293話 ガーベラという人
「確認しましょう」の所で空白行が無いのも距離の表現です。
「ともかく貴方の正体だ。あと年齢。場合によっては年齢制限が必要だから」
涙目になってるの、そろそろ哀れに思えてきた。お前ら閑話休題が過ぎるぞ?
「あ、はい、こほん、改めましてご挨拶させて頂きます。ガーベラと申します。出身はキクノハナで御座いますが、ハツナ様とご縁を結ばせて頂き今はウメカオル国の行政でスカウト職をやっています」
ここに来て意外な所が来たな。
ハツナ様? コウバイ女王陛下の関係者か。スカウトは斥候職の別名だ。冒険者ギルドじゃ盗賊がそれに当る。
「歳は今年で17になります。素敵な伴侶を募集中。年下でも問題ありません。尽くします」
「結婚相談所と思ってもらっては心外だが……。ちなみに相手に求める年収は?」
「特に希望はありません。私が養います。ふんす」
絶対婚活上手くいくタイプだ。
ただ駄目男を掴まないかだけが心配だ。
「承知した。我が手勢にもアザレア貴族やSランク冒険者、虎人族族長の息子、視野を広げれば公爵家騎士なども、独身男性には事欠かない。望みの伴侶にも巡り合えるだろう」
「え? ど、どうして斡旋を……?」
「婚活に来たのだろう? 珍しい事でもあるまい」
マリーだって最初はそうだったもんな。
「いえ、いえいえそんな目的で潜入した訳では、あ、いえ、いい人と巡り会えれば、それはそれでいいかなって思いますが」
「まさかご主人様を狙ってるのでは無いのでしょうね?」(ぶらーん、ぶらーん)
「ひぃぃぃ!? ……何でピーターパンみたいなポーズで縛り直しちゃったんです?」
むしろスタイリッシュだ。
「……ガーベラさん……サツキくんは駄目……。」
「いえ、いえいえそんな恐れ多いっ!!」
顔を真っ赤にして両掌を前面に上げてフルフルしだした。
素性がまともなら可愛らしいメイドで通ったんだろうけど。
「ただ、どうして男の人ばかり紹介されたのかなって!!」
「すまない、そっちの系だったか。今の時代、配慮がどうとか七面倒だからな。女性同士でも恥ずかしくないぞ」
「すみません、私、男の子……。」
……。
……。
「またかよ!!」
こんな可愛い子が、というヤツか?
「この期に及んでまだご自分を偽るのですか?」(ぶらーん、ぶらーん)
この期に及んで修行僧みたいなポーズでぶらんぶらんしてるヤツが何か言っている。
「あの、本当に私、男の子」
「では何故にメイド服を? わたくしの知るところ、男性でメイド服を着用するのは変態しかおりません」
かくて、SSランクパーティ・旧グリーンガーデンの実に半数が変態という事で確定した。
「自然にサツキ様の同行を伺うのに都合がいいからです。趣味じゃありません(たぶん)」
「その言葉を信じろと仰せですか? 貴方はそうして自分の気持ちを耳障りの良い美辞麗句で誤魔化し虚飾の中で生き続けるのですか?」(ぶらーん、ぶらーん)
そっちはいいんだよ。特には。
信じるかどうかで言ったら、むしろウメカオル国云々の方だと思う。鵜呑みにできるかよ。
「そんな事、どうして貴女に分かるというのです? ただ責任を持って仕事に臨みたいと思っているだけです。己の願望など介在する余地はないって、そんな事も」
「その姿勢こそがご自身の可能性を狭めていると、何故分からないのですか?」
……いや分かるかよ!!
「私の可能性……? ただの密偵に今更何の将来性が期待できましょうか。それこそ絵空ごとと失笑を買うだけだわ」
……だわ?
「絵空ごと結構、虚構もまたこれよし。いいではございませんか? 貴方が自身の望むままに女性として性を謳歌するのに、誰に気兼ねするというのでしょう」
まず本人が気兼ねにしてると思うぞ?
