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348話 再会嫁よ

 扉がもどかしい軋みを上げ、こちらへ開く。

 ぬかったわ。奴が隣に控えると知ったら、こいつらに喧々囂々とはしゃがせなかったものを。て言うか知ってたなら自重しろよ。

 あの喘ぐような朱に染まった世界で感じた悪寒が、暴風雪の痛みで皮膚に歯を立てる。

 バタンと窓側で音がした。

 メイド姿が床に倒れていた。ガーベラさん、戦闘要員じゃないもんな。


「すやぁ……。」


 幸せな人め。

 スミレさんは微動だにせず隣室の扉を睨んだ――ように見えて立ったまま意識を失っているなこれ。


「バーベナさんも()()()いいんだぜ?」

「いいえ」


 と席から立ち上がる。

 キリリと背を伸ばし、その名の花のように微笑んだ。


「あの夕暮れに既に受けているわ。二度目だったら耐えられるもの。それに、お嬢様には直接お話ししなくては」

「まだ会って無いんだ?」

「扉越しにお声は掛けさせて頂いたけれど、その……会えば分かると思うわ」


 含みのある言い方だな。

 意味はすぐに分かった。

 扉が開き切った。

 ハリネズミのように全身に刺す悪寒が、音ともに引いた。消えた。

 光と、ただ静寂が敷き詰められ、平衡感覚が鈍る。


「サツキくん……。」


 長方形の枠の中に浮かぶ孔雀青(くじゃくあお)のドレス姿が、不安そうに俺の名を呼ぶ。


「サツキくん……迎えに来てくれたと思ったら、別の知らない女の子を連れてた」


 あ、これ拗ねてたんだ。

 バーベナさんと別邸の外観を下見した時、フード被ってたもんな。俺には気づいても、まさか故郷にいる彼女が同行してるとは思うまい。


「いやほら、知ってる女の子。ほら叔父さんのところの第四魔法大隊長。ね? ここに侵入するのに協力してもらってたの」


 仲間はずれと不安になったんだよな? 本当は館中を怨念で魔界に変貌させたりする子じゃないもんな? 分かってる。お前はいい子だって分かってる。


「うん、知ってる……サツキくんの後ろで……見た事のないような雌の顔をしてた……ベリー辺境伯第四魔法大隊長……私の知らない顔だった……。」

「何でそんな顔でついてきてたの!?」


 そりゃクランも不安がるわ。湧き出す鬼気だけで門番昏倒させたり、使用人が変調をきたしたりするわ。


「す、すみません!! あまりにも、その……夕暮れ時の散策がロマンチックだったので……ひぃぃ!?」


 再度、例の鬼気が吹きつけた。

 これ大丈夫か? 今のでアウトなら、俺との事、何も無かったことにした方がいいんじゃないか?

 バーベナさんに思いとどまるようアイコンタクトをする。


「なになに……あの夜のことは……黙っていよう?」


 やべー、クランに先に解析された。呪いでグリーンガーデン時代に嫌悪してたとはいえ、付き合い長いもんな。阿吽だよな。


「サツキくん……? どういう……こと……ですか?」


 パーティ追放の折にパンツを構えられたて以来だ。吐きそう。静かな問いにもう吐きそう。


「どうって……君が気にする事は何も無いよ。俺はクランだけのもn」

「すみません!! お嬢様という奥方がおられるのを知っておいて、しちゃいました!!」


 秒でゲロってた。


「朝まで何度も!!」


 余計な情報まで与えやがった。

 ピシリと張り詰めた。空気というより空間そのものが。


「やっちゃったの……サツキくん?」


 瞳孔の窄まった目が無機質で、嫌に痛々しい。

 彼女を信じると言った俺が裏切った。

 クランのドクダミ伯輿入れに何らかの戦略的意図を感じたから余裕でいられた。もし違ったなら? この細い体が他の貴族のものになっていたら?


「サツキ様の事はお許しください。私が求めてしまったからです。もう二度とは会いません。魔法大隊長も返上し、ベリー辺境領を追放されましょう。ですから何卒!!」


 思い詰めた顔のバーベナさんが、深く頭を下げた。放っておいたら自害しそうな勢いだ。


「朝まで……サツキくんに……求められたのよね……。」

「それも私の不得の致すところです」


 頭を下げたまま答える。


「ずっと朝まで……何度も出し入れされてた……?」

「ええ、そこは怖いから許してと懇願しても、その……体位や角度を変え、後ろから前からと執拗に」


 やめてバーベナさん!! もうそれ以上は言わないで!!

 頭下げてるから気づかないだろうけど、クランの顔――。


「そんなにされたの……? 普段届かない所にも……?」

「は、はい、絶対に刺激しちゃいけない所にまで、何度も」

「分かる……。」


 もう謝罪なのか何なのか分からん告白に、クランの顔は薄桃色に蕩けていた。

 表情の乏しいからこそ、淫蕩に染まった時がえげつない。俺だけが知る彼女の一面だ。それが今?


「……すごい……そんなに可愛がってもらえたのね……。」

「はい、それは筆舌に尽くし難いほど」

「私というものがあるながら……。」

「ひぃぃぃっ」


 もうコントかよ。


「それは隙を見せた俺の問題だ」

「サツキくんは……誘われなきゃ、やらない……。」

「は、はい、私が誘ったからっ!! ですからこの不始末は私が落とし前を取る事で、何卒その殺気をお納め頂きたく」


 更に深々と頭を下げる。

 バーベナさんの視界の外で、クランが「これどうするの」って見てくる。俺に振るなよ。


「問題は君がどう制裁を与えるかだ。誰に、であれそれは拒まない。手段よりもまずはどこに着陸するかだ」

「一罰百戒……。」


 恐ろしい事言い出したな。

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