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361話 分割スクリーン

 映された地図には、ドクダミ領領都も含まれています。駒が示す通り、この場所も魔物の襲撃が起きていると知り、観衆がざわめきます。ざわ、ざわ。


『案ずるでない』


 堂々とした王子の声は、不安の伝播を鎮めるのに十分だったでしょう。

 この立ち回りも、サツキさんの狙いだったのでしょうか。


『苦しゅうない、詳細を申せ』


『はっ。各所、ご指示の観測所にて大型種の起隆を500M圏内から目視で確認。その内の3箇所で実行犯と思われる集団の捕縛に成功。()()()で事情聴取を行っています。敵性魔物については事前の対抗措置を各所で開始。状況は逐次モニター、ネジバナ殿の報告通り配信が可能です』


『国営へのアクセスはよろしいか?』


『殿下の権限配下で全チャンネル、オープン待ちです。ご指示を』


『配信開始だ。こちらへ回すが良い』


 大型スクリーンにアザレアの国旗と、オープニング曲風にアレンジした国家が流れます。

 それが終わると、再び全身タイツに変わりました。

 ……いいのでしょうか? コレ、世界に発信して?


『皆の者。現在、ドクダミ領方面を中心とした近隣地区がサイクロプス種の襲撃に晒されておる。それも迷宮から派生したスタンピードではない。我らの祖国アザレアを辱めんとする何者かの策略によってだ。領の内外に関わらず民の生活安全と貴重な財産が脅かされているのだ。不条理だろう。許せぬでは無いか。ならば問おう。おう? そういう奴らをどうしたらいい!?』


「「「殺せーっ!!」」」


『どうしたらいい!!』


「「「殺せーっ!!」」」


『どうしたらいい!!』


「「「殺せーっ!!」」」


 もう結婚式の風景には見えません。


『ならば刮目するが良い。我がアザレアには魔物と、平和を脅かす忌まわしき敵に対抗する手段がある。紹介しよう。今日のイかれたメンバーだぜ!!』


 合図とともに大型スクリーンが分割表示に切り替わりました。分割は六つ。それぞれのマスに風景が映ります。森林地帯や街道、湖、街の防壁越しに、砦の塔から――数々の風景に一応にしてサイクロプスの姿が捕捉されています。


『出番であるな!!』


 分割スクリーンの一つに、(いか)つい初老のおじ様が映ります。

 紫の甲冑に肩から胸に掛けて描かれたアザレアの花びらが印象的です。

 隊列が移動する背景で王子様のアナウンスが続きます。


『竜殺しは生きていた。我がアザレア王国が誇る最強の騎士団。そしてそれらを統べる人間凶器の大将軍、シャガだ!!』


 街道向こうから、ゆらりゆらりと五体のサイクロプスが迫ります。


『全軍配備に付きました』

『いよおし、作戦通りだ!! 第一陣はっけよおい――儂に続けーッ!!』


 将軍の騎馬が進軍を煽ると、まさに雪崩れ込むように騎馬隊が後に続きました。


 ……あの。作戦とは?


 怒涛の騎馬の突撃と、波状するように歩兵隊が槍を構えます。更に騎馬が接敵する直前、弓矢の雨がサイクロプスに注ぎました。

 力押しですね。


 スクリーンが切り替わりました。

 今度は、辺り一面の荒野です。草木も生えていません。厚い暗雲が立ち込め、所々で蜘蛛の糸の様な光が走ります。

 先程の王国騎士団の映像は晴天でしたのに。これ、本当にドクダミ領またはその近領なのでしょうか?


『魔法各大隊、前面に展開いっ!!』


 ローブ姿のご老人が号令を掛けますが、魔法使いを前面に出すとか、おかしくないですか?

 魔法使いたちが横陣形を取る背後で王子のアナウンスが続きます。


『殲滅戦は既に我らが完成させている!! ブルー辺境伯軍だ!!』


 荒野の向こうから、長身に乾いた風をまとい、五体のサイクロプスが進行します。

 年配の魔導大隊長がスペルを唱え終えると、巨体が大きく(かし)ぎます。地面をえぐり、ぬかるみを生むのは、土系水系の仕事です。

 ここぞとばかりに、火弾が放物線を描き放たれます。指揮をするのは、女性の魔法使いです。フードを深く被っており顔までは見えませんが、マントの背には大隊長を示す紋様が輝いています。

 えーと……バーベナさんじゃないですよね……?

