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370話 女性冒険者ならよくある話

 帆翔(はんしょう)で悠々と旋回しながら、ゼンテイカが迫る。

 少しランディングシーケンスが早いな。焦り? バーベナさんめ、ナーバスになってるのか。

 開けた高台の上でも広葉樹が犇めく森林の快哉地帯だ。どうするかと思いきや、新緑を縫う様に橙の輝きは綺麗に着地した。

 器用と言うか、ゼンテイカは小回りが効くんだな。


「浮き足だったかい? 地表への距離感は把握できてると思ったけど」

「上から見えたわ。我が同志との談話?」


 ゼンテイカが首を下ろすのを待ち、バーベナさんがゆるりと降りる。

 ローブの裾が捲れたが、下はパンツルックだった。


「向こうも歩み寄りを求めていたんだ。擦り合わせだよ」

「イシュ―は特定しているのよね?」


 ん、課題?


「完熟訓練の話しでないのは確かだ。初飛行で気が高ぶったか?」


 むしろバーベナさんからその辺を聞いておきたいのだが。


「仲睦まじく見えたから――パパと話があるから遊んできてらっしゃい」


 バーベナさんが命じると、何を感じ取ったのかワイバーンは大ぶりに羽ばたいた。軽く地を蹴りホバーリングする。何か言いたげだったが、こちらを視線に捉えたまま上昇していった。

 その瞳がグドラックとか語りかけている気がした。


「今更だが、ワイバーンってあんな風に言うこと聞くのか?」


 灰色オオカミのラッセル、テキセンシスや、グレートホースのコマクサやアセビも、人語を解するように見受けた。

 いや、彼女の訴えの趣旨は分かるんだ。俺が都合よく使い分けるから。


「イチハツは、抱えている闇が違う」

「それでも、私にはよそよそしいのね」

畏懼(いく)する姿を見ちゃ、俺だって気も使うよ」


 困却はこちらも同じだ。慣れたらそれはそれで失礼な話だ。だからいつも兢々となる。修羅場だ。


「あー、失敗したなぁ」


 明らかに態度が変わった。

 何か間違えたかな?


「先程の科白の通り、私も求めすぎちゃうから、イチハツ様を言い訳に使っちゃったのよ。サツくん、一歩引いて見せたら間に受けちゃうから」


 距離を取ってたのは――まさか拗ねてたの!? そんなに可愛いの!?


「えぇと、昨夜はお楽しみどころか、お預けでしたね?」

「うん、お姉ちゃんそんな宿屋は嫌かな?」


 しくじったのは俺の方か。


「だから機会が巡ってきたと思うと、どうしても欲の皮が張ってしまうのね。あれからずっとサツくんの事で頭がいっぱいよ?」


 目眩がした。

 足元が不確かになる。

 喋りながらバーベナさんが、手近の大木に寄り、幹に手を着き、ローブ越しに盛り上がった肉付きのいいヒップをこちらに向けたのだ。


「だから、ね? 鎮めて?」


 ここでか!! やるんだな今ここでライナー!!


「ねぇ、サツくん?」


 ふりふりさせんな!!


「いいでしょ?」


 ふりふりさせんな!!


「あの、城の部屋まで待てない?」

「待てない」

「少しも?」

「ズボンにまで染み出してる」


 そんな解説いらねーよ!!


「だからって外ってのはな……尻を向けられてるのに俺が追い込まれてる」


 揺れるローブの膨らみから目が離せない。


「よく言うでしょ? 真綿で首を絞めるようだって」

「ツッコミに苦労するから!!」


 どこでどこの首を絞め上げる気だよ!! もっともらしい事で、これを正常性バイアスに掛けるな!!


「ねぇ、ほら」


 更に突き出してくる。

 ふらふらとした我ながら情けない足取りで彼女に近づいた。

 ローブを捲ると、ぴっちりした乗馬用のズボンが出た。

 確かに言う通りの惨状というか、なんかこの時点で凄い事になってる。溢れすぎじゃね?


「いつからだ?」

「……お城で、サツくんと会った時から」


 最初からじゃねーか。そんなんでワイバーン乗り回していたの?


