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313話 植えつけ

バーベナは常識人枠で用意した人物なのに……何故……。

あと草花詳しく無いとガーベラと音が被る。

 そもそもクランだけじゃ駄目だったんだ。

 ワイルドニキ。辺境伯。苺さん。

 全員のパンツが記憶の鍵だった。それもただパンツを嗅ぐだけじゃない。


 ――履いている所に顔を埋める。


 良かった。解呪の面子にブラック婆ちゃんが混ざってなくて。本当に良かった。

 ちなみに、苺さんの分は、その日のうちに開錠された。


 ……待て。子供相手にほんと何やってんの?


「戻られましたか?」


 俺の後頭部を鷲掴みで辺境伯のフリルに押し付ける彼女が、感情を押し殺した声で確認する。

 おい。誰か止めろ。この女を止めろ。

 ブルー叔父さんを目線だけで見上げると「んん、あ」とか言って悶える始末だし。

 チキショウ、味方は無しか。


『分かったから離せ』


 右手のジェスチャーで伝える。


「!? ま、まさか、直接!? 中身に直に押し付けたいと仰せですか!? サツキ坊っちゃまはこれ以上私を捗らせてどうしようと仰せですか!!」

「むしろお前がどうしようってんだよ!!」


 あ、拘束が解けた。

 愛らしいフリル(装飾が割と頑丈で頬が痛い)から顔を上げる。

 辺境伯は息も絶え絶えだ。涙目の表情がクランの面影と重なった。変な気分にさせやがる。


「捗るのは置いておきまして、ひとまず――お分かりいただけましたでしょうか?」


 バーベナさんの気配が遠ざかった。ああ、思い出したか、じゃないんだ? 俺、分からせられちゃったの?


「あの頃、何かが起きたとは思っていたが」


 こんな所で雑に鮮明になるとは。


「そうです……その通りです。あの時、えぇ、あの時です。私が受けていたのは罰ではなく、実はご褒美だったのです。ですが、まさか私の痴態がサツキ坊っちゃまにトラウマを植え付けてしまおうとは」


 ……。

 ……。


「あんたのせいかよ!!」


 いや、子供の話だし、クランだって思い違いをしていた節があったけどさ。


「実の所、サツキ坊っちゃまの心理的恐怖を取り除くのに同じ衝撃をぶつけ対消滅する案も提案したのですが、却下されてしまい」

「だから子供に何しようってんだよ」

「いえ、サツキ坊っちゃまのあどけないお手手で、ストロ様と同じように私めを、こう、こう!!」

「尻を突き出すな!! ていうかトラウマどころか性癖歪んじゃうよ!?」

「サツキ坊っちゃまがお相手でしたら、喜んでこの身を差し出しもいたしましょう」


 潤んだ目で見てくるな。


「貴女は、俺にとっては下の姉さんみたいな人だから……勘弁してくれ」


 ちなみに上の姉さんは苺さんだ。

 つまり上の姉さんと下の姉さんの絡みを幼少の耐性が乏しい時期に目の当(まのあ)たりにしたと言う。


 ……これ、記憶改竄されてなかったら絶対歪んでいたぞ?


「俺を守ってくれたのはブルー叔父さんだったんですね」

「いずれは翼賛も視野に入れてんだ。あんな所で潰れてもらっては困る。最も、カサブランカからあの子が泣きながら戻った時はどうしてくれようと剣に手が伸びたがな」

「あ、原因は俺にあるって思ってるんだ……。翼賛って辺境伯領の行政でも任される見込みだったのかな? 冒険者になる時に止めなかったんですね」

「クランがな、この修行の旅で必ずやサツキを仕留めるっていうから」


 娘に甘いよなぁ。


「アプローチされたのは意識したけど、当時は嫌悪感が強かったから。待って、普通は意中の異性にパンツ嗅がされたいとか思わないよ? 新たなトラウマの誕生だよ? 俺悪くないよね?」


 バーベナさんが周囲の魔法使いに視線を送る。全員が気づかないフリをした。


「え、男性は嬉しいものではないのですか?」

「トラウマを術式でねじ伏せてるんだよ? 一般論が通じるか。いや、だからこれって一般論で合ってるのか?」


 ていうか誰も止めなかったの?


「一般論と仰せですか。分かりました立証こそ肝要。では、試して見ましょう」


 立ち上がるとバーベナお姉さんはローブをたくし上げ、その裾に両手を差し入れた。


「ちょっと待って!!」


 止める間もなく、勢いよく黒のレース付き物体が下げられた。それから右足を抜き、左足を抜く。チラリと見えたけど、タイツではなく同色のガーターだった。あと違うものもチラリと見えた。物体Yとしよう。物体Yは物体Xを包括する。即ち特異点だ。――飲み屋のオヤジか。


「セットアップはできました」


 超人が技を出す準備みたいに言ってるけど、その脱ぎたてホヤホヤをどうする気だ。いや正面に構えないで? 脱ぎ盾になってるからそれ。


「これなるは昨夜の入浴後から履きっぱなしの一品です。しかし、ただのパンツに在らず」


 なん、だと?


「あの時の事を思い出し、少々湿っぽくなっております」


 大丈夫かこの女?


「さて、ゼラニウム殿」


 同僚の魔法使いに向く。バーベナさんと同じく20代の若手でありながら辺境伯領魔法大隊のトップ4に列席する実力者だ。


「嗅がないぞ?」


 先回りして否定する。

 この辺の呼吸は付き合いの長さかな。バーベナさんがやれやれと肩を竦めるのも付き合いの長さだろう。


「ふふふ、ご無理をなさって、お可愛いこと。時折り感じる視線。私の事を目で追って頂いていたのは知っていますよ。ゼラニウム殿に憎からず思って頂いた事に嬉しく感じます」


 最悪な暴露と告白が出た。

 後ろで老魔導士二人がヒューヒューと声援を送る。


「いや、それは、君がおかしな事をやり出さないか気が気で無かったからだ」

「何を仰るかと思いきや、この期に及んで茶利で逃れようなどと片腹痛いです」


 何か、バーベナさん動揺してない?


「冗談は君の方だ。何? 罰ではなく褒美だったと? 実によくできた艶笑譚だな――恥を知れ」


 ゼラニウムの兄ちゃん、正論で攻めるなぁ。あ、バーベナさんの目が潤んできた。


「し、しかし、私の事を、いえ、あの、え? ええ? これって、脈が無い話しなんですか? え?」

「そもそも僕にだって恋人は居る。妹弟子とはいえ、君のパンツを受け取る不義理ができようか」

「……。」


 目をパチクリさせる美貌の口元は、可哀想なくらい震えていた。


「あ……そうなんだ。あー、そうかそうか。あははは、モタモタしてるうちに、私、何やってたんだろうなぁ……。」


 いたたまれねー!!

 全員の視線が集まる中、フラフラと歩き出す。微醺に浮かれたように、脱ぎたてホヤホヤを片手にフラフラと歩き出す。

 誰もが力無い背に掛ける言葉に思い至らない。


「えーと、なんの話だっけ?」


 ブルー叔父さんに振る。

 ここは流れを変える手だ。


「だから意中の女のパンツを嗅がされて嬉しいかって話だろ?」


 人選間違った。


「ゼラニウム魔導隊長、お前はどうなんだ? 恋人が押し付けて来たら喜んで嗅ぐのか?」

「肺いっぱいに」

「うわぁぁんっ!!」


 ついに泣き出した。

 何で塩を塗った?

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