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383話 恨みの検証

書きだめが無いため、更新が週一になっております。

あと、もう何書いてんだか分かりません。

 視界が翳るのと、呼吸の阻害を感じたのは同時だった。

 頬を、なんぞぬっちょりする感触が這う。そして、女性独特のこの匂い。


「娘の桃尻と侮ったのが運の尽きよ、冒険者サツキ」


 背後から俺を拘束するのは、先ほどのメイドだ。穢れを知らぬ瑞々しい太もものメイドだ。

 そして俺の顔を覆っている物。おそらくパンツだ。彼女のパンツだ。

 ただのパンツじゃない。

 ぴとりと張り付く感触――相当濡れている。もうグッチョリだ。


「お前は、五日前に採用したメイド」


 ハンゲショウさんも身構える。って、殆ど新人じゃねーか!!


「……サツキくんを……どうするつもり……?」


 クランがカトレアさんを庇うようにはだかった。杖は俺のストレージの中だ。伯爵の会談で武器の携行は許されない。お茶会と侮ったツケだ。


「差し当たり、私のパンツの虜になってもらおうかしら」

「……貴女は……何者?」

「え? 存じないのですか?

「……うん」

「そうですか。正体が看破されたわけではなかったのですね。スカートの中を見られたから、てっきり」

「……うちの旦那が……何かごめん。後で言っておくから……。」

「いえ、いえいえ、むしろお礼を言いたいくらいです。お陰で、ほら、こんなに濡らしてしまって」


 俺の顔に掛かる圧力がグッと強まった。

 いかん。

 充満する酸っぱい香りが、次第にクセになってきた。


「さて、私ですが――この男に恨みのある女冒険者です」

「サツキくん……何やったの?」


 ほら見ろ、矛先が完全に俺に向いた。


「冒険者なんてどこかかしこで恨まれてんだろ。俺が知るか」


 まずいな。女のパンツの中が蒸れてきて、呼吸がしづらい。呼吸は即ちステップに通じる。こんな手段で踊り子スキルを封じにくるとは!!


 ……。

 ……。


 え? 凶器の携行を禁じられて、これしか得物が無かった? あ、うん、だよね。

 ストレージのアイテムを出そうとして、流石に空気を読んだ。

 女の子が自分の履いているパンツを使ってまで復讐を遂げようとしてるんだ。流石に自分だけ武器は出しずらい。


「なんて事を。よもやメイドのパンツが暗器になろうとは!!」


 ハンゲショウさんも手をこまねいている。


「今後は、業務中のメイドはパンツの着用を禁じねばならないのか!?」


 他のメイド達が「ええ!?」ってなった。どんなセクハラ伯爵家だよ。


「上書きしなくちゃ……サツキくんを……私で上書きしなくちゃ……。」


 いそいそと、クランがドレスの裾に手を差し入れる。

 お茶会(TPO)に合わせドレス姿に着替え(換装し)ていたのだが、これでは脱がした時の楽しみが半減する。

 さらに、俺の顔を覆うパンツに力がこもる。


 ……もはやここまでか!!


 青菜の塩の体となり観念した時、趨勢(すうせい)は新たな局面を迎えた。


「ふぐぅっ!?」と背後のメイドがくぐもった呻きを上げたのだ。

 クランじゃない。

 クランはまだ膝の所までパンツを下ろした所だ――だから何でオメーも脱いでんだよ!!


「な、何者ですか!?」


 刺客のメイドも意外だったのだろう。

 肩越しに見ると、彼女もまた女性モノのパンツで顔を覆われていた。ビビった。クロッチの所からフーフーって苦悶の呼吸を漏らしている。怖い。鬼面人を脅す。いや違うか? ん? あ、さっきから俺もこんな感じか。


「何か、サツキさんがピンチのフリをして喜んでおられるので出遅れてしまいましたが、これ以上はどうぞお手柔らかに」


 静かに流れる娘の声は、ガーベラさんの物だった。


「お前は、ニ日前に縁故雇用したメイド」

「だから何で新人を側に置いちゃうんだよ!!」


 客観的に見てどうなのだろう?

 女の子のパンツで顔を覆われた俺。その背後で別のメイドにパンツで顔を覆われるメイド。嫌な連結だな。


「まさか……これが伝承にある……ムカデ人間」


 どこの伝承だよ!!


「ぐぐ、私にパンツを被せるメイドを潜ませていたとは、まんまとやられてしまいました――はっ、どういう事!? 女の子のパンツなのに匂わない!? むしろフローラルのいい香りさえ感じる? 一体何者です!?」

「嗅がないでください。恥ずかしいので」

「そんなはずはない!! 女の子が朝から履いたパンツが匂わないなんて、そんなはずは!!」

「私、その、男の子ですので、ご期待に添えられず」

「男の子!? 男の子なのに少女のようなパンツを履いているというのですか!?」


 待ってそれは俺にも被弾する。いや俺の場合はある意味強要されてだな……。


「案外、収まりは良いものです」

「ならば納得です」


 何でだよ。


「この勝負、私の負けです。煮るなり焼くなり、お好きになさい」(スーハー、スーハー)


