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356話 私の知らない結婚式

近年結婚式に参加する事もなくて。大体こんな感じだったと思います。

 大聖堂は、お貴族や上流階級、上位商人などで盛況でした。満員御礼です。

 見知った顔、情報だけ把握した顔などがチューリップ畑の様に並んでいました。壮観ですね。それと、例の北方偽王族が悪目立ちしています。送還したいですね。

 聖堂の祭壇上部には巨大スクリーンが設置され、先ほどからトレーダーギルドや運輸業者の広告が流れています。放映頻度が多い所が出資率が高いのでしょう。国外にも映像情報は発信していますので貿易の効果が期待できるでしょう。

 私はというと、新婦家の先頭に並ばされています。勿論、いつものメイド長ではありません。あれから数日休暇を頂いて、まさかこんな大役を命じられるとは。サツキ様。このガーベラ、少しだけ恨みます。終わったらその腕の中で、あちらこちらをいっぱいヨシヨシしてください。

 巨大スクリーンと照明が一旦消えます。いよいよかと周囲が静まります。


『レデェィ、エンッ、ジャノメッ。お待たせしました本日のメインエベント、新郎新婦のご入場だッ!!』


 大丈夫でしょうかこのアナウンスさん?


『青コーナー!! 新郎のご登場ーッ!!』


 アナウンスに、おおっ、と会場が盛り上がります。あ、受け入れるんですね。

 正面の巨大スクリーンに、何か煽りVの様なものが流れてますが……割と伯母上様とのツーショットが多いですね。


『これまで沈黙を保ってきた伯爵家。その眠れるドクダミ領から噴き上がるプロミネンスの若獅子は、この婚儀で果たしてどの様な化学反応を見せてくれるのか!! ドクダミ伯爵家現当主ッ!! ハンゲショウ様ーッ!!』


 会場が爆発するかの様に湧きました。

 ゲートからは教会騎士にエスコートされた白い礼服が現れます。それも座布団の様な巨大な帽子を目深に被った、最礼服。国王陛下の許可がなくては如何に新郎といえど纏うことが許されません。つまり、この婚儀は王家承認によるカードと言えるでしょう!!

 顔がよく見えませんが参列者の若い女性から黄色い声援が飛びます。新郎に向かって何を飛ばしてるんでしょう?


『そして対する青コーナー!!』


 それどっちも青いよね?


『好きとか、嫌いとか、最初に言い出したのが誰かなど問題ではありません。これは男と女の生き様です――。』


 もう何を言ってるか分からないアナウンスに、大型スクリーンに赤い魔法使いが映ります。異名の通り、火炎系の魔法を次々と放つシーンは圧巻でした。あの真紅のローブに重ねた小豆色のマントは見覚えがあります。メイド姿で、セルフで吊られるのがトラウマになりすっかり忘れていましたが、イワガラミさんが着ていたものです。

 あ、何か布地の様なものをサツキさんの顔に押し付ける場面が……え、凄い!! あのサツキさんが手も足も出ず悶絶しています!! クランお嬢様は物理技も修めておられたんですね!!

 それと最後のアザレア王立第一学園の制服を着ておられるシーンですが、薄暗い部屋で何をやっていたのでしょう? ああ、確かインタビューでしたっけ?


『――永遠の妖精姫!! クランお嬢様!!』


 会場が爆発する様に湧きました。

 反対側のゲートから、女性神官にエスコートされウエディングドレスが堂々の入場を果たします。純白のベールでお顔は見えませんが、緊張している面持ちなのは分かります。これは稀に見る好カードですね。

 両者が、祭壇の前に並びます。


 ……。

 ……。


 うん、私の知ってる結婚式と何か違う。

 両者の間に居る高位神官もレフリーみたいな構えだし。確かサザンカ様? サツキさんの元パーティメンバーと聞いていましたが。


「くぅ、いつまでも子供だと思っていたアイツらが、こうも立派になりやがって」


 隣でどこかいい所のお嬢さんの様な姿の辺境伯が鼻をかんでいました。

 新婦よりずっと子供っぽい見た目です。

 皆が見守る中、高位神官が誓いの言葉を述べます。


「病める時も健やかなる時も止める時も辱める時も」


 後半合ってますか? 確かにそれは止めておいた方がいいと思います。


「ちんこの日の限りあなたの妻に硬く節くれだった」


 むしろお前が止まれ!! いや誰か止めろ!! これ高位神官じゃなくて行為神官だから!!

