

 誰もいないサロンの中、身をくねらす様に俺の顔を覗き込んで来る。

 猫のような瞳が赤く澄んで、魅入られる。魅了の瞳(魔眼スキル)ではない。なのに、頬に熱が伸びるのが分かった。


「そうやって女を(たぶら)かしてばかり」

「だから何だって言うんだよ!! 確かにサザンカともだなんて節操なしに見えるけどさ!!」

「え!? サザンカ!? 騎士派の子よね? この前の伯爵家の婚姻で司祭を務めていたけれど……え? は?」


 抜かったわ!! そこまで知られてなかったよ!!

 あの聖堂の夜を知るのも、カシス姉さんぐらいだもんな。ドクダミの騒動後は、あのままニキとハネムーンだし式典中もいっぱいいっぱいみたいだし。

 やべー、先走ったわ。


「いや、いやいや、確かに貴方たち三人は幼少の頃より一緒だったけれど」

「見たことがある風に言うんだな」

「あるわよ。冒険者サツキは忘れちゃったのかもしれないけれど、子供の頃に一緒に遊んだわよ。サツキが変な子になっちゃう前だったわ。少しだけお姉さんなバーベナ殿下にベリー領で面倒を見て頂いたもの」


 そっちも面識あったか。

 確かに、他国の王族を匿うんだからアザレア王家の承認は必須だけどさ。


「つまり、このまま上手く事を運んでも、ワタクシは三番目になるというの?」

「ならないよ? あと運ばないで?」

「ワタクシには、女の性は感じないというの? 何だったら全裸割烹着だっていけるわよ?」

「どうして何でもかんでも脱げばいいと思っちゃうんだよここの王族は!!」


 何で俺、クランともした事が無い新婚さん的なプレイをプレゼンされてんだ?


「いい加減、揶揄うのは控えて頂きたいよ。さっきはあんな風に仰せだったが、貴女は国内に留まらず嬌名を馳せる容色をお持ちだ。ただ俺にとってはクランが何においても優先される。そこは他の二人も飲み込んだ上での付き合いだから」

「他の……二人ですって?」


 抜かったわ!! 余計な情報を与えちまった!!


「どういう事? サザンカだけじゃ無いって事? え? は? まさか――ワイルドくんまで!?」

「ちゃうわ!!」


 いや、実際関係を持ったけどさ。ちゃうわ。


「じゃあ――ベリー辺境伯!?」

「あの人苺さん一筋だから!!」


 いや、実際お膝に乗せたいとは思うが。ちゃうわ。


「だったらちゃうか。消去法でいくなら――そんな、お兄様!?」

「さっきは危なかったけどさ!! ていうか今挙げた人たち全員ちんちん付いてるから!!」


 やべ。王女殿下に向かってちんちんとか言っちゃったよ。


「おちんちんが付いてるからどうしたと言うの!?」

「王女様が何口走ってんだよ!!」


 言ってから、お互い赤面した。あかん。何か照れてしまう。

 これ、答えないとずっとおちんちんの話が続くのか?


