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32話 エレガントマン

ブックマーク、評価などを頂きまして、大変ありがとう御座います。


※運営殿からの警告措置を受け、2021/3/20に26話~41話を削除いたしました。

 このたび、修正版を再掲いたします。

 女将さんの妙案。乗ってみる価値はあるだろうか。


「クロッカスで通せればいいのですが他に候補もありません。ここは甘えておくとよろしいかと」


 むぅ。正論。

 甘える。

 一回り年上の女性に甘える。

 ……。

 ……。

 だあっ!! 思春期かよ!!


「ちょ、ちょっとお前さん、どうしたんだい? 壁に頭なんて打付けてさぁ」

「サツキさん、甘えると言いましたが器物損壊は感心しませんよ?」


 宿屋の壁だった。丁寧に扱わねば。


「まったく、男の子って奴はすぐ馬鹿をするんだからぁ。どぅれ、ちょいと見せてご覧」


 俺の頭を両手で挟み(ひたい)を覗いてくる。

 ……近いです。それと、いい匂い。


「こんなに赤くしちゃってぇ」


 顔が急接近した。正しくは唇がだ。あ――おでこにチュってした!?


「おやぁ? なんだかますます紅潮してきたんじゃないのさ? ふふ、冗談さね。こんなおばんさんにされても、嬉しくはないだろうけどさぁ。あんた見てると、つい構いたくなっちまうんだよ」


 ダダダダダ、と厨房からエプロンと三角巾をしたマリーが全力疾走してきた。


「私にも!! 私にも赤く充血したぽっちりあるんです!! 女将さん、私にもーッ!!」


 いつの間にかマリーの背後に回ったオーナーが、彼女を引っぺがす。


「お前は兄ちゃんにでもやってもらえ。ほれ、仕事に戻った戻った」


 今、何か不穏な事を言った気がする。


「私も、頭を打ち付けてみようかしら……。」


 クロユリさんも不穏な事言い出す。何故か窮余の一策を講じるような顔だった。


「おやおや、おばさん人気だねぇ」


 嬉しそうに笑った。

 オーナーも、しょうがねぇな、と口元を緩めカウンターへ向かう。

 この人らは、本当に情が熱いんだよ。


「先程の話し、承知した。詳しく聞かせてくれ」

「そいじゃあ、奥の部屋へ行こうか。そっちのお姉ちゃんも手伝っておくれ」


 カウンターへ一度振り向き、


「お前さん、ここは頼んだよ」


 オーナーがぐっと親指を立て応える。

 女将さんに促され、先日世話になった部屋へ向かう。婀娜(あだ)に惑わされたのか。早計だった。迂闊だった。

 こんな何気ないやりとりに、罠が潜んでいようとは。



 後ろ手に扉を閉めた女将さんが、気怠気な瞳でこちらを見ていた。


「さぁ、さっさとお脱ぎ」

「……はい」


 クロユリさんが白いワンピースの留め具を外した。

 すとんと落ちる。


 ……。

 ……。


「いや、なんであんたが脱いでんのさぁ?」

「薄暗い部屋で命令されるがままにあられも無い姿になる――密かに憧れておりました」

「どうしようかねぇ。あたしの手に余るよ」


 ドンマイ!!


「あんただよ? 脱ぐの、あんただよ? すっかり他人事みたいにしてるけど」

「俺は薄暗い部屋に憧れなど抱いていないぞ?」

「窓をオープンにしてもいいんだけどさぁ。せめて着替えるまでh――。」

「そんな!! サツキさんの見ている前で開放的になれだなんて、そんな!!」


 いそいそと背中のホックに手を回していた。


「……はぁ。本当にどうしたものかねぇ」

「おのれ、ほぞを固めねばならぬか!!」

「このお嬢ちゃんは何を決心してるんだい?」



 暫くして。


「マリーっ、そっちが終わったらここはもういいから、アイツの方へ回ってやれ!!」


 オーナーの声が響き、フロアから元気な返事が返った。

 間もなくして、部屋の扉が開く。


「お手伝いに来ました!! ってなんじゃこりゃ!?」


 マリーが見たもの。

 冒険者風の娘姿をした――俺だ。

 長袖のブラウスに厚手のコルセットと胸元のタイと、ミニスカートにあずき色のタイツの組み合わせ。髪を後ろで結わうのは深紅のリボンだ。化粧は、下地から紅から睫毛まで、クロユリさんが腕を振るった。


