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363話 ゲゲーッ!? メイドの超人!?

 先程までの談笑と違う声だ。肌を刺す冷気に俺ですら身じろいだ。

 最初に対面した印象は穏やかな女性だった。親近感すら感じたのは……まぁそこは伏せておこう。繕わない態度は王としてどうかと思ったが、彼女なりの誠意とも取れる。いや、別に年上に弱いからじゃなくて。綺麗な女性とは思うけど緊張が(まさ)った。

 左隣のクランが俺の腕をギュッと掴む。

 右隣のバーベナさんが俺の腕をギュッと掴む。


 ……。

 ……。


 あれ? 俺が捕縛されてる風になってない?

 そんな俺たちに、ヘリアンサス王女に詰め寄った北方偽王族のおっさんが口をパクパクさせていた。


「馬鹿な……何故貴公らが……。」


 譫言(うわごと)の様な自分の呟きに何を感じたのか、咄嗟に己れの首に手を回した。気が触れてセルフ絞首刑でも始めたのかと思ったわ。

 その姿のまま周囲を見回す。


「居ないのだな? あの修道女は居ないのだな?」


 どの修道女だよ?

 来るまでに何かあったのだろう。シスターとやらの不在を実感したのか、男は大きく息を吐き、首の手を緩めた。

 庇っていたのか?


「それで、何故貴方がヘイリアンサス陛下に謁見しているのだ? いや、ドクダミ領で婚儀に参加していたはずだ。なのに何故だ。私よりも早くに出立したとしてもすぐさま王族と謁見は叶わぬはずだ」

「だから三日も城下で待ったんだよ。ああ、申し入れはその前からしてたから五日前か」

「有り得ん!! その頃はクラン嬢とも会っていたぞ!? 貴方だって居たはずだ!! ……居たはず? ん? ゲゲーッ!? メイドの女!?」


 そっち今更かよ。ていうか歓迎会の女とは思わないのか? その後もクラン付きとして会っていたんだが。

 公国には、最後に会った後にホウセンカでお邪魔した。長距離飛行も慣れて速度も頑張ってくれた。クランが居たから張り切ったのかな。いやむしろ問題は、無人でドクダミまで帰って来た件だった。スミレさん乗って無いんだもん。ビオラさんへの釈明が本当キツかったよ。


「まあ時間は稼いでもらったみたいだし、その間、ゆっくりと同盟の再調印を擦り合わせられたけど」

「再調印だと!?」


 俺たちはが来た第一の目的だ。

 足場固め。もしくは外堀。


 ……いや結局、固められて埋められたのは俺の方なんだけどさ。


「アザレア国との安全保障条約を強固にしたものよ。この方たちが王家委任の使節として参られた」

「冒険者に一時的にでも外遊権を委譲するなど、馬鹿げている!!」


 俺もそう思うよ。

 でも、前例が無いわけでは無い。最近だと、ハイビスカスだ。

 但し、今回はややこしい。

 例のスイレンさんの木箱での親書だ。難なくヘリアンサス陛下は開けられた。つまり最初からハイビスカスの技術共有も含む手厚い外交が施されていたんだ。そこに俺個人への問題があった。

 あ、別に女王様の服がパージするとか期待して無いんだからね。痛っ!? 何で左右から蹴り入れて来んだよ!?


「それに今何と仰せか? 娘との婚姻だと!? 娘って、陛下の? え、存命な子供居たの?」


 最後の方、鼻を垂らした間抜けヅラなっていた。これにはヘリアンサス陛下と上位精霊も失笑した。いや何でしれっと混ざってんだよ上位精霊? ていうか何でついて来ちゃったんだよ?


「ワタクシに子供が居ては困る言い草ね。えぇ、身の安全の為に友好国(マブダチ)であるアザレア王国で保護してもらっていたの。(もっと)も――変な性癖を植え付けられた上、適齢期ギリギリまで放っておかれたと思ったら年下の男の子引っ掛けて、初めての夜で朝までアンアンやってる子に育っているとは思わなかったけれど」

「馬鹿な!? アンアンだと……?」

「……あの、陛下、私の話はその辺で」


 後半は俺のせいだが、前半は苺さんのせいだ。

 ともあれバーベナさんが公国の事情に通じていた訳だ。追憶庵じゃ普通に話していたけど、冒険者ギルドや商工組合のニュースでも扱ってない裏事情だったもんな。そりゃゼラニウムニキも身を引くよ。


 ……。

 ……。


 待って、苺さん知っててあんな調教していたの? え? 俺が子供の頃だから、バーベナさんだって……え?


