36話 お馬の休日
ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。
以下、31話~36話でサブタイトルにパクった作品名の答え合わせです。
・31話 ティファニーで朝食を
・32話 エレファント・マン
・33話 里見八犬伝
・34話 風と共に去りぬ
・35話 麗しのサブリナ
・36話 ローマの休日
※運営殿からの警告措置を受け、2021/3/20に26話~41話を削除いたしました。
このたび、修正版を再掲いたします。
「マリー……他にも隠してるのか?」
「……さぁ?」
めっちゃ目が泳いでる。
等閑に付すわけにはいかぬのよ。
「まぁりぃー、待ってくれマリー。アイウォンチュー・マリー。いいから。怒らないから。な? 悉皆の事情を告白して御覧?」
「どうして!! どうしてサツキさんは私の事を信じてくれないんですか!?」
「迷宮に限っていえば、馬型のモンスターは現時点でギルドの情報に無いんだよ。クロユリさんはギルドの受付業務に携わってたから11層までの構成は把握してるんだ。なのにマリーの素振りは確証に基いてのものだった」
実際は最下層まで本人が到達してるんだが。
仮に居たとして、一介の冒険者がギルドを出し抜けるはずが無い。
「え? えー、そっかー、ココニハ ウマ ナンテイナインダー、シラナカッタ ナー」
「マリーさん……それは馬だけに馬脚を露わにしたというオチですか? でしたら評価します」
「違います!! ちゃんと落ち着いたら紹介しようと思ってたんです!!」
軽い目眩に頭を抑えた。
今日の踏ん張り所は、多分ここだ。
……度し難いな。今日、始まって間もないんだぜ。
「それでか。こっそり単独で11階層まで潜ってあまつさえフロアボスまで拉致ったのか」
「でもでも!! あの部屋、快適だからってアセビが――。」
「アホか!! あんなの所に放置したら、魔物に襲われるか冒険者に討伐されるか無事じゃすまねーよ!!」
「そんなこと無いですーぅ!! アセビに限ってそこらの魔物に遅れはとらないんですぅー!!」
「マリーさん……その子、本当に馬?」
疑いの眼差しを向けるのも分かる。
「凄くイケメンな――馬!!」
「待て、じゃあ今はその馬、危険なんじゃ」
突然、弁当持参したエボニーミノタウルスが出現するんだ。ビビるだろうな。
「その心配は無用でしょう。昨日の夕前に調査に入った時は何も居ませんでしたよ? 何も無いからこその調査クエストでしたけど」
「って、その時点で逃げ出してんじゃねーか!!」
「大変!! アケビがもしダンジョンで迷子になったら――中のモンスターが狩り尽くされちゃいます!!」
「お前が匿ったのは馬じゃないのか!?」
「だから馬だけどイケメンなんですよ!!」
不穏な事言いだした。
「マリーさん……貴女、本当に大丈夫なんですよね? 善良な冒険者なんですよね?」
怯えた口調で、基本に立ち返っていた。
多分、俺と同じ事を想像したんだろうな。こう、全裸に剥いたイケメンに首輪をして四つん這いにして……。
うん、マリーなら平常運転のような気がしてきた。
「……ひょっとしたら見たかも、しれないわ」
恐る恐る、盗賊娘が声を掛けてきた。
ギルドからの直接依頼でダンジョン警備に従事する冒険者だ。
その後、剣士の同僚とは上手くやってるのだろうか。
ていうか、警戒されてる?
「あの、クロユリ姉さんよね? 受付に居た」
「さて、どなたの事でしょう。そのような女性も居たかもしれませんね」
「……そうね。そうよね。あんな事があった後だもの」
「あんな事、とは?」
「その……婚約者のかたを、迷宮で亡くされたと。経緯はわかりませんが、その、お悔やみを申し上げます」
……。
……。
あ、そういう設定だったか。
「え、えぇ、ご丁寧にありがとう御座います。お陰様で通夜並びに本葬を無事に終えました。きっと彼も遠い摩天で私達を見守ってくれる事でしょう」
祈るように目を伏せる彼女を、今、隣で見ていた。
「それはさておきまして、御覧になられたかもしれないというのは?」
「昨日の正午だったわ。あれは当番の交替で業務の引継ぎを行っていた時。ここから北西に向かって高速で移動する物体を、あたしを含め数名の冒険者が目撃しているの」
……UFOか?
「直ぐにギルドへ報告したから。昨日の内に調査クエストへ回されたはずよ」
「内聞の所もあるのでしょうが、私達とは行き違いになった様ですね――にゃぁ?」
「にゃ。帰りの報告の時に何か増えてたにゃ」
「それがアセビなる馬的な何か、という事でしょうか。形状は馬だったのですよね?」
「えぇと、全体的に黒光りしてて筋肉質で節くれだってて、硬そうだったわ」
それ馬の人相か?
