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308話 瑠璃紺の天使様

 辺境伯の地位は単純な貴族階級に収まらない。

 魔物他国問わず、その最大戦力で以て害敵を駆逐する、とか何とか解説を入れたいのに、ブルー叔父さんの姿が哀れすぎて言葉が出ない。

 いいや。

 愛らしくて仕方が無い。

 何で黄色い園児帽までかぶってるの? 顎紐までしっかりして。


「ブルー叔父さん……。」

「俺にだって抗えない事の一つや二つはある」


 言うほど無敵じゃないな辺境伯。

 ていうか、何で似合ってんだよ!? 俺より年上の子供が二人も居るのに何で園児がしっくりきてんだよ!?


「俺のことはどうでもいい。討伐されにわざわざ来やがってこの阿呆は」

「どうでもよくなんてありません!! そっち気になって話が入ってこないんですから!!」

「うるせー斬るぞ」

「園児服を来た瑠璃紺の天使様に剣を突きつけられるこの状況。俺に何を植え付けようってんだよ!!」


 ほらこの人とはすぐ無駄な言い合いになる。

 ただでさえ不利な大勢だ。ホウセンカの背の上ではステップが踏めない。


「くそ!! 俺の踊り子スキルを完全に封じた形になったか。やるなブルー叔父さん!! ……いやブルーちゃん?」

「俺がやったみたいに言うな!! オメーが勝手にワイバーンに乗って領空に進入したんだろが!! あと小さい子に声掛けるイントネーションはやめて、マジやめて……。」


 こうなったらホウセンカをキリモミさせて振り落とすしか――いかん俺も落ちる。


「くそ!! このまま千日手か!!」

「俺はそこまで暇じゃねーよ。この後、苺と続きがあるんだ」

「昼間から何やってんだよオメーらはよ!!」


 何とか気を逸らし反撃に出ようとした時だ。

 ホウセンカの緩い滑空が停止した。慣性で放り出されないように踏ん張る。瑠璃紺の天使様は平然としてやがるな。ちきしょう。


「いつの間に低空に誘導された?」


 ホウセンカの体に幾重にも巻かれた半透明の鎖を認めた。複合魔術によるバインド。拘束魔術だ。


「辺境伯の魔法大隊の精鋭まで動かして……俺の事、そんなに縛りたいんですか!?」


 地上にいつの間にか配置されたローブ姿は四人。これだけで足りると見られたか。


「ああ、縛りたいね。今なら途中で抜けた理由になる」

「俺を苺さんへの生贄にしないで!! あ、本当、そんな場合じゃないから!! この歳で園児服着せられるだなんて!!」

「無駄な抵抗はやめろ。大人しく園児になっちまいな」

「う、ううう」


 なんか泣けてきた。

 そんな俺たちに、申し訳なさそうに地上から声が掛けられる。


「ブルー様、バインドはいいのですが固定が厳しいのですが。お二人まとめてベリー辺境幼稚園に入園するなら早いところ済ませてください」


「うちの部下も辛辣ゥ!!」

「そんな格好で出て歩くからですよ!!」




 結局、ブルー叔父さんに従いホウセンカを平野地に降ろした。

 魔法による拘束はそのままだ。さっきの厳しいって話はどうしたんだ?


「ワイバーンにしては赤いですね。これサツキの坊ちゃんがテイムしたんですか?」

「卵から強制的に孵化させ成長を促した。注がれた魔力量によって個体差が現れるところまでは――分かった、分かったから。後でレポートで共有するから。だからそんな顔で見るな」


 魔法使いの圧が酷い。ハイビスカスでもそうだがクランの魔導に対する執着は彼らによって育まれたのだろう。あと坊ちゃん言うな。

 そういや、懐いたのはマリーから受け継いだ魅了スキルのせいかな? 灰色オオカミの群れが傘下に下ったのもソイツが原因だったし。


 ……。

 ……。


 エルフが人の部屋でセルフインタビューしたのも魅了のせいか?


