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290話 interview

讒訴(ざんそ)の意識はありませんが、大所帯になったというのに。こうも進行速度が反比例しては魔術を疑ってしまいますわ」


 スミレさんの言葉は嫌味じゃない。

 最初の村まで一日で到着したからだ。


「確かに行きは町一つ経由したってぇのに。狐にでもつままれやしたかねぇ」


 ネジバナ、警戒してるのか? 飄々としたキャラのお陰で警句に感じさせないが、そりゃこっちは普通の馬車だってあるんだ。他の森でも通用するならいいけど。

 アリストロメリア樹海進行の計画をプラス方向に見直す必要があるかな。

 オカトラノオたち虎人族が里へ帰郷した事で、森林探査と戦力の大幅な低下を見積もっていた。準備が終わり次第、何名か合流すると言ってたけど、人員の勘定には入れない方がいいな。


「巫女職を五人も選考したからね。近道が通れるんだ」


 俺の隣でガイドを継続するスイレンさんの声は、何故か昂然(こうぜん)と聞こえる。

 ハイビスカスならではの裏技かねぇ。


巫女さん(シャーマン)まで国外に引っ張り出していいのかよ?」

「ああ、それなら」


 と前方の女性エルフが俺の所まで戻ってきた。


「巫女である前に私たちも女ですから」

「旅が始まって早々不穏な事言ってんじゃねーよ!!」

「……ハイビスカスの民……油断出来ない……。」

「あらあら」


 ぎゅっと俺の裾を掴むクランを、エルフの女たちが微笑ましく眺めていた。

 そして一つの疑問が浮かんだ。


 ……まさか、男性エルフも俺狙いじゃないよね?


 皆、女性と見紛うほどの芙蓉だが、その方面の趣味はない。多分。あ、待って!! 今なんでワイルド兄さんの美貌が浮かんだ俺!?


「明日朝には森を出るから、今日はここで一泊かしらー」


 ハナキリンさん、仕切る仕切る。

 露出が多いけど、一応は冒険者の装備だ。ライトブレストメイルが立派なお椀型だ。


「宿泊は行政施設かな? この人数が無理なら、こちらは村の敷地外に場所さえ拝借できれば」

「最初の宿場まで距離があるのでしょうお兄様? ここでくらいせめて設備を使い倒されては? それとも、わたし達がおそばに居ては不都合ですか?」


 ランギクくんも山葵(さび)を利かせるようになったなぁ。


「……不都合なんて……ないわ」


 クランが穏やかに諭す。こっちは余裕が垣間見えるな。


「サツキ様とクラン様が全力を発揮できないのは不都合といえましょう!!」


 イチハツさん。どうして君は余裕が無いんだ?




 村役場の施設を使わせてもらった。こういう時の好意は無碍にしちゃ駄目だ。


「我々の事はお気になさらず」


 甘かった。

 ベッドに座る俺とクランの前に、ズラリと女性エルフが正座で並んでいる。


 ……そうか。好意じゃなかったか。


 ハナキリンさんが居ないのは、流石に王族は専用部屋がある為か。


「間に合ったかしらー?」


 甘かった。

 一人だけサンバの格好で乱入してきた。見たことある。具体的にはクレマチスのジギタリス支部で。一体貴女は何に間に合ったというのか。

 何処からともなく響く、ドンドコドンドコとタムを打つリズムに乗せ、そりゃあもう凶悪な出っ張りをぶるんぶるんさせ入場してきた。


「何でサンバなんだ?」

「祭りと聞いたかしらー」


 人の部屋で祭るなよ。


「じゃあ早速始めましょうねー」

「……え、えぇとこれは……。」


 ある種のパニックに陥ったクランが、チラチラと視線を向けてくる。いや、俺に判断を委ねられても。


「それでは僭越ながら」


 エルフの一人が立ち上がる。


「まずはお名前からお願いします」


 って、インタビューからかよ!!


「ハナキリンと申します。職業は王妃かしらー」


 それでお前が答えるんか!!


「以前はどんな仕事をしていたのですか?」

「SSランクの冒険者でしたー」

「旦那さんと会ったのはお幾つのころでしょう?」

「114歳の娘時代に婚約者として王城でー」


 王妃割と年食ってた。


「って、何であんたメインに進んでんだよ!!」

「……サツキくん、サツキくん……お姉ちゃんはクラン・ベリーです。……ベリー辺境伯の長女をしている」

「急に危機感持ったように勝手にインタビュー始めやがった!?」


 何で、向こうをはろうと思った? このまま俺との出会いまで遡る気か。


「初めての相手は……サツキくん……きゃ」


 知ってるよ!! 頬に手を当ててふるふるしてるけど、知ってるよ!! 可愛いかよくそ!!


「ワタクシもー、初めてはウチの人でー」


 いやあんたのは聞きたく無いから!! ていうか違う人の名前が出てきたらそっちの方が問題だわ!!


「なるほど。ここは神輿を据えて臨みましょう。でしたら私の初めては――。」


 他のエルフまで混ざってきやがった!?


「ええい、何のサバトだよ!? 誰か!! 誰かまともに仕切るやつはいないのか!? 誰かーッ!!」


 もう俺一人では処理しきれない。

 ていうか、あまり触れたく無い。エルフの女性だって半数は人妻だ。旦那さんへの不義理のようで、正直気に食わない。


「お呼びでしょうか」


 甘かった。

 アザレア王立第一学園のコスプレまではいい。何でX字の(はりつけ)台に両手を拘束されてんの? ていうかそのまま来たの?


「期待したものとかなり離れた奴が来てちょっとだけ慄いたぞ?」

「恐れ入ります」


 いや褒めてない。


「プレイのシミュレーションと強度を確認しておりました」

「俺がやらせたみたいに言わないで」


 ていうか、拘束されたまま移動してきちゃダメだろ。ジャッキー・チェンかよ。


「それでは僭越ながら――名をイワガラミと申します。前職ではご主人様に涙と鼻水を垂らし命乞いをしていました。もちろん開脚にて失禁も済ませています」

「その格好で何でセルフインタビューしようと思った!?」


 勝手気ままなエルフたちですらドン引きしてるんだが? 俺から物理的に距離を取ってるんだが?


「質問をお許しください」


 巫女職と言われた一人が手を上げる。こんな状況で度胸あるなぁ。


「わたくしの性癖の事でしたらこの後、本編で」

「敢えて今お伺いしとう御座います」

「行為の反復は持続的な習性を獲得すると学びました。何なりと」

「では――イワガラミさんはそのような格好で冒険者様からどのような責苦を受けるというのですか?」


 ここでいう冒険者ってのは俺のことだよな?


「良い質問です。ですが今は多くを語ることはできません」


 むしろ黙っとれ。


「ただ一言。何をされても一才の抵抗は叶わないでしょう」


 ここまで移動してんじゃねーかよ!! 自由極まりないよ!!

 その時。

 明け晒した入り口の前に、幽鬼もかくやという不穏な影帽子が湧き立った。殺人鬼を連想させる青白い顔が、今だけは頼もしく見えた。


「サツキ様、少々お時間をよろしいでしょうか――立て込んでおられるご様子で。後ほど改めて」

「行かないで!! 見捨てないで!! ほ、ほらみんな、大事な用向きだから解散、解散」

「いえ、一言で済みます故、このままでご報告させていただきます」

「そう言わずに!!」

「最後までお供をしたく存じましたが、明日、国へ帰らせて頂きます」

「本当に見捨てられた!?」

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