 サイクロプスが動きを止めた隙に、頭上から稲光りが降り注ぎました。数瞬遅れてマイクに轟が到達します。

 こちらの指揮は若い魔法使いです。ゼラニウム殿とお見受けします。


『尚、第三魔法大隊長ゼラニウムは第四魔法大隊長

 と恋仲との情報もある!! こちらも婚儀まで秒読みと伺えるな!!』


 王子様、何情報なんですそれ? え? ってバーベナさんしれっと大隊長の座を奪われてません!? 想い人を取られたとは聞いてましたけど職まで奪われてたんですか!?


「あの、あんまりじゃないですか?」


 わざと非難めいた視線で辺境伯を伺います。いっそブルーちゃん呼びしようかとも思いました。


「一国の皇子の正妻に就くんだ。三番目だろうが、うちで幹部やらせたままにはできんだろ。ヘリアンサス陛下の恨みも買いたくないしな」


 ちゃんと考えてくれてたんでs、あ、後半本音ですね。


「もう、貴方ったらそんな言い方して。バーベナちゃんは元々期限付きで受け入れていたのよ? ああ、でも可愛かったから、お母さんいっぱいよしよししちゃいました。てへ」


 それが恨まれる原因じゃないんですか? あと、サツキさんがトラウマになったやつですよね?


 スクリーンが切り替わりました。

 今度は、大きな湖から五体のサイクロプスが競り上がってくる所です。緑豊かな森林が周囲に広がり、新芽に包まれた緩やかな山が遠くに霞んでいました。本当にここどこだろ?

 見覚えのある甲冑の騎馬が突撃する背後で王子のアナウンスが続きます。


『総力戦の本場は今や公爵家にある!! ヴァイオレット公爵家騎士団だ!!』


 縦に戦列を作った美しい陣形です。指揮をするのは老騎士の司令です。クランお嬢様を迎えに来た時の、丁寧な振る舞いが印象的でした。


 スクリーンが切り替わりました。

 今度は渓谷です。両脇を断崖に圧迫された戦場は、防衛側には有利でしょう。地形を生かした戦闘は、既に大勢が決した様に見えます。四体中、残り一体ですね。


『権謀術数は実践で使えてナンボのもン!! 策略戦略の本家、オダマキ領軍だ!!』


 指揮はオダマキ卿ご本人です。それで式への参列は急遽代理を立てたのでしょう。先程の情報室もオダマキからの派遣の様です。


 スクリーンが切り替わりました。

 次は平原です。どこかの街の城壁を背景に、色とりどりの装備をした戦士が、魔法使いが、僧侶が、踊り子が、思い思いにサイクロプスへ挑んでいきます。


『実戦だったらコイツらを外せない!! 超A級以上のライセンス!! 冒険者ギルドだ!!』


 ドクダミ領支部からの派遣クエストとはいえ、流石にAランク以上は層が厚いですね。特に目立ったのは、モヒカンと角刈りの筋肉ブラザーズでしょうか。


『行くぞレシュノルティア!!』

『おうよヴァイオレットレナ!!』


『『合体関節技奥義!! マジ卍固め!!』』


 えーと……うん、漢祭り。


 スクリーンが切り替わりました。

 いよいよ真打ちです。

 客席から「いよ!! 待ってましたァ!!」と威勢の良い声が掛かります。

 それにしてもこの風景。どこなんでしょう? 森も湖もあるし、平原もあります。荒野もちらほら見えます。

 構わず、王子様のアナウンスが煽ります。


『開拓の仕事はどうしたー!! 地獄の首狩農場の炎は未だ消えず!! 耕すも刈り取るも思いのまま!! アルストロメリア開拓団!!』


 ……本当に。どうなっちゃったのでしょうね、開拓業。

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