291話 侵入者
最初の村に書簡が届いていた。
サツキパーティ御中で到着していた。
三代目勇者が伝えた、桑田バンドとか美奈子withワイルドキャッツみたいな扱いか?
「国元からでして」
「そりゃ青組の百人隊長を長期拘束は難しいだろうけどさ。急な帰還要請なんて話しこんな所でして問題ないのか?」
「オレも少々迷いました」
改めて見る。ハナキリンさんを始めとするエルフの女たち。セルフインタビューで赤裸々な経歴を語ってる。俺の隣のクラン。対抗してこっちも赤裸々だ。そしてガラ美。コイツが駄目だ。赤裸々を通り越し、一気に魔境とたらしめたのがこの娘だ。
「個人の都合であれば、もはや似たり寄ったりかと」
「あ、国家機密とかじゃないんだ」
「実は妻が懐妊したと」
この一言は、女達のボルテージを冷却するのに充分だった。
「アザレアへ渡航する前日に共に過ごしたのが、そのままおめでたとなったようでして。速達で王都のベリー辺境伯の元に届き、こちらへ転送されました」
「時間経ってるじゃん!!」
「書面の制作からの経過日数を見ても、まだ猶予はあると判断できますが、なに分初産なので」
「急いで帰ってあげて!! 奥さんのそばで支えてあげて!!」
あと視界のすみで女たちがスンてなってるのウケる。ヲタ活仲間が急に結婚するとか言い出してなんか推しに身が入らない空気だ。
このまま自重が期待できればいいけど。
ただ一人。
「ご懐妊おめでとう御座います、ガザニア様。ガザニア様のお子ならばきっと珠のように可愛らしい赤ちゃんがお産まれになるのでしょうね」
「う、うむ……うむ?」
戸惑ってる戸惑ってる。
如何に帝国皇帝の親衛隊といえど、X字の磔台に拘束された娘から懐妊祝いの祝辞を貰うとは、よもや思うまい。
……。
……。
ほんとゴメンな。うちのが何かゴメンな。
「こちらの都合で慮外に振り回すのも気には留めていた。すみませんハナキリンさん? フォレストディアを一頭手配できないだろうか?」
「一緒には、抜けないのかしらー?」
ハナキリンさんが余所余所しい。
うん。こんな馬鹿なことやってた時に、片やおめでただもんな。
「船での渡航だとポーチュカラ方面へ森を出ることになるから。うちのワイバーンはまだ長距離航行に慣らしが欲しいし」
成長の段階的継続は試していない。一度中断したならダンジョンコアの影響は悪い方向に働きかねないからだ。
「ならワタクシの鹿をお使いなさいな。森を出ても平野地なら並の馬には引けを取らないわ」
凛として言い放つ姿は、さっきまで導入部のインタビューをしていたとは思えなかった。
早朝、ガザニアが俺たちの下を去った。
集団になって随分頼ってたな。
そして、何故か一人減ったのに総人数は変わらなかった。
俺たちフレッシュグリーン。全員居る。ハナキリンさん率いるエルフの開拓支援隊。みんな居る。
オカトラノオ達虎人族は、一旦集落に戻るため別行動だ。
「多分エルフのうちの誰かなんだろうな」
「どうなさいましたか、一の若様?」
「ちょっと変わったスキルを思い出してね」
「スキルですか?」
「ぬらりひょんっていうんだけど、聞いたことある?」
「さて」
「特定の集団にしれっと紛れ込んで、仲間のふりして飲み食いするっていう」
「私の『座敷童』を不法侵入者スキルと一緒にしないでください!!」
「あ、うん、ごめん」
果たして、誰がこの一団に紛れ込んだというのだろう。
森を抜けて翌日。平野地を進む。
開拓支援隊のリストと照合し点呼もとったが、未だにガザニアに代わって紛れ込んだヤツが判明しない。
「流石はぬらりひょんといった所か」
「いえ、ですから座敷童ですってば」
敵性勢力の間者でなければいいが。
「……ガーベラちゃん、ここに居た……。」
「ハッ、奥様」
「昼食の準備……ガラ美と……頼めるかしら」
「お任ください。必ずやご期待に添えてご覧に入れましょう」
「……うん……普通でいいから」
本当に誰が紛れ込んだのか。必ず尻尾を掴んでやる。
「……難しい顔をしてる。……旅程に問題が?」
「順調だね」
ハイビスカスの土産屋で買った地図を広げる。奥付けの発行元はアザレアの冒険者ギルドになっていた。
「入った時よりオダマキ側にずれた。南北の街道の腹に当たるまで二日だな」
「……立地に悩まないうちに……今夜の拠点を定めた方が良さそう」
「候補はこことここの二箇所だが、北西寄りを目指したい。街道みたいな目立つ印があれば、ホウセンカを飛ばせる」
「……サツキくんが出るの?」
「スイセンカは隊列の直衛を任せたい。あちらの方が人馴れがしている分、分別がある」
「ん……イチハツちゃんと話しておく……。それで、難しい顔をして……どうしたの」
付き合いが長いだけあって見透かされてんなぁ。
「パーティや隊列に違和感は?」
「……ガザニアさんの存在は大きかったわね……重圧のようなものが消えてる。だからって……ヴァイオレット家の騎士が勝手をするだなんて思わないけれど……。」
おい聞いたかネジバナ。お前らうちの奥さんに警戒されてたんだぞ?
「そのガザニアが抜けた補充は無いままだ」
「……もとから……要員の代替は考えてなかったでしょ?」
「そりゃそうだけどさ」
謎の人物Xについて、クランは何も感じてないのか?
色素の薄い髪が振り向いた。
遅れて少女の悲鳴が響く。
「奥様ぁ!! イワガラミ殿が!! イワガラミ殿がぁ!! ご足労をお願いつかまつります!!」




