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333話 実は要人保護

一言、ミスリードを埋めています。多分、分かりやすい。

 昔は俺が背伸びしていたけれど、改めて向かい合うと高低差が逆転していたんだな。

 見つめ合う相手の視線は下にあった。おかげで浴衣の胸元で汗のような雫がランプに照らされる様子までバッチリだ。


「じゃあサツくん、やってみて」

「どうしてもやるってぇのか」

「今更命乞いか」

「誰だよ!? どこのオロチだよ!?」


 バーベナさん、不安定だな。

 ここは俺がしっかりしなくちゃ。せめてツッコミだけでも。


「よし、さっさと終わらせるぞ――ごきげんよう、ワタクシの可愛いお馬鹿さん?」

「え、そっちで行くの?」

「違うのかよ!?」


 駄目だ。ちゃんと擦り合わせしないと。


「分かった――ほら、寝れないなら兄ちゃんの布団に来るか?」

「うん、お兄ちゃん……駄目、ツライ」


 グッと腹部を抑えて俯いた。


「お腹がつって」

「うるさい黙れ。もうやらんぞ」

「あ、大丈夫、ちゃんとするから。お姉ちゃん、ちゃんとサツくんの妹できるから」


 混沌としてきたな。


「もはや魔術的な儀式に見えてきた」

「――ね、兄さん。私たち、本当の兄妹じゃなかったら良かったのに」


 急に重たい事言い出してきた。


「この気持ちが許されない事だとしても」

「いや割と話には聞くな」


 貴族での話だ。兄と妹や、姉と弟や、まれに兄と弟でそういう関係になる事もあるらしい。オニショタ最強かよ。適齢期に至っても関係が継続する場合、偽装結婚により内々に処理をする。市井だって分かんないよ。遠い田舎の村なら過疎により行われる可能性だってある。過疎じゃなくてもアネモネの村のような事例だって。


「そういことか」

「お兄ちゃん……大好き」

「長らく社交界に現れない党首にこのタイミングでヴァイオレット公爵家まで担ぎ出した」

「お兄ちゃん、中に頂戴、私、お兄ちゃんと夜の『山嵐』がしたいな……え、もう終わり? 真面目な話になったの?」


 さらりと何を言った?

 ていうかアレ土魔法の最上級じゃなかったの?


「本来の婚儀に反した意思は感じた。クランが現場を押さえてさえくれれば、いくらだって隙は付けると踏んでたさ。いまいち判断が下せないのがドクダミ伯爵だ。ハンゲショウという名前だけは出てきたがそれ以外の親族構成が洗えないんだ。先代に至っては夫婦揃って他界している。バーベナさんだって叔父さんから聞いていないんでしょ?」


 あ、苦笑いしてる。


「バーベナさん」

「守秘義務だってあるのよ」

「お姉ちゃん。ボク、お姉ちゃんの中で甘えたい」


 うわ、最低だ。自分でもどん引きだよ。


「もうしょうがないわねサツくんは。お姉ちゃん子なんだから」(デレデレ)


 いいのか? これ正解で。


「……歳の近い叔母が居るの」


 身近な所からこんな新情報が。


「家族構成には目を通していた……あ、妾腹か!? だったら徹底した隠蔽も分かる話だけど」

「両方とも先代夫婦の直血で間違いないわ」

「いや、なら問題無いんじゃ」

「そこは懊悩(おうのう)に震えるだけの理由があるのでしょう。クランお嬢様とは関係の無い話だからサツくんも気にしちゃ駄目よ?」


 めっ、と指を立てて、バーベナさんは背後のベッドの淵に座った。

 杓子定規な回答で濁さないのは意外だ。クランである理由とは別の意思があるのか。

 それに何だろ? 今のバーベナさんの言葉にじっとりとした汗のような違和感を感じる。


「何で武勇に誉れ高い辺境伯かってのは分かった。要人の保護だな」

「凄い……一瞬でそこに繋がったの、サツくん?」


 オレンジのランプの下で、バーベナさんが目を丸くする。


「必要なのは公爵家や辺境伯の権威じゃ無い。と考えれば後は両家の特異性だ。特に瑠璃紺の天使様は他国にも名を馳せる。ていうか防衛名目で前線を蹂躙したりで他国だからこそ警戒して――。」

「どうして諸外国の話になっちゃうのよ!!」


 この期に及んで何を言ってるんだろ。


「内政の問題なら苺さんとマブな王家が出張ればお終いだろ?」

「そんなに仲がいいの?」


 知らなかったのか。

 あいつらヤバいよ?

