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325話 事後・サイクロプス討伐

無論、サイクロプスなどミリも掠っておりません。

「……しくしく……しくしく……わたくし、もうお嫁にいけませんわ……あんな風に、大切の所を触られてしまうだなんて」


 何度か痙攣した後、どうにか奥から溢れる湿り気は治った。

 街娘風の服装はクランの私物だ。こんな物でアイテムボックスが圧迫されていた。サツキの得物まで押し付けられていた。おのれ。


「漏らしたままでは匂いで魔獣が寄ってくる。質の良いものだから埋めてしまうのも忍びない。洗濯したらお返ししよう」

「辺境伯ご子息様にわたくしが盛大に吹き出したパンツと衣服を持って歩かれるなんて!!」

「アイテムボックスは区画整理機能が十全だ。放り込んでも他の荷物とは干渉せんよ」


 どのみち街の復興計画の提案までは付き合わざる得ない。その間に揉み洗いの機会などいくらでも。


「それで、どこまで使える? 瞼の一つや二つは戻せるんだろう?」


 娘のスキルを見越しての事だった。

 死者と生存者の外見的な差異は、町民、騎士の区別なく損壊度合いに顕著に現れた。加えて生存者に怪我や損耗が確認できないのも共通している。

 あり得ない。

 衣服は破れ、装備も砕かれ、家屋が粉砕されながら中身だけ無事など。


「何故……そのような事を?」


 身動きできないはずの娘の声は、遠く離れた場所に感じる細さだ。


「根拠は状況証拠だ。秘匿するのも想像に容易い。そうでなければ、とっくに教会の連中が確保してるはずだ。お前は、聖女だな?」


 娘が息を飲み込んだ。オダマキの騒動でサツキの配下に同じジョブの少女は目撃している。


「聖女などとはおこがましい。多くの民とわたくしを信じて付いてきた騎士たちを死なせて仕舞いました。歴史にデモンと蔑まれても仕方のないこと」

「では、そう呼ぶとしよう」

「あなたは!!」


 すぐ目の前で甲高い娘の訴えが俺の顔を打った。面倒な娘だ。


「復興計画の為にも損害評価は早目に上げたい。余計なものが舞い込む前に済ませてくれ」


 ため息混じりに言うと、彼女も諦めたように大きく息を吐いた。小さな、冷たい手が俺の両頬を挟む。気配が近づくのを感じ、すぐに離れた。


「終わりました。見えるはずです」


 宣言に従い瞼を開ける。

 夜目にも輝く淡黄蘗(うすきはだ)のブロンドが目の前にあった。顔を伏せているのは、俺の眼光の対策だろうか。

 そしてすぐ右手でジィっと見つめるメイドが居た。


「……。」

「……。」

「……。」


 どういう事だ、この状況?

 メイドの小娘には見覚えがある。中央都市でうちの屋敷に滞在していた魔法使いだ。


「いつから居た?」


 メイドにではなく伯爵の娘に聞いた。


「最後のサイクロプスからわたくしを守って頂い時には、そちらに」

「俺が瞼を切る前じゃねーか!!」


 まさか。気配に気づかなかった? 音すらなく? 俺が遅れを取っただと?


「テメェ、何見てんだコラァ」


 距離を測る。すぐそこ、二メートル先。充分な間合い。

 背の低い木々の中に佇む姿は、森に棲む妖怪のたぐいか。

 そいつが折目正しく礼をする。


「ワイルド・ベリー様におかれましてはご機嫌麗しく。改めましてご挨拶を申し上げます。クラン様の魔法使いの弟子にしてサツキ様の忠実なる肉奴隷(予定)(カッコ予定カッコ閉じ)、イワガラミと申します。くすくす」

「今なんで笑いやがった!!」


 ニンマリした口元を隠そうともしやがらねぇ。


「失礼しました。ご主人様を二度に渡って追放されたお方が、こんな町はずれの森で、失禁で秘所を照ら光らせた令嬢の股間に手を差し入れ、あまつさえ濡れに濡れた布地を無理やり引き抜き、押し倒し、至る所を弄って、ついには清潔な服装に着替えさせるなど。前半の所、羨ましく存じます」


 やべぇな、この小娘。

 伯爵の娘を見た。


「え? 何で今わたくしを見たのですか? 辺境伯ご子息のお身内のかたではないのですか? え? ていうか、先ほどのわたくしの痴態はどうか内密にお願いします」

「痴態と言われましても、特に変わったご様子は……ああ、なるほど」


 考える素振りをしたメイドの顔に、理解の輝きが差した。


「辺境伯御令息に股間をまさぐられてヤバい顔でダブルピースしていた件でしょうか?」

「言わないで下さいまし!! か、体が勝手にそうなってしまったのです!!」


 そんな事してたのか?


