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371話 厄災級

 騎士隊の第一陣が出撃に向けて隊列を築いた。

 騎士だけでは無い。衛兵や魔法使いも含めた実戦配備だ。クランも上位士官のマントって事はあちら組だろう。


「何も無いで済むなら懸念はないが、見つからないならそれで数日の遠征の可能性もある。無駄に消費される人件費や兵糧、飼料、水道光熱費、備品の損耗を考慮すると頭が痛くなるな」

「わ、私のせいで国庫が……。」


 うん、由々しき問題だ。


「よもや王女の野外プレイ一つで財政がどうなるとも思えんが、余分な支出は回避するに越した事はない。話しに乗るかい?」


 俺の皮肉めいた言い方に、三人の娘が眉を寄せた。


「まさか……私たちに野外でしようって……わけ? あんな大勢の前で……?」

「そんな!! 公衆の面前に痴態を晒すだなんて、わたくし……わたくし……駄目、想像しただけで!!」


 何でそうなる? それとイチハツさんはちょっと待て。


「要は原因の排除が確約できればいいんだよな」

「私が、サツくんにお尻を責め立てられる所を――。」

「違うよ?」

「……昨夜……声を出し過ぎたせいで……上手く鳴けるか……。」

「それも違うよ?」

「もういっそ、この場でわたくしたちを召し上がって頂ければ、出陣の手間も省けるのでは?」

「頭のおかしい人だよ?」


 駄目だこいつら、人の話を聞きやがらねー。




 未知の魔物討伐を目的とした編成隊なら、目的のものを排除してやればいい。簡単な話しだ。


「斥候より!! 標的と思しき幻想系魔物を捕捉!! 観測に入ります!!」


 伝令の声に、討伐隊に緊張が走った。

 マップを持った士官が伝令と詳細位置を擦り合わせる。山狩なのに横に隊を広げないのは指揮命令の伝達重視だからだ。目標を確認したのちに後続が左右に展開して囲いを作る手筈になっている。


「中央30騎、先行し合流する。他分隊は等間隔で隊列を維持。サツキ殿?」

「俺とクランもそちらの指揮下に入る。一番前だ」


 随行したのはご覧の二人だ。バーベナさんとイチハツさんには仕込みに回ってもらった。第一段階はこなしてくれた。


「恐れ入る。だが無理はなさらぬよう――本隊前進!!」


 そして森を分け入ること30分。斥候と何事もなく合流を果たす。

 大所帯だと結構掛かるな。


「標的に動きナシ。自軍への警戒ナシ」


 先程、中庭で声を掛けた兵士だ。

 指揮官は黙って隊に合図を出し、更に前進した。

 間も無くその足が止まる。

 誰一人声を上げないのは、流石は公国の精鋭というより、ただ息を呑んで言葉を失っただけだ。


 ――その魔物は、異常な姿をしていた。


 全員の視線が集まった。

 お陰で、隊に紛れてクランに近づく人影に気づくものは居なかった。

 昨夜の若いメイドだ。ナズナさんと言ったか。


「火急的にご報告の儀が御座います」

「……分かる。私も……カサブランカでやらかした……。」


 それで俺たちが見ている物の正体が判明した。

 魔物の姿、端的に言えば所謂ヒュドラだ。多頭竜だ。

 首は三つ。それぞれ水色、赤、オレンジだ。

 不思議なことに翼が何枚もある。あと、足と尻尾も。


「多いですな」


 指揮官が思わず呟いた。

 そうか。やっぱ多いか。だよな。多いよな。

 三体のワイバーンが体を寄せ合い必死に一体に見せようとする姿は……つい学芸会を見守る親目線になってしまう。

 やばい。思ったよりも可愛いな。

 いや、それより気になる物があるのだが。

 橙のヤツの角に、見覚えのある布地がぶら下がっていた。


 ……。

 ……。


 何で履いてなかったんだよ!?

