329話 何故か居る
男子小学生だって今どきここまで酷くないぞ……。
向かった先は冒険者ギルドだ。
念のため受付でレンタルスペースの空きを確認してから、2階の職員会議室へ通してもらう。
「貸し会議室も予約が埋まってたわね。普段からこんな風なの?」
「冒険者が冒険に出ないでどうすんのさ。スペース自体、区分けが少ないけどこれは混みすぎだ」
防音、対盗聴盗撮、対魔法設備を完備する都合上、大都市の支部でも三室が経費的に限界だ。ここのギルドは二室しかなかった。
「冒険は現場で起きてるって言葉を聞いたわ?」
「難儀な現場だよ」
そもそも受注中はギルド庁舎に寄りつかない。採取、討伐、護衛、奪取、救出、いずれも拠点から離れる。特にダンジョン攻略は。
極端な混雑は冒険者ギルドと違う力が働いていると見れる。あの時のような。
……ご同輩なら問題にならないが、俺たちの同類がそこらへんに転がってても嫌だな。
「私に見惚れて?」
冗混じりに不安気な視線を向けられ、バーベナさんを見つめていた事に気づく。
らしく無いセンチメンタルだった。今度こそパーティメンバを守りたいだなんて。
指定された扉を開けると、ギルドの職員が居た。
着古した制服に、皺の深い顔がじっとこちらを見つめている。
無言で肩をすくめて見せると、ほっとしたように息を吐いた。
「こうも打診に反応してくれるとは思いませんでした」
バーベナさんが「え」と怯む。
男の声は若々しかった。少年のようであり、女性のようでもある。
「観光組合を通して宿泊施設に指名手配をした甲斐がありました」
「商業系ギルドからの発注という体は当たりだったな。いや白い追憶庵だけじゃなかったのか。同じ手はもう使えないにしても大胆な事を」
「あの後、凄かったんですから。私、いっぱいお仕事しましたよ」
「それは本職でって事か? 言っておくがこちらはベリー辺境伯魔法大隊の」
「存じています、第四大隊長バーベナ様。サツキさんと親しいおかた。私はガーベラと申します。キクノハナヒラク帝国出身ではありますが、今はウメカオル国で臨時の公務員をしています」
にこやかに話す初老の男の顔にギョッとした。そこまで話していいのかよ!!
「……完全不干渉国。何でそんな人と繋がってるの? え、本当にあの侍の国や技術大国?」
お姉ちゃんが蒼白になる。そりゃ辺境伯令嬢お輿入れどころの騒ぎじゃない。分かるー。
「ちなみにこの前の式神は、サクラサク国のアカシア王女だ」
「魔大陸の魔族じゃない!! もう!! 何なのよサツくんは!! もう!!」
トドメを刺してみた。
流石に泣き出した。
取り乱すバーベナさんも可愛い。もっと取り乱せたいドス黒い感情が芽生える。
「あ、やっぱり辺境伯のほうでも魔族って扱いなんですね」
ガーベラさんはそっちの事情にも通じてるか。
「そういうレッテルだからな。瓦版を始めとする報道が嬉々として喧伝してる。サクラサクだけじゃない。他の二国も邪魔なのかネガティブな報じ方だ。すまんな」
「王政が強要してる訳じゃないのは分かりますので。恐らくはアザレア外の勢力がそうさせてるのかと」
要は工作員って事だ。民衆を煽動するのは簡単だ。事実を伏せればいい。報道しない自由ってヤツだ。
……ガーベラさんがそれ言っていいのか?
「人心誘導の問題はひとまず王政に預けるとして、別れた後の話を聞きたい」
「ご安心ください。クラン様はまだサツキ様以外のおちんちんを知りません。脳破壊されるような事は決して」
「え!!」
叫びの主に俺とオッサン姿のガーベラさんの視線が集中した。
バーベナさんがこの世の終わりみたいな顔で宙に視線を彷徨わせていた。
「……そんな……私、お嬢様にまで先を越されていただなんて……。」
「それほどでも……ないよ……///」
バーベナさん、それだけコンプレックスになってんだ?
「むしろあの清純なクランお嬢様が、遥か高みに到達されていたなんて」
「そうかな……///」
バーベナさんの中のクランは、きっと一日履いたパンツを幼馴染の男の子の顔に押し付けたりしないんだろうな。
「それに比べて私なんて!! 25にもなって未だにおちんちんが実在するのかすら知らない!!」
「大丈夫……バーベナならお願いすれば……きっとサツキくんもおちんちんの何たるかを……分からせてくれるはず……。」
お前らにとってのおちんちんって、何なんだ?
「それで、クランの身の安全は保証されてるんだろうな?」
「安全面で言えばそうなのですが。今は別邸で歓待を受けています。表向きは」
「実態は違うのか? 新婦として迎えられたんだよな?」
「軟禁状態ですよ。最低限のメイドと、計画されている搬入業者の出入りのみで、クラン様が敷地外に出る事は許されていません」
「マジか?」
「マジ……だよ……?」
「じゃあお前、こんな所で俺のおちんちんについて語り合ってる場合じゃないだろ?」
「え」と全員が意表つかれたように、白い飾り気のないドレス姿を見た。いつの間に佇んでいたのだろうか。
「お嬢様、ご無事でしたか!!」
「クラン様!! ……なぜこちらに? 館をどうして出て来られたのです?」
最初から居た? 俺たちと入ってきた?
影はある。実態だ。
「来ちゃった」
「簡単に封じたモノが抜け出せる警備ではな。新婦が舐められたんじゃあ」
わざわざ連行して何て扱いだよ。