「イワガラミ殿……私でも、こんな私でも、なれるのでしょうか」
「勿論です」
「「――女の子に!!」」
おい!!
「ええ、重ねて断言いたしましょう。そう意識した時。即ちたった今!! 貴方は女の子!!」
何で洗脳完了みたいな顔してんだ?
「あ、でも私、付いてるから」
秒で否定されてんじゃん。
「確認しましょう」
「流石に看過できねーぞ!!」
万が一の事もあって、クランが確認する事となった。
いや付いてたらアウトじゃん? ていうかメイドのスカートの中に恋人が潜る姿は、なんか悲しくなるな。
『別に……サツキくん以外のを見ても……どうという事は無いから……。』
今から確認する本人の前でぬけぬけと。
ガーベラさんは内股でモジモジするだけだったし。
最初こそは帝国近衛隊の面子かと警戒してたんだけどなぁ。ウメカオルがマリーと繋がっていた? そっちが予想外だ。
「脚……綺麗……。」
「ひうっ」
モゾモゾとロングスカートの奥へと進む。左右に揺れるローブ越しのお尻が可愛い。
「如何でございましょう、お師匠様? 有りますか? 顔に似合わぬ凶悪なモノが有りますか?」
「私、そんなんじゃありません!! んんっ!!」
ビクンと顎を引き反応する。寄せた眉の繊細さに、もはやどっちでも良くなった。
「……よく分からないわ……。」
「分からない訳ないだろ。良く探せ」
「……らじゃ」
クラン。さらにメイドのスカートの中に潜る。
「如何でございましょう、お師匠様? 有りますか? もうそろそろ有ってもいいんじゃないですか?」
「……慌てないで……今、パンツを下ろすから」
「な、な、何やってるんですか!? そこまでする必要がふひゃっ!? 今、何をしたんです!?」
「……大人しくして……脱がせずらい……。」
ガーベラさんがどちらだったとしても、これアウトだよな。
「さて、ここからが本題だが」
今のうちに聞き出すものははっきりさせたい。
「ひゃ……あの、サツキ様のお耳に入れるようようなことは、と、特には何も」
「クラン、やれ」
「……らじゃ」
「んん!? ひゃら、らっ、らめ!! 息吹きかけちゃっ!!」
「どうだ? 吐く気になったかな? んんー?」
「ご主人様、悪人顔になられていますよ?」(ぶらーん、ぶらーん)
「根本的に、私は何の自供を求められているのでしょうか?」
ぬかったわ。
「ご主人様の庶幾を、我ら下々が思い測れるはずもありません」(ぶらーん、ぶらーん)
むしろお前の希望する所がわからない。
「え、サツキ様? まさか、気づいておいでで?」
「聞きたい情報は常に明確だ。君が自ずと話すかどうか。我々としても手荒な真似をしなくて済むなら、それに越した事はないからなぁ?」
酷い丸投げだ。
「う、うう、ごめんなさい……。」
「ほう? 詫びから入るか」
俺、何でこんな偉そうなの?
そしてこの時の俺は気づかなかった。
ガーベラさんのスカートの中を探訪するクランの動きが、ピタリと止まった事に。
「本当は、奥様の事――クラン様が好みの女性どストライクで……時々そういう目で見ていました!!」
「緊急離脱だクラン!!」
だがクランは動かない。
いや、小刻みに震えている?
「お師匠様、如何なさいました――はっ、まさか!?」
ガラ美の驚愕に、クランの腰のあたりがビクンと跳ねる。
まさか、な。
「クラン? ゆっくりでいいから出てきてご覧?」
言われるままに、スカートからそおっと上半身を抜き出した。
振り向いた顔は涙目であった。
「……どうしよう……サツキくん……。」
消え入りそうな声に、俺とガラ美は黙って次の言葉を待つしかなかった。
「私……ビンタされちゃった……。」