 何でだよ。


「だから嗅がないでください」

「もう少し、もう少しこのパルファムを!! ああっ!!」


 地獄絵図だな。




「自分語りをさせて頂きます」

「……おう」


 クランが頷くが、尺が足らないので手短にお願いしたい。


「そこのサツキは、義兄の仇なのです。」


 終わっちゃったよ。


「……ですって?」


 俺を見るな。


「心当たりなら幾らでも。だが猜忌(さいき)を受けようと、俺から人を陥れて略奪する事は無い。善美であれは苺さんの教えだ」

稟性(ひんせい)を……辱める事は……パーティでも忌避された……悪道をこれよしとする冒険者であっても……。」

「なら俺たちも一緒に考えてみようか」


【証言1】

「義兄は、ギルドの受注記録の後、足取りを消したのですが、その捜査線上に、そこの冒険者、サツキが浮上したのです」

「ならダンジョン探索でぶつかったか。ダンジョンならモンスター討伐やアイテム探索で他のパーティとも競合が発生するからな。その際、戦闘になる場合もあり得る。すぐ分かったじゃないか」

「それが違うんです」

「何が違うというんだ?」

「義兄は任務の前に、あるお店に行くと言っていたのです」


【証言2】

「義兄は、慎ましい胸の女の子が居るオッパイのお店に行くと言っていたそうです」

「ならお気に入りの子でぶつかったか。慎ましい胸はステータスとも言われて久しいからな。同好の士と予約がかち合っても仕方がない。何だ簡単じゃないか」

「待って……サツキくんがそんなお店に出入りしてたなんて……私、聞いてない」

「え、ボク全然行った事ないよ?」

「……同好の士……。」

「馬鹿だな。俺はクランのおっぱいさえあれば世界が滅んでもいいとさえ思っている」

「……サツキくんのえっち……知らない」

「あの、イチャイチャしている所すみませんが、それが違うんです」

「……サツキくん……私を謀った?」

「違くないよ!! ずっとクランの胸を揉んでたいって思ってるもの!! 竜の王に世界の半分をやると言われたら右乳か左乳か答えが出せないと思う!!」


【証言3】

「それで、どう違うんだよ?」

「義兄は、その後、軽い足取りでクエストに向かい、その先で個人商隊を誘拐犯であると謀られ、強襲作戦に参加したと」

「先に言えよ!! じゃあオオグルマへの移動中に襲ってきた連中だろ!! 俺がクランのオッパイについて話していた時、どんな気持ちで聞いていた!?」

「ベリー辺境伯夫人はたわわとお噂なのに、遺伝しなかったのかなと」

「……これから育つもん」

「育たんでいい」

「姉が言うには」

「お姉さんが言うには?」

「自分の胸が豊満なのに、ちゃっちゃいのが好みだったなんて、ずっと騙されてたんだなと」


 寧ろ、旦那さんが騙されて晒し首になってるのだが。


「ひとまず、オッパイの話から離れてみてはどうだろうか。禍根を究明する材料はもう充分なのだろう?」


 ハンゲショウさんが水入りにしてくれた。流石だ。

 それで、どこまで話そうか。

 復活したとはいえ、マリーの死は気分が悪いな。




「サツキさんへの仇討ちとは、姉上の要望なのかね? 仔細を聞いたばかりの三者としては、梼昧(とうまい)な行為に伺える。君の独断なら当事者同士の擦り合わせを優先すべきだろう」


 ハンゲショウさん、つくづく正論をぶつけてくるな。


「伯爵……本来なら、この場で手打ちにすべき……。」


 クランがゆらりとメイドに影を落とす。

 彼女に感じたことのない気配を察したのだろう。案ずるようにハンゲショウさんが俺を見てくる。


「商業ギルドの大手であるパイナスが被害届を表明したんだ。惻隠(そくいん)を与るのは被害にあった個人商隊だよ」


 びくん、とメイドの肩が跳ねる。

 話し合いの余地は無い。行商人を襲い返り討ちにあった。実行犯の大半は晒し首。冒険者達の遺族に本来支払われる『見舞金』も差し止められた。

 まぁ、言った本人がその書類上の被害者なんだけどさ。


「南方共和国の工作活動に巻き込まれたのは不憫に思うが、その恨みはアザレア侵略に暗躍する連中に与えるといい。確か、主犯格はどこかの貴族子息が生け取りにしたって聞いたけど」


 貴族のボンボンがエボニーミノタウロスの剣を振り回してたって話だ。見所のある若者だと感心したものだ。


「私達に手が出せるものですか」

「俺が君の義兄と関わった根拠は?」


 公式には商隊護衛は死亡扱いになっている。サツキの名前はオオグルマ以前には記録に無い。


「斥候や情報戦に特化したメンバーは参戦しなかったから。馬だって安全に逃さなきゃ」


 確かに、レイド戦なら後方支援ぐらい居るか。見逃してた。

 通りで、オオグルマで俺を追撃してきた冒険者が居たわけだ。

 黒衣の美影身の胸に抱き締められたあの夜だ。


「……なら……その生き残りが証言したのね……お兄さんが、『慎ましい胸の女の子が居るオッパイのお店に行く』……と最後に残したと」


 何でその店に拘るの?


「いえ、姉が直接言われたそうよ」

「チャレンジャーだな君の義兄!?」


 そいつ、本当は俺に辿り着く前に奥さんに始末されてないか?

 しれっと俺のせいにしてないか?


「サツキくんは……人の事は言えないと思う……。」


 そしてまた俺に被弾するのか。


「サザちゃんは美乳……バーベナ様はたわわん……最近、イチハツちゃんでさえ成長が伺える……。」

「ですが、サツキさんの性癖ど真ん中はクランお嬢様と存じます!!」


 今まで沈黙を守っていたガーベラさんが余計なことを言い出した。

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