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37話 浅黄道(あさぎみち)

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。

女装した変態とサイコパスな変態がただ一緒にご飯を食べるだけの話です。ご注意を。


※運営殿からの警告措置を受け、2021/3/20に26話~41話を削除いたしました。

 このたび、修正版を再掲いたします。

 荒野を進む漆黒の馬車。その御者台で手綱を取る妖美な影は誰でしょう。

 ボクです!! ボクです!! ボクです!!

 ……いかん、色々混ざった。


 荒原でありながら、熱量が迷子だった。天から照り地から返す真昼の光線にも、暑さが含まれない。

 馬車の中に居るマリーには、


荒蕪(こうぶ)に注ぐ光彩も、サツキさんの﨟長(ろうた)ける光艶(つや)に恥じらったのでしょう」


 とか茶化されたが、車両を引くアセビにまで影響があるのは異常だ。

 表面に塗布した素材すら不明な車両の機能、というのは分かる。が、具体的に何が動作し如何なる効果を目的にしたか、理解が追い付かない。

 その原因と思われる一つが、車内にある巨大な棺だ。

 移動も開錠もできない、芸術的な彫刻が施された黒い棺桶は、薔薇を愛でる小鳥が生き生きと刻まれていた。

 生前の持ち主がよほど好きだったのか、単に芸術的な価値を求めたのか。

 発見時の見立てでは、50年は放置されたと推測した。

 変な子だが目利きはいいと信じている。

 中に何があるのか。

 厳重な封印は、遺体よりも、財宝の入れ物と考えるのが妥当だ。


「じゃあ、どうでもいいですね」

「特に気にすることもないな」


 ま、こんなものだ。

 俺もマリーも、ただで手に入る珍品や奇貨に興味は無かった。

 向かい合わせの豪奢なソファの真ん中に鎮座するので、テーブル代わりに丁度いい程度にしか思わない。多少、彫刻でデコボコしてる程度だが、実際、レリーフの出っ張りがそれぞれ足替わりになり大き目のトレイを乗せるのにいい塩梅だった。


 御者台脇で銀鈴の音色が空気に溶ける。

 呼び鈴まで上品ときた。


「時間か?」

『少し早いですが』


 耳に当てたヘッドセットに問いかけると、乾いた音声が返った。

 パッシブにすれば呼び鈴は不要だが、外部の状況を遮断することになる。荒野の真ん中で感覚を(みずか)ら捨てるのは無防備が過ぎた。

 ヘッドセットと呼ばれる通信機器は、線状の先端に備わるジャックにより車両と脱着が可能だ。この線の中を音が通り車内と通話ができた。音に関しては実際の声とは異なるが。

 車両の中に説明書きと共に放置されていたのを試しに使ってみたが、この技術は寡聞にして例の三国でも聞いた事がない。

 説明書も新たに翻訳されてるな。言葉遣いに微妙な訛りのようなフレーズがあった。


 馬車の停止と同時にヘッドセットを放り出し飛び降りる。スカートが派手に捲れて中身が露わになったが気にしない。荒野万歳。

 試しに馬車から離れて見ると、からっとした暑さが纏わりついてきた。タイツの中が汗ばんでいく。変な感覚。

 あと眩しい。


「遮熱と遮光ね……寒帯じゃどうなんだろ?」


 好奇心はあったが、まずはアセビのご飯だ。

 ストレージから桶を二つ出し、片方に水と、もう片方に粗飼料(そしりょう)及び野菜を。ぽいぽいと。

 口を付ける前に頭を擦りつけてくるあたり、半日で大分慣れてくれたのだろう。


 ……まさか、俺を女の子と勘違いしてないよね?


 おー、よしよし。撫でると甘えるように(いなな)く。

 ふふ、野生をどこへ置いてきた?

 ひとしきり撫でた後、桶に頭を入れるの見守り車両へ向う。


「入るぞ?」


 一応ノックをしてから扉を開いた。馬車にしてはは重厚だが、動きは軽く開閉の音も無かった。

 作りの何もかもが只者じゃない。


「お昼の準備、できてますよ。さ、頂きましょう」


 お洒落着のマリーが棺の上に大き目のトレイを並べ終えた所だ。

 良かった。

 普通の女の子だ。

 この上、中に居る者まで只者じゃなかったら処理が追い付かないもんな。


「? 何を警戒してるんです?」

「いや。どうかそのままでの君で居てくれ」

「?」


 テーブル代わりの棺の上を見ると、大小の皿に女将さんのお弁当が綺麗に盛り付けされていた。一部は温め直してるな。あと、お味噌汁のお碗と、野菜サラダまで追加されていた。


「凄いな」

「はい。女将さん、腕によりをかけてくれましたね」

「それもあるが――。」


 走行中の車両の中で、これだけの物を準備できるって、何?

