38話 紺碧染まりて止り木に
ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。
すみません、女装した変態とサイコパスな変態がいちゃいちゃするだけの話しです、すみません。
※運営殿からの警告措置を受け、2021/3/20に26話~41話を削除いたしました。
このたび、修正版を再掲いたします。
黒々とした木々の合間を抜けると、若草を敷き詰めた曠野が残光に照らされていた。
クロユリさんから貰った地図だ。正確で助かる。
フードを外し遠くを見た。山間はのの様の凋落に舐めるように紅く染まった。
いずれ世は薄暮に浸るだろう。
馬車を止め、スカートを気にしながら静かに降りる。
マリーの真意。常に楚々とした振る舞いを心がけろって事だ。普段から出来ないものが、いざと言う時出来るわけが無い。
なるほど。若い奴らに聞かせてやりたい。
「随分と、開けた所ですね」
馬車から降りたマリーが辺りを見回し眉を顰めた。
だろうな。
視界はいいが、キャンプを張るには目立ちすぎる。
「大き目のを選んだから場所が要るんだよ。この子に加え如何にも怪しい馬車だ。これ見て襲撃しようって骨のある野盗や魔物なら歓迎もしよう」
「私も以前は特大サイズのテントを使ってましたけど……。どのみちテントですから、何かと手狭でお互い密着することもあるでしょう。色々見えちゃったり、添い寝したり。揉んで揉まれて色々あって任務完了。ぐぅえっへっへへへ」
「……あの、一応、女の子同士って設定だよね?」
少し不安になる。
「ご心配に及びません。ノンケでも食っちゃう主義です」
俺の中の不安が超新星を起こした。
「いや、期待に添えずに恐縮だが、密着にはらんな」
「ですが一つのテントに二人きりです。ならない道理がありません。頑張っていきましょう」
こんな酷いオプチミズムは見たことが無いな……。
「その議論は拠点の後だ。さっさと仮設小屋を展開するぞ」
「はい、テント立てるの手伝います――え? 仮設、何?」
ストレージから購入した物を出す。
せっかくだし、複数人での利用を念頭におき、カサブランカの不動産より即日仕入れた――二階建てログハウスだ。
「って、何事ですか!?」
マリーが悲鳴を上げた。
「こんなの、どこに隠し持って居たんです!? 普通のアイテムボックスじゃ容量オーバーですよ!? ていうか、家ごと旅するとかサツキさん、正気ですか!?」
女の子に気を遣って選んだのだが、酷い言われようだな……。
仮拠点化は、グリーンガーデン時代にサザンカやクランに苦労を掛けた経験によるものだ。冒険者とはいえ年頃の女の子に野宿やテント暮らしは、何かと不便を掛ける。
「風情に欠けようが使えるものは使う主義なんだよ」
「使用の可否の問題じゃないですよ!!」
あ、そういう意味じゃ無かった。
せっかく転移の女神が授けてくれたスキルだ。有効活用せにゃ彼女も報われまい。
「1階は大広間と2部屋。2階は4部屋あるが、マリーはそこを使ってくれ。部屋を決めたらベッドや家具を配置する」
「……サツキさんは?」
「1階を使うつもりだが広間のソファが大きいからそこでもいいかもな」
「返して!! 私のドキドキ密着タイムを返して!!」
酷い言い掛かりだ。
「そんな事よりほら、先に入って間取りを確認してくれ。俺はコイツで周囲を囲むんだから」
「今度は何を出してるんですか?」
「え? 柵だけど?」
「柵!!」
「防犯上有った方がいいだろ?」
「防犯!!」
何言っても反応してくれる。なんか面白いなコレ。
「ほんとマリーは可愛いな」
「マリー!!」
あ、自分の名前の方に反応するのね。
「――じゃ無かった!! か、か、か、かわいいとか、何言ってるんですか!? そんな……か、かわいいとか……かわいいだなんて……初めて、言われちゃった。可愛いて……えへへ」
冗談とは言えなくなった。実際可愛い反応だったし。
ちょっと困った所もあるけど、賑やかで、明るくて。一緒に居て楽しい。妹が居たらこんな感じなのだろうか。
「入る時は靴脱いでスリッパに履き替えてくれ。分かるかな?」
「スリッパ!!」
「いや、それはいいから」
「あ……はい。えっと、大丈夫です。故郷でもそうしてましたし」
「北方の職人国か、東方の帝国?」
「はいキクノハナヒラクです」
「そういや、あのカツオブシは相当の業物だってクロユリさんも言ってたな」
魔王の四騎士がその価値を認める職人芸か。
「お爺ちゃんが作ったんですよ。お昼のお味噌汁にも使ってました」
「あぁ、あれは相当に美味かった」
