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301話 両勢力接触

 開拓団の頭上でホウセンカを緩やかに旋回させ、機首を南南西へ回した。

 一応手綱は付けてるけど……口頭による指揮命令が可能なのであまり意味はない。あの手段で孵化させた子は人によく懐く。スイセンカなんて令嬢に混ざってお茶会してたもんな。人手による魔力の介入が味噌かな。


「向こうから見つけてくれた」


 進行方向に小さな点が見えたと思うと、一騎のワイバーンの姿となり再接近した。

 ホウセンカを滞空させフライパスを待ち、こちらを反転させる。

 追い抜いた向こうも減速し並空した。手綱を握るのはイチハツさんだ。よく単独でここまで来れた。

 右手でジェスチャーし、本隊までエスコートする旨を伝えると、大人しく着いてくる。ペイロードは弱いが速度に特化したスイセンカだ。そいつを安定させるとは。




 移動準備に入った開拓団の横へ着ける。他の馬や家畜が怯えるから距離は離した。

 着陸と共にアマチャ達の馬が本隊から飛び出すのが見えた。


「オーライっ!! そのまま降りてくれ!!」


 イチハツさんを誘導する。障害物は無いが乗り手が緊張するのは良くない。懐くが故にスイセンカにだって伝わる。


「サツキ様!!」


 ワイバーンが首を地面におろすや飛び降りたイチハツさんが、抱き付かんばかりの勢いで駆けてきた。


「緊急事態かな?」

「申し訳ありません、判断が着かず追いかけてきました」


 安堵と焦燥の混じった複雑な顔に、心の中で肩を竦めた。クランが送り出したとは思えない。イチハツさんが独断で航行を選択するというなら、あちらの指揮は機能していないと見るべきか。


「襲撃を受けたって訳でも無いでしょ」


 戦力的に彼女が抜けるのはあり得ない。


「え、えぇ、攻撃というわけではありませんが」

「歯切れが悪いな」

「襲撃というのは間違いではありません」


 それは、想定外だ。

 クランにしろお嬢様達にしろハナキリンさんにしろ、戦闘面に特化してるからって油断したかな。ガラ美だってアレで頼りになるし、ラッセル達やコマクサだって。それにSランク冒険者アラマンダ。ハイビスカス国大戦士モカラ……あれ? なんか物騒な集団になってないかこれ?


「イチハツ殿!!」


 到着した騎馬の背から飛び降りたカンナさんが駆け寄ってきた。


「ハナキリン様は、ランギク様はご無事ですか!?」

「はい、武力的な接触ではありませんでしたので。皆様には介入されなきようお願いいたしました。スイレン様もご無事です」

「あ、スイレン様はいいです」

「……。」


 酷い扱いだな。




 主要なメンバーが揃った。

 アマチャ、シチダンカ、ハクサンチドリ騎兵隊長、ヨモギ騎士隊長、随行冒険者を代表してシネンシスさんだ。話によっては開拓団の転進もあり得るから。


「攻撃はされてないと言ったね。最大戦力のワイバーンもだけど、クランがイチハツさんを伝令に出したのかな?」


 俺から受け取った水筒を飲み終るのを見計らう。珠のような汗粒が伝う白い喉が、ごくりごくりと悩ましく動いた。

 戦闘に至らないって事は、それ以上の面倒事だ。例えば、政治的な。


「サツキ様が発った後、二つの軍部が接触してきました。ヴァイオレット公爵家ともう一つは」

「ドクダミ伯爵家、ですね」


 アマチャに視線が注がれた。


「仰せの通りですわ? アマギアマチャ先輩はご存知でしたのね」

「支援隊への接触は想像の外だよ。前の宿場に入った時に貴族の立場上、代官へ顔を出したのですが」


 あ、うん。いちいち殴り込んでる俺たちとは違うな。


「公爵伯爵の両家で大規模な合同演習がある事は聞いていました。まさかそちらが口実だとは……読み切れないのは不徳の致すところです」

「お前のせいじゃないよ。むしろ対盗賊団の救援の勘定に入れてただろ?」

「アタシが早馬になるって腹案もあったのだけれどね」


 シネンシスさんが苦笑いでシチダンカを見る。


「こっちの死神のお兄さんが『サツキ様へのお供物が向こうから来おったわ!!』って飛び出しちゃうから」

「あ、うん、うちのが何か御免」


 それと立ち回ってくれる礼はしないとな。って、目が合うとシネンシスさんが頬を染め俯いてしまった。


 ……そうか。彼女の母親のパンツを穿いた男か俺。


「何か甘酸っぱい気配がしますわ?」


 イチハツさん、聡いな。


「気のせいか、でなかったら二日酔いだろ」

「ワタクシ、お酒は嗜みませんの。そちらの冒険者さんが可愛らしいから気になっただけです」

「か、かか、かわ、アタシが!?」


 耳まで真っ赤になってる。


「そんな、アタシが可愛いだなんて、今まで言われた事!!」

「ですが、サツキ様への熱を帯びた視線は露骨に見えましてよ。お気をつけなさって?」


 王立第一学園でもそうだったが、初対面で嗜めて来るよな。相手を想ってのことだって分かるけれどさ。それで変な印象を持たれるから損な性格だよ。


「アタシはただ……。」


 チラリと俺を見る。


「サツキ代表がアタシの母さんのパンツを穿いた上に、アタシのまで履かれちゃうんだって思ったらドキドキが止まらなくなって」

「何の代表になってしまわれたのですサツキ様!?」

「俺が知るか!!」


 シネンシスさんのパンツを俺が穿くことは確定事項なのか? 他に逃げ道は無いのか?


「それで、あちらの損害状況は? さっきの話じゃエルフが攫われた訳じゃないようだけど」

「ハイビスカスの皆様は攫われてはいません」

「おう」

「クラン様が攫われました」

「おおん!?」


 何でだよ!? 一番攫われにくいヤツ攫われてんじゃねーか!!


「待って、来訪は合同演習の計画通りの面子だよね?」

「旗を上げていました。間違いありません」


 侯爵家の令嬢が言うなら確定か。偽装なら国家法で死罪だ。


「何だってクランを連れてっちゃうんだよ。爆撃演習の魔弾要員で支援でも要請されたか?」

「両家騎士団の一部とはいえ精鋭と拝見しました。クラン様も納得されて、というより抵抗しないよう命じられて、そのまま身柄を預けられたので。会話はそれ以上は」

「そりゃハナキリンさん達も動けないよな」


 他国の貴族で片方は筆頭公爵家だ。


「ならスミレさんは? 何か言ってなかった?」

「ただ一言」


 言葉を選ぶように視線を彷徨わせる。

 小さな唇の端が、何か引き攣ってるのだが。


「メイドの命が惜しかったら従うようにと。メイドさんも一緒に連れ去られました」

「人質とってんじゃねーか!!」

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