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296話 クランさんはツヤツヤね

 夜。

 膝に乗せたランギクくんを背後から抱きしめ――色々してあげて、森を出てから二日目の朝を迎えた。


 ……コデマリくんとは違った感じ方だったなぁ。


 あ、手だけでだからね?


「街道は横切るんですのね?」


 耳元をよぎるスミレさんの息と声にビクッとした。すぐ横で、テラスのテーブルに広げた地図を覗き込む顔があった。

 距離感、距離感。


「青空市場との連絡道だけど補充は充分だからね。その西側の主街道の腹まで平原を横切る形になる」

「丘陵もありますのに、当家の馬車では足手纏いになりますわね」


 地図を這わせる俺の指を目で追い、ため息を吐く。

 ハイビスカスで行きの行程に時間を取った理由がそれだった。


「むしろ付き合いがいいと解釈しているよ」

「それは、こちらからの申し入れでしたもの」


 地図の上の俺の手にそっと繊手が重なった。綺麗な爪だ。


「パーティを組む夢まで叶えて下さった」

「その礼はクランへどうぞ。五重塔なんてイベントに乗ったの、SSランクじゃ到底は」


 言いかけて口篭る。

 あんな子供じみた茶番。賛同する冒険者は貴徳を通り越して阿呆だ。


 ……報酬、貴族令嬢の脱ぎたてほやほやのパンツだったもんな。


「遠目から見て戦略の要という認識でしたけれど、間違ってはいないようです」

「え? 俺のこと?」

「グリーンガーデンの頃、王都でのご活躍を何度か拝見していました」

「ははは、よせやい」


 おどけて見せたが、スミレさんは俺の瞳から視線を外すことは無かった。

 え? まさかガーベラさんランギクくんと二日連続だったのバレてる?


「グリーンガーデンにはお戻りになられないのでしょうか?」


 予想外の質問が来た。

 未練がましく見られていたのかな?


「無いね」


 短い答え。

 草原を吹く風にさらわれそうな音だ。


「一度(たもと)を分かったヤツとは、仮に和解できても二度とパーティは組まないんだよ」

「ストイックですのね」

「気の置けない仲ってのと、命を預け合うってのは別物だから」


 その意味では俺は冒険者失格だな。

 ワイルドもクランもいわば対立する立場だ。パンツを嗅ぐ嗅がない以前の話しだ。


 ……俺、二人とも嗅いだんだよな。


「そういや何でパンツだったんだ?」

「お好きと伺いましたけれど?」

「どこ情報!?」


 呪いの事はベリー家の機密だ。サザンカにだって実態は知らせて無い。


「逆説的に考えて見てください。精神や意識といったものは、いずれは物質に変換されます」


 いやだって……女の子のパンツだよ?


「んなもん類推してられるか。さっきの話だけどさ」


 記憶のどこかに適宜な言葉があった事を思い出す。


「俺たち冒険者には、こんな古い格言があるんだ」

「パーティのお話でしょうか」


 オダマキでワイルドニキのスカートの奥に顔埋めた感触が脳裏を過ぎる。何とか忘れなくちゃ。いや、あの反応は可愛かったけどさ。


「即ち――『今更戻ってこいと言われても、もう遅い』と」




 夜。

 クランの我慢が限界を迎えた。

 上に乗ってガンガン来られた。

 壊れちゃうかと思った。俺が。


「目的の街道だ。やっとだ」


 げっそりした顔で宣言する。


「人類に、あの薬はまだ早かったか」


 スイレンさんがぶつぶつ言っている。

 まだ? 早かった? ん?


「クランさんは対照的にツヤツヤねー?」


 ハナキリンさん、何で羨ましそうなの?


「我々もサンバダンサーになるべきでしょうか?」


 巫女さん達まで。夜、全員でサンバしながら部屋に来られたら普通に迷惑だよ?