 マリーもアイテムボックス持ちだった。新しく追加した料理はそこに仕込んでいたのだろうが、汁物を並べるだけで並みの馬車なら惨事になる。

 振動が車内にほとんど伝わっていなかったのか。確かに御者台も揺れなかったな。


「あ、お味噌汁は私が作ったんですよ。故郷に居た頃から土下座とお味噌汁だけはマリーに(かな)わないって、家族中の賞賛を一身に集めたものです」

「ご家族の心中を察して余りあるな……。」


 ひょい、と中に飛び乗り、マリーの向かいに座る。


「むむ。スカート」

「なんだ?」

「サツキさんの動きだと、そのたびに捲れて中が見えてしまいます。少しは無防備だって自覚した方がいいですよ」


 行く先々でパンツ見えてるヤツが何か言っている。


「あぁ、すまない。食事の場で見苦しいものを見せてしまった」


 いくらタイツ越しとは言え、俺の股間を見せられては気分を悪くするだろう。


「いえ、それはいいんです。いいんですよ。叶うならガン見したいくらいです。食が進みます」

「……決して叶わない事を祈る。話の続きは食後にしよう。せっかくだ、冷めないうちに」

「はい!! どうぞ召し上がれ!!」


 一瞬、彼女の花笑みに見惚れそうになった。

 まるで朝凪の静かな光の中に居る思いだ。

 手を合わせて「いただきます」をする。

 この国の風習ではないが、東方の国の商人に教わって以来、習慣になっていた。マリーも慣れていた。あちらと繋がりがあるのか、そも向こうの出身か。

 そういやクロユリさんとにゃーも、食事の前にはこの「いただきます」をしていたな。

 おっと、詮索は無しだ。

 マリーと目が合った。


「?」


 小首を傾げられる。いかん、デリカシーが無かったな。聞くは無粋ってもんだ。


 ……。

 ……。


 チラッと(すそ)を捲って見せる。


「うめぇ~!! 白米うめぇ~!!」(ガツガツガツッ)

「怖いわ!!」



 食事の後、宿屋のオーナーから貰ったハーブティを淹れる。

 針葉樹のような葉と乾燥させた果実のブレンドだ。ほどよい酸味が心地いい。


「言っておきますが、私だって特別な時にしかパンツは見せませんからね?」


 ソファに腰を深く沈めて、プリーツの多いスカートをゆっくりたくし上げてきやがった。

 直ぐに根元まで露わになる所で、奴の太ももにスカーフを投げつけてやる。ギリ、セーフ。


「そういうサービスは求めてないが?」

「違いますー!! さっきサツキさんの見ちゃったから見せないとお相子にならないんですー!! だから今が特別な時なんですー!!」


 先日のギルドで「ダァーッ」てしてたやつ。あれも特別な時なのか。


「……いや、さっき人に無防備とか言ってたろ?」

「そう、それです!! スカートなんてのは見えるか見えないかぐらいが丁度いいんです!!」


 だからお前のは完全に見えてんだってば。

 ユーフォルビアさんが見られないよう必死にガードしてくれてたんだってば。


「いいですか、サツキさん? あなたはもう女の子なんですよ? ですから女の子らしい立ち居振る舞いを身に着けなくてはなりません」

「……そうか。できればクロユリさんか女将さんが居る時に言って欲しかった」


 ていうか、別に女の子になったつもりは無い。

 あと、グリーンガーデン時代から、周りの冒険者やゴロツキに女の子みたいな扱いを受けていた。


「今のままじゃ駄目か?」

「駄目という事はないのですが、私が面白くありません」

「おめーの気分の話じゃねーか!!」

「ですので、効果的なパンツの見せ方を伝授したいと思います」

「見えるか見えないかの話はどこいった?」

「アナクロニズムへの反発ですよ!! 形骸化からの脱皮を図るのです!!」

「おまえが今まで効果的にパンツを見せてるとこ、見たことがないんだが」

「これからは私の事はパンツ先輩と呼んでください――私、何言ってるんでしょう?」


 知らんがな。

 いや、餅は餅屋がついたもんが一番美味いっていうしな。真摯に受け取るべきか。


「注意喚起についちゃ、まぁ恐懼(きょうく)の至りだがねぇ」

「わかりました。ならこうしましょう」


 何で一方的に妥協案を出してくるの? 妥協させようとしてくるの?


