3話 カサブランカの迷宮
ブックマークならびに、評価を頂きまして、大変ありがとう御座います。
感謝です。
2020/11/23
・気になる点を修正。
職業は後天的に与えられる。12歳を契機に神託が下されるのだ。一度付与されたクラスは変更不可であり、リセットの手段も無い。タチの悪い押し付けだ。あらゆる技、術、特技といったスキルはクラスに帰属する。言い方が逆のようだが俺の踊り子スキルがその最たるものだ。卵の白身が先か黄身が先か理論である。
剣士の剣術系、魔法使いの属性魔法、これらは一見職業に依存して習得する/できるが別れると思われるが、俺の場合は全く違った。踊り子クラスのスキル。剣術(踊り)。槍術(踊り)。回復術(踊り)。弓術(踊り)。その他もろもろ。
俺は今までまともに踊った事が無い。だが、各種技術は使える。踊らずともちょっとしたステップで剣術(踊り)は有効なのだ。これ凄くない? 儂、凄くない? 剣士が剣オンリーであるのに対して踊りが絡めばほとんどのスキルが有効になる。
いや剣士だって同じかもしれない。池坊(剣術)とかできるかもしれない。
……そういや、元パーティのサザンカは僧侶のくせに回復術を使うところ見た事無かったな。
戦闘も回復も握力だけでどうにかしていたのは、彼女も「回復(握力)」みたいな感じで複合スキル所持と見るべきか。
それはさておき、
第6層。
全力疾走。
「あはははは!! さぁ進め!! 斬れ!! 斬り倒せ!! 俺に斬られたくなければ迫る魔物を全て斬り伏せて見せろ!!」
「ちょ、兄さん待っ!! ていうか、何この美少女が狂気に暴走するみたいな人!?」
「誰だよこの兄さんスカウトしたのは!! 可愛い顔してるからちょろいとか言ったヤツは!!」
「高ランクに寄生すれば楽になるんじゃ無かったのかよ!!」
よし。まだ元気があるな。若いっていいな!!
あと、俺の第一印象。割と酷い事になってるな!!
美少女? 可愛い? あぁん?
よく見ろ、男らしいだろ!?
この力強く、引き締まった顔立ちのどこに美少女要素がある!? あぁん!?
だが、絶叫する事で魔物を呼び寄せるのは高評価だぞ。なかなか考えてるじゃないか。
その意気込みに免じて、多少の暴言は許してやろう。
若い連中に悪態つかれるのも、年長者の仕事みたいなもんだからな。
「ほんとは男の振りをしてるだけとか言ったの誰だよ!?」
「いやこの兄さん、実は自分が女だって気づいてないだけかも知んねーぞ!?」
「どっちにしても、俺達、ここで死ぬかもな!!」
よし、このまま行けばすぐレベルアップだ。
クロユリさんにも一目置いてもらえる、かも?
その後もガンガン攻略は進んだ。
俺が若造三人を追い立てつつ、正面の敵を弱体化。トドメを三人に刺させる。相当熟練度が上がったはずだ。匠の技だ。
ちなみに、俺が女の子じゃないかという疑惑が付いたのは、一般の探索に比べてそこそこ無茶なレベリング工程だったからだ。
勇者いわく、この世界の女性は相当無茶をする、との事だ。
魔物や魔獣の居ない世界から召喚されて、一番びびったのが女の無茶な行動だというのは皮肉なものだな。
なんせ人の顔にパンツを押し当てるヤツだって居るくらいだ。相当苦労したのだろう。
カサブランカの迷宮だが、出現する魔物は階層によって変化した。
上層は野良犬っぽいヤツや軟体っぽいヤツ。少し下階層に下りればゴブリン系など人型も混ざる。コボルトも居た気がした。片っ端から呼び寄せて片っ端から斬ったので、あまり覚えてない。
本来なら相性・特性など検証する必要があるのだろうが、とりあえず斬っとけば熟練度は上がる。あとはどうにでもなる。
罠もあったが、とりあえず床ごと壊した。壁ごとこわした。転がる球体の岩が迫ってもきたが、一発入れてやったら大人しくなった。
こんな調子で第11層まで潜った。とりあえずの最大到達点だ。肩慣らしにもならぬわ。
「ひとまず休憩だな。休んでいいぞ」
「「「アイサー」」」
なんか変な応答だな。
「今のうちに水分補給と何か食べておくといい。だからって暴飲暴食には気を付けろ。戦闘中にウンコをしたくなっても、誰も面倒は見てくれないからな」
「……しょ、食欲、無いっす」「マジ無理……。」「話が……違うじゃねぇか……。」
え? 心折れかかってる? 最初から未踏破の階層攻略って話だったよな?
……。
……。
あれ? 何で一日で踏破しようとしてたんだろ?
やべ、どうしよう? これ、ひょっとして新人潰しにならんか?
……まぁいい。食えば機嫌も良くなるだろう。
とりあえず、簡単に食べれるものを用意する。せっせと用意する。
簡易コンロを出し、東方の冒険者から貰った調味料と油で肉を調理する。すぐにいい匂いが立ち込める。もし魔物が誘われても俺が斬るから問題ない。
ハーブを添えて、あとはスープだな。
こっちも味の濃いものがいいな。
クランだったら、もっと上手く調理できるのだが仕方がない。不器用なりに一生懸命作る。コイツらにここで潰られるわけにはいかないのだ。
冒険者にとって新人潰しなんて、汚名でしかないのだ。
「なんか……いいっすね。女の子が一生懸命……俺らの為に料理してくれる姿って」
むむ? 意識がやばいのか?
精悍な男の料理だぞ?
