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377話 プランB(ヒマワリ偏)

 一席終わると室内は拍手に沸いた。スタンディングオベーションである。

 お後がよろしいようでって、むしろお後が詰まってる。


「初代公王がシュンプウテイの転生された神子というのは、伊達では無いな」


 俺の隣の大臣が唸る。

 そんな伝承があるのか。

 議長が再度一同を見回し宣言する。


「では、これにて閉会」

「待てや!!」


 会議はどうした? これお爺ちゃんの寄り合いだよね?


「この時間、何の時間だったんだよ? 敬老会なら俺要らないよね?」


 老人たちがジロリと睨む。

 しばし、無言だったが、立ち上がりかけた椅子に座り直した。

 嫌な間だな。


「そうだった、そうだった」

「肝心な事を忘れておったわ」

「お主もボケたのう」

「何を言う。お主こそ」

「陛下のお噺しがいつにも増して熱が入っていたのでな、つい聞き込んでしもうたわ」

「ほんにのぅ。まさか全編お噺しになられるとは」

「危うく誤魔化されるところであった、お嬢」


 最後のセリフは閉会を宣言した議長だった。

 大丈夫か、ここの重鎮?


「では議題に入るが、陛下? 大丈夫ですかな?」


 振られて、湯呑みを傾けていた陛下が()せる。

 何だろう? 宝物庫に同伴した時とは違う。緊張してるのか?

 構わず議長が進める。


各々(おのおの)がたには通達しているが、本題は、姫様の王位継承式典の日程と準備ならびに警備体制についてである。国を上げてのセレモニーとなるので、九牛の一毛たりとも怠りの無きよう意見を交えたい」


 継承権の隠し玉なら分かるが、式典てのは初耳だ。内外に告知する事で王政の健在を示すパフォーマンスか。


「周知の通り、お披露目の(のち)の戴冠式まで猶予は無い。政務の移行も鑑み議会は当面継続するとして――。」

「聞き捨てなら無い言葉が出たぞ!? 流石にしれっと通すのは無理だよね!?」

「ちっ」

「おい!!」


 王政を盤石にするのに異論は無い。血統的な継承候補を立てるのも分かる。

 だが、なし崩し的に王座に据えようってのなら別だ。

 無感情な老人達の視線が一斉に降り注いだ。


「何かご不満かな、姫様の婿殿?」

「いずれは王配となられる方だ。要望があれば承ろう」

「国民の前で誓いのキッスなら既にプログラムに入っているので安心召されよ」


 余計なものを入れてんじゃねーよ!!


「もっとも若い二人だ。気分が盛り上がってそれ以上の事となると流石に……。」


 やらねーよ!! どんな変態だと思ってんだよ!!


「誰が愛する人を衆目に晒すか。キッスも無しだ――じゃなくて!!」

「我が公国の民ならば、舌を絡めるくらい目を瞑ろう」

「配慮するなぁ公国の民!! だが俺が言いたいのはそれじゃ無い!!」


 玉虫色の答弁は勘弁だ。


牽強(けんきょう)付会を見せつけて、言い分が通ると思っちゃいないだろ? 戴冠の儀ってのは彼女を拘束する意図有りと受け取るが?」


 自分でも意外なほど、静かな声だった。

 憤りの真意に戸惑うが、虫唾が走るのは確かだ。

 ベリー家にしろヴァイオレット家にしろヒマワリにしろ、どうして気安く女を政治利用できるんだ。


 ……。

 ……。


「って、利用されるの俺もか!?」


 昨日からやたらと婿殿を強調してくると思ったよ!!

 俺もか!?

 王配とか言っちゃってたよな!!

 ヘリアンサス女王が悲しそうな瞳になる。気づいてしまったのね、と。


「いや、いやいや、SSランクの爵位持ちってったって、所詮は冒険者だよ!?」

「ならば……姫様とお別れになるがよろしい。いずれにせよ王家の存亡が掛かる以上、姫様を返して頂く以外に他は無い」


 宰相の言葉に、老人達が一斉に「そうじゃそうじゃ」と唱和した。


叛意(はんい)は無いが、いずれにしても俺の一存では決めかねる。本案件は持ち帰り熟考の上、改めて返答させて頂くが」

「考える余地などないと、まだ分からんのかね?」

「だと思ったよ!! どうせ強行に出る気なんだろ!?」

宏謨(こいぼう)の前の小事(しょうじ)と溜飲を下げてもらえれば」

「スッキリすんのあんたらだけじゃん!!」

「つまり、サツキ殿もスッキリしたいと」

「違ーよ!!」


 いや違くは無いんだが……。


「ヒマワリだって壟断(ろうだん)は避けたいでしょ。立場が複雑なのは俺の方だ。アザレアに限らないのは女王陛下もご理解頂いていると思ったが?」


 こんな場面で出生を持ち出したく無いが。この借りは高いぞ。


「実のところ戴冠に猶予を作る策がある」


 宰相の言葉に、一同の視線が言った本人では無く女王に注がれる。


「姫様もお心変わりをすることもあるでしょうが、国を取るか伴侶を取るかの選択を迫りたく無いのは皆同じだろう」


 それは意外だ。

 バーベナさんへの態度は俺に直結する。クランやイチハツさんをダシにヒマワリ帰化を迫るぐらいは覚悟していたが。


「ならば、プランBしかあるまい」


 びくん、と女王が反応した。

 ああ、この流れになるから全員の視線が集まったのか。

 って、何かモジモジし始めたぞ女王!?