「予想外の様な顔ね」

「「め、滅相もない!!」」


 俺と北方偽王族がハモった。ヘリアンサス王女が「あら」と不思議そうに首を傾げる。どちらに対してなのか。


「サツキくん……何考えたの……?」


 左の耳をクランの囁き声が嬲る。


「サツくん、何か思い出しちゃったの?」


 右の耳をバーベナさんの囁き声が舐め回す。


 ……やばい。反応するな。落ち着け、女王陛下の御前だぞ。


「あらあら、これは孫を期待してもいいということよね?」


 笑っとるで、陛下。

 娘が突然男を連れてきて、何故か秘め事の仔細まで把握されてるの。そこは寛容なの?


「しかし、だがしかし、いかに女王であっても議会を通さず条約の締結などと、横暴が許されるとお思いですか? 王家の信頼に関わりますぞ?」

「良いわけないではないか」


 澄ました顔で仰る。思わず吹き出しそうになったよ。


「先般来、議会連中の顔ぶれが見えなくなってのう。皆お主の同腹よ。仕様事なしに引退した重臣らを復職させたが、不思議と風通しが良くなってしもうて、このまま議会運営を継続しようと可決しおったわ」

「何という破廉恥な……議会を乗っ取ったおつもりですか!?」


 どの口が言うのだろう?

 よその国の工作員に行政が乗っ取られた状態だったなんて、公国の国民からしたらぞっとしないよ。


「異なことを申すのだな。本来の体制に戻っただけであろう? そもそも、どこからどう奪ったと言うのかのう?」


 惚けた風に言うが、めっちゃ口元を笑みに崩していた。「ねぇ今どんな気持ち? どんな気持ち?」て煽りたそうだった。

 北方偽王族も、何か言おうとしたが俺の視線に気付き口をつぐんだ。

 そりゃあ、アザレアの特使の前では言えないだろうよ。


「しかし……しかし、三番目などと妾の様な事を、本当によろしいのですか? 大切なご息女でしょう?」


 絞り出すような、唸る様な声だった。

 さっきまで存在すら知らなかったくせに、よく言う。


「あ」とクランが俺にしか分からない悲鳴をあげた。


「どうした?」

「私……家臣だと思って、ずっと……バーベナ様の事を呼び捨ててきた」

「欺く為なら仕方ないだろう」

「何だったら……使いやすい駒ぐらいにしか」

「そこは謝っておこうよ!!」


 関係性、この辺も正して行かなきゃ。


「バーベナ様……御免なさい」


 素直に謝れるのはこの子の美徳だ。


「クランお嬢様? え、私、何について謝られてるんです?」


 謝るのはいいが、大味すぎたな。


「これからは二人で……ううん、サザちゃんと三人で……たくさんサツキくんによしよしされようね」

「だから何で憐れむ目で見られてるんですか?」


 寧ろ不安を煽っていくスタイルだな。

 安心させてやるか。


「大丈夫だ。ちゃんとよしよしするから」


 頭撫でるくらい造作も無いわ。


「うん……サツキくんのおちんちんで……お腹の中をいっぱいよしよし」


 造作もあるわ!! 造作しか無いわ!!


「だから何で今度は慈しむ様な目で見られるんですか、クランお嬢様!?」

「陛下、本当によろしいのですか? あんな事言っているのだが?」

「ふふふ、孫と会えるのもそう遠くないわね」

「これでは埒が明かん。そもそも辺境伯令嬢の婚姻に参列していたはずだ。それがすげ代わり、当事者がここに居る。これは我が国を冒涜したとみなされるべきでは無いのですか?」

「ブルー殿からは、子供が結婚するとだけ伺ったわね。息子か娘かまでは無かったかしら」


 しれっと言って退ける。

 この人もぬけぬけと。最初はクランの婚儀とあったはずだ。

 辺境伯と公爵家にとって予定外だったのは、騎士団を迎えに出した時点で俺が不在だった事と、同じタイミングで開拓団が強襲を受けたせいで彼らを敵とみなした事だ。

 不幸な行き違いだったが、何かここ最近こんなのばかりだな。


「だがSSとはいえ、一介の冒険者に王女をあてがうなどと――いや待て。そこの女性が王女殿下という真なる証拠が無ければ、王位継承も無いではないか!!」

「毎年、盆と正月には帰ってきてたわよ?」

「へ?」


 北方偽王族のおっさんが今までに無いまぬけ面になっていた。

 まあ俺も公国の王女の件はヒマワリ入りした後で知ったんだけど。


「よく城下町で一緒に飲んだくれてたから」


 うん、その情報はいいかな。

 酒場の壁に、指名手配みたいに人相描きがあったのも見なかった事にしたし。


「この前連れ戻した議会の古参も皆んな存じておる。何ならあやつらも一緒に飲んだくれておったわ」


 おい、止めろ議会。


「私は聞いていませんぞ!? その飲み会、呼ばれていない!!」


 気にするのそっちか?


「身内だけの御忍びだったからのう」

「御一行で御忍びだと!? 到底忍んでいるようには思えん!! 気は確か!?」


 それは俺も思う。

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