「ひとまず改善案は置いておこう。一旦先行する。向こうとの繋ぎにハイビスカスの誰か一名を選考しといてくれ。こちらに戦力を残したいから幹部以外で頼む」

「僕なら戦闘の役に立たないし」


 スイレンさんか。


「いや、何らかの交渉ごとも考えればこちらの隊を頼む。先行は俺とホウセンカだ。本日夕刻に着く宿場を経由したら明日朝に出る」


 言ってから配慮が足りなかったと気づいた。


「すまない訂正するね。宿場町は避けてこれまで通り野営とする。進行は一時的に街道からも距離を取るが、それ以降は、真東へ伸びる街道へ切り替える」


 商人と交易はあってもエルフは人類系を警戒する。人類側だってエルフ種の美貌を褒められた目では見ないだろう。街への進入はNGだ。


「「「えー」」」


 そのエルフから不満が出た。何でだよ!!


「え駄目なの? 人類系人間の町だよ? 旅籠だよ? 人類いっぱいおりよるよ?」

「折角の観光の機会って、みんな楽しみにしてたのよー」


 ハナキリンさんも困り笑いだ。

 えー……まいったなぁ。旅のしおりを組み直さなくちゃ。


「了解した。宿場町は一泊しかできないけど、それでもいいなら」


 おっしゃー、とエルフたちから歓声が上がった。どんだけ観光したいんだ。

 あー、これなら最初からカザグルマ経由しても良かったかな。


「エルフ意外はトラブルの要素もなさそうだが、スミレ達もそれでいいかな?」

「ふふ、また領主の代官に言い寄られなければいいですわね。サツキ様が」

「俺かよ!!」



 案ずるよりヤスシ師匠。

 その夜。オープン大衆食堂で地元民や商隊や冒険者と飲んだくれるエルフ達の姿があった。


「みんな酒に強いなぁ」

「国元の方が度数は高いからね」


 顔色変えず、スイレンさんがグッとジョッキを(あお)る。

 サトウキビ酒か。確かに何かで薄くしないと厳しいな。


「くぉぉ、この姉ちゃんたち強すぎだぁ!!」

「ふふふ、じゃんじゃん持ってきてちょーだーい」

「そっちの兄いちゃんらも、ケロリとしてやがるぜ!!」

「ふっ、人類系にはまだまだ引けはとらんよ」


 ……。

 ……。


 いや馴染みすぎじゃね?

 そして、


「「「サーツーキィ!! サーツーキィ!!」」」

「だぁーッ!!」


 テーブルに乗り片手を振り上げる馬鹿が居た。俺である。




 選考されたのは少女と見間違う男性エルフだった。見習い文官で経験を積ませたいって所か。


「よ、よろしく、お願いします」

「合流するまで向こうに付きっきりなるけど、アマギアマチャが上手くやってくれる彼を頼れるよう通しておくよ」

「イワガラミ殿の、同僚になるのですよね」

「わたくしの先輩になります」

「俺への執着以外はノーマルだから案ずるな」

「それを聞いて安心しました」


 おい、何だと思ってんだ?


「こちらだ」


 町から離して潜伏させたワイバーンと合流していた。流れるような赤い紋様が朝の日差しに眩しかった。

 魔物を捕食するよう教育したたので餌は豊富だ。近隣の家畜に被害は出てないはず。念のため首の根元にはアザレア冒険者ギルド向けの識別プレートを嵌めている。公式の所有ナンバーも取得しなくちゃな。


「くぅん?」


 ラッセルが首を傾げ見上げてくる。


「ああそうだ。お前らとお揃いだな」


 コイツらとコマクサは町へ入れたが……一緒に狩りでもさせた方が良かったかな。


 ……駄目だ、宿場町近辺が魔境になりかねん。


 そういやワイバーンって、魔物倒してレベルとか上がるのかな?


「俺たちが出たら予定通り頼む」

「……ん……街道をもし外れるなら……私達流の目印でいいわね……。」

「クランと俺にしか使えんが、まぁ、それで」

「……うまく捕まえてね」


 少し照れたように言うクランを、思わず抱き寄せそうになった。いかんいかん。朝っぱらから。


「分かってる。君が何処にようとも」


 うひゃー、小っ恥ずかしいなこれ。

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