 脱がせたのは俺だ。確かに突き出されたヒップからこの手で脱がせた。

 そして二時間後。彼女が再びそれを履く姿を確認していなかった。

 それが今、あんな所にぶら下がっている。


「幸い、アレが何か誰も気づいてないな」

「ですが、時間の問題かと」


 ナズナさん、それを知らせに討伐隊に紛れ込んだのか。バーベナさんも何の伝言任せてんだよ。


「あそこにあるあれが、バーベナ姫様の秘所で濡れに濡れたおパンツなどと、家臣に知られる訳には参りません」

「分かった、分かったから、落ち着け」

「秘所に滴る蜜――故に、秘蜜(秘密)なので御座います」

「上手い事言った気でいるなよ!!」


 思わず声を荒げた。クランが踵を蹴って注意してくれた。


「大体、お姫様がノーパンでその辺ウロウロしてる方が問題だろ」

「直ぐに連戦になる可能性を考慮してとの仰せでした」


 それ、俺が頑張るヤツだよね?


「ひとまず承知した。クラン、シナリオを変えていくぞ。合わせろ」

「……もう片方に……私のもあれば、シンメトリー……。」

「何でシンメトリーにしようと思った?」




「指揮官、あの魔物は厄災級だ」


 俺の一言に、騎士隊上長クラスが一斉に見た。


「複数の魔物の集合体に見えるが?」

「集合してどうする」


 ワイバーンの存在は女王と一部の大臣にのみ周知している。外部では冒険者ギルドぐらいだ。アレがうちの子とは思い至るまい。


「確かに、整合性のある分析だが、一種の近代的アートにも見えるぞ」

「同感だな」


 いかん、誉められた気がして同意しちゃった。


「あれは厄災級の……キング・ヒュドラ……まさかこの目にするとは……。」


 クランがアドリブで変な名前を付けてきやがった。もう、後には引けない。


「何と!! クラン殿、まことでござるか!?」


 どうしてそっちはすんなり信じるの? どうして?


「かつて……古代都市を……滅ぼした……?」


 指揮官の意外な食い付きに不安そうになっていた。コミュ障が。


「ですが、伝説の厄災なれば、首が五本はあるはず」


 待て何だその伝説?


「つまり……変身をあと二回……残している……。」

「何と!! クラン殿、まことでござるか!?」


 大丈夫かここの騎士隊?


「下手に手を出したら……死ぬ」


 クランが大雑把になってきた。


「まさに伝説の通りというわけですな!!」


 おい騎士長、その伝説ほんとなんなの?


「では我々はどうすれば? 下手をすれば近隣の街にも被害が出ましょう。流れるなら我らの血だけで治めたいが」

「ここに……ドラゴンキラーを上回るランクが……二人もいるから……。」


 ずいっと、俺とクランが前に立つ。

「おぉっ」と討伐隊が騒めいた。普通の魔物ならこの時点で気付かれる。あ、ホウセンカとスイセンカはそっぽを向いてるけど、ゼンテイカが俺の方を気にしてる。知ってる人が居て気にしてる。


「そういう事だ。ここは任せて、城と街の防衛に向かってくれ」

「なぁに……私たちの合体技なら……イチコロ……。」


 何故か熱い視線で俺を見てきた。

 え? うん。うん? 昨日のおかわり……だと?


「客人であらせるサツキ殿とクラン殿に任せて退避などできませぬ!!」

「我々もお供いたしやす!!」

「壁にでも囮にでも、存分に使ってくだせえ!!」


 各分隊長まで次々と進言してきた。正直、さっさと引き下がって欲しい。


「卿らの心意気は理解した。今は有り難く気持ちだけ頂戴する。この場は俺たちに預けて欲しい」

「我々では足手纏いと仰せか!!」


 駄目だ。意固地になってやがる。

 クランを見た。

 なんかモジモジしていた。

 え、どうしたの? バーベナさんみたいに? うんうん……うん?


「――ってこれ以上、討伐対象増やすなよ!!」


 この叫びが、全てのスイッチになった。

 思えば、悲しい事故だった。

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