 いい歳した女二人が頭のおかしい下着姿で未経験な少年を寝室に囲い込むチームワークには、一瞬このまま流されてもいいかなって覚悟も決めた。全身白タイツの変人に救われたが。


「……ここの王家って変人しかいないよなぁ」

「何を思い出したのかわからないけれど不敬よ?」


 アレを敬えというのは無茶だ。


「確かに貴族派王家派で言ったらウチは後者だけれど。表立って立場は表明していないから、よくて公爵家の筆頭でしょうね」


 普通は「よくて」の扱いじゃ無いよ、筆頭公爵家。


「状況証拠だけだがね。て事は対象はドクダミ伯爵じゃ無く、そっちの血縁上の叔母上って所か」


 正しくは登記上って話だ。こっちの調査に掛からないなら一癖あるんだろうさ。


「はぁ……北方共和との関係はどこまで知ってるかしら」


 思いもよらない名前に眉根を寄せた。

 ドクダミはアザレアの南方に位置している。ツワブキくんの故郷ならまだしも、不意打ちのように出てきたな。


「国境沿いでの戦力衝突は前に叔父さんが無茶をやって以来形だけの条約で膠着させたって。二年前に二つほど近隣国が加盟しているが、実質の侵略ってのは明らかだ。ウメカオル方面にも進出を見越してるってのは呆れるがね」

「ヘリアンサス陛下の近縁者といえば聞こえはいいんだけれどね。経歴も戸籍も分からない小国の王侯なんて言われたって……。」

「ヒマワリ? 併合に徹底抗戦の構えのはずだが? 北方共和が近隣との条約を一方的に反故にして侵略活動に勤しむのは認識しているけど」

「アザレアだって戦場なら何処にだって顔を突っ込みたがる辺境伯領(ウチ)がなければ、人の事は言えないわ」


 国民の安全と財産を守れているのが結果論というのは、大丈夫なのか?


「外人部隊みたいに言うなよ」

「実際、冬期標準の部隊構成や訓練だってあるんだから。ああ、そういう話じゃなくて。小国の王侯貴族だからってアザレアの一貴族が無碍にできないでしょってこと」

「そりゃあそうだけどさ――それが何だってドクダミ伯爵に? いや、その近者だな。対外的な要人警護は当たったとして、相手側の経緯までは……ああ、それで最初の北方共和の話しになるのか」


 ぼんやりだが見えて来た。


「戸籍が追えないとはいえ近隣国王侯からの申し入れなら、一方的な拒絶はアザレア批判の温床を生むから理由が欲しいんだ。言い出しっぺが撤回する根拠が。防衛の(かなめ)の辺境伯家なら。ヘリアンサス陛下からの正式な打診なら情勢が不安定な公国の広告塔に担ぎ上げれるのにそれすらない」

「公国だけに」

「うるさいよお姉ちゃん?」

「うん、私、弟くんにお仕置きされたい」

「東南の共和国からの工作活動や進軍にリソースを割かれてるんなら、先細りの見えた貴族を抱き込んで内政に入り込もうってのは分かる話しだ。どうせその王侯の親戚筋っての、北方共和の工作活動ですげ変わってるんだろ。確かにベリー叔父さんの近縁という立場は破談に持ち込む理由になるけれど」


 けれど、納得はいかない。


「何もクランじゃなくたって、適齢期な従姉妹たちも居るだろう? いずれも婚約はまだだと聞いたよ?」


 今回の件で疑問だった。追懐(ついかい)の中に、幾人かの姿が溶ける。分家筋の娘たちだ。

 答えは簡単だった。


「クランお嬢様だけなのよ。SSランクだなんて」


 ちっ、最初から荒事が前提か。

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