「はぇー……。」

「あははっ、どうだい、見違えただろう? あたしのお古だけどさ結構似合ってるじゃないか」


 女将さんの若い頃の衣装だそうだ。ブラウスの襟や袖、スカートの裾にやたらフリルやレースをあしらっていた。

 女将さんを見る。

 ほんとに年齢がわからない。肌が瑞々しく髪もさらさらで、ちょっと勝気そうな眼睛(がんせい)が仔猫のようだ。


「? な、なんだい、そんな見つめて。あたしだって、そういう可愛らしいのが着たい年の頃もあったさね」

「多分、似合ってたと思う。女将さん、凄く綺麗だから」


 あと、凄くいい匂いがする。


「馬鹿だねぇ、子供が生意気を言うもんじゃないよ。そういう事はもっと近くの子らに言っておあげ。ふふふ」


 何で嬉しそうなんだ?

 それにしても、見違えたというより性別変わってるんだが。


「ちなみにパンツもあたしのだ」


 人妻の使用済みらしい。


「そ、そんな……若奥様の生下着だなんて!! サツキお姉さんが若奥様の生下着だなんて!!」

「無理やり着衣させられたんだ!! ていうか、俺が若奥様の生下着に転生したみたいになってるぞ!?」


 あと、さり気無くお姉さんポジにすんな。


「なるほど。タイトルは『転生したら若奥様の生下着になっていました。今更匂いを嗅ぎたいと言われてももう遅い。チート能力で自由に無双します』みたいな感じでしょうか?」

「クロユリさん!? 何に憑りつかれたの!?」


 ていうか、自由過ぎだろパンツ。


「って、ええ!? この(かた)、やっぱりサツキさんなんですか!?」

「ですよね、サツキさんですよね。私もメイクをしてて、ひょっとしたらサツキさんじゃないかな、て思ったところでした」


 クロユリさん、何言ってるんだ?


「あたしの見立て通りだねぇ。やっぱりあんたはガーリー系で攻めに行くべきだよ」

「慧眼、感服いたします。そう睨んでメイクも勝ちに行きました」


 クロユリさん、もう君はいいから。


「ひぃぇ……元から美少女な面構えとはいえ、化けましたねー。光彩陸離にもほどがありますよ」


 酷い事言われてる気がする。


「胸の方は、当面パッド入りブラの上げ底ですけどね」

「待て、当面って何だ?」

「私やシアちゃんの場合、アオちゃんが執拗に揉んでくるので、なんだか育っちゃいました」

「俺のは育たねーよ!!」


 お前の所の青騎士は何者なんだ? 栽培系か農園系のスキル持ちか?


「ね、サツキさん、この中どうなってるんですか? どうなってるんですか?」

「や、ちょ、まってっ」


 脈略なくスカートを捲りにきやがった。

 うっかり女の子みたいな悲鳴を上げちまったじゃねーか。必死に防御しちまったじゃねーか。


「だ、だめだからね!? これ、絶対見せられないヤツだからね!?」

「あんなフルバーストを見せ合った仲じゃないですか!!」

「それとこれとは話が違う!!」


 必死でスカートを抑える俺を、女将さんが頬に手をあて、


「あまり言いたくはないけどさぁ。お前さんが一番女の子らしいのはどうしたものかねぇ」


 うるさいよ。


「ですが、これで男の子のサツキさんだって思われないでしょうね」

「はい!! 女の子のサツキさんだって思いますよ!! 行けますよ!! ナイスメイクですクロユリお姉さん!!」


 俺をどこに向かわせる気だ?


