297話 開拓さん混戦記
戸愚呂のように影が地を舐める。羽ばたきは、果たして福音であったろうか。
迫る野盗に防御壁の指揮を取るアマギアマチャは、その立場を忘れ空を見上げた。
騎兵隊長のハクサンチドリは部下ともども馬の調子を馬屋に預けた所で、かつて己が命を狙った美貌に見入っていた。
ヨモギ騎士長は、暴走するシチダンカを隊列へ引き戻すべくツッコミに奮戦する中、迫る光景に言葉を失った。
そして、開拓団を襲撃したはずの野盗混合部隊は、ただただ慄き、影絵のように立ち尽くした。
見上げる視線の全てが、畏怖と畏敬で絡み合う中で。
シチダンカの笑い声が、あぁ、ただ戦場を席巻するではないか。
◆開拓団代表代理:アマギアマチャ
防御体制を指示すると、五方に分けたタンク小隊が前面の敵を抑えた。こちらもかき集めの混合だ。練度が欲しいけど初波を抑えきるのは大きい。全般的な敵動向の把握と、丘向こうからの増援警戒の時間は確保できた。
「代表代理!! 非戦闘員の中央集結、後続が遅れやすぜ!!」
元ゴロツキのリーダーが横列の盾陣から抜け出してきた。よく見てるな。
「間延びしすぎた。後方の面倒を見てくれるかな?」
「ヘイっ」
「君の隊を集結させていいから。ああ、それと」
「騎馬の受け入れっすね!! 間を抜けられでもしなきゃ保たせますんで!!」
ははは、忙しないねぇ。
「無茶はする必要は無い。君達だってサツキの姉さ兄様の大事な家臣だ。勝手に消耗してくれるなよ」
「ヒャッハー!!」
……まぁ、大丈夫でしょう。
それにしても最後の町より二日。いいタイミングで襲ってきたね。野盗を装ってるけど、戦力は一部隊並だ。援軍や伏兵も仕込んでるとみた方がいいかな。
「こちらは非武装の開拓民が半数以上。前列は押し切られると見るべきだろうけど」
遠くで砂塵が上がった。警戒していた丘の向こう側だ。さらに別の方角。右手の隊列後方から地響きが届く。こっちは敵の背後を突いた騎馬が戻ったか。
「正規騎士は練度が段違いだ。向こうにもそれと同じものが居たら分かりやすかったのに」
大方、サツキの姉さ兄様を逆恨みした不埒者の差金だろうけど。混成部隊と侮ってくれたのかな?
「坊ちゃま!! 魔法観測隊より急報!!」
家から連れて来た補佐の娘が金切り声を上げた。
「後方より帆翔で接近する飛行物体あり!! 数1!! 380秒で最接近、来ます!!」
「まさかの空路!? 今度は何だっていうんです!?」
◆開拓団騎兵隊隊長:ハクサンチドリ
騎馬隊の機首を味方本隊へ戻していた。
野盗の後続への奇襲は単純な戦力の分散だ。本来は非武装民の防衛に当たる所だが、貴族のボンボンかと侮った。うまい具合に読みが合致したな。なるほど、代表代理を任される事はある。
「俺の騎馬隊を上手く使う所は評価するが――隊列が間延びしてる? 遅れが出たか」
「隊長!!」
隣に部下の一騎が並ぶ。他の騎兵も漏れなく続いた。
「後続の頭が先細るのは見過ごせんな。現場判断で用を便ずるが蹴散らすぞ!!」
右手の槍で目標を示す。俺を先頭に土を抉る振動が続いた。開拓団の本隊に取りつこうとする野盗がこちらへ気づく頃には我らの鉄槌が降っていた。非武装民と侮ったつけだ。
「騎馬隊の旦那ァ!! 助かりやしたァ!!」
タンク部隊の元ゴロつきだ。この位置まで下がって居たか。
「非武装民の護衛、ご苦労!! 先頭は膠着しているな!!」