 辺りを見回します。皆さんうっとりと式を見守ってます。

 あー、アザレアじゃこれが正解なんですね。


「――真心を尽くす事を誓いますか?」


 途中、放送できない言葉が何度も聴こえましたが、新郎へマイクが向けられます。


「誓おう」


 端的に、威厳ある声が応えます。

 マイクパフォーマンスとか起きないかハラハラしました。

 次に新婦へ向き直り誓いの言葉を始めます。


「ハメると時も」


 出だしからおかしい!! くぅ!!

 思わず自分の額をペチンと叩いてしまいました。病んでた方がマシと思える赤裸々な誓いの言葉が続きます。いやむしろ痴漢の言葉だよこれ?


「――誓いますか?」


 一通り猥談じみた言葉が終わり衆人観衆の前でそれを誓わせられる新婦って。


「ち、誓うわよ!!」


 もうヤケクソになってます。

 他の国や文化圏では、ここで誓いの口付けを行う風習もありますが、どうせこのあとすぐ下の唇にいやってほどキスするんだからと割愛された様です。ほんとこの国最低だ!!


「それでは指輪の交換を」


 行為神官も一通りやって満足げな顔です。大丈夫でしょうか女神教?

 祭壇前でお二人がそれぞれの指に指輪をハメ合います。ん? 私もニュアンスが変になってるな?

 神官が祭壇の女神像に向かい手を合わせます。


「ここに新たな夫婦が生まれました。どうかこの者たちに変わらぬ平穏と今以上の幸福をお授け下さい」


 やっと神官っぽい事を始めました。結婚式らしくなりました。

 そう思った時期が私にもありました。


「祝福するのだー」


 のだー、と天から女神様が降臨。いよいよ収集がつきません。

 言動が幼いようですがそこは痩せても女神様。薄い白い布が体にぴったり張り付いたプロポーションは神ががってお美しい。思わず柏手を打ってしまいます。ぱんぱん。

 それにしても巨大ですね。巨女萌えですね。顕現する縮尺間違っていませんか?


「このよき日、ここに新たな夫婦の宣言をかしこみかしこみもうすー」

「りょー」


 神官が祈りを捧げると、女神様がめっちゃ軽いノリで応えます。

 おい、もう少し何かあるだろ女神。


「我ら女神一同、新たな男と女の営み即ち今宵の初夜を祝福し、しっかり見守りますから安心して励みなさい」


 喋ったら喋ったらで落ち着かない初夜だよあぁもう!!


「いいだろう!!」


 新郎が祭壇の女神を仰ぎます。


「今宵、目にものを見せてやろうぞ、女神ども!!」


 ヤケクソになってません?


「な、人の子よ……だったら見せてもらうのだ、夜通し花嫁が乱れる艶姿を!!」


 売り言葉に買い言葉なノリでズイコウレン様が乗っかります。


「わたくし……女神様がたの御前でメチャクチャにされてしまいますの……!?」


 花嫁すっかり怯えちゃってるよ……。


「そう震えたもうな。大切にする」


 新婦へ向き直り優しげに囁く。激情が嘘に様に甘い言葉だった。


「こ、これは武者震いですわ!!」


 婚礼の儀で武者震いする花嫁って、一体……?


『それでは、ご参列からのお祝いの言葉を賜りたいと存じます』


 何事も無かった様に進行するアナウンスさんが凄いと思いました。

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