俺は会心の笑みを浮かべた。
「気に入って頂いて嬉しいです!! じゃぁ、これから毎日お味噌汁は私が作りますね!!」
「よろしく頼みます」
「えへへ」
「ふふ」
「……。」
「……。」
「え、えぇと、じゃ、じゃあ先に間取りを見せてもらいますねー」
「俺も柵、設置していくかなー」
何だこの空気? こそばゆい。
とててて、と照れ隠しのように小走りで走っていく小さな背がピタリと止まった。
何か逡巡するような仕草の後、振り向いた。
「サツキさん。既存の価値体系やそこから生まれる権威を否定することは危険な行為だって、私がそうですから分かるんです。だから愧赧にご自身を許せなくなりませぬよう、どうか……。」
一見して立て板に水のようだが、なのに。
上唇をちょっとだけ噛み締めた切ない顔が、夕日に色づいていった。
「暮れかかるむなしき空のせいか」
思わず声が出た。
家へと駆けて行く背中が、新婚の新妻のようだと不覚にも感じたから。
「? どうしました?」
「あ、いや、伝え聞く秋というものを、見ておぼえずたまる袖の露かと。そんな風にな」
マリーは数瞬、困ったように視線を漂わせた。
「……何を思い出したのか分かりませんが」
「気にするな」
「あまり、私の言葉を気に病まない方がいいですよ」
何も思い出せない俺に、それは残酷だよ。
柵は杭形式で先端を地中に埋め込むが、地上部は俺の背丈ほどあった。ストレージから取り出す際に必要分を予め埋め込むのでサクサク設置できた。柵だけに。
見上げると、1階の広間と2階の一部に灯りが燈った。
ふふ。その部屋が気に入ったか。
……。
……。
え? 何で今同時に点いたの?
いや、まぁいい。マリーのやることだ。俺の知らない理が働いたのだろう。
柵の内側。
ログハウスとの面積は10メートル余り。その空間に罠を仕掛けていく。捕獲用と警笛用だ。
迎撃用も持ってるが、地上向けは殺傷力が高すぎて使い物にならん。不測の事態で助けを求めた冒険者を爆殺したら洒落にならんから。
なので、その使用は対空用に留めておこう。
後は、アセビが夜中に引っ掛からないようにせんとな。
見ると、興味も無さげに草むらに座り込んでいる。あ、そうっすか。
十全の備えを済ませ、アセビに夕食を配膳してからログハウスに向かった。
換気口から白い煙が登っている。こっちも夕飯の準備に取り掛かったようだ。
……これはこれで目立つな。
正面玄関から入り施錠する。鍵、アイツにも渡しておかないと。
「お疲れ様でしたぁ。今ご飯の用意をしてるから先に汗を流して来て下さいね」
ぱたぱたぱた、と迎えに出たのは部屋着用のニットにエプロン姿だ。
本当に幼妻みたいになってきたな。黙っておこう。さっきの空気は微妙だった。
「いや手伝うよ」
「大丈夫ですよ? 拝見したところ浴室もありました。お湯を張ってますので頂いちゃってください」
「君はお嫁さんか!!」
あ、しまった。
「? あはは、何ですかそれ?」
「いや、すまない。ついうっかりツッコミを」
「もう、サツキさんてばおかしいの。さ、私は鍋の方見てますので」
どうやら気にして無いようだ。
元見合い相手に言う事じゃ無いな。
そう言えば、まだ婚活中なのだろうか?
「オーケー、なら今のうちに上を整えよう。さっきの部屋でいいのか?」
「え? あー、灯り点けちゃった所ですね。はい。とても素敵なお部屋でした。雨戸を閉じずに点けたのは迂闊でしたね」
しかめっ面をして見せる。
遠目に何か有るって宣伝してるようなものだからな。
「じゃあベッドや寝具はそこでいいな。一応、テーブルと椅子も揃えたが、必要な物はオオグルマで揃えよう」
「そんなに沢山……十分です。あの、相当掛かったのではありませんか?」
「気にするな。俺のために安住の地を旅立たせた形になったんだ。これくらい」
「嬉しいです。マイベッド、前のてんやわんやでテントごと放置してきちゃったから」
……何やらかしてきたの、この子?
「じゃあ、そちらが終わったらお風呂どうぞ」
「ああ、ならお先に頂こう」
無碍に断る事も無いだろう。
階段前で別れ際、振り返った。
小さな背中。
ちらりと見えた横顔。
「……お、お嫁……さん……ぴゃ」
紅潮させ、ぴょんぴょんしていた。
あ。ほんと、すんません。
お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。
あと二話ほどお泊り編が続きます。
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