「それはなにより。このまま新規で冒険者登録も通せそうです」

「え? そんなザルなの?」

「Aランク以上なら身元保証人になれますし、同じパーティなら尚更、障害は無いかと」


 俺は、女将さんを見た。元SSランク。

 女将さんが、マリーを見た。現役Sランク。

 膝をつき俺のスカートを捲って、わーわー、て言っていた。


「……大丈夫なのか?」

「ギルドの制度についちゃ、お嬢ちゃんの言う通りだけどねぇ。この子(マリー)が大丈夫かどうかは、ちょっと疑問さねぇ……。」

「大丈夫と言ってくれ。自慢の看板娘はどうした?」

「まさかここまで計算外だったとはねぇ」


 視線を落とす。

 すーはー、すーはー、呼吸を深くしてるんだが。


「凄いです!! 薄らとエレガントなのが透けて見えます!! エレガント!! ぐぅえっへっへへへ」


 やばい生き物になってきた。


「そりゃぁ、冒険者といったってさぁ、これぐらいは。ねぇ」


 なんで自慢気なんだ?


「サツキさん!! か、か、か、顔を!! 顔をお押し付けしても、よろしいでしょうか!?」

「いい訳ないだろ!!」

「はいはい、マリーはこちらにおいで。こら、煩労(はんろう)はおよし」


 流石に見かねた女将さんが引き剥がす。


「今日はこの子をあんたに付けさせようって思ったんだがねぇ。少し心配だよ」

「登録の件で? 助かるが店はいいのか?」

「この子、有給を消化しないんだから。こんな時にでも使わないと、いい加減他の子らにも示しってもんがさぁ」

「お一つだけ――。」


 クロユリさんが、躊躇いがちに割って入った。


「サツキさんのご認識にも些か問題があります。色彩豊かな鳥にも似た濃艶を、外へお一人で放ってはならないものです。今の貴方は佇むだけで目の毒と、どうぞ自覚なさいませ」

「お、おう?」

「わかって頂けてなにより。では、私も、か、か、か、顔をお押し付けしても、よろしいでしょうか!?」


 ほんと君らどうしちゃったの!?


「はぁ、しょうのない子だよ。そうら」


 ぱんっ、と掌を打ち鳴らす。

 見えない何かが通り過ぎた。

 クロユリさんが「はれ?」と(ゆる)い言葉を吐き、目をパチクリする。

 女将さんが施したもの――。


「これは……エンチャント、いや状態回復か?」

「どっちもさぁね。お前さん気付いてないだろうけどさ。存在が一種の魅了なんだよ。濃艶とは言ったものだねぇ。まぁ、これで少しはマシになっておくれよ」


 艶笑を浮かべて何言ってるんだ?


「何か……夢境(むきょう)の中に居たような気がします」


 クロユリさんの瞳に正気の色が戻った。


「どうして私の目の前にサツキさんの股間があるのでしょう? そして何故、惻隠(そくいん)の眼差しで私を御覧になるのでしょう?」


 いいからスカートを離せ。

 まじまじと見るな。穴が開くほど見るな。お願い、見ないで。


「私も!! 私も目覚めました!!」


 ニュアンスのおかしい奴が一人居る。


「あんたは何にも掛かっちゃいないでしょ。最初から標準運転だよ」

「お酒を飲んでいなくても場の空気で酔うってことがあるじゃないですか!!」

「雰囲気にあてられ暴走されてちゃ敵わないねぇ。そもそも状態異常に対する防壁がべらぼうに強固なんだよ? 一体何に守られてるんだか」

「えへへ!!」


 そういや女神の遠見も弾いていたな。

 宿屋の看板娘が、実は魔王の黒騎士よりも謎が多いって、どうなんだよ?

お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。

お疲れ様です。


何かこれはと感じましたら★評価のほどお願いします。

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