307話 イチハツさんとアザミさんのをガラ美がジャッジする
「とにかく自重を心がけて頂きたい――特にそこのエルフの軍団」
人の部屋に押しかけてまでセルフインタビューをした連中だ。どいつも面構えが違う。
「な、何のことかしらー?」
「アザミだって年頃の女の子だ。己の術とはいえいきなり俺と同じものが生えて戸惑う事も多いだろう。だから変なイタズラすんじゃねーって言ってんだよ!! 言ってる側から何やってんだオメーはよ!!」
これ、もう俺が一緒に連れて行く流れか?
本末転倒だが。
「気苦労を増やして恐縮だ。彼女の身は我らでお守りしよう」
モカラ大戦士がハナキリンさんを引き剥がす。アマランダもエルフの巫女達とアザミさんの間に入ってくれた。
「もう!! 気の効かない子たち!!」
女性陣からブーイングが上がる。
「我らは歴史あるハイビスカスの威光を世界に知らしめる為に外界へ出たはずだ」
モカラ大戦士の声が重く響いた。
ブーイングが止む。
言葉の続きをアラマンダが引き継いだ。
「なのに威光どころか淫交を広めて何とする!!」
誰が上手いこといえと言った!!
「え? 私、淫行なんてされちゃうの……?」(ガクガク)
ほら見ろ俺の顔でガクガクしちゃったじゃんか。
「淫蕩などと大それたことを!! ちょっと確認するだけでしょ!!」
巫女さん達も引き下がらない。
「せめて形とか味は確認したいかしらー?」
アウトだよ?
「あの……視覚的形状がお館様というだけで、基本的には私のままですので……普通に小娘の股間の味しかしないと思うのですが」
君ももう喋るな。
「なるほど。比べてみる価値はありそうだわ!!」
何でこのタイミングでイチハツさんが食いつくの? 好奇心の翼をどれだけ広げれば気が済むの?
「いえ私も同じ年頃の女性の股間を味わったことはないので、普通なのかは断定できないところですが」
アザミさん。深掘りするの?
「検証は必要かと存じます」
ガラ美? ここぞとばかりに混ざらないで?
「評価ポイントは三つ。匂い。味。舌触り。とろ味。そして弾力です」
多くないか?
あとラッセルとテキセンシス? お前らもいい加減どっちが本物か気づけよ。
結局、イチハツさんとアザミさんのをガラ美がジャッジすることで一応の決着を見た。
ハイビスカスの一団を後にし、ホウセンカを高高度で巡航させる。
体躯の大きさが可能とした飛行だ。さらに成長した暁には弾道飛行にも挑戦できるだろう。
……お前、本当に飛竜か?
眼下で、丘陵や草原や近隣の農場がミニチュアのように通り過ぎる。
聞いた撤収方角と中規模タウン、近隣領の行政都市を繋いだ中間地点。
捕捉した。
街道は使わず草原を進む一団が豆粒となって見えた。
騎馬が60騎。娘一人を攫うには大仰なことで。聞いていた旗は無い。追撃を意識した陽動の可能性もあるが、先頭の甲冑姿はお爺ちゃん司令だな。公爵家の。
囲むように馬車が一台見えた。スミレさんの物だ。額面通りならクランはあの中か。
「グルルゥ?」
「いや、まだその時じゃないよ」
宥めるようにホウセンカを撫でる。
今強襲し奪還しても意味はない。彼女から虜になったんだ。裏切ったと見えるスミレさんの身柄を案じてか、或いはクラン自身がこれを仕込んだか。
公爵家ってのが厄介だが、向こうからしたって辺境伯ご令嬢だ。ただ軋轢の素材にはしないだろう。
つまり、最初から辺境伯が関わっていたか。なんともオダマキを思い出すねぇ。
いずれにしろ――。
「暫くはあずけておく。だが粗末に扱う事は許さぬぞ。公爵家の騎士たちよ」
名残惜しそうにするホウセンカを大きく旋回させる。
目指すは北北西。
遠くに積乱雲が見えた。何とも胃が重い。
流れる景色に、見知った農場や村が混じる都度、胃は鉛のような重圧に苛まれた。念のためホウセンカには奥の手を仕込んだが、あの人を相手にどこまで通じるか。
「領都への再接近は南西から迂回したい。近隣の都市を掠めるが、追撃は無視するとしてあの人がこちらに居るか王都に居るかで話は変わるが――。」
正面!! キランと煌めきが視界に入った!!
咄嗟にホウセンカを右側に傾かせる。
うわっちぃ!? 頬を掠めやがった!! 何だ今の!? 重騎兵のランスに見えたぞ!?
空気が摩擦で焼ける気配が正面に迫った。
「くのぉ!!」
機首を極端に下げる。失速したが構うか。俺の頭部スレスレをまたも銀色に研かれたランスが通過する。
「あっぶねぇ……完全に狙撃されてる」
降下しつつある体制を堪え、ワイバーンの前身を無理矢理あげて保持させる。
頭か翼を狙われたら終わりだった。
バランスを崩しヘロヘロに飛空するのを、四苦八苦しつつ安定させた。
「こんな真似ができるのは――貴方か」
俺の首元に、薄浅葱色の紋様が怪しく光る剣先があった。
今の一瞬で。いつの間に飛行中のホウセンカに乗ったのだろう。嫌な相乗りだ。
「下手な真似はするな。そのままゆっくり振り向け。何も喋るな。喋るんじゃねぇぞ」
娘のようでいて低く落ち着いた声に従う。
ゆっくりと剣の持ち手へと振り向く。
アザレアの守護神とも美麗の悪魔とも歌われた――瑠璃紺の天使様。
「ぶふーっ!?」
思わず吹き出してしまった。
「何着せられてんですか!?」
「喋るなって言っただろ!! これ以上突っ込むな!! 頼むもう何も言わないでくれ!!」
「無www理www」
苺さんが昼間っから相当無茶をしたのだろう。
少女と見紛うベリー辺境伯は、何故か園児服を着せられていた。




