294話 イワガラミの限界
あの後、いつものメイド服を着た。というか着せられた。
今は大きく開いたら足の間にクランが潜り込んでいる。
『上書きしなくちゃ……サツキくんで……上書きしなくちゃ……。』
光の消えた瞳でぶつぶつ繰り返すのは流石に怖かった。
怖くて言いなりになった。
自分からメイド服に袖を通した。
恐怖に負けた。
「すみません私のせいで!! 一の若様にメイドの格好をさせてしまうとは!!」
ヘッドバッキングのように頭を降り土下座する。
荒々しいくせに綺麗なフォームだ。
マリーにしろガーベラさんにしろ、帝国出身者はどうしてこう。
「さっきのは事故だ。君のような綺麗な子でも隆起させてしまうクランが罪なんだよ」
そして今は俺が隆起させられそうだ。
何この状況?
魔法使い姿のガラ美はセルフ亀甲縛りで天井からぶら下がり、メイド姿の男の子が二人。その片方のスカートに辺境伯令嬢が潜伏する。
ほんと何?
「マリーとは親しかったのか?」
遠巻きに聞く。視界のすみで、ネクロスシルキーが難しそうに考え込むのが気になるが、今は彼女、いや彼か。彼の立ち位置だ。
魔窟と化した部屋はメインライトの明かりも弱々しく、完全に気のせいだが影が濃さをましたようだ。
彼の逡巡は、やはりクランの姿だろう。
「あの、一度退席しましょうか? 二時間くらい」
「構わん。続けよう」
ガーベラさんに言ったはずが、何故か俺のスカートの中が「……らじゃ」と応えたオメーじゃねー。
「マリーゴールド殿下には、一の若様をストーキングするのに事前のご挨拶を申し上げていた所でした」
「ストーカーかよ!! 犯罪予告かよ!!」
ウメカオル国の動向を聞き出すつもりが、嫌な事聞いちゃったな。
「ちゃ、ちゃんとお仕事も兼ねてます!! ただ一度に過剰な情報量が押し込まれて、もう何てハツナ様にご報告申し上げれば……!!」
「あ、うん、ごめん」
監視対象が同盟国で出身国の関係者でアザレア王国でSS冒険者の上に追放され王立学園で女学生になってまた追放されて開拓業を始めたんだもんな。その結果、この地獄絵図だよ。
ハツナ様ってのは度々聞こえる名だが、ウメカオルの王族か貴族か。そこの直属? マリーの素性を知って犯罪申請(?)をするくらいだから――あ。
「マリーはなんて答えたんだ?」
「サツキ様の力になって欲しいと」
……だったらストーカーやめさせろよ!!
あ、待って。そこまで言うほど面識があったって事? キクノハナサク帝国出身者で?
繋がった瞬間、迂闊にも俺は油断した。
「そうか、やはり間者か」
普段なら絶対に声に出さないんだけどな。
「な、何のことか、さ、さっぱ、り?」
隠すの下手か!!
「帝国とのトラブルは避けたいんだけどな」
「で、でしたら――少々、お側によろしいでしょうか?」
「おう?」
すすすっと、畳を摺る感覚で近寄ってくる。
彼の手に武器は無い。メイド服ならいくらでも隠せる。接近を許したのは、踊り子スキル意外にも防御手段がある事と、何より俺のスカートの中に居るのはグリーンガーデンの赤い魔法使いだ。
そして、なんかさっきから生暖かいのに包まれてる。この子が自分の楽しみを邪魔させる分けがない。即ち、俺たちに危害を加える素振りを見せたら死だ。
「それで、君の素性とその行動に如何なる因果があるのか。釈明なら聞いておこう」
ソファに腰を沈める俺の前で、ガーベラさんは己のスカートをたくし上げていた。ストッキングに包まれたしなやかな足が顕になる。
羞恥に震えた手で、ぎゅっと裾を掴む仕草が可愛らしい。
「……今……凄く反応した」
俺のスカートの中から余計な報告が入った。うるさい。
「サツキ様の事は以前から聞き及んでおりました」
消え入りそうな声なのに、言葉の内容が責めるように俺の耳朶を叩く。
「聖女のお心でさえドロドロに溶解した挙句、アレやソレまでトロトロにしたと聞きました」
何の話だ?
……。
……。
って、ジギタリスでのコデマリくんとのことか!!
「どこから聞いたんだよ!? シチダンカにだって詳細は知られてなかったんだぞ!?」
「アンスリウムで伺った時は、本当に驚きでした。驚きのあまり何度か絶頂仕掛かりました」
「うるせーよ!!」
王都でって事は、やはりシチダンカか?
「まさか、あんなに可愛らしかった弟が先に大人の階段を登ってしまうだなんて」
「お前らの一族どうなってんだ!?」
本人かよ!! 情報漏らしたの本人かよ!!
「ですから、私もこの実を、いえこの身を一の若様に捧げたく」
「今何で言い変えた!?」
そもそもガーベラさんのスキルが解明できてない。隙を見せれるかよ。
「その姿は本物か?」
「見破られた時から」
なんと言うか……あの子の親族だな。
「しかし、君は危ういな」
生唾を飲み込む。距離を離したい。
「覚悟はできております。道具のようにされたっていい。むしろ乱雑に扱われたいです」
「オメーの趣味に巻き込むなよ!!」
「で、ですので、どうぞお召し上がりになって――。」
一思いに裾が上げられ、美しい凹凸の曲線が室内灯に炙られた。
さらに境界線は上へ上へとせめぎ合う。
問題の箇所に差し掛かった時、不覚にも凝視しちまったぜ。
「おお……ピコンピコン反応している……凄い」
クラン、ちょっと待って。
だから待って、めっちゃ暖かいもので嬲られてるんだけど!? 絡めてきてんだけど!?
「言っておくけど君にだからね?」
「ん……許す」
許されちゃったかー。
「それじゃあ、お、お言葉に甘えて」
「いや今の会話は俺にであって」
勘違いしたガーベラさんが、スカートを腰まで一気に引き上げた!!
そして局部から女の顔が突き出てきた!!
「大変よ!! 途中から会話に付いていけないと思ったら、やっぱりあったわ!! 美少女におちんちんがあったわ? やっぱり人類はそこまで進化したのね!! どうしましょう――ワタクシ、怨霊なんてやってる場合じゃないのかしら!?」
「どこから顔出してんだよ!!」
ビビったたわ!! めちゃビビったわ!! ずっと静かだと思ったら何見てたんだよ!!
「ひぃぃぃっ!? 私のおち、あそこの形状が明眸皓歯となって今大噴火大嵐と化しました!?」
いやさっきから居たよ? 君の正体見破ってたよ。いつもの怨霊だよ? 怖く無いよ?
「ど、ど、どういう事ですか!? 私のおちんちん、どうなっちゃうんですか!?」
「落ち着け。ええい取り乱すな」
いや、自分のおちんちんが妙齢の女性の顔になったら流石に取り乱すか?
「ほら、ちゃんとあるだろ? ほらこっち。君のはこっちだから」
あまりにも恐怖に震えるので、ついストッキング越しにガーベラさんのガーベラさんに手を這わせてしまった。さわ。
「あん!!」
小指を唇で噛み締め、愛らしく顔を歪めていた。
何やってんだろ俺?
そして人知れず、ガラ美が限界を迎えていた。
お前、本当に駄目な時は大人しくなるのな。