「我が公国としては純然たる王家の血脈を重んじる。姫様がご納得頂かないのであれば、次世代を担うお世継ぎの御生誕まで王家が存続すればよろしい」


 それって、俺とバーベナさんの子を王位継承第一位にするって事か?

 それこそ俺の一存では確約できない。


「即ち、女王陛下が真のお世継ぎを出産するまで、我らは命を賭して今度こそ王家をお支えすのだ!!」

「女王が産むのかよ!!」


 それで様子がしおらしかったのか。

 やたら目線を逸らしてたもんな。


「いや、いや失礼。ヒマワリの貴族を王配に召し上げれば、ゆくゆくは存続も可能か」

「お嬢は、こほん陛下におかれてもまだ38歳。まだまだ行ける」


 言っちゃったよ宰相。バーベナさんと14歳差だよ。


「行けると思わぬかね、サツキ殿?」


 再び、先ほどの圧が襲う。

 老人のものとは思えない鬼気迫る気配だ。


「だからヒマワリの貴族に候補ぐらい居るでしょ。何で俺に水を向けるかね」

「仰せの通りじゃ。王族は数を減らしたが貴族諸侯は健在であり、次期王配候補の名乗りをあげる者も多い」

「居るじゃん――あ」


 頭を抱えそうになるのを踏み留まる。努めて感情の表面化に抗った。


「気づいたようだの。皆、婚約者候補として準備を怠らなかった所に、どこぞの冒険者が横からかっさらったからのう。恨みもひとしおだろうて。この中にも縁者はおるぞ? 容易く納得されると思うでない」


 次期王配ってバーベナさんの婚約者候補じゃん。

 縁談が破談になった上に、その母である女王と子作りなんて、流石に強要はできないよな。


「しかしのう。ヘリアンサス陛下は、ワシらにとっては娘みたいなものでの。見目麗しくも愛らしくもあり、その魅力は有り余る。一人の女子(おなご)として絶賛花盛りじゃ」


 言われて女王が真っ赤になり俯いてしまった。何だその可愛い反応は。何だ。

 そこまで持ち上げるなら尚のこと貴族令息で受け入れるヤツも居そうだが……駄目か? みんな姫様ラブか?


「ときに、先ほど陛下に導かれ宝物庫へ入ったようだな、サツキ殿?」

「お、おう?」

「こちらの情報では、実に60秒に一度の割合でお嬢の臀部をチラ見していたようだが?」

「それガン見の域だよね!? え、監視されてたの? そりゃ冒険者と女王を二人きりにするのは、思い切ったと思ったけど」


 まさか、股間に息を吹きかけて悶絶させた所も見られてないよな?


「よく確認出来なかったと報告にあるが、何でもお嬢にスカートを捲らせて股の間に顔を埋めたとか」


 見られてたよ!!


「誤解だ!! 確かに肺いっぱいに匂いを吸い込んだり、透けて見える茂みを脳内に焼き付けたけど、息を吹きかけただけだから!! パンツすら脱がしてないから!!」

「馬鹿な!! 脱がされもせず触れられもせずに、くてんとなる女がどこに居る!!」


 もうやめてあげて。ヘリアンサス女王が泣きそうになってる。


「さっきも言ったが壟断(ろうだん)を警戒するなら安易な伴侶選びは避けるべきだ」

「安易なものか。お嬢の尻を欲情した目で見れる貴重な検体だぞ」

「ワタクシのお尻とは一体……。」

「お嬢、言葉の綾ですじゃ」

「待て、俺で何の実験をする気だ?」

「ある筋から貴重な証言を得た。冒険者サツキは一晩で10回も注挿を可能とした特殊体質に変容すると」

「俺、死んじゃうよ?」

「ワタクシも死んじゃうわ?」


 誰だそんな証言したヤツは。

 それだってスイレンさんの秘薬があってこその話だ。


「ならば月数度、王城に招集し励んでさえもらえば、如何にお嬢とて今年には妊娠確実というもの。やって見る価値はあると思うだろう? な?」


 返事に困る。


「俺が廃位(はいい)を企てるとは思わないのか?」

「ならばアザレアとの同盟は御破算だな」

「内政を牛耳るのとは話は別だ」

天網恢恢(てんもうかいかい)(てんもうかいかい)疎にして漏らさずとは言ったものだ」

「一番肝要な事だが」

「ふむ」

「女王陛下に俺は相応しく無い。身の程くらい弁えてるよ」

「栄典に授かった烈士であればその資格はあろう」

「こらこら勝手に殺すな」

「ちっ」

「おい!!」


 だから出来レースに巻き込まれるのは嫌なんだ。答えありきじゃねーか。


「サツキ殿は……娘の方がいいわよね。こんなおばさんじゃ視姦かせいぜいオカズにしかならないわよね」

「意外と自己肯定感が高かったよ!?」


 その含羞に染まりながら探るような瞳で見てくるのは反則だ。

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