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339話 モヒカン&角刈り

「おとなしくついてきな」


 モヒカンの手が俺の肩へ伸びる。微動だにせずその動きを見守った。触れる瞬間、小さくステップを踏んだ。


「ぬお!? 妙な真似を!?」


 ばちんと、岩のような手が弾かれた。


「何かの術か!?」


 角刈りが身構える。俺の手は自然に垂れていた。振り払っちゃいない。それをどう受け取ったか。


「やるじゃねぇか」


 踊り子(反射盾)Ⅵは、接触のタイミングを合わせる面倒に目をつぶれはインターバールが無い分、絶対防御の仮想盾より使い勝手がいい。油断が簡明な相手なら、飛来する蟹の泡よりも合わせるのは楽だ。


「絡まないでくれ――という話は聞いて頂けないのだろうな」


 何事かと遠巻きに見守る観衆の中に、気になる人物を認める。

 町娘風の衣装だが、今到着したのだろう。呼吸が荒い。走ってくる姿も見えていた。大きな蜜桃を激しく揺ゆらしてたっけ。


 ……そこだけ聞くと最低だな、俺。


「ただのゴロツキじゃないな。依頼を受けた冒険者って所か?」

「ああん? 分かってるじゃねぇか」


 角刈りが俺の視線を遮った。

 自然な立ち居振る舞いだが、あえて粗暴に見せてる。


「ソイツが発注者か?」


 俺の言葉が終わらないうちに、横合いからモヒカンの拳が迫った。向こうも焦ったな。依頼者が現場を確認しに来たんじゃな。

 遅れて空を切る音が続く。

 ステップを踏む。踊り子(回避盾)Ⅳ。

 ハッとして咄嗟にクロスした腕に衝撃が走る。角刈りのやつの掌底をモロに受けた。

 バックステップをし、モヒカンの追撃を躱す。


「やりにくいなぁ」


 素手相手だがコンビネーションに隙が無い。粗暴に見せて絶妙な体捌きだ。


「何の用なんだよ」

「ちょいとお前の関わってることから手を引いてくれりゃぁいいんだ」


 強引な割に妙な要求だな。

 少し考える。おおよその見当はつくけどさ。


「君たちの中で俺はどんな卑劣漢になってるんだ?」

「惚けようってのなら構わないぜ」


 モヒカンの声は腰の下辺りから聞こえた。

 一っ飛びで間合いを詰め、両足を開き内側に入ってきやがった。見た目に反して柔軟性が半端ない!?


「ひゃあっ」


 無様な声を上げる。俺が。下からの突きを避けた所に、空中に飛んだ角刈りが多い被さった。なんて跳躍だよ!?

 後ろに倒れるのを踏ん張れば、その力を利用して締め上げられる。独特の捕縛術。そしてこの風貌!!


「お前ら、レシュノルティア、ヴァイオレットレナ兄弟だな!? SSランクの!!」


 世紀末のアウトローな風貌だが、貴族出身だと聞いた。独特な体術は家に伝わる技か。


「おとなしくしてりゃあ手荒にはならなかったんだがよぉ」

「新人SSが、粋がった結末だ。思い知りやがれ」


 ……え、俺が悪いの?


「待て、状況が見えない!! うっ、めっちゃ締めてくる!? 抜けられない!? やだ!! おーかーされーるー!!」

「変な事言ってんじゃねーよ!! お前が一般市民のお嬢さんに言い寄ってるってのは分かってんだよ!!」

「嫌ーっ、体をまさぐられて、アタイもう駄目ー!!」


 周囲がざわつく。

 ここは暴漢に襲われる町娘に徹するぜ。


「おいおい、やばいんじゃねーのかこれ」

「誰か憲兵を呼んでこい」

「お姉さん、かわいそう……できる事なら代わってあげたい」(はぁはぁ)


 おいそこのご婦人!? 民衆に上級者が混じってるぞ!?


「テメェら見せ物じゃねぇぞ!!」

「きゃー、モヒカンが来たわよー!!」「こっち見てー!!」「わたしも組み敷いてー!!」


 何故か黄色い声援が上がった。

 え、この兄弟、人気あるの?

 あといい加減、上級者は黙ってろ。


「ていうか、お前らの依頼者、この騒ぎで逃げていったけど身元は確かなんだろうな?」

「テメェに会わせるわきゃねぇだろ」

「正式なクエストか? 身元は確かでも、本人か?」

「んだとコラァ――おい、こいつは俺が拘束する」


 角刈りが言うとモヒカンが「おう!!」と応え群衆を分けて行った。




「誠に申し訳ねぇ!!」


 モヒカンと角刈りが土下座する。

 そして――。


「力が欲しいか、かしら?」


 今更やって来た上位精霊が何か言っている。

 どうすんだよ、ますますカオスになっちまったじゃねーか。何で終わってから来るんだよ。


「美少年が筋肉隆々な荒くれに組み敷かれる図。大変ご馳走様でした」


 モヒカンにエスコートされた本物の町娘により俺の無実は晴れたが、何か尊厳的な物は失った。

 しかし、改めて見るまでも無い。確かに違った。さっきの偽物より、ずっと慎ましかった。あと本物の視線の方がずっとギラギラして怖い。

 恐らく追ってきたバーベナさんも偽物だったのだろう。オッパイを憎む彼女が自らのオッパイをああも上へ下へ(ぶるんぶるん)と揺らすはずがない。

 最初はクランだった。

 となると、刺客は実在する人物にしか化けられないのか? 模倣というより本人の言動をシミュレーションするスキルかな?


「人命に損害が無いなら痛痒(ようつう)を感じないさ。レシュノルティア、ヴァイオレットレナ兄弟に貸しを作ったと思えば、悪い話しばかりじゃない」


 マリーの時とは違うんだ。


「まったく面目ねぇ」

「いつも顔を出してる花屋の娘っ子でな。話に乗っちまったぁ」


 このツラで花屋か。


「仲の良いご兄弟で、大変捗らせて頂いております」(ハァハァ)


 清純そうな瞳を潤ませ、あ、いや、変な目でモヒカンと角刈りを見ていた。まさか……こいつらを掛け算してるのか?


「美少年/(モヒカンさん×角刈りさん)……じゅるり」


 俺も方程式に混ぜるなコラ。ていうか、こんな子に迫った設定にされてたの?


「力が欲しいか、かしら?」


 うるさい毛玉。ちょっと待ってろ。

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