「言っておくが、途中で()めるのは無しだ」

「気の済むまで……お願い」


 肩越しに振り向く火照った彼女の顔を見た時、どうコレを虐めてやろうか、ひとまず鷲付みにした。




 昨夜のクランを見たせいか。

 バーベナさん、凄い声だったな。




 二時間後。

 城に戻ると中庭に騎士隊が中隊規模で整列していた。ヒマワリ公国の上級魔法使い士官のマントを羽織ったクランまで居る。


「何かの予行練習か演習でも始まったのか?」


 近くの兵士に聞くと、


「ハッ!! 裏手の高台で聞いたことのない魔物の鳴き声がしたと通報があり、調査並びに討伐の準備に当たっております!!」

「……。」


 バーベナさんを見る。

 茹で上がったように真っ赤になり、俺の上着の裾を掴んできた。

 ああ、そうだな。あれは聞いた事が無い泣き声だったな。


「報告ではかなり野太い凶悪そうな声だったと。二時間も雄叫びを仕切りに上げた後、咆哮は止んだとの事であります!!」


 あ、バーベナさん、俯いたままシクシク泣き出した。


「では、自分は斥候隊に入りますので!!」


 敬礼すると兵士は走り去った。

 王女殿下が居ることに気づいたが、何も言わないのは身分を弁えているからだ。


「さて、これをどう止めるか。いや、斥候が何も発見しなけりゃいいのか」


 下手に首を挟むのは良く無い。


「サツキさん!!」


 イチハツさんが駆けて来た。冒険者装備のパンツルックだ。


「緊急事態です」

「聞いたよ」

「推定5メートル級の魔獣系魔物が、先程わたくし達の居た森林を破壊し逃走したとの事です。わたくしは先行して上空より偵察に出ます――どうしました我が同志?」


 バーベナさんが膝から崩れ落ちていた。


「ごめんなさい、調子に乗って、ごめんなさい……。」

「何を謝罪してらっしゃるのでs――まさか!?」


 最後の「まさか」は、声を押し殺していた。

 流石、イチハツさん。そっち方面に関してだけは察しがいい。


「え、ですが、お外ですよ? 森の中ですよ? 一国の王女が、どんな風になってしまえば軍部が動き出す程の声を出せるというのですか?」


 イチハツさんが容赦無い。


「ごめんなさい、抜け駆けして、ごめんなさい……。」

「謝罪は結構です。今必要なのは共有です」


 それも違うと思うぞ?


「ごめんなさい、凄く気持ち良かったです、ごめんなさい、何度も飛んじゃいました……。」

「そこの所を詳しく!! もしくは再現を!!」


 食いつきのいいイチハツさんに、バーベナさんは指先で髪の毛をくるくるしながらモジモジしていた。

 そこに、こちらに気づいたクランが駆け寄って来る。


「サツキくん……外さまが後方で目立っちゃ……ダメ」

「食客なら出入りで一番槍を務めるのが仁義ってもんだよな。いや、問題が起きた」


 さりげなくバーベナさんを指す。


「バーベナ様……体調不良……?」

「それもあるが、少し込み入った事情だ。何卒、仁恕(じんじょ)を以て聞いてほしい」

「河海は細流を(えら)ばず……それがいい女って……もんよ」

「惚れちまいそいだ」

「おうよ……。」


 クランには俺から説明した。

 無論、細かい描写は伏せた。イチハツさんが不服そうだった。


「……おおよそは……把握できた……。野外は……女性冒険者ではよくある事。……気に病まないで」

「何冒険してんだよ!!」


 初めて聞いたぞ? え? じゃあお前も? カサブランカの宿屋の女将さんも、その娘シネンシスさんも……みんな外でよくするの!?


「ああ、私と……サザちゃんは……未知の領域。相手が居なければ……始まらない……。」

「俺のせいかよ!?」

「そうでなくても……兄さん居たから……。」


 ワイルドニキのぶっ殺しそうな眼光を受けてまでお誘いする命知らずはいまい。居ても俺たちの知らない所で消されてる。


「だから……バーベナ様……ドンマイ!!」

「クランお嬢様……。励ましのお言葉、大変ありがとう御座います。かくなる上はこのバーベナ。責任を持って、声を上げても気づかれないベストスポットをご案内いたします」


 責任の取り方!!

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