クロユリさんも同じ事を思ったらしい。
「それは局部的なモノについてでしょうか?」
「え?」
盗賊娘がきょとんとする。
クロユリさんの言葉の意味を嚙み砕くように視線を漂わせ、赤面した。理解したようだ。
「ウ、馬の話だけど、そんな馬並みとかそういうアレじゃないから!!」
「そ、そうですよね、愚問でした」
クロユリさんも、自分で言ってて照れていた。
「アセビです……。」
小さな呟きに、全員の視線が移った。
少女が
祈りを捧げる乙女の様に、
「アセビ……あぁ、やっぱり私が欲しくてたまらなかったのね!!」
最悪な事を言っていた。
「マリーさん……そんなに凄いんですか?」
「やっぱり、馬並みだから逞しいのかしら?」
クロユリさんと盗賊娘がゴクリと生唾を飲み込んだ。
「にゃ。アセビはグレートホースにゃ」
にゃー。ナイスフォロー。
「って、魔物じゃねーか!!」
魔獣系だ。生体は馬に近いが、体格と瞬発力は馬以上だ。特に攻撃力は最大瞬発を生かした場合、城壁をも砕いたと記録にある。
無論、人に飼いならせる代物じゃない。
「マリーさん、貴女はグレートホースを、その、グレートホースの、その、あれを……そうなのですか!?」
何を聞いとるんだ?
「ふふん。私とアセビはプラトニックな仲なんですよ」
君も何を口走ってるんだ?
収集がつきそうに無いな。
「サツキにゃ、聞くにゃ。問題はあの小僧の向かった先にゃ」
本当。にゃーだけだよな。心の支えは。口は悪いけど。
向かった先。
「この方角は良くないな」
俺たちが来た所だ。
野生動物だって道が有れば利用する。街道に出れば形ばかりの関所があるだけだ。カサブランカには一直線だ。
「ですが、昨日の正午なら当日中に騒ぎになっても不思議ではありません」
「途中で他のパーティに拿捕されたか」
「え、えーと、それは無いと思うわ」
盗賊娘、先程から俺に怯えてるんだが。
……我が美貌に恐れを成したか?
「君は何を警戒してるのかね?」
「あ、ごめんなさい……お姉さん、女の人よね?」
「仮に違っていたとしても、何か問題があるのかな?」
問題しかないがな!!
「失礼を承知で言わせて貰うわ。私の様に盗賊系ジョブなんてやってると、人の姿を表面情報だけでは捉えられないのよ。常に微妙な仕草、筋肉の動きで相手を測るの。ねぇ、美人のお姉さん? 貴女、数日前に死んでいない?」
あ、俺だって勘繰られてたのか。
彼女からしたら女装して再登場だもんな。そりゃ訝しいわ。
なんか、すまんのう。
「御想像にお任せしよう」
何言ってんだ俺?
「サツキさんは、こう見えてもスカートの中に凶悪なエクスカリバーを隠し持ってるんです。危険ですから近寄らない方が身のためですよ?」
マリー。君も大概にしなよ?
「え、えくす、カリばー……。」
ビビってる、ビビってる。
「そう! 誰に握られても決してヌケない剣!!」
あの、マリー……?
「に、握る……ヌケない……。」
「ちょ、どこを見てるんだよ!?」
股間に視線を感じ、思わず腰を引きスカートを抑えてしまう。愧赧に熱を帯びた。うぅ、未熟。
周囲から「おぉっ!!」と歓声が上がる。
「乙女でござるな」
「これは俺っ娘が初めて意識する恥じらい」
「察するに、自分の少女性への戸惑いですな」
何か変なのが解説始めてる。怖い。
女の子っていつもこんな視線に耐えてるのか?
