305話 抱き合う少女二人に
仮拠点の要塞化を終え、再び開拓団本隊に合流した。ホウセンカに無理をさせたと思ったが、意外とタフだなこの子。
「長くて見て二日半ですか」
「何か?」
アマチャが言葉を濁すか。報告を迷っている?
「先の捕虜の口を割らせました。野盗は偽装です。明確な目的の上での作戦行動で幾つか最優先目標も定めていました」
「単純な妨害活動では無いんだな?」
「クラン様を攫った貴族とは関係性がありません」
「再来の可能性が大か」
「或いは、先行した仮拠点が手すきの内に襲撃を受けるかですね。私ならそちらを陥落させ、本隊を受け入れた後に袋にします」
とろみのある木馬とかいう戦術か。
「分断させ過ぎたな。いやそれよりもクランの方の相手か。力押しでいけないとなると、どこまで絡め手が効くか」
「王族には頼られないので?」
「基本、有力貴族との確執は避けるだろう? 最悪、こちらは足切りだ」
「でしょうね……分かる話です」
コイツも有力貴族の出だった。嫌味になったかな。
「全員を集めてくれ。彼らにとっても最後の分水域だ」
俺の指示に頷くアマチャの表情は、カサブランカで黒騎士とクランのパンツを同時に前にした時のように強張っていた。
再びステージに立つ。
ギルドの払い下げだけど何かと役に立つな。
「既に聞き及んでいると思うが、この開拓団は貴族間の遺恨に伴う外部圧力が根強い。王家の支援は固く約束されているがそれはあくまで開拓の清算においてだ。逆に言えば今後の自治権は不安定と言える」
戦闘職、非戦闘職、一様に不安な眼差しで俺を見上げる。
ほとんどが行き場を無くした連中とはいえ貴族と全面対決は誰だって避けたい。
「そこで諸君らには今一度この遠征に参加をするか、己の心に問いてもらいたい。結論を今すぐに出せとは言わない。予定通り仮拠点を設置した。このまま進行して拠点入りを果たしたのち、改めて諸君らにその意思を問おう」
一段下がった所でアマチャが手を上げる。
頷いて発言を許す。
「脱退する者がいたとして、安全は保障して頂けるのですか?」
気の利いた質問だ。もはや合いの手だな。
「仮拠点で護衛を再編するし、路銀も支給する。戻るのは宿場町だ。交通網が発展しているから中央都市以外にも行き先の自由は効く。護衛は騎士と騎馬隊を候補に考えるけど、無論、その中からでも脱退は受け付ける。アザレア陛下にも話は通すが、いずれにしても俺が戻るまで猶予は欲しい」
流石にざわついてきた。
アマチャを見たが、特に制止する気は無いようだ。
「では、お戻りになる日数の目算はありますか?」
「半月だ。それまでは仮拠点で足止めになるが食料等物資には余裕がある」
「物資の心配は無いと!?」
「おぉおっ」と観衆から声が上がる。
「宿舎も用意した。全員が泊まれる」
「屋根付きですと!?」
「おぉおっ」と観衆から声が上がる。
「あと、温泉かな?」
「温泉!?」
「おぉおっ」と観衆から声が上がる。
……なんか、大丈夫そうな気がしてきた。
「サツキ様!!」
ハイビスカスチームに合流すると、イチハツさんとアザミさんが駆けてきた。あと、ドッグランみたいにラッセルとテキセンシスも駆けてきた。めっちゃ犬っぽい。草をはみはみするコマクサは、こちらに顔も向けやしない。コイツが抵抗してくれたんだろうな。サクラさんの馬車は接収を間逃れたか。
「事情はさておきイチハツから状況は聞いている。アザミはよく残ったね」
声を掛けると、アザミさんは両膝を着いて頭を下げた。
「お館様と仰がせて頂きたく。この度、スミレ様とも袂を分かった次第です」
「彼女が許したのか?」
「円満退職です」
それで嫁を連れて行かれた身としては……。
「本来なら身柄を拘束する所だが」
「アザミ様だけご褒美だなんてズルいです」
ハァハァしながらガラ美が俺の隣に控えていた。
いやだって、君を拘束する謂れも無いし、したらしたで色々発展するでしょ?
「公爵を裏切る理由が分からんが? 家が寄子じゃないのか」
「我が一族は東の帝国に端を発しますが、己の主人は己で見定めお仕え奉る宗と成って候。このたびの旅で不詳このアザミ・キルシウム、サツキ様をお館様と仰ぎたく御庭番集の任を解き健やかなる時も病める時も片時も離れず――。」
「別行動に移るから支援隊のことはよろしく」
「片時も……。」
複雑な顔になっていた。
いや、そんな目で見られても。
「むぅ……。」
可愛らしく頬を膨らませる。
うん、いざという時は人質にできるかな?
「忠義として受けとるよ」
「お館様!!」
「良かったですね、アザミ様。これからはご主人様の下僕として共に励んでまいりましょう」
「イワガラミ殿!!」
ひしっと抱き合う少女二人に、不安だけが募った。