とりあえず一通り作り、デザートも用意した。牛の乳を加工したものは北方のウメカオル国の冒険者から譲ってもらったものだ。
何故、商人じゃないかというと、この二国とは魔大陸と同様、商業的な国交が一切無いからだ。この国に無い貴重な特産品が沢山あるのに、こうした人伝手でないと入手が難しい。
「ほら、どうだ? 少しは食べておけ」
目の前に出すと、三人はナイフとホークに手を付けた。
よし、食欲は出たようだ。
すげーな、東方の調味料。
さて、せっかくの第11層だ。俺は俺で楽しませてもらう。
「少し出てくるが、勝手にうろつかない方がいいぞ? この辺はお前らだけじゃ即ダイだ」
「ひぃ……。」
一応の念を押しだ。
勝手にレベリングされたら危険だからな。何事もほどほどが一番だ。
鞄から札と小瓶を取り出す。札を地面に置き、それを真ん中から横切る様に小瓶の栓を抜き傾け、コイツらの居る領域を回り円を描いた。瓶をしまい指を組む。
「ノウマクバガバテイハラニャパラミタエイオンリイチイシイシュロダヒシャエイ……。」
東の国の魔術師に教わった水切り。簡易結界だ。
ここが現時点の最大到達点ということは、そろそろアレがあるはずだ。
目の前には、一枚岩を削り出したような扉がそびえていた。
やはりあった。ボス部屋だ。
フロアの魔物はせいぜいCランク止まりだ。11層まで到達した冒険者が帰らない所を見ると、みんな大好きボス部屋に阻まれたって事だ。
ボス部屋はいいぞ。経験値、宝箱、ドロップ品。どれもオイシイ。
勿論、アイツらが居ると分け前が減るゲフン、足手まといだ。俺だけで挑もう。ゆっくりと扉を開ける。
「ふふ、楽しみ」
うっかり笑みがこぼれる。空間の真ん中で、腕組みで待ち受ける巨体があった。
鋼のような筋肉に牛頭の怪人。その肌は黒檀のように黒かった。エボニーミノタウロス。
強度が通常の三倍。特に防御がいい。つまり固い、はず。タイムアタックなら厄介な相手だ。多分。
知識としては知っていたが、この種と戦うのは初めてだ。
背後で扉が閉まると、ヤツが腕を解き蛮刀を構える。コイツを倒すまでは、部屋から出られない仕組みだ。
倒したボスは、何かしらのアイテムを残す。時間が経てばボスは復活し、扉の開閉システムも再開される。
どのダンジョンにも共通するルールだった。
本物の殺気が肌に突き刺さった。
俺も剣を抜いた。踊りは……まぁ必要無いだろう。
奴の姿が霞んだ。目の前に居た。振り下ろされる蛮刀を体を逸らし躱す。なるほど。Cランクならここで斬られるな。
仕掛けようとした瞬間、丸太のような腕が薙いだ。柔軟性、凄いな。踏みとどまって上体をそらしやり過ごす。せっかく接近してくれたんだ。距離をとって躱すような真似はしない。
いい間合いだ。奴の胸も開いた。
右手を振り上げる。
剣先が照明に煌めいた時、天井に牛頭がぶつかり床に跳ね返った。
どうやら彼も俺に踊らせてはくれなかったようだ。
数瞬遅れて黒い巨体が横たわる。徐々に姿が塵になり、その塵もやがて消えた。奴らにとっての三倍の強度は俺には意味が無いらしい。五倍辛口だったらちょうどいいのかな?
「タイムアタックでも問題はなかったか。ドロップは、まぁ捻りが無いな」
蛮刀がそこにあった。俺には無用の物だ。アイツらに褒美として渡そうと。第11層到達点記念だ。修学旅行の木刀みたいなもんだ。
キャンプ地(仮)に戻ると三人が何やら話していた。体力は回復したようだな。きっと次のレベリングに行きたいとはやる気持ちを抑えられないのだろう。いい傾向だ。
「待たせたな。あ、これつまらない物ですが」
季節外れのお中元というヤツだ。
エボニーミノタウロスの蛮刀を地面に突き刺すように放ると、三人は怯えたように尻餅をついた。
驚くような物じゃ無いと思うが――待て。これがアレか? 僕また何かやっちゃいましたかってヤツか?
「な、何だ、あんたか、すまねぇ何でもないんだ」
「何でもない訳あるか!!」
「ひぃ!?……ナンマンダブ、ナンマンダブ」
「何でもない訳、ないだろう。な?」
優しい声で諭すように言う。
「行きたいんだろ。な? 行きたいんだろう?」
「へ?」
「早く狩に行きたいんだろう?」
「もはやレベリングですらないのか……。」
「すまない。このフロアにボス部屋があったが、ちょっと倒してきちゃった。その剣が土産だ。お前たちにやる」
「そうか……ボス戦はないのか……。」
「そう落胆するな。ドンマイ! その代わり12層からの獲物はお前らに譲るぞ?」
「もはや魔物ですらないのか……。」
若手三人を連れボス部屋まで戻る。
途中、何体かオークのような魔物が襲ってきた。俺一人の時は来なかったな。なんか寂しいな。
到着すると、背の高い扉は閉まったままだった。おや? ボス復活した?
「私がお開けしましょう」
実はアバンティの教授の様な男を目指していた。
道すがら、何か旬な話題でも振るべきだったか?
だが、扉を開けた先の光景に、言い知れぬ戦慄を覚えた。あぁ、さっきまであんなに楽しかったボス部屋が何故こんな事に――。
照明を紫色に反射する黒い甲冑が騎士王立ちで待ち構えていたのだ。あと、隣になんか見覚えのある魔女っ娘も居る。
ほんと何故こんな事に?
お付き合い頂きまして、大変ありがとう御座います。
次の4話が1話のノリに戻ってしまい難産しています。
公序良俗に反しないよう取り組みたいと思います。