321話 サイクロプス討伐
タイトルに偽りあり。
324話でリベンジ予定です……あ、やっぱ無理でした。
街を出て少時、徒行を余儀なくされた。
クレマチスのキャラバンが出立するまで、ホウセンカは人目にしたく無い。セレモニーを消化した以上、ワイバーンとの関係性は俺たちだけの問題で済まなくなった。
「実際の所、新装備は行けそうかな?」
「新しいブーツだからって靴擦れに悩むほど軟な教練はしていないわ。領の制服じゃないのは嫌な感じね。慣れるまで好きにはなれないかしら」
戦闘行動が伴うから辺境伯領の公僕だって露見するのは良くない。俺の手持ちの装備で偽装しようとした所、番頭さんから申し出があったのだ。
「そう思うのはバーベナ姉さんが不精をしてきたからだよ」
「私が……安易な道を選んでいたってこと?」
「本能でそれが分かるから、バーベナさんは俺と旅に出たんだ。辺境伯魔法大隊の四大魔法使いが失恋だけで無期限の休職なんて叶うものか」
「そうか」と彼女は小さく呟いた。
「それを危うく感じたから、ブルー様は私を好きにさせて下さったのね。休職申請の手続きもなく」
言われて見れば引継ぎも無しに連れ出しちゃったな。それに、それだと俺の自惚れが酷い。人に可能性を与えられるって。冗談ではない。
「躊躇いが無かったのは賞賛に値すると思うよ」
誤魔化した。
ここまで来て心変わりされても困る。
「今は、乗せられておくわ」
「ありゃりゃ。そういえば、バーベナさんの属性魔法って何だったの?」
「土魔法よ」
「……。」
噛ませや一番の最弱になったりしないよね?
やがて森に足を踏み入れると、奥で羽を休めていたホウセンカが身を起こした。
「土系魔法究極奥義・山嵐!!」
ドゴオォオンとかノヒョォォとか、頭の悪そうな擬音と共に四体のサイクロプスが渦巻く土砂に飲みこまれてなんか色々とグロい事になった。
サイクロプス編・完。
……討伐証明、採取が大変そうだな。
バーベナさんめ、調子に乗って。杖を馴染ませるのに一日掛かっただけはあるけれど、時間を費やしたなりの効果を期待したのがまずかった。
「これ、トレーダーが通るのはもう無理だろ?」
街道を壊滅させちゃったもんな。
ただでさえ、バーベナさんの秘め事で時間を使ってるのに……いかん、思い出しちゃ駄目だ。いやクランがシテるところ見た事が無かったから色々と新鮮で。
「めっちゃ声抑えてたもんな」
「?」
怪訝な顔で見られた。やばい、うっかり声に出た。
「敵は倒せばいいってものじゃない。今夜には戻る必要があるんだから」
「キャラバンだって夜に出発はしないわよね。貧乏性かしら」
「街を出るのは朝なの。トレーダーが隊で出るんだから、夜のうちにルートに合わせた最終選考は済ませなきゃでしょ」
人員、馬車、それに伴う予備の選考、決定。護衛と食料の計画。評価の最終期限はそれでも遅い方だ。番頭さんが決裁権を任されてでもいなきゃ。
「サツくん。そういう焦り方は失敗を生むわ? 地慣らしさえ済んでしまえば、商隊は安全に速度を出せるでしょ? 私にもう少し時間を頂戴」
優しい声で見透かした風なことを。
「片付けが出来るのならその間に進行方向を哨戒したいが、一人で大丈夫かな?」
「辺境伯魔法大隊の隊長クラスは伊達じゃ無いわ。ご覧の通りよ?」
「……何かあるたびに深刻な環境破壊を受けるのか」
「何か仰って?」
「いいや。一時間で戻る。危険を感じた場合は独自判断で」
「殲滅すればいいのね」
「退避を優先だ!! 命を大事に!!」
そんなに魔法を使いたいのか?
サツくんのワイバーンが飛び立つのを見送る。途切れた街道の先で姿が小さくなってから、私は今日の現場へ向き直った。
『山嵐』の効果で、至る所から岩石が突き出し木々は薙ぎ倒されていた。我ながらいい出来だ。
ひとまず地ならしね。
「土系魔法千式・ロードローラー!!」
手近の岩に向けて放つと、地面が盛り上がり形状を変化させる。間も無く『ロードローラー』と呼ばれる姿になった。
これが何か。語源は何に由来するのか。学者たちは未だ答えに至らずだ。ただ「地ならしをするのに最適」という用途だけが残った。似た魔法に『タンクローリー』があるらしい。語感から敵ヘイト集積による囮系かしら。
「さて、こちらはオートでいいけれど――もう帰ってきたのかしら?」
翼皮の羽ばたきが聞こえた。音の方へ顔を上げると、曇り空の中、こちらへ飛翔するワイバーンを視認した。
蒼穹を思わす青い鱗が美しい。サツくんのホウセンカとは別種ね。体は一回り小さいかしら。それに首の根元に跨る冒険者風の姿は、女性のシルエトだわ。ああ、そこに関してはサツくんも同じだったわね。
「わざと羽ばたいた? 気づかせるために?」
敵意が無い意思表示ね。急降下する様子も無し。向こうも警戒してるのでしょうけれど。――そのまま近づいてきた?
ゆっくり弧を描きながら降下してくる。つまり側面を晒してるのだけれど、無警戒だなぁ。
こちらも両手を振って応えた。
お互いに様子を伺いつつ、青いワイバーンは私の上空五メートルの位置で滞空した。器用なこと。
「頭上から申し訳ありません!! この惨状、貴女がやられたのですか!?」
綺麗な真ん中分した冒険者の娘が、冒険者らしからぬ言葉遣いで聞いてきた。
どうしたものか。
出会うはずのない二人が出会ってしまった。
次回「322話 むっつり同盟」