「言っておくが地上戦で分があると思わない事だ。試しにステップを踏んでみるか?」


 どのみちこの人には通じないか。ステップしてる内に切られる気しかしない。

 辺境伯。天使の異名とは裏腹に鬼神(シャクヤク)の如き威圧だった。

 だがこれは――。


「聞きたい事があって来ました」


 好都合だ。

 ブルー叔父さん相手に、対話が成り立つ流れだ。今はこの波に乗る手だぜ。


「ならば、この状況を打開してから言うんだな」


 秒で望みが(つい)えた。何だよ。期待させやがって。

 周囲を見る。

 魔法使い四人以外の気配は無い。つまり潜んでいるはずの兵士は強敵ってことだ。平野地なのに凄いな。

 ホウセンカは未だ拘束されている。光状の半透明な鎖でギチギチに固められていた。

 ガラ美が見たら絶対に羨ましがるだろうな。これ。


 ――園児服を着た見た目だけ美少女と、鎖で縛られた年端もいかぬメイドの命乞い。今頃命乞いしたってもう遅、いやまだ間に合う。


 ……。

 ……。


「駄目だ……もはやこれまでか」

「今何で観念した!?」

「ラノベのタイトルにしたって酷すぎる……。」


 もう俺の手には負えない。いや追えない。

 だからこそ、ここで仕込みを使わせて頂く!!


「ホウセンカ!! やれ!!」

「阿呆が、お前だって良く知る四人だぞ!! ワイバーンごときに破られるか!!」

「だったら足らないんだよ!!」


 地上に封じて油断したか。拘束されていない場所があった。

 口だ。

 牙の並んだ口腔を開ける。


「無駄な足掻きを!! ブレス対策ぐらいしてるってぇの!!」


 なら俺の勝ちだ。

 ブレス程度しか想定していない時点で。

 開かれたワイバーンの口の中で、一粒の煌めきが見えた。宝石の輝きだと気づいたのは、やはりブルー叔父さんぐらいだろう。


「!? 退避!! 緊急退避だ!!」

「って、どうして変な所だけは思い切りがいいの!?」


 完全にしてやったと思ったらこれだよ!!

 辺境伯め。何を感じ取ったのか、退避命令を咄嗟に出されちゃな。

 ホウセンカの口から放たれた宝石は、一条の槍となって地面に突き刺さった。

 同時に俺はステップを踏んでいた。

 踊り子スキル・回避盾。

 マイヨウレンの槍の爆発すら躱す舞だ。インターバルがあるから連発は無理だが。


 バインドを解いて背を向けた魔法使いたちが爆風で飛ばされた。


 どこに潜んでいたかわらわらと現れた兵士たちも爆風で吹き飛ばされた。


 そして辺境伯。

 園児服が下から頭まで捲れた。


 ――私は、その光景を生涯忘れることはできないだろう。




「俺を欺く奥の手を用意するとは……成長したな」

「それらしい事言って誤魔化してるけどな!! 園児服の下に何てものを履いてやがんだ!!」


 爆風で捲れた光景。可憐なレースと刺繍をあしらった白いガーターが脳裏に焼きついて離れない。

 駄目だ。これ夜に絶対思い出す奴だ。


「仕方がなかろう!? このギャップがいいって言うんだもん!!」

「いい歳してもんとか言うな!!」


 未成熟な少女の色気という謎スキルを実装しておいて、苺さんより年上だっていうんだから。あー、本当にもう!!


「何をモジモジしている? え? 本当に何をモジモジしてるのだ!? おま、まさか俺を使うんじゃ無いだろうな!?」

「使うとか言うなや!! それよりもホウセンカは解き放れ魔法大隊のエースも戦闘不能だ!! 叔父さんだってその園児服でどこまで戦え――だーっ!! だからチラチラ捲って見せるな!!」


 だからこの人と相対するのは胃が重いっていうんだ。

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