「さっきも名前が出たよ。昔馴染み」

「他国の姫殿下じゃないのよ!! 何やってんの!? 女王陛下との関係だって国際的に揉み消さなきゃならないって言うのに!!」

「ヘリアンサス陛下の件はバーベナさんの希望を叶える交換条件だったんだよ!! 他に落とし所が無かったんだから仕方がないだろ!!」

「嬉しいくせに!!」

「素敵なお方だとは思うさ、そりゃ」

「だったら自国の王女でもいいでしょ」

「だからだよ。俺である必要あるか? 真意が見えないつってんの」


 ましてや派閥間の摩擦が激化する予感がある。

 王家なんて、可能なら関わり合いたくない。結局、クランやバーベナさんの事で親善大使の真似事をしているが、要は『ピクシーの羽(郵便業務)』だ。ただのパシリだ。

 その末に、ヘリアンサス女王と枕を共にするとは……。いや凄かった。ただ凄かったとしか。


「でも、だらって、ちゃんと婚儀を済ませるまでは、そういう事は……ねぇ?」

「……。」

「どうして目を逸らすのよ!?」


 しまった。つい……。

 市井(しせい)じゃないんだ。王女が正しい。娶るにしろ養子になるにしろ、公式の婚姻関係までは粘膜以上の接触は御法度だ。


「え? うそ? 本当にしちゃったの!? 貴方よりもお姉さんとはいえ、あんな小さなクランに――入れちゃったの!?」

「入れるとか言うなよ!! むしろ愛撫の時間のほうが長かったわ!!」

「本当にやっちゃったのね!?」


 しまった。つい……。


「え、いや、いやいや、何でやっちゃうのよ? 立場くらい弁えてるでしょ? え、本当に? え、ワタクシ先を越されちゃった? あれほど小さな妹と可愛がってた子に、先越されたの?」


 見るのが哀れなほど、ガクガクと震え出した。


「換言するけれど、その、入るものなの? あんなにキツそうなのに?」

「仰せの通りぎゅうぎゅうだったが、ひとまずは」

「誰と比べてよ!? まさかストロ夫人じゃないでしょうね? え、違う? それならちゃうか。だったら――お母様!?」


 誰が猛獣の檻に喜び勇んで入るかよ。


「さっき……言ってた女性(ひと)……の……。」


 不覚。思わずクランのコミュ障喋りになったわ。


「え、それって――どっちよ!? どっちに入れたのよ!!」


 もうこれ以上は勘弁してほしい。

 俯いたまま顔を上げられない。

 あと王女が下品で辛い。


「――まさか、そんな、冒険者サツキ!! 貴方は!!」


 無言でいると、向こうから察してくれた。


「何を、何考えてるのよ。教会騎士派の旗頭と保護中の他国の姫よ!? 何で婚前にしちゃうのよ!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……。」


 改めて言われると最低だ。人の道に反するクズだ。だらしのない行為を嫌悪していたはずが、どいつもこいつも外堀ばかり埋めてくる。

 サクラさんもこんな感じだったのかなぁ。


「どうするのよ? クランとは別れないんでしょ?」

「それどころか、この二人に関してはクランから推薦された。社会集団やコミュニティを支配する倫理的な心的態度において、俺の選択が気色の悪いってのは一般論だ。だから尚の事、彼女の真意に確証が持てない。先の報告にあったと思うがヘリアンサス陛下との契約については散々だった。一歩間違えば首が飛んでいた。無論、逆の立場なら脳が破壊されていると思う。その点は苦労を強いたと思うが、後悔こそ侮辱だ。だから尚更。もうね、女の人怖い。女の子怖い……。」

「貴族ならあり得るけど、サツキが(ひそみ)(なら)うとは思えなかったわ。なのに第二夫人、第三夫人として迎えるって違和感しか感じなかったのよ。よくそんな条件を――ああ、そうね。冒険者サツキ。貴方、公国につけ込まれたわね」


 はっきり言ってくれる。

 そりゃオプチミストじゃないけどさ。


「王族との交渉なんて、普通は冒険者の業務に無いよなぁ」


 例えば、商社財務と経済戦略で勝負をしても、付け焼き刃では同じ土俵にすら上がれない。なので、物理的に可能な範囲に落とし込めるかが肝だった。


「でも貴方だけを責められないわ。これはベリー辺境伯家の失策ですもの。だからあの子は落とし前を取ったのね」

「そんな家の都合で、息女が膝を折るなんて事があります?」

「答えをワタクシに求めるのは不誠実よ。自分で考えて?」


 俺の為か。

 なら、一度はドクダミ伯爵の婚約者になったのも――いや、五重塔の時点で既に?


「思わせぶりに言ってくれますね。腹いせですか?」

「彼女の友人としてのお節介よ」

「なら感謝します」


 謹んで礼をする。

 どうやら、俺が復讐しなくちゃならない人物が居るらしい。


「それで、ここからは提案の話になるけれど、冒険者サツキ。ワタクシが第四夫人に収まるというのは――。」

「その懇請(こんせい)には確約で答えられない。不確定要素が多分にあるが、既に推挙する人がいるんだ」

「女の子みたいな可愛い顔してなんて貴方の性欲どうなってんのよ!!」

「まだ手は出してないよ?」

「まだ?」


 抜かったわ。

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