「別に普通の事だと思いますよ?」


 女ってのは不思議な生き物だな。


「小娘一人か? サツキはどうした?」

「独自に動かれています。わたくしは別働隊のお世話を仰せつかり、夜間偵察に出ていましたら何やら芳しい香りを感じて参った次第です」

「他にもあったろーが!!」


 サイクロプスや野盗や、おそらくは他国の工作員。全滅した街。騎士。それを上回るのか? 伯爵の娘の粗相は。


「天使様……いえワイルド様、何なのですかこのメイドは? わたくしを見る目が気持ち悪いです」

「同類と思われてんだろ」

「何ですか同類って!!」


 腰を抜かしたまま抗議してくる。声、出せるようになったか。イワガラミの登場が刺激になったか?


「否定なさるのですか? ワイルド・ベリー様ほどの美しい男性の前で、盛大に吹き出してしまった――その悦楽を知ってしまったのではないのですか?」


 何か勧誘が始まった。

 いつのまにか伯爵の娘のそばで、いや耳元で囁いていやがる。


「お貴族様のご令嬢とお見受けいたします。そのような高貴で、身持ちが硬い事が求められ……いえ、身持ちはそこそこに。えぇと、昼間は品位が求められる、ああ今は夜でしたね……貴族たれとの教えを守り騎士を率いたお嬢様が、はしたなくも辺境伯ご令息の視線を受け……え、あはい、見られていないのに感じて? むしろもっと欲しくて腰を浮かせて? そうですか既にその域まで極めておいでに……ええ、わたくしなどまだまだ未熟。少々お待ちを」


 娘の心を惑わそうとしたメイドが、不安そうな顔でこちらを見上げてきた。

 いやそんな目で見られても。


「どうしましょう。わたくしの手には余りますわ?」

「むしろオメーがどうしたいんだよ」


 何でいちいち俺を巻き込もうとする?


「せっかく同好の士に巡り会えたと張り切ってこちら側に引き込もうと説得を試みたのですが、まさかわたくしよりも先を歩んでらしたとは」

「わたくしを上級者のように言うのはおやめになって? わたくしなどまだまだですわ」


 それは謙遜なのか?


「むしろたった今、目が覚めたと感じたの。目覚めたのよ? こんなに気持ちがいいのにどうして今までこうしていなかったのか。ああ、悔やまれますわ」


 そんなザマでは社交界も危ういだろ。


「瑠璃紺の天使様のご子息、ワイルド・ベリー様に人としての、いいえ女性としての尊厳に関わる無様な姿を晒すだなんて……ああっ!!」


 腰が抜けたままなのにモジモジし始めた。

 腰が抜けたまま……?


「今のはエクストラヒールだった。効果は経過時間に反比例であらゆる人体の欠損や負荷を回復すると聞く。俺の視界のように」

「あ……。」


 バツが悪そうに視線を逸らされた。


「……。」

「……。」

「回復、できるよな?」

「その……いいように体を弄られる快楽が勝った次第で。こんな惨状では自暴自棄にだってなりましょう。いっそ、わたくしなんて滅茶苦茶になって仕舞えば!!」


 自傷による逃避行為か? だからって性的な興奮に浸ってるとしか。そんな事、誰に理解できるかってんだ。


「そのお気持ち、よく分かります」


 理解者がすぐ近くにいやがった。


「では、貴女も?」

「はい。パーティだった者から蔑まれていた所、目の前でそれらが今のご主人様によって無惨な姿に変えられました。敵対していたわたくしもご主人様の刃に掛かろうというところ、無様に失禁し鼻水と涙で乱れる顔で命乞いを。あぁ、あの快楽は忘れ難いと存じます」

「そんな……!! 貴女のようなうら若い娘が、そんな上級者のような事を!!」

「ですが真理と悟りました。スカートをたくし上げ、大股開きにしゃがみ込み命乞いをするのに、もう躊躇う事は何一つ」


 躊躇えよ。


「そのようなこと……わたくし……ワイルド様に、そのようなことを……。」


 いや期待を込めた目で見上げてきてもだな。

 安全域までこの娘に付き合うか、このまま放り出すか。果たしてそれが問題だ。

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