「私も女の子らしい仕草を学びますので、サツキさんも一緒に頑張っていきましょう」


 それに関して碌碌(ろくろく)な奴に言われるとは。


「いや、それだけに斯道(しどう)を極めることが無かったと理解できるが」

「少なくても、御者台からスカートの中を露わにして飛び降りる真似は、控える事を薦めます」

「見てたのかよ!!」


 無意識に自分のスカートに手をやり庇う。

 確かに無防備というか、隙ができるな。身じろぎしながら、衣服に乱れがないか確認した。


「そういうところ!! そういうところ!!」

「ひゃぃ」


 不覚にも変な声が出た。

 こいつ、なんでこんな剣幕なんだ?


「あざといっ!!」


 拳を握りふるふるしている。

 べ、別にあぞとくなんかねーよ!!


「いいですか、サツキさん? ちょっとそこに横になってください。いいから、いいから。おっとったらええがな。そう。そんな感じで、脚を投げ出す感じで。いえ、もっとこう……はい、そうです。で、両手は、えぇと、こんな風に胸元で……あー、いいですね、いいですよ。それで、眉をちょっと困った風に寄せて。いえ、それだと凄く困った感じですので、ちょっとでいいです。はい、頂きました。で瞳を潤ませて頂ければ――。」


 とりあえずマリーの言われるまま従う。

 何が完成しようとしているのか……。


「――って、襲って欲しいんですか!?」

「己がやらせたんだろうが!!」


 鼻息の荒い少女が覆いかぶさってきた。


「さ、さ、サツキさんが悪いんですからね!! こんな、可愛らしい姿で誘って来たサツキさんが悪いんですからね!!」

「どう見てもお前にしか非が無いがな」

「ぬぅわっはっはっは!! 因襲の桎梏(しっこく)から逃れられると思うてか!!」

「君の与件はある意味、思考によって加工されねーんだから凄いよな」


 テンションの上がるマリーとは逆に、急に頭が冴えてきた。

 背筋が冷たい。

 鋭い刀で、皮の一枚一枚を丁寧に刻まれるような感覚。

 マリー?

 お前じゃない。

 誰だ? 今、笑ったのは?



 馬車を進めると荒野はすぐに途切れ、両脇を森林に挟まれた。

 スカート云々もあり、念のためマントを羽織り手綱をとる。

 それでも、すれ違った行商人の護衛らからは、揶揄いの視線や口笛を掛けられた。いや嘲弄(ちょうろう)なら構わないが、「すげぇ美人だぜぇ」て声は駄目だ。歯が浮く。


 ……なんか、こそばゆい。


 その後も3組のキャラバンとすれ違ったが、直接呼び止められる事は無かった。グレートホースと漆黒の馬車が効いたのだろう。

 だが、あからさまで不愉快な視線は感じた。

 胸? 悪かったなパッドだよ。

 脚? 男の脚だぞ、変な気起こすな。

 唇。そりゃ紅を差せば誰だってこれくらい。目? 瞳だ? 誰が色目使ったってコラ。だから胸はパッドだっつってんだろーが。ああん? 嗅ぎたいって何処をだよ!?

 なんじゃこの塗炭(とたん)の苦しみは。いかん、状態異常になりそうやわ。

 それでマントを閉じフードを深めに被ったのだが、今更ながら気づいた。

 わし、移動中は普通(男の姿)にしてていいんじゃないの?

 何で終始女の子の姿になってんだよ?

 ヘッドセットに耳を当てる。


「なぁ、マリー」

『駄目です』

「いや、まだ何も――」

『駄目です』


 ……そっか。駄目か。

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。


次回以降はご宿泊回ですが、初回はその辺りで運営さんから警告がきました。

評価★など頂けましたら嬉しいです。

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