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306話 影武者

 一周してアザミさんはいいかな。


「オウケイ、仮に公爵家と内通されても知られて困る情報は無いしな。ヴァイオレット家だってハイビスカスと国際問題には発展できないだろう」

「え……。」


 ガラ美とアザミさんがキョトンとした。

 あれ、何か見落としたかな?


「何だよ?」


 怪訝に思いイチハツさんを見ると、微妙に眉を寄せられた。

 ほんと何だ?


「水面下で何らかの宏謨(こうぼ)が進んだとしてー? サツキさんが不在になるのは情報として大きいんじゃないかしらー?」


 ハナキリンさんだ。両脇にはモカラ大戦士とSランク冒険者アラマンダが控えている。

 彼らの戦闘面での能力は()()()未知数だ。先の貴族両軍が戦闘を仕掛けなかった理由の一つと見ている。


「こちらの面倒に巻き込んですまないね。クランは庇っての行動と見るかな?」


 俺の質問にハナキリンさんは視線を泳がせた。両脇の大戦士とSランクは無表情だ。


「ワタクシたちだけの事とは思えなかったわねー? サツキさんこそ、どこかで予定を聞いて居なかったの?」


 そこで全員の視線がアザミさんに集まるから不憫だ。


「え? あの、私……公爵家から離れる事は早くから決まっていたから、この件については踏み込めず……すみません」

「それで結構だ」


 穏やかに笑って見せる。

 アザミさんを吊し上げても、ガラ美を羨ましがらせるだけだ。


「お仕置きの匂いがします」

「匂わないで?」


 ガラ美のハァハァが激しさを増す。鼻の効く奴め。


「言っておくが俺だって寝耳に水なんだよ。クランが無抵抗だったのはそういう事なんだろうけど。だから裏付けを取る」

「でしたら、私はお館様の影武者を演じきってみせましょう」


 何で自然にそんな話になるの? 自然過ぎてびびったわ。


「えぇと……変装術、でいいのかな?」


 ポリアンサさんのカメレオンスーツのようなチートアイテムはそう無い。なら彼女の技術か。


「じゃあ試して見てくれる?」

「あ、やらせてもらってもいいですか」


 何だかコントの導入みたいになってきた。




 待つこと三分。

 俺の影武者が現れた。

 服はスカート着の冒険者装備だが、背と顔が完全に一致する。目算だけど指の長さ。あと黒子の位置も。


「どうでしょうか?」


 もう一人の俺が俺の声で感想を求めてきた。


「ワタクシでは見分けられないわね。凄いわー。ちょっと向こうでおばさんとイチャイチャしてみないー?」


 ハナキリンさんが溜め息まじりに賞賛する。あ、待って、まだ話の途中だから連れて行こうとしないで。


「魔物の嗅覚まで誤魔化すか……。」


 呆れた事に、ラッセルとテキセンシスが、俺と影武者の間を行ったり来たりしていた。シヴァ犬みたいな困り顔で。


「お前ら、マジでやってるのか?」

「あー、パンツ嗅ぎたい」

「俺そんなこと言ってないから!! 君はそんな風に見てたのか!? いやだから何でラッセルもテキセンシスもどっちが本物か分からないって顔してんだよ!!」


 あと、パンツなら誰のでもいいって訳じゃない。


「それで、君のメタモルフォーゼは誰にでも化けられるのかな?」

「我が主人だけと制約があります。忍術やスキルというより、条件発動型の(しゅ)と言った方が適宜でしょうか」


 それで今まで使えなかったのか。

 術の構成要素に限定条件を基礎とするのは確かに呪いだ。生贄なんてのはその最たるものだろう。


「どこまで再現できるの?」

「見た目はまず。ですが思考やサツキ様のスキル、ジョブ、性癖までは写せません」

「最後の何?」


 それでも敵の目を欺くには充分か。

 待って。だとするとさっきのアレは君の目に俺がそういう風に映っていたって事?


「スミレさんや公爵家は知っているのかな?」

「ここに居る皆様だけです」

「あらー、じゃあワタクシ達は席を外すべきだったわねー」

「身代わりを立てる時点で内部での秘匿は無理です。情報が漏れても、果たしてどちらが本物かという疑念を与える事ができますので」


 俺が二箇所に同時に存在するって認識だけでも揺動の効果はあるか。

 ん? 見た目を術で再現したって?


「どこまで空蝉(うつしみ)れてるんだ?」


 ちょっと通ぶってみた。


「見た目は完璧」


 ふんす、と返ってきた。


「それはつまり、見た目はサツキ()、中身はアザミ、という?」

「バーロー」

「いや俺、バーローとか言わないし」


 言動は本人努力って所か。


「じゃあ、じゃあさ――あっちはどうなってる?」

「あっちと申しますと……?」


 全員の視線が俺の姿をしたアザミさんの下腹部に向かった。


「え?」


 意味が分かったのか、目の前の俺の顔が赤面する。


「お、お待ちを!! ちょっと確認してきます!!」


 慌てて馬車の影に隠れてしまった。

 少ししてアザミさんが裂帛(れっぱく)の声を上げた。




「うぅ……私の真・水遁の術が封じられてしまいました」


 べそをかいていた。


「いや泣く所そこ!?」


 ていうか俺の姿で水遁の術はやめて欲しい。


「お待ち下さい。それでは今アザミさんの股間にはサツキ様が再現されていると仰せですか?」


 イチハツさんが見逃すはずもなく食いつく。


「再現といっても幻影のようなものです。私の認識が女性性器と思えない時点で奥義の発動は封じられたも同然」


 水遁そこから出すんだ……。


「見た目だけの問題というわけではないのですね。感触などはどうでしょう?」


 本当イチハツさん!!


「下着が自分のものなので、圧迫される感じはしますね。収まりが悪いと言うか」

「ぼ、膨張はいかがですか!?」

「刺激を送ってみないことには分かりません」


「「「おおぉ」」」


 いや何でお前ら関心した?

 ていうか、内通を疑ってる本人を影武者にする意味って。発動条件こそが忠誠の証となるのか?

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