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322話 むっつり同盟

前話冒頭、どっかで聞いた会話だなと思ったら木星帰りの男と黄色い軍服の男の会話だ。

子供の頃に聞いたの覚えていたのでしょうね。

「えぇ、ご覧の通りよ?」


 簡潔に答える。説明も面倒なので判断は相手に委ねよう。

 前髪を真ん中できっちり分け、瞳は白目がちな三角目だけれど、整った顔立ちに並の冒険者には無い品を感じる。それでいてワイバーンライダー。何者だ?


「……街道を整備している様子から伺うと、公共事業でしょうか」


 そう来たか。


「似たようなものね。入札で渋るあまり人員が削減されて私だけが派遣された感じかしら」


 自分でも驚きの出鱈目ぶりだ。

 相手の正体が分からないから下手に素性を明かせない。


「分かります。どこも現場が理解されないから施工に皺寄せがくる」


 話の分かる人らしい。いや何に意気投合してるのだろう?


「そちらへお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「よろしくてよ。ただし、冒険者はそのような丁寧な言葉では話さないそうよ?」


 私の指摘にワイバーンの彼女は「まぁ!!」と手のひらで口元を覆った。お嬢様か。




 私に羽ばたきの風が当たらないよう配慮しつつ、ワイバーンが着陸する。

 青い流線の首が地面に近づく前に、彼女が身軽に飛び降りた。パンツルックが軽快な身のこなしに似合っている。近くで見ると、幼い顔立ちなのに妙な色気があった。眼差し? この白目がちな三角目のせいかしら。


「ゴーレムではありませんわね? ――何か?」


 思わず吹き出してしまうと、ワイバーンの娘は怪訝そうに眉を寄せた。


「失礼、侮辱したわけでは無いの。余りにも言葉遣いがしっくり来たから。気を悪くしたならごめんなさい」

「粗暴な喋りだってできるのよ? どうしてかしら? 貴女に対しては、これが自然に感じたの」

「光栄ね。どこかで会っていたかしら」

「かもしれません。もしそうなら、お互い分かりませんわね」

「えぇ」


 ずっと年下の会ったばかりの娘に、私の好感度が右肩上がりに更新中だ。

 なんていうか、息が会う。


「これだったわね。土魔法よ」

「その……上級魔法ですわね?」


 感心した風に目を丸めた。


「凄いです。最近は怨霊の館や女神の掘削機やマグロの頭など、おかしな物ばかり目にしていましたので、ここまでちゃんとした魔法は久方ぶりです」


 この子はどんな人生を送ってきたのだろう?


「海産物が流行ってるのかしら?」


 サツくんもクレマチスでそんなことを言っていたわ。


「そうですわね。ワタクシが拝見したものだと、地下から集団で湧き出て合体するのや、口から光線を飛ばすやつですわね」

「それは……海産物の話なのよね?」

「えぇ、マグロでしたわ?」


 海産物って一体……?


「海の幸は一旦置いておきましょう。それよりもワイバーンですのね」

「スイセンカと言います。幸運にも孵化に立ち会う機会があり、ワタクシにとっては娘のようなものですですわ」

「やはり魔力量と質で変わるものかしら?」

「え、えぇ、よくご存知ですね。他にもワイバーンの飼育にお心当たりが?」


 ちょっと考えてしまう。サツくんの事は言えない。ただワイバーンの運用がどこまで研究され一般に浸透しているのかは興味が尽きない。ファームとかあるのかしら? そう言えば侯爵令嬢とお茶会をしたワイバーンも居たって言ってたわね。貴族のペットかしら?


「同じように騎乗して運用する方なら一人知ってるわね」

「他にもいらっしゃるのね? ワタクシも一人存じ上げていますが、ある程度は標準化されているという事かしら。知りませんでしたわ」


 て事は専門の農場やブリーダーが居るってわけじゃないのか。なら、これからの事業に使えるかしら。


「貴女は、冒険者職なのよね? ソロ活動とも思えないけれど。ひょっとしたら二つ名持ち?」

「二つ名など、ワタクシには分不相応ですわ。ですけれど、仲間達からこう呼ばれる事がありますわね――むっつり令嬢」


 悪口じゃない!!

 え? この子イジメにあってるの? でも本人からは特に嫌悪感は感じないのよね。それに――。


「そうですか。私も似たようなものだから分かります」


 他人事には思えなかった。


「分かりますか」

「分かるわね」


 ……。

 ……。


「「ふふふ」」


 何となしに符丁が合う。その程度の解釈でいい。敢えて何がと言わないところが婦女子の嗜みだ。


「パーティのお仲間。そちらもワイバーンに?」

「ワタクシだけですわ。それで航空哨戒に出ていたら凄い音が鳴ったので」

「大変お騒がせしたわね」


 広域の偵察なら護衛クエストか。行軍随行の戦術展開でもないだろうし。ワイバーンライダーが珍しく無いのなら、噂に上がらなくても不思議じゃないのだけれど。


「でも、お陰でむっつり仲間に会えました」

「あ、私もうそちら側なんだ……。」

「いけずですわ」


 可愛らしく拗ねて見せる。

 会った時が凛とした顔立ちと背筋だったので、ギャップが凄い。妹にしたい。


「私ほどにもなると、実践が伴ってますのよ?」


 やべ、ついハードルを上げてしまった。


「経験が豊富という事ですわね。尊敬します」

「どうってことは無いわ?」


 ついこの前、小娘時代からの片思いに敗れたばかりだけどね。


「またお会いできるでしょうか?」

「星の巡り合わせ次第だけれど、この世界も意外と狭いものよ。どこかの街で必ず」


 流石に適当過ぎる。


「では、その時に」

「えぇ、それまではお互い名乗らないでおきましょう」


 本名じゃ身バレのリスクがあるし、偽名じゃ本当に再会した時に不信感を受ける。いい感じに流すのよ。


「でしたら、せめて。せめてお姉様と呼ばせて頂きたいです」

「よろしくってよ」


 余裕たっぷりに微笑んで見せた。向こうから妹が転がり込んでくるとは。


「それでは、またいつか。お姉様」

「えぇ、息災でね」


 再会を近い合い、遠ざかるワイバーンを見送った。

 話しているうちに、街道の慣らしは終盤を迎えていた。




「魔物の分布には異常は無かった。生息域に変化があったのはここだけのようだよ――良いことでもあった?」


 戻るとバーベナさんがソワソワしていた。いやウキウキ?


「偵察お疲れ様、サツくん。こちらは特に。あ、いえ、大切な友人が出来たの。いいですわね、同志って」

「?」


 よく分からないけれど、元気が出てくれたならそれでいいや。

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