「ヘイっ!! 代表代理の旦那の指揮は健在でせぇ。あっしらだけでも隊列のしんがりへと」
凌ぐ目処はたったか。
「ならば、こちらは敵本隊に斬り込む」
「へぇえ、それで馬屋も揃っていやす。最後の出撃になるのなら、馬を見せてやってくだせぇ」
気が効く。これも彼の根回しか。
「戦場での騎馬の反復出撃を心得ていると見える」
「そりゃあ、サツキの姫さお館様の家臣でございますからな!!」
随分と誇らしげに言ってくれる。
月夜の美影身を思い浮かべた。
アザレア国王陛下のタイキックを受けてまで従うに値するか。その力量、後でじっくりと見極めてくれるわ。
◆開拓団騎士隊隊長:ヨモギ
「フハハハハハッ!! 首だ!! 首を置いていけ!! サツキの姉さ兄さんは新鮮な首を欲しているぞ!!」
「先行し過ぎだよ!!」
禍々しい大鎌を振り回しながら、シチダンカ殿がフラフラと野盗の群れに飛び込んでいく。既に混戦だ。
いや彼のせいなんだけどね。
凄いなぁ。
炯眼で標的を射貫いたと思うと、腕を振るたびにぽんぽん敵の首が飛んでいくんだもの。こんな達人、王都の騎士にもそう居ない。シャガ大将軍あたりが人材に欲しがりそう。
「陥穽ぐらい警戒してくれよ――って、サツキ代表は邪神か何かなのかい!?」
始めて見かけたのが城下町での衛兵との騒動だ。何故か王立第一の女学生の格好をしていた。
……足、綺麗だったなぁ。
国王陛下の署名で騎士団に志願が募られた時、一も二も無く名乗りを上げた。あの場に居た仲間たちもだ。おのれ、お前らもか。
「神だと? フハハハハッ!! 中央都市の騎士ヨモギ殿ともあろうお方が何を言うかと思えば――神は神でも禍津日神であろうな!!」
「狂神じゃないか!!」
自在に鎌を振りながら答えるシチダンカ殿こそ死神のようだ。禍々しいにも程があるよ。
本隊が丘向こうに見切れている。騎士たちをこのまま戦線に広げちゃあな。
「戦況は把握したい。代表代理と合流しよう」
「そこに敵の首があるのにか?」
「君は首にしか興味が無いんだね……。」
本隊の反対側には冒険者を三チームに分け偵察に出している。背後から奇襲を受ける不安は無いけれど、こっちが孤立したら釈根灌枝じゃないか。
「それにだ!! 間も無く!! あぁ間も無くだ!!」
丘のいただきで、狂ったように両手を広げ天を仰ぐ。
偶然にも、雲の切れ間から光が差し込めた。
「主はきませり!! この地に!! 諸人よ!! こぞりて出迎えたまえ!! あぁ!!」
もうやだ、この人怖い!!
そして実際、陽光の煌めきを割るように、翼を広げた巨体が舞い降りたでは無いか。って、本当に何か呼んじゃったよ!?
「何だアレは!?」
「アイツらの秘密兵器か!?」
「ただの開拓団じゃなかったのかのかよ!!」
「クソっ、仲間がほんとんどやられちまったってのによ!!」
「おい、伏兵は何やってやがる!? 何でアイツらを制圧できねぇんだ!?」
「駄目だ、南に別れた連中は騎馬にめちゃくちゃにされちまった!! 分断されたのは俺たちだ!!」
「フハハハハッ!! 讃えよ!! 恐れよ!! 我が主人、サツキの姉さ兄さんに!!」
「「「姉さんなのか兄さんなのかはっきりしやがれ!!」」」
野盗にまで言われてるんじゃなぁ。
◆ワイバーン・ホウセンカの背:サツキ
「えぇと……俺、また何かやっちゃいました?」