「そして彼の王はこう言うの――シロウ、貴方が私の竿だったのですね!!」
そこで訳の分からない茶番をしてるのも、一応女の子なんだよな。
「この子は置いておいて、無いというのは?」
「え? あ、うん。さっきの業務交代で調査クエストに変更も取り下げも無かったから。密猟されたなら、輸送ルートで足が付くもの。ここは、そういうのが隠し通せない場所だから」
常に冒険者の目がある。ギルドも組織立っている。これだけ治安が安定してるんだ。冒険者以外の間者も放たれているのだろう。
まぁ、外に出たのは僥倖だ。
……マリーに因果を含めなくて済むからな。
「目撃情報はどうなってる? 捕獲や観測は無くてもどこかで目に付くだろう?」
「チラ見程度なら幾つか。場所が散発的なので同一個体と断定は禁物だけど――まずは、街道ね。私たちが最初の目撃者らしいけど」
マリーを見る。
「帰りに通り過ぎた程度ですよ?」
いや、何も言ってないが。
「その後、北東の山沿いで採取クエストに出たパーティが、駆けていく姿を見ているわ」
マリーを見る。
「山向こうの谷間に、さっきの馬車が放置されてました。周辺の草木や岩石の積層から見て半世紀は放ったらかしだと」
拾って来ちゃったのか。
「夕方には一度カサブランカに接近していた様ね」
「街の右手の森にパンジーと車両を待機させました」
「でも夜にはまた街道から平原の方に駆けていく姿が」
「パンジーと夜間の走行訓練をしていました」
「あたし達が来る前には、再びカサブランカ近辺で目撃されてるわ」
「今朝一番に、待機させていたパンジーと馬車をお披露目しました」
……。
……。
お前はじっとしてられんのか!?
馬が憐れになってきたぞ。
「で、最後の目撃情報が……。」
盗賊娘が広場の出口――街道へ目をやる。
とぼとぼと歩いてくる黒い影があった。足取りに、哀愁を漂わせている。
「あれね」
結局、一日中マリーを追いかけてたのか。
それだけ懐かれたってこと? グレートホースに?
「……アセビ。アセビだわ」
うん。みんな、おまえの言う馬だと看做してたよ。
入り口側の冒険者が左右に分かれて道を作る。
「アセビ!!」
「ぶるぅ」
マリーの呼びかけに嘶きで応え、こちらに駆け出した。
俺の横をマリーが走り抜けた。
「ごめんねアセビ!! もう一人にしないから!!」
「ぶるぅ!!」
駆け寄る二人の影が重なり、
そして、
馬が通り抜ける。ていうか、こっちへ向かって来たぞ。
って、何で全力疾走してくんだよ!?
めっちゃ迫って来てる。近くに来ると並の馬より二回りも大きい。
目の前で減速。制動もスムーズだ。
「え? あの? お馬さん?」
戸惑うクロユリさんに、甘えるように頭を擦りつける。
あー、確かに近くで見るとイケメンだ。
しかし、ここまで魔物が懐くものか?
「にゃ。クロ様はアカ様と同じ匂いがするにゃ。アセビ号はアカ様にも懐いていたからにゃ」
語感からして女性か。にゃーと同様、クロユリさんやマリーの共通の知り合いってところかな。
「にゃーもこの子と面識があるのか?」
「短い間だったにゃ。すぐに分かれたにゃけど、越境してここまでマリーを追って来てたんにゃ」
にゃーがにゃって手を上げる。(よっ、後輩!!)
グレートホースが頭を下げる。(あ、どうも先輩!!)
「いや、そのマリーは放ったらかしなんだが」
両手を広げたまま、広場の入り口で硬直していた。
少し、可哀そうになってきたな。
くるり、と振り向く。
「もう、アセビったら!! 照れちゃって!!」
ほんと、ポジティブだな。
「ぶるるぅ」
「にゃに、にゃに? せっかく再会を果たしたのに、牛野郎の事ばかり構って拗ねてるにゃ?」
可愛いな、おい。
ていうか、言葉わかるのか。
「ふふ、貴方はとても賢い男の子なんですね」
毛並みを優しく撫でられ、満足そうに眼を細めていた。
クロユリさん。数日前は、にゃーに構ってやれなくて拗ねられてたけどな!!
「俺もいいか?」
そうっと手を出す。
「にゃ。大丈夫にゃ」
黒い日の光りを弾く輝き。
滑らかな手触り。
「野生種とは思えない美しい毛並みだな。つやつやのとろとろだ……凄い」
誉められて機嫌を良くしたのか、俺の体にも頭を寄せて来た。
すんすん、めっちゃ匂いを嗅がれた。
グレートホースの横で、クロユリさんが無言で見つめてくる。
「……。」
「ん? クロユリさん?」
ててて、と小走りに戻ってきたマリーがクロユリさんの後ろにつく。
「……。」
「マリーも?」
……。
……。
なんで順番待ちしてんだよ!?
結局、二人の黒髪も撫ることになった。
「あの、これ、あたしら何を見せられてるの?」
盗賊娘が困惑していたが、俺も同じ気持ちだった。
お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。
カサブランカ編はこれで終了になります。
次回からはサツキとマリーの二人旅です。
(一応は)お見合いで知り合った二人に、後は若い者に任せてみたいに送り出す。
これが良